#4416/5495 長編
★タイトル (AZA ) 98/ 2/10 22:28 (200)
翼をその手に 〜飛空競争〜 1 永山
★内容
きれいに舗装された石畳道の上を、自動車や馬車が行き交う。
その両側には、立派で背の高い建物が、いくつも居並ぶ。電線もかなり整備
されつつあった。
そんな街に流れる一つの噂。
「鳥みたいに飛んだんだってさ」
「まさか? 人間が飛べるはずないわよ」
「私だって、信じているわけではないがね。しかし、この噂の火元を知ったら、
せめて半分は信じなきゃいけなくなるよ」
「誰が言ってるのかしら?」
「聞いて驚くなかれ、さる貴族に仕える使用人が言っているそうなんだ。何で
も、貴族の御一家が保養のため出向いた田舎で、その空を飛ぶ道具だか乗り物
だかを目にしたらしい」
「まあ。でも、空を飛ぶ乗り物を造ったのは、どこの誰なのでしょうね。その
ような偉業を本当に成し遂げたのであれば、すぐさま名乗り出るだけで、名誉
もお金も思うがまま手にできるでしょうに」
「そうなんだ。この噂の信憑性が薄いのはそこなんだよ。写真とまでは言わな
いが、せめて新聞記者か何かを呼べばよかったのに。田舎の村の人間にそんな
機械が造れるとも考えにくいし、どうにも胡散臭いね」
「ちょいと御免なさいよ」
街角で噂話に興じる人々を割って、真っ白なつなぎに、青っぽい色の帽子を
被った男が現れる。
「何だね、君は」
「はい、失礼をします。貼り紙するように言われたものでしてね、こうしてせ
っせと街を歩いて回っている訳です」
「貼り紙?」
見れば、男は右手にバケツを持っていた。その中には、糊らしき白い、どろ
っとした液体と刷毛。左肩に下がるだぶだぶの鞄には、丸まった貼り紙が詰ま
っている。
「糊が飛び散って着いたら、高価なお召し物が台無しになるよ。さあ」
男は役場が発行した許可証を示してから、壁の前に立った。そしておもむろ
に、糊を長方形に塗り始める。
人々は興味深そうに覗き込み、それがまた人だかりを作る。
壁の前にできた半円の中心で、男は手際よく貼り紙をした。
「一丁上がり。さ、次だ次だ」
バケツをランプのように前に差し出し、人の輪をするりと破って、足音も低
く去って行く男。
集まった人達はしかし、彼には全く注目せず、貼り紙の内容を読もうと輪を
縮めつつあった。
まだ糊の乾ききらぬその貼り紙が知らせることとは。
「何なに……。
『
募 集
ウッド子爵家では、以下の者を求めている。
・空を飛ぶ術を研究する者(大卒以上の学歴の者に限る。要卒業証書)
・鳥類、昆虫類の専門家(大卒以上の学歴の者に限る。要卒業証書)
・自動車及び船舶発動機技術者(国の定める一級技術者に限る。要証明書)
我こそはと思う者は、下記のウッド邸へ直接足を運ぶがよい。
面接等いくつかの試験の後、採否を決定する。
合格した者はウッド家が雇用し、ある事業を成功に導くため尽力してもら
うことになる。
貢献のあった者には多大な報酬を約束しよう。
**街**通り**番の**
ギルバート=ウッド
ジェームズ=ウッド
』
……だってよ?」
「はあ。子爵様が親子で何をなさるつもりなのやら」
わけが分からないと言いたげに、街の人達は顔を見合わせた。
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■■■ 高 く よ り 高 く ■■■
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■■■ 神 の 元 を 目 指 す 者 が い た ■■■
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■■■ 空 を 名 誉 を そ し て 愛 を ■■■
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■■■ そ の 手 に 握 ら ん と 欲 し て ■■■
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■■■ 誇 り 高 き 迎 神 の 翼 ■■■
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■■■ し か し 真 の 名 は 欲 望 ■■■
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■■■ 天 空 に 消 え よ う と す る 命 ■■■
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■■■ 僕 は 何 を 成 す べ き な の か ■■■
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■■■∴ 『 翼 を そ の 手 に 』 ∴■■■
■■■∴ -Create the WING for us!- ∴■■■
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■■■∴ 【 飛 空 競 争 】 ∴■■■
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■■■∴ 永 山 ∴■■■
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■■■∴ 原 案 :永 山 智 也 ∴■■■
■■■∴ 悠歩 ∴■■■
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フィリオ=ハートは空を仰ぎ、額の汗を腕で拭った。
その際、目に飛び込んできたきつい日差しに、思わず顔をしかめる。
ちょうど同時に、家の角を折れて、裏手にアリス=メイヤーが姿を見せた。
「フィリオ、そろそろ終わりに−−どうかしたの?」
フィリオのしかめっ面に不安をかき立てられたのか、アリスは自らの両手を
塞いでいたお盆を地面に置くと、彼へと駆け寄る。
フィリオは急いで手を振った。
「何でもない。太陽の光をまともに見てしまっただけさ」
「そうなの? ああ、びっくりした」
胸をなで下ろすアリスを、大げさだなと感じながら見やるフィリオ。
「そんな、細かいことを気にしてたら、きりがないぞ」
「だってフィリオが悪いのよ」
心外だという風に、腰に手を当てると、アリスは頬を膨らませた。
たじろぐフィリオ。再び額を拭ったのは、冷や汗を取るため。
「僕のせい?」
「近頃働き過ぎなのよ。朝から夕方まで、葡萄酒を運んだり、空き瓶の片づけ
をしたり……。私の家の手伝いだけかと思ってたら、ヨアンさんのところでも
やってるでしょ。農作業の手伝い−−干し草作ったり」
「知ってたのか?」
「それはもう。噂になってるわよ。あのフィリオが取り憑かれたように働き出
したって」
「『あの』フィリオ、ね」
辟易して失笑すると、フィリオはアリスが持ってきた盆へ近付いた。その上
には、水滴を付けたグラスが乗っている。
「相変わらず、空を飛ぶ夢を追ってる虚け者と思われてるんだろうな」
「あら、そんなことないわよ」
「え?」
予想外のアリスの返事に、グラスを口元へ運ぼうとする手を止めたフィリオ。
その姿勢のまま、視線をアリスへ送る。
アリスは、さすがに嬉しそうに答えた。
「この間、飛んだでしょうが……私のために」
最後のフレーズは、小さく言い足した。
「あ。ああ、あれね」
フィリオにはしかし、しっかりとそれが聞こえたものだから、自然と赤面し
てしまう。
「飛んだと言っても、少しだけ。あの子爵は、とても認めてくれなかったけど」
「もう、自信持ってよ」
怒ったように、足早に寄ってきたアリス。彼女の指が、フィリオの胸に突き
つけられた。
「間違いなく飛んだのよ、あなたは。みんな、認めてる。ううん、認めるとか
じゃなくて、知ってるんだから」
「……分かってるよ」
にこっと笑ったフィリオ。水を三口飲んで、改めて言う。
「次は、もっと長く、安全に飛ぶんだ。それには先立つ物がね」
お手上げの格好をする。
フィリオは先のジェームズとの約束を果たすため、集中的に飛空機造りに励
んだ。その結果、蓄えてあった彼のわずかな資金は、きれいに吹き飛んでしま
ったのだ。その上、肝心の機体も損傷が激しい。ほぼ半分は、一から部品を買
い集めなければならないほど。
「だから、もっともっと働かなくちゃ。それでお金を貯めて、前の機体を改良
する」
「……とめる気はないけれど」
アリスは口ごもると、うつむき気味になって、後ろからフィリオの左腕を取
った。フィリオに、アリスの握る感覚が伝わってくる。
−−つづく