AWC 絶対、運命……(1/6) らいと・ひる


        
#4237/5495 長編
★タイトル (NKG     )  97/12/11  23: 0  (194)
絶対、運命……(1/6) らいと・ひる
★内容
 ひらりと、写真が舞い落ちる。
「あ、わりぃ」
 机にぶつかった拍子に上に並べてあった写真の一枚が落ちた。そこは、写真部の
葉山の席である。その周りを何人かの男子が囲っていた。
 なにやってるんだろう、と思いながら落ちた写真を拾うことにする。
 被写体は、見知らぬ女の子。
 写真を手にした瞬間、その写しだされた彼女の表情に釘付けになる。
 セミロングの艶やかな黒髪を風になびかせ、どこか遠くを見つめる視線。吸い込
まれそうな瞳に、僕は息を呑んだ。
「けっこうよく撮れてるだろ」
 葉山にそう声をかけられてえ我に返る。
「見たことないコだけど、他の高校のやつ?」
 自分の表情を悟られまいと、ごまかしついでにそう訊いてみる。たしかに、うち
の学校じゃ見ない顔だ。
「7組の宮内籐子。知らないのも無理もないか、クラス内じゃある意味で有名らし
いが、地味な子だしな……おまえが知らないのもわかるよ。ま、隠れた美少女って
とこかな」
 葉山は得意げにそう言う。
 僕は改めて写真を見直す。物憂げな表情の中にどこか神秘的な雰囲気が漂う。
 もしかしたら、美化しすぎているのかもしれない。だけど、その何かを見つめる
瞳に、僕自身の心が吸い込まれそうな感覚を覚えたのは、気のせいなんかではなか
った。
「でもなぁ、正統派の美少女ったら3組の霧島恵理だろ」
 葉山の机の周りにいた一人の鈴木という奴が、腕を組みながらマジメな顔でそう
呟いた。
「俺は1組の村上瑠那の方がいい線いってると思うけどな」
 その隣の奥山が、彼の反応を聞いて机の上から写真を一枚取り上げる。
「ここだけの話だが、今ならクラスメイト割引として格安で焼き増ししてやるぜ」
「なんだよ、金とるのかよ。えげつねぇなぁ」
 葉山の露骨な商売根性に奥山は手に持っていた写真をぽいっと落とす。
「おい! 大事な商品なんだぞ」
 そんな馬鹿なやりとりを横目で見ながら、僕は再び写真に視線を向ける。
 一目惚れとかそういう次元の問題ではなかった。言葉では説明できない何か惹か
れるものを彼女の中に感じていた。
「お客さぁーん。そのコに目をつけるとはいい趣味してますなぁ」
 葉山が僕の所へ寄ってきて肩を組む。
「そんなんじゃないよ」



 胸ポケットの生徒手帳の中には、葉山が焼き増ししてくれた宮内籐子の写真が入
っている。
 結局、成り行きであの写真を買ってしまった。
 葉山は内緒にしてくれると言っていたが、この写真を誰かに見られたら変な噂が
広がるかもな。そう思いながら、次第に高鳴る鼓動がその恥ずかしさによるものな
のか、彼女に対する恋の芽生えなのか、だんだんわからなくなってきた。
 別にこれが初恋というわけではない。
 幼い頃はけっこうませていた方だったので、幼稚園の時に先生を好きになったこ
ともあった。それが本当の恋でなかったとしても、少なくとも今までにいいなと思
った女の子は何人もいたし、その中には本気に好きで、その子の事ばかり考えてい
たこともあったはずだ。
 そう自分に言い聞かせながら、胸の高まりを沈める。
 ふいに右腕に何かがぶつかった。
 ばさばさと紙の束のようなものが落ちる音がする。
 我に返った視界に、廊下に散らばる藁半紙を必死に集めようとしている女の子が
映る。
「あ、わりぃ」
 そう謝って、自分もその藁半紙を拾うのを手伝う。
「いえ、わたしもぼんやりとしてましたから」
 繊細な、それでいて甘いソプラノボイス。彼女は自分も悪かったと素直に謝る。
 ある程度集めると床でコンコンと大まかに紙を揃えて彼女へと差し出す。
「本当にごめんな」
 彼女のほうも紙を集め終わると丁寧に紙を揃えこちらを向く。
「ありがとうございます」
 え?
 見覚えのある顔。右手を胸ポケットの位置へもっていく。
 たしか……。
「7組の……」
 フルネームを知っていたが、照れがそこで言葉を止める。
「宮内籐子です。よくわたしのクラスを御存知ですね」
 彼女は、首をちょこっと傾げる。
 不思議そうに僕を見つめるその瞳は、あの写真とまったく同じだった。
 思わず心が引き込まれそうになる。
「どうしたんですか?」
 一瞬の沈黙ののちに彼女の方からまた問いかけてくる。
 何かごまかさなければ。
「あ……いや、7組に中学の時のなじみの奴がいてよく教科書とか借りに行くこと
があるからさ、うん、そのときにキミの……宮内さんのことを見かけて顔を覚えて
いたんだよ」
 少なくとも友人が7組にいるのは嘘ではない。ただ、借りに行ったことはあるが、
その時は彼女の存在すら気がつかなかった。
「そうなんですか、光栄だな。わたしある意味で目立たないですから」
 そう話しているうちに予鈴がなる。もう、5時間目が始まってしまう。
「じゃあ」
 僕はぎこちなくそう挨拶をして別れようとすると、彼女は優しい声で
「じゃあね、天野クン」と微笑んだ。
 彼女の表情が頭に焼き付く。
 え?
 そこで疑問。
 なんで、僕の名前を知っているんだ?



 その日の夜は久しぶりに寝付けなかった。
 頭の中にはあの宮内籐子が思い浮かぶ。写真の物憂げな表情、優しく微笑んだ口
元、不思議そうに見つめるあの吸い込まれそうな瞳。
 あー、明日現国の小テストだってのに。
『じゃあね、天野クン』
 なんで彼女は僕の名前を知っていたのだろう。
 まさかな。
 昔どこかで会ってたなんて、出来過ぎてるしな……たぶん7組の石塚、あいつが
僕のことをいろいろ吹き込んでいるのだろう。中学の時からの悪友だしな、まあし
ょうがないか。
 そう考えながら無理矢理に頭を休めようとする。
 しかし、やっぱり気になるなぁ。



「おーい石塚!」
 僕は7組の教室の入り口から悪友を呼びつける。
「なんだよ」
 すぐに教室の一角から声があがり、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。
「現国のガイド貸してくれないか?」
「あー? まあ、いいけどさ。おまえ持ってなかったっけ?」
 石塚は不思議そうに聞いてくる。そう、確かに持っている。
「他の奴に貸しちゃってさ。貸したはいいけど、そいつ今日休みなんだよ」
 嘘をつく。もちろん、目的は別にあった。
「んじゃあ、しょうがねぇな」
 あまり疑いもせずに、石塚は素直に自分の席にガイドを取りに行く。中学からの
なじみだから、僕があまり嘘をつかないのを知ってのことだろう。少しばかり罪悪
感を覚える。
 そんな罪の意識を胸の奥に沈めて、本来の目的である彼女を探す。
 空白。
 教室の隅に違和感のある席が目に映る。そこだけは、クラスの喧騒な雰囲気から
断絶されたような孤立した空間だった。
 その席に彼女は一人でぽつんと座っている。視線は、寂しげに外を向いていた。
「……」
 早い話、彼女を避けるかのように周りには誰もいない。
 あの時、とても優しそうな微笑みだった。みんなに好かれているんだと思いこん
でいた。なのに……。
「ほれ!」
 石塚がぽんと僕の頭にガイドをのせる。
「なぁ、彼女っていつも一人なのか?」
 急に話しをふったものだから、石塚もそれ対応できなかったらしい。
「あ? 彼女って?」
「あの窓際の一番後ろの……」
 名前は知っていた。だが、下手に勘ぐられるのも嫌なのでそこで言葉を止める。
「ああ、宮内か。あいつならクラスじゃいつも一人だぜ。でも、なんでそんなこと
訊くんだ?」
「いや、あそこだけ違和感があったものだからさ」
 とっさにごまかしの言葉が出る。が、見え見えのその言葉の裏を石塚は見抜いて
いた。
「宮内ならやめときな」
 いきなり落ち着いた低い口調でそう戒められる。なにか彼女を厄介者として扱っ
ているようにも聞こえる。
「どうしてだよ。なぜ嫌うんだよ!」
 納得できず、熱い感情が胸からわき上がる。
「勘違いするな。あいつを気に入ったんならやめとけっていう意味だよ」
 図星。
「そ……そんなんじゃないよ。ただ……」
 すっかり見透かされて言葉が尻つぼみになる。
「バレバレだよ。どっかで見かけたかなんか知らないけど、一目惚れってやつだろ。
あいつけっこうかわいいから、よくいるんだよ。おまえみたいな奴が」
「よくいるって……」
 反論できない自分が情けない。
「いろいろと噂はあるんだけどな……まあ、あきらめな。だいたい、あいつはもう
ツバついてるからさ」
「汚いこと言うなよ! 彼女に失礼だろ」
 再び怒りがこみ上げる。
「そう言われた方があきらめつくだろ! これは友人としての忠告だぜ。彼氏つき
のやつ好きになったっていいことないって」
 石塚は奴なりに気を使っての言葉だろう。その説明には納得せざろうえなかった。
なんだ、結局片想いってことか?
 いや、今日ここに来たのは、本当に彼女が好きなのかを確かめるためだったはず。
だけど、もう確かめる必要はなくなってしまった。かえって確かめない方が良かっ
たのかもしれない。誰だって深く傷つくのは嫌なのだから。
 運命の出逢いなんて、そんな都合よく日常に転がっているわけがない。
「わかったよ」
 ふうっとため息をつくと、何も考えないようにしてその場を去る。
 まだ好きになったわけじゃないんだから、きっと忘れられる。

 たぶん……忘れられる。




 今日の体育は長距離走。
 外の寒さが身にしみる季節になるとお馴染みの授業。炎天下の中を走るよりはず
っといいかもしれないけど、持久力もないし、寒いし、どんどん気分は憂鬱になる。
 教室で着替えて校庭に出ると、冷たい風が身体を突き刺していく。
 寒さをこらえて縮こまりながら歩く姿は、我ながら情けない。なんで天気はこん
なにいいのに気温は低いかと、恨めしげに空を見上げた。
 視線をおろすときにふと二階の教室の一室に目がいく。
 寂しげな視線。
 やはり彼女−宮内籐子は外を眺めていた。
 あの時見せてくれた微笑みは偽りなのか、それとも自分自身の思いこみが見せた
幻なのか。
 どちらにせよ、もう二度とあの微笑みを見ることはないだろう。心の底に想いを
沈める。
 忘れなきゃ。
 よし、気合い入れて走るか。
 ぱんっと両頬を軽く叩き、未練を断ち切るように集合場所へと向かった。






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