#4481/5495 長編
★タイトル (RAD ) 98/ 5/16 20:55 (198)
【OBORO】 =第3幕・散花哀詩=(9) 悠歩
★内容
脅しではない。本気であるとの、父の意志表示だった。
麗菜に選択の余地はなかった。が、震えた身体を起こすことも簡単には行かな
い。腕の力だけで支えていた上半身を反転させ、四つん這いとなり、のそのそと
兄の元へ歩んで行った。
「ごめ………なさい、に……さま」
兄の脚の間に潜り込んだ麗菜は、その熱い強張りを口に含んだ。けれど父のも
のより一回り巨大なそれは、先端部分だけを口腔に収めるのが精一杯だった。兄
の身体が、びくんと痙攣を起こす。
「ちゃんと舌を使うんだ」
頭上から父の指示が飛ぶ。言われるままに、麗菜は舌先でその先端を転がすよ
うにする。
「!」
雅人の声にならない声が聞こえた。同時に麗菜の口内のものが、動いたかと思
うと、粘性の高い液体が放出される。
雅人から離れ、咳込む麗菜。口内の液体も、咳とともに吐き出しそうになる。
が、それは麗菜の口を覆った掌によって遮られる。雅人の横に座っていたはずの、
母の掌によって。
「吐くなよ、ちゃんと飲んでやれ」
父の命令に従い、麗菜は喉を数回動かして口内にまとわりつく液体を、奥へと
送り込んだ。
「はははっ。いいザマだな、雅人よ。どうだ、妹にしゃぶられてイッた感想は?
はははっ、どうしようもない変態だよ、貴様は。しかしそれにしたって早過ぎ
るぞ、雅人よ。ははははははっ」
そんな父の言葉も、耳に届いていないのか。ぐったりとした雅人は、大きく肩
で息をしている。だがそれは、快楽の余韻に浸ってのものには見えなかった。
「よし、次は、だ」
雅人の様子に気づいていないのか、それとも分かっていながらなのか。それで
終わりにしようとはせず、父は雅人の身体を仰向けに倒してしまった。
「跨れ」
「えっ?」
麗菜が聞き返したのは、父の言葉の意味が分からなかったからではない。更な
る交わりを続けることが、兄の身体にとって危険であると感じたからだ。
「雅人の上に跨るんだ」
「む、むり………です」
「無理なものか。ほれ、雅人のちんぽこはまだ元気だ。くくくっ、憶えておけよ、
麗菜。男はな、身体が弱って来てもちんぽこは元気になるものだ。種の保存のた
めの本能ってヤツでな」
父の指さす先には、射精を終えてもなお衰えない雅人の性器があった。けれど
雅人自身の顔色は先刻より、さらに悪くなっている。これ以上行為を続ければ、
取り返しのつかない事態を引き起こしかねない。
「さあ、早く雅人の上に跨ってやれ」
「出来ません………これ以上続けたら、兄さまが死んで………」
最後まで言い切ることは許されなかった。腹部に重たいものを感じた直後、麗
菜の視界は激しい勢いで流れ始めた。続いて、耳は破壊音を捉える。
父に蹴られて吹き飛び、後ろの障子に突っ込んだのだと気づいたとき、同時に
腹部への鈍い痛みを感じた。折れた障子の木枠で傷つけたらしい。頭部からは、
少量の出血も認められる。しかし麗菜には、それらを痛がる時間も与えられはし
ない。
抜けるほどに強く腕を引かれ、身体を起こされる。父は麗菜の両腕を、左手一
本でつかんでいた。
「俺に逆らうことは許さんぞ」
父の右手にはカッターナイフが握られていた。その刃先が、麗菜の頬に朱色の
一文字を刻む。父に従わなければ、本当に殺されるだろうと思った。けれど従え
ば、兄の命が危険になる。失禁してしまいそうなほどに恐ろしかったが、麗菜は
決して首を縦に振ることはしない。
「そうか、兄さん思いなんだな。麗菜は」
麗菜の頬からナイフが遠退いた。
意外なほど簡単に、父は麗菜の両手を解放した。
だがそれは、この狂った宴を終わりにしようということなどではなかった。
父は再び、仰向けになった雅人の元へと歩いて行く。そこでは母が、まるで赤
ん坊をあやすかのようにして、雅人の髪を撫でていた。
「どうせ長くは生きられない身体だ。いっそのこと、いまここでひと思いに楽に
してやるのが、親心というものだろう」
ナイフを手にした父の言葉。その意味することなど、考えるまでもなく分かる。
「いや! 止めて」
恐怖と痛みで自由にならない身体だったが、それでも麗菜は飛ぶようにして動
いていた。
父の足にしがみつく。けれど力も体重もそれほどない麗菜では、父の動きを止
めるまでには至らない。わずかに速度を落としただけで、父は麗菜を引きずって
歩いていく。
そして雅人の喉元を、カッターナイフの刃先がつつく。そこから、朱色の珠が
生み出された。
「これが最後だ。麗菜、跨るんだ」
もしここで麗菜が首を横に振れば、父は即座に兄の喉元を切り裂くであろう。
父の命令に従うしかない。それでも兄には危険であることに代わりないが、父に
逆らうよりは生き延びる可能性が残される。
「わかり………ました………」
覚悟を決め、麗菜は兄の上に乗る。そそり立つ男性性器に手を添え、そっと自
分の秘部へと宛う。父のものを数度受け入れてはいるが、麗菜のその部分は成人
女性と比べ、まだ未発達である。男性をスムーズに迎え入れることは出来ない。
少しずつ、少しずつと、兄を中へと導いて行く。
声なき声を発しながら、雅人が首を横に振っている。麗菜に止めろと言ってい
るのだ。自分の命を惜しんでではない。行為を続けなければ、間違いなく父に殺
されることは分かっているのだから。
「だい、じょうぶ………麗菜は、へいき……だから」
麗菜は兄へと微笑んで見せた。
本当は苦しくて仕方ないのに。
父のものでさえ、いまだ受け入れるのに苦痛を伴う。ましてや兄のものは、そ
れより一回りはサイズが大きいのだ。
「ええい、なにをトロトロとしている。一気に行かんか!」
そんな麗菜の苦痛など意に介さない父が罵声を飛ばす。そして麗菜の肩に手を
載せると、その身体を力一杯に落とす。まだ先端部分も収まりきっていなかった
兄のものが、一気に麗菜の内部へと潜り込んだ。
「かっ………!」
瞬間、呼吸が止まった。
初めてのことではないにせよ、まだ麗菜の身体は受け入れ体制が整っていなか
ったのだ。加えて狭い部分に無理矢理兄のものを押し込んだのだから、痺れとな
った痛みが麗菜を襲う。
「ほら、ちゃんと動かんか」
父が麗菜の身体を気遣うはずもない。動くどころか、身じろぎ一つ取れず固ま
っていたる麗菜の両脇に手を掛け、その身体をつかむようにして抱く。それから
麗菜の意志など無視して、強引に身体を上下に揺すり始めた。
「はぁ………がっ………に、さま」
初めての『儀式』以上の苦痛だった。
涙のせいなのか、痛みのためなのか判断出来なかったが、麗菜の視界は霞んで
いた。
「ははは、いいぞ麗菜。その調子だ」
狂喜する父の笑い声が聞こえる。
「どうだ、雅人? 気持ちいいだろう、麗菜の中は。くくくっ、偉そうにぬかし
ていたが、貴様もずっとこうなることを望んでいたんだろう。隠しても無駄だ…
……俺は知っていたんだからな。やはり貴様は俺の息子、朧の血を引く人間なん
だよ」
朧気な麗菜の視界は、兄の姿を求め、捉えた。兄もまた、泣いているようだ。
悔しさのためなのか、胸が苦しくてなのか。
「とう、さま………もう、やめ……て………にいさま、しんで………しまう」
「ぬかすなよ、麗菜。お前だって嬉しいんだろう? 雅人のちんぽこを銜え込む
ことが出来て。くくくっ、安心しろ。こうしていれば、上手くすればお前は雅人
の子を孕むかも知れん。もっとも孕んでも、俺の子か雅人の子か、分からんがな。
だが、間違いなくより朧の血を強く引いた子どもだ」
そう言いながら、父は益々強く麗菜を揺すり出す。
麗菜はいま、兄と繋がっている。
それは麗菜の望んでいたこと。
違う。
『望んでなんかいない………こんな形で………違う、違う、違う、違う、違う!』
「かあ、さま………」
無駄と知りつつも、麗菜は母へと助けを求めた。けれど母は、相変わらず微笑
み続けるだけで、決して救いの手を差し伸べることはなかった。
麗菜は思う。
私はなぜ、こんなことをしているのだろうと。
父に力ずくで抱かれ。
互いに望まぬ形で兄と一つになり。
それを実の母に見守られて。
なぜ自分は、普通の子と同じように出来ないのだろう。
夕餉の卓を囲み、父母に学校であったことを話し。
兄とゲームをして遊ぶ。
時には喧嘩をしてしまったり。
朧の血を引く家に生まれてしまったから。
朧とは、そんなに大事なものなのだろうか。
麗花を売り、麗菜の幸せを捨て、兄の命まで失うかも知れない真似までして。
腹の中に熱い迸りを感じ、麗菜は我に返った。雅人の精が放たれたのだ。
「出しやがった、こいつ! 出しやがったぞ。妹の中で………はははっ、ははは
は」
父の高笑いを遠くに聞きながら、麗菜は背筋が凍り付くような震えを覚えてい
た。
麗菜の中に在った、熱い兄。それが精を放つと同時に、収縮を始める。その現
象は、父で経験している。だが………
冷たい。
上になっている麗菜の脚は、兄の下腹部と接触している。が、その部分から感
じられる兄の体温が異様に低いのだ。
それは性交の間、麗菜の中にあった兄が熱かったために、それとの対比で冷た
く感じるのではない。明らかに雅人の体温が、下がり始めているのだ。
「兄さま?」
芽生えた不安を打ち消そうと、麗菜は兄へと呼び掛けてみる。元より口に銜え
させられた機具により言葉を封じられていた雅人だったが、ほとんど反応らしい
反応を示さない。
「兄さま………兄さま、兄さまっ!」
父に対する恐怖も、その瞬間どこかへと消えていた。跨ったままの状態から、
やや前進すると、麗菜は雅人の頭を抱え込む。手を兄の頭の後方に回し、口を塞
いでいるボールのベルトを外そうとするが、震える指先ではなかなか思うように
行かない。
「おい、こら、勝手な真似をするんじゃない」
父が腕をつかみ、麗菜を止めようとする。が、麗菜は力任せに父の手を振り払
った。
「くっ、麗菜! お前は………」
何か父が怒号を発していたが、麗菜の耳には入らない。
「兄さま、雅人兄さま、しっかりして!」
やっとのことで機具を外した麗菜だったが、咄嗟に雅人の身体を揺すってはい
けないと思い立った。耳元に顔を寄せ、懸命に兄の名を呼ぶ。
焦点の合わない虚ろな眼球が、緩慢な動きで麗菜に向けられた。死に瀕して、
水面近くに浮かび上がった魚のように、力無く雅人の唇が数度動く。声はない。
いや、声が出ないのだろう。無意味に開閉された唇の奥から、ひゅうひゅうと空
気の流れる音だけが聞こえた。
「だめ………兄さま、だめだよぉ………」
雅人の命の灯火が、消えようとしている。麗菜の抱きしめている身体からは、
温もりが失われつつある。けれど麗菜は口に出来ない。「死なないで」という言
葉を。それを言った瞬間、本当に雅人が死んでしまう。一縷の望みを捨てきれず、
目の前の現実を否定しながら、麗菜は死という言葉を封じ込めていた。
「れ、な………すまない………お前、を………守って………やれな、かっ………
た」
虚しい努力を重ねていた雅人の唇が、ようやくのことでそれだけの言葉をしぼ
り出した。
「ううん、そんなことない………麗菜は、兄さまのこと、大好きだもん。これく
らい………全然、全然平気だよ。だから………」
麗菜の言葉を、雅人が最後まで聞き届けたかは分からない。麗菜が話している
間に、その瞼は閉じられ、唇の震えは止まっていた。
「にい………さま?」
腕の中の兄が、軽くなったような気がして、麗菜は茫然とする。そんな麗菜を、
父が無造作に突き飛ばして雅人の上から退けた。
「どけ、麗菜。おい、雅人………雅人」
別段、父に慌てた様子はない。雅人の頬を数度、平手で強く叩いた。
「と、父さま、お願いします………お医者さまを、救急車を呼んで下さい」
全身を包む様々な痛みも、先ほどまで兄を受け入れていた場所からこぼれ出る
液体も、いまは気にならない。父に突き飛ばされて倒れ込んだ場所から、麗菜は
懇願する。
「無駄だな………」
「えっ?」
素気ない父の返答に、麗菜は耳を疑った。
「いまさら医者に診せても無駄だと言ったんだ。くたばっちまったよ、雅人は」