AWC 紅の鋼騎兵(18)       赤木 錠


        
#4187/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  97/11/ 9  13:11  (200)
紅の鋼騎兵(18)       赤木 錠
★内容
 プラズマ・ランチャー。
 つぎの瞬間、雷鳴の轟音が鳴りわたる。
 はじきだされたプラズマ弾が、ハンマーボルト・キャノンの砲口に吸いこまれる
ようにして侵入した。
 雷手が暗い内部で奔放にあばれまわり――砲塔深部が赤熱しながらぐんにゃりと
へし曲がっていく。
 同時に、不用意な後退をしたエアガレーが背後の樹幹にあたってがくんとバラン
スをくずれさせていた。
 機体の強度からして、樹木に激突したくらいならまるで問題にもならないはずだ
ったが――乗員が驚嘆にわれをわすれたのだろう。
 やみくもで無意味な旋回をエアガレーは演じはじめる。
 すばやくエアガレーのコクピット前部にナグワルはまわりこみ――ブラスターの
直撃弾をたてつづけにくらわせはじめた。
 実質的に大きな成果を短時間であらわすことのできる戦法では、決してなかった。
乗員のパニックを助長するための連撃である。
 実際、モニター映像とはいえ眼前でたてつづけに熱線が炸裂する光景を見つづけ
て平静でいられるものではない。
 エアガレーは攻撃をいやがるようにしてでたらめに後退や横行をくりかえし、矢
つぎ早に樹幹にその巨体をはばまれてうろたえの度をいっそう増加させていく。
「そろそろ、いいかな」
 つぶやきざま――ビショップは砲撃を完全に沈黙させてすばやく後退した。むろ
ん、樹木に機体をあてたりせぬよう後方視界モニターに充分の注意をはらって。
 とまどうような一瞬の沈黙のあと――吸いよせられるようにしてエアガレーは反
射的に前進し――
 後退と同時にナグワルが吐きだした、あるものにふれた。
 ――ビショップたちが遺跡に急行する途中で、襲撃をかけてきたエアガレーから
徴集した、数機の小型機雷に。
 バール効果により噴出する紫色の粒子に反応して、機雷がつぎつぎに爆発する。
 衝撃をうけたエアガレーのバール機関が、異様な轟音をあげはじめた。
 黒い機体がでたらめな運動をはじめ、ついに息をきらしたようにどしゃりと落下
した。
「てきめんだね」
 つぶやき、深追いはせずにビショップはナグワルをさらに後退させてエアガレー
の射撃圏内から脱出する。浮遊機構を破壊されただけで、敵の攻撃能力がなくなっ
たわけではないための後退である。
 全天モニターですばやく周囲の敵の有無を確認し、ビショップはそのまま遺跡方
向にむけてナグワルを前進させた。
 そして先刻、生身の状態でエアガレーと死闘を演じたすぐ近くあたりに――地面
に接地したエアガレーの姿を発見した。
 同時に、遺跡の黒い壁の一部が――跳ね橋のようにして大きく門をひらいている
光景にも気づいていた。
 どうやらさきほどのエアガレーの砲撃が、遺跡にかくされていたなんらかの機構
を偶然にも作動させてしまったらしい。
「……これは吉かな。凶かな」
 コクピット内部でビショップはひとりつぶやき――
 あわててスペクトル・ジャマーを作動させた。
 ひらいた門から出現したひとりの兵がすばやくエアガレー側面をかけあがり、上
部ハッチから機内へと姿をかくす。
 そしてしばしの間をおいてエアガレーは、バール機構を作動させた。
 ふわりと浮上する。
 どうやら、シェリルに撃墜されて停止していたわけではないらしい。
 そのままエアガレーは、ゆっくりと遺跡内部に侵入していった。
「さて、どうするかな。一戦まじえるか、こっそりあとをつけるか」
 ビショップはつぶやき、腕をくんだ。
 外界に視線を、むけるともなしにむける。
 闇につつまれていた上空を、赤みがかった紫色が大きく浸食しはじめていた。
 リミットはこれであと一日とすこし。革命軍の占拠する基地を襲撃してシャトル
を確保し、軌道に上昇してルステム中将の高速戦艦と連絡をとるまでの手順をかん
がえると、すでにデッドラインは刻一刻と近づきつつある。
 やみくもに一戦まじえ、強引にでも決着をつけてさきへすすみたいところだが―
―
「ま、そうもいかないだろうな」
 つぶやき、シェリルにむけてコールした。
 ディスプレイ内にひらいた窓のむこうで、シェリルはちらりともこちらに視線を
むけずにいそがしげに手をはたらかせている。交戦の真っ最中らしい。
「おとりこみ中、失礼。状況はどう?」
『二機ぶっとばしたわ。残り一機と交戦中』
 はやくちでいい捨て、それでも自慢そうにちらりと視線をむけることだけはわす
れなかった。
「すご腕だね。たよりになるよ」ビショップは真顔でいいながらぱちぱちと手をた
たき、「それじゃぼくは、遺跡に侵入した敵がいるからそれを追うことにするよ。
手助けはいらないみたいだし」
『この薄情者』
 毒づくシェリルに苦笑をなげかけながらビショップは回路を切ると、スペクトル
・ジャマーをかけたままゆっくりとナグワルを前進させた。

  17

 いくつかの曲がり角と下方へとつづく階段を、器用な動作でたちはだかる障害を
かわしながらエアガレーは前進していった。
 駆動音が迷宮内に異様な反響をひびかせて鳴りわたる。
 十数分ほども、子どもが歩くほどの速度で前進と後退をくりかえし――やがてふ
いに、エアガレーは静止した。
 接地する。
 どうやら、エアガレーには道がせますぎてそれ以上の前進が不可能、ということ
らしい。
 追随するビショップは、あわててナグワルを降下させエンジンを切った。低騒音
駆動系ではあっても、さすがに閉鎖空間で単独で駆動していれば、アイドリング状
態でも騒音として敵の耳にとどいてしまう。しかたがなかった。
 連動するようにしてエアガレーもエンジンの火をおとし――濃密な静寂がのしか
かる。
 やがて上部ハッチからあいついで、三人の影があらわれた。
 それを見てビショップは、おり立った三人のうちのひとりのシルエットに見おぼ
えがあることに気がついた。
 イスフェル中尉であった。
「なかなかするどいね、やっぱりあの人は」コクピット内部で足を組みあごに手を
かけながらひとりビショップはつぶやいた。そしてにやりと笑い、「でも、ここま
でさ」
 つぶやいて、ナグワルを起動させる。
 突如鳴りひびきはじめた獰猛なエンジン音に、三人の人影がぎくりといっせいに
ふりかえった。
「往生してくださいね」
 ビショップはにっこりと微笑んで宣告しながら、レーザー砲を起動させた。
 開口部からきりきりと音をたててせりだす砲身に、三人の人影はぎょっとしたよ
うに身がまえた。
 そのうちのひとつが、あわててエアガレーのラッタルにとびついたが――おそか
った。
 蒼白の光条が闇を切りさき、一撃でふたりを、さらにラッタルにとりついた残る
ひとりは、正面からの砲撃で炭塊と化さしめた。
「シリスの裁きに温情のあらんことを」
 印を切りながらビショップは、アシュトラ教における死界の支配者の名をとなえ
た。
 しばし瞑目して頭をたれ――そしてぱちりと目をひらいた。
 そしてディスプレイに地図を呼びだす。
 自位置と、赤の点滅。距離的には、かなり近いことが判明した。
 もっとも、迷宮内部の俯瞰図まで装備されているわけではない。複雑におりなさ
れた通廊の、どこをどうたどればハッサンのいる位置にまでたどりつけるのかまで
は残念ながらわかるはずもない。
「いきあたりばったりでいくしかないか」
 つぶやき、ビショップはナグワルを浮上させた。
 エアガレーのわきをすりぬけるようにして通廊のさきへとすすむ。重浮遊機には
たしかに通行は不可能だろうが、ナグワルならある程度の余裕をもってすすめそう
に見えた。
 そのまま、ゆっくりと前進をつづける。
 やがてふいに――外部聴覚センサーが、異様な音を感知した。
 複雑にまじりあった音だった。一部は、その正体を推測することができる。巨大
な岩をころがすような重低音と筒を鳴らすような音――つい先刻までうんざりする
ほど耳にしてきた、エアガレーの駆動音だ。
 だが、それにかぶさるようにしてとどろきわたる異様な轟音の正体には、見当を
つけることさえできなかった。
 どう耳をすましてみてもそれは――獣の咆哮にしかきこえなかったのだ。

 悲鳴をあげてアミーナが指さすさきに視線をむけて、ハッサンもまた息をのんだ。
 黒い影が、膨張するようにのびあがっていくところだった。
 三十メートルほどもそびえる高い天井の、ほとんどぎりぎりまでのびあがってか
らその影は、くねるようにして首をめぐらせた。
 一対の光る目が、たたずむふたりの人間のちっぽけな姿にじろりと一瞥をくれる。
 そして――ず、ず、ず、ず、と、何か巨大な質量のものをひきずるような異様な
音とともに、そのながい首が前進してきた。
 ハッサンが手にした発光スティックの光をうけて、その異様な顔貌が暗闇にうか
びあがる。
 それを一言でいいあらわすならば――黒色にぬりこめた爬虫類の骨格、であった。
 異様にながい上下のあごをなかばひらき、ぞろりと立ちならんだ無数の鋭利な牙
のあいだから不気味な粘液をだらだらとしたたらせている。
 蛇腹状にのびるながい頚部も不気味に硬質な黒にぬりこめられ、各接合部が異様
なねじれ具合で連結している。
 さらに、ひきずるような重い音とともに前進してきた、巨大な胴体。
 サイを思わせる不気味な突起が、その巨大な胴体の表面いたるところに不規則に
立ちならび、やはり鎧のように無骨で不気味なねじれをともなった連結部をもつ足
が、どたりと床におろされる。
 全身が、その頭部と同様異様な光沢の、黒い硬質の皮膚におおわれているようだ
った。
 ほとんど無意識に後退しながら、ハッサンが化物から視線をはなさぬまま口にす
る。
「これも撃っちゃいけねえのかよ、姫」
 声に力が、まったくこもっていなかった。
 ハッサンの背中にしがみついた姫君も、ふるえる声音でこたえる。
「とっとと撃ちなさい、と、いいたくていいたくてしかたがありません」
 ハッサンは、ちらりとアミーナをふりかえった。
「しかし、撃っちゃいけねえんだな?」
 確認の口調でいう。
 はい、と、声をふるわせながらもきっぱりと、アミーナはうなずいてみせた。
「わかったよ。しかしまいるぜ。どうすりゃいいんだよ」
 そびえたつ巨影をぼうぜんと見あげながらハッサンはつぶやいた。
 その頬に、笑み――らしきものがはりついているのに、アミーナは気がついた。
 驚愕に、目を見ひらいてまじまじとハッサンの顔をながめあげる。
 脅威に対する不安と怯懦は、見ひらいた目にありありとうかんではいた。
 しかし――同時にまた、この危険な状況をこのハッサンという男は、たしかに楽
しんでもいるらしい。無意識にうかびあがった笑いは、まちがいなく感嘆を表出し
ていた。
「ハッサン……」
 ぼうぜんと、アミーナはつぶやく。
 気づかずハッサンは、魅入られたように視線を、重圧をはなつ怪物に釘づけたま
まだった。
 ぎ、ぎ、ぎ、と何かが異様な音をたてた。
 怪物の、首だった。
 不気味なきしみ音をひびかせながら、ゆっくりとその頭部を降下させているのだ。
 ハッサンとアミーナの、眼前に。
 こみあげてくる悲鳴を、アミーナは懸命にのみこんだ。
 この異様な化物をすこしでも刺激するような挙動にでれば、即座にかみ裂かれて
さっきの三人の兵隊とおなじ運命をたどらなければならないだろう。
 無意識のまま手にとっていたハッサンの手首を、ぎゅうとにぎりしめた。
 歯をくいしばり、みるみる涙があふれてくる両の瞳をけんめいにこらした。
 視線をそらしちゃいけない――なんの根拠もなく、姫君はなかば無意識的にそう
思いこんでいたのである。
 ハッサンもまた、汗ばんだ手のひらにしっかりと銃把をにぎりこみながら、にら
みつけるようにして青い燐光をはなつ化物の双眸を見かえしていた。
 食うなら食ってみろ。
 呪文のように胸中でくりかえしながら、真正面から怪物をにらみすえる。
 しばしそうして三者は、異様な対峙を凍結したように維持していた。
 が――ふいに、巨獣のほうが、膠着状態を破った。
 ぎりぎりと首をきしらせながらふたたびその頭部を天井高くもちあげ――
 吼えた。
 世界が底からぬけてくずれ落ちそうな咆哮であった。
「……これまでかもな」
 ひしりあげる巨獣の、異様な圧迫感を発散する巨体をぼうぜんとながめあげなが
ら、ひとりごとのようにハッサンが口にした。
 またもや、あの笑みがそのぶあついくちびるの端にうかんでいる。
「死にたくない……」
 アミーナは、つと目を伏せて蚊の鳴くような声音でつぶやいた。




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