#4259/5495 長編
★タイトル (FJM ) 97/12/12 2:23 (195)
代償 第三部 17 リーベルG
★内容
17
覚醒は急速だった。夢の世界と現実の世界とのギャップで、知覚が混乱して頭
痛が走る。が、それはすぐに消えた。
祐子はベッドに寝かされていることに気付いた。見覚えのないセミダブルベッ
ドだ。長いこと使用されていなかったらしく埃っぽい。おまけにマットレスの上
にはシーツも敷いていなかった。
いろいろな記憶が一度に戻ってきた。祐子は跳ね起きると、周囲を見回した。
どうやらホテルの一室のようだった。ただし、どう見ても営業中であるとは思
えない。テレビは明らかに壊れていたし、冷蔵庫は扉がない。かつては少女趣味
的な純白であっただろう壁は、ひび割れ色褪せて見る影もない。ソファも破れて
いる。ガラス張りのシャワールームの鏡もない。ユニットバスとシャワーは残っ
ているが清潔なお湯が出てくることは期待できないだろう。
スポットに配置された天井の照明も、半分以上が点いていなかった。むしろ、
残りが淡い光を発しているのが不思議なぐらいだった。
もともとないのか、故意に塞いだのかはわからないが、窓らしきものは見あた
らなかった。シャワールームには小さな曇りガラスの窓があったが、光が差し込
んでこないところを見ると、まだ夜なのだろう。
状況を認識すると、むらむらと怒りが沸いてきた。
「ちょっと!誰かいないの!」
その声に呼応するように、テレビのノイズのようなジーという音が聞こえた。
はっとそちらを見ると、天井にこれだけは真新しいテレビカメラが設置してある
のが見えた。レンズの脇にグリーンのランプが点灯しているところから見ると作
動しているらしい。
レンズはまっすぐベッドの上に向いていた。眠っている姿をずっと誰かに見ら
れていたのだ、と知るとますます怒りがこみあげてきた。
「誰なの!」
そのときドアが開く音がした。祐子はびくっとして身構えた。
入ってきたのは由希だった。その後ろに数人の男が続いている。
「このときを待ちかねたわよ、朝倉祐子さん」
「は、橋本!」祐子は喘いだ。「何の真似よ!」
「言わなくてもわかってるでしょう」
祐子は後ずさった。
「わ、私にこんなことをして、後でどうなると思ってるの」
「さあね」由希は優雅に肩をすくめた。「正直言うとね、後のことなんかどうで
もいいのよ。今やあんたに復讐することだけが、私の生きがいなんだから」
「藤澤や志穂も、あんたが殺したんでしょう!」
「まあね。死んで当然よ」
「あんた気が狂ってるわ」
「私の精神状態より、自分のことを心配したら?自分の置かれた状況がわかって
るの?」
「わかってるわよ。あんたが、私を不当に監禁してるってことぐらい。言ってお
くけどねえ。さっさと私を解放した方が身のためよ。私には味方が大勢いるんだ
からね」
「榊と、あの刑事さんのこと?」由希はくすくす笑った。「彼らが助けに来てく
れるって思ってるから虚勢を張っていられるわけ?だとしたら甘いわよ」
「な、何をしたのよ」
「教えてあげない。自由に想像すれば?ひょっとして私ははったりを言っている
のかもしれないわよ」
「きちがい!」
由希はまた笑った。
「あなたに、あんな可愛い妹がいたなんて知らなかったわね」
祐子の血が凍った。
「亜紀はどうしたのよ!卑怯者。私に文句があるなら、私に直接言いなさいよ」
「あなたなんかに卑怯者なんて呼ばれたくないわね。自分の都合だけで、人を平
気で傷つける方が卑怯じゃない?ともかく亜紀ちゃんはここにいるわ」
「もう、私がいるんだからいいでしょう。亜紀は帰してやってよ」
「そうは行かないわね。あなたにも私と同じ苦しみを味わってもらいたいから」
「まさか……亜紀を殺すつもりなの?」
さすがに祐子の声が震えた。由希が肯定したら、後のことなど考えずに飛びか
かるつもりだった。
「そのつもりだったけどね」しかし由希は首を横に振った。「まあ、一方的にこ
っちが決めてしまうのもどうかと思って考え直したわ。あなた次第ね」
「何を言ってるのよ」
「私はねえ、朝倉さん」由希は揺るぎない視線で祐子を見据えた。「加代のため
なら、いつでも自分を犠牲にするつもりだったわ。言葉に出してそう言ったこと
はなかったけど。幸い、食費や学費に困ったことはなかったけど、もしお金に困
ったら身体を売ってでも、加代だけはきちんと大学に行かせるつもりだった」
「それがどうしたのよ」
「あなたに、その覚悟があるかどうか見せてもらうわ。血のつながらない妹のた
めに、どこまで自分を犠牲にできるかをね」
「何を言ってるのかわからないわよ、ばか」
「来なさい。妹に会わせてあげるわ」
そう言うと、由希は祐子に背を向けてドアから出ていった。サングラスをかけ
た男が祐子の腕をつかんだ。
「立て」
電話の男の声だった。
「あんたね。私をさんざん引っぱり回したのは。あんた、臼井克也でしょう。昔
ヤクザだった」
克也は表情を変えなかった。
「早く立て」
「ねえ」祐子は声を潜めた。「あの女にいくらもらったか知らないけど、ここか
ら逃がしてくれたら3倍出すわ。もちろん、警察に通報なんかしないから。ね、
どう?現金で払うから」
克也の動きが止まった。サングラスの奥から祐子をじっと見つめる。一瞬、祐
子の心に芽生えた希望は、しかしあっけなく消え去った。
「今まで、おれを金で買収しようとした奴が4人いた。そいつらはみんな鬼籍に
入っている。おれがお前をぶん殴らないのは、お前が女だからでも子供だからで
もない。そんなことをすれば、由希さんの楽しみが減るからだ。憶えておけ」
淡々とした言葉だった。祐子は背筋が冷たくなるのを感じた。
祐子が連れてこられたのは、奇妙な部屋だった。広い部屋の真ん中に円形の大
型ベッドがあり、その周囲を巨大な4枚のガラスが囲っている。マジックミラー
になっているらしく、ベッドの向こう側が見えない。
ベッドの真ん中に横たわっているのは制服を着た亜紀だった。口にタオルをか
まされ、両手を後ろ手に縛られている。
「亜紀!亜紀!」
祐子は駆け寄ろうとして、克也に止められた。
ベッドには見知らぬ男が座っていた。スキンヘッドの大男だった。男は欲望に
ぎらつく目で、亜紀の幼い肢体を眺めていた。亜紀は怯えたように震えていた。
「橋本!亜紀に指一本でも触れたら、ただじゃすまないからね!」
「この部屋は特別でね」由希は祐子の恫喝など気にも止めずに言った。「人目を
忍ばなきゃならない政治家とか代議士とかが、プライベートなショーを見るため
にあったのよ。向こうからはこっちが見えないし、こっちからの声は中に聞こえ
ないから、顔を見られる心配なしに見物できるってわけ」
「そんなことはどうだっていいわよ!」祐子は喚いた。「亜紀をあそこから出し
て!」
「それはあなた次第よ。そっちを見て」
祐子は、由希が指した方を見た。三脚に乗ったビデオカメラが置かれている。
一人の男がファインダーを覗きながら調節していた。
「この部屋の隣に20人ぐらいのお客が待っているの。ある会員制秘密クラブの
方々よ。今日はビデオ鑑賞会というわけ。大型テレビを前に始まるのを待ってる
わ。そして、あのビデオカメラは隣の部屋のテレビにつながっているのよ」
「何が言いたいのよ!」祐子の声は悲鳴に近くなっていた。
「簡単なことよ」由希は残忍な笑みを浮かべた。「お客さんたちに、あなたが男
とからんでみせるか、それとも亜紀ちゃんのレイプシーンを見せるか。どちらを
選ぶ?」
「冗談じゃないわよ!」祐子は怒鳴った。「なんで、そんなことやらなきゃいけ
ないのよ!」
「加代や、めぐみちゃんもそう思ったでしょうね、きっと」
「うるさい、ばか!そんなの知ったことじゃないわよ!」
「いいから選びなさい。あと10秒のうちに選ばなければ、まず亜紀ちゃんをレ
イプして、次にあなたをレイプさせるわよ。9、8、7……」
「待って!待ってよ!」
「どちらにするか決めたの?」
「こんなことして、後でどうなると思うの?絶対、刑務所に入れてやるからね」
「後のことは、後で心配するわ。とりあえず、あなたは目前の選択をこなしてい
くことね。6、5……」
「待って、お願い!」
「……4、3、2……」
「こんなことが許されるわけないわ!私を誰だと思ってるのよ!」
「……1、ゼロ」由希は言葉を切った。「どちらにするの?あなたがやるの?」
「いや!絶対にいや!」
「じゃあ、決まりね」由希はカメラの男に合図した。「中の方のカメラに切り替
えて。あっちを流すわよ」
「わかりました」
由希はガラスに近づくと、ドア部分の脇にあるインタホンに向かって言った。
「始めていいわよ」
「待って!待ってよ!」祐子は必死で叫んだ。「お願い、亜紀は許してやって!」
「じゃあ、あなたが身代わりになるの?」
「そ、それは……で、でも、お金ならいくらでも払うから」
「いくらなら加代が生き返るの?」
祐子は絶句した。
「始めて」
「いやあああ!やめて!」
ガラスに囲まれた密室の中で、スキンヘッドの男が必死でもがく亜紀の身体に
手を伸ばした。制服の胸元をつかんで一気に引き裂く。どこかにあるスピーカー
から、布が勢いよく裂ける音が生々しく聞こえてきた。
「おねがい、やめてやって!亜紀は関係ないじゃない!」
「あなたにはチャンスをあげたでしょう。もう遅いわよ」
白いブラジャーがむしり取られた。幼く薄い胸が露わになる。亜紀は必死で男
から身を遠ざけようとするが、男の手が容赦なく乳房をつかんだ。指が桃色の乳
首をつまみ、ひねると、亜紀は身体を反らせてもがいた。
スピーカーから、くぐもった泣き声が洩れている。
「おねがい、やめて。お願い!」
スキンヘッドは、制服を少しずつ引き裂き、徐々に亜紀の幼い身体を露わにし
ていった。上半身をすっかり剥いてしまうと、亜紀の身体を起こした。カメラが
そちらにあるのだろう。
亜紀の両脚が座った姿勢のまま、左右に大きく開かれた。スキンヘッドの手が
下着の上から陰部に伸び、やや乱暴にこすり始めた。亜紀は顔をそらして懸命に
もがいているが、男はそれを全く意に介さず、愛撫と呼ぶには乱暴すぎる動作を
続けていた。
「やめて……やめて……」
祐子は耐えきれずに何度も目をそらしたが、その度に克也が容赦なく顔を正面
に向けさせた。
「しっかり見なさい。目を閉じたら、いつまでたってもやめないわよ」由希が冷
酷に宣言した。
スキンヘッドは、欲望に突き動かされるまま、亜紀のショーツを一気に引き下
ろした。亜紀がとっさに脚を閉じようとしたが、スキンヘッドは後ろから膝を押
さえると両側に広げた。亜紀は狂ったように呻いている。
「可哀そうよねえ」由希が祐子の顔を見ながら言った。「お姉さんは自分の身だ
けが大切なのよねえ」
「うるさい!ばか!あんたそれでも人間なの?」
「結局、何だかんだ言って、自分のことしか考えてないわけね」
スキンヘッドがズボンを脱ぎ捨てた。すでに膨れ上がった男性性器が祐子の目
を射る。恥ずかしさよりも、恐怖が先に立った。
あんなものが亜紀に……
亜紀の下腹部に男根が迫る。
「お願い、やめて!」祐子は絶叫していた。「私がやるから亜紀を許して!」
「ストップ」すかさず由希がインタホンに言った。「こっちのお嬢ちゃんが替わ
って欲しいそうよ。こっちへ来て」
スキンヘッドが名残惜しそうに亜紀の身体を一瞥すると、ミラールームから出
てきた。
「こいつを好きにしていいわよ」
たちまち祐子は床に押し倒された。服が破られる。
「いやああ!」
祐子は抵抗した。黙って犯されるような気質は持ち合わせていない。だが、欲
望を中断させられた男の力はすさまじかった。
あっというまに、祐子は全裸にされ、カメラの前で両脚を裂けんばかりに開か
れた。恐怖と恥辱がわずかに力を与えたが、相手はむしろそれを楽しむように易
々と祐子の自由を奪った。
熱い異物が侵入してきたとき、祐子は声が枯れるまで絶叫した。