#4185/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 97/11/ 9 13: 3 (200)
紅の鋼騎兵(16) 赤木 錠
★内容
せる。
オマール教授の発掘隊が、ルバンストラにつづいて発掘の申請をバストラル政府
に提出している遺跡である、というデータが表示された。そのほかには目ぼしい情
報がないところをみると、その遺跡は発見されているだけで本格的な調査の手はい
れられていないものであるようだ。
「ふうん。おもしろいねえ。でも、これが?」
ビショップは肩ごしに問いかけた。
「それがどう、ってわけじゃないんだけどさ。でも、ほら、これ見てよ」
と、指を、問題の未調査遺跡からつう、とすべらせていく。
湖上の点滅点を経由して――ルバンストラ遺跡まで。
それを見てビショップも「おや」とつぶやいた。
ごくゆるやかに曲折するが、それでもほぼ直線で結ぶことができたのである。
「なるほど」とビショップはいくどもうなずいてみせた。「つまり、地下を移動し
ている可能性、か」
「そういうこと。確信はないけどさ」
「いや、いいセン、ついてるかもしれないね。ラルシザーク遺跡には地下都市だか
迷路だかがあるって、そういえばどこかできいたことがあるような気もするな。と
なると――」
とビショップは身をのりだした。
「ハッサンたちのいる位置は、未調査遺跡のほうにかなり近いね。それにぼくたち
も、ルバンストラに戻るよりはそちらにいったほうがはやそうだ」
「決まりね」
ぱちりと指をならして、歯切れよくシェリルがいった。
猫のようにしなやかな身ごなしでビショップのもとを離れ、自分のナグワルの内
部にすべりこむ。
『見てよ、この地図の、未調査遺跡のさらにさきの部分』ビショップがふたたびガ
ルウイングをクローズしてヘッドアップディスプレイを装着しなおすと、さっそく
シェリルが呼びかけてきた。『ほら、未調査遺跡って、なんか呼びにくいからなん
か地名ないかなってさがしてたら、ほら、これこれ』
と、通信回線を経由して地図上に点滅を表示させる。
「なるほど」とそれを見てビショップも目をまるくしながらうなずいた。「神さま
がぼくたちに幸運をくだされたことを実感するね」
あっはっはとシェリルは快活に笑った。
『さ、神さまに感謝はあとにしよ。いくよ』
いうよりはやく、シェリルのナグワルはふわりと上昇したとみるや、はじかれた
ように前進を再開した。
「あいかわらず、鉄砲玉だね」
苦笑まじりにつぶやきながら、ビショップもナグワルに起動をかける。
そしてちらりと、ふたたび地図に視線をとばした。
未調査遺跡のさらにさきにあったのは――バシャルという名の軍居留地。そこに
は、シャトルの発着施設が表示されていたのである。
15
「それはどうかんがえても、むりがあるぞ、ラマロ曹長」
アリー中尉はしぶい顔をしていった。
ふん、と屍肉あさりの肉食獣を思わせる顔をゆがませながらラマロは鼻で笑った。
「それはやってみなければわからないでしょう、アリー中尉どの? きけば、ラル
シザーク文明の地下迷宮というのは天井などもかなりひろくとってあって、大型車
両が入りこんでも充分とおれるほどの余裕はあるそうですがね」
「だからといって、ほんとうにそれをやる者がこれまでいたわけじゃあるまい。ま
してエアガレーだぞ。途中で立ち往生したままでられなくなってしまったらどうす
る」
「そんなへまなまねは、おれも、おれの部下たちもやりゃしませんよ、アリー中尉。
冗談じゃないな。見損なってもらっちゃ困る。イスフェル中尉麾下の、天下のエア
ガレー小隊が遺跡のなかからでられなくなって立ち往生じゃ、それこそ末代までの
語りぐさ、おれたちゃ恥ずかしくて日の目も見られなくなっちまいますぜ。ご心配
いただかずとも、にっちもさっちもいかなくなる前にきちんとひきかえしてきます
よ。ま、まんまんがいちにでもそういうハメになっちまったときゃ、どうぞご遠慮
なさらずお笑いになってくださいよ。意地でも、そんなハメにゃなりませんがね。
それじゃ」
と、とっととラマロが自分のエアガレーのハッチにとりつきかけるのへ、アリー
はするどい命令口調で制止をかけた。
「待て、ラマロ曹長。バカなまねはやめて、おとなしくここで待機しているんだ。
武装した侵入者がこちらにむかっているという報告も入っている。これは命令だぞ」
ぴたり、と停止したラマロは、しばしのあいだかんがえるようにして虚空をにら
みあげていた。
が、ふいにふりかえり、口もとをあざけりの形にゆがめていった。
「中尉どの。残念なのですが、おれはイスフェル中尉からルバンストラ遺跡にいけ、
という命令はうけているのですが、アリー中尉どのの指揮下に入れ、とはいわれて
おりません。わたしがうけた命令はあくまでも、イアドラ・ルナフの姫君、アミー
ナを捕獲せよ、というものでしてね。変更もうけていないのに勝手にアリー中尉ど
のの指揮下に移行してしまっては、命令違反で厳罰をうけかねないんですよ。した
がって、もうしわけないんですが中尉どの、わたしはイスフェル中尉からうけた命
令を遂行するために、遺跡に入らねばならんのです。そういうわけで、失礼」
内容はていねいでも、口調はあざけりにみちていた。しかもごていねいにも「中
尉どの」と口にするたびに何げない動作で手鼻をかむようなふりをして、思いっき
り顔をしかめてみせる。
アリーの顔面が怒りでまっかに充血していくのを、ラマロはおもしろそうになが
めまわしたあげく、尻をかかげるような動作をしてからエアガレーの内部に消えて
いった。
重い起動音とともに六機のエアガレーがつぎつぎに浮遊しだすのを、アリー中尉
は血管が切れそうな表情のまま、なすすべもなく見送っていた。
「好きにやらせてやってくれ」
嘲笑にわずかにくちびるのはしをゆがませながらイスフェル中尉は簡潔に解答し、
興奮してわめきたてようとするアリーの反応をおさえこむようにして回線をオフに
した。
シートにふかく身をしずめ、ふたたび鳴りだしたコール音を無視して目をとじる。
嵐のすぎるのをじっと耐えるようにしてしばらくそのままの姿勢でいるうちに、
ようやくあきらめたのかコール音がとだえ、巨体を浮遊・進行させる大出力エンジ
ンの轟音だけがしばしのあいだ車内をふるわせていた。
それからふいにイスフェルは上体をおこしてパネルに手をのばし、立体地図を表
示させる。
三つの点滅。
移動しつつある青の点滅は現在位置。赤の点滅の一方は、たったいまラマロとア
リーのあいだでひともんちゃくおこったルバンストラ遺跡である。
そしてもうひとつの赤の点滅は――いままさにビショップとシェリルが、そして
ハッサンとアミーナ姫がめざしているはずの未調査遺跡であった。
異様な臭気が、物理的な圧力をさえともなってあたりにみちあふれていた。
アミーナ姫は悪寒をこらえるようにして、残骸から顔をそむけた。
かばうようにその肩に手をかけながらハッサンも、わずかに顔をしかめて無言で
周囲の異様な光景をながめやっている。
その注視をうけて、たたきつけられた兵士の苦悶にゆがんだ顔が、白目をむいた
視線でふたりを見かえしていた。
壁にうちつけられた後頭部から、放射状に血の筋が大輪の花を咲かせている。も
ちろん完全に絶命しているのは一目瞭然だ。
もうひとりは、床面に顔面をたたきつけられて、やはり毒々しい血の花を咲かせ
ていた。
そして残りのひとり。無惨さではほかのふたりをはるかに凌駕している。こわれ
た人形のようにがくりと首をたれて床にたおれ伏したそのからだは、ひき裂かれた
ようにその半身を消失させていた。肩口から腹の下まで、血まみれの臓物をはじけ
させている。
裂かれた残りの半身は、二十メートル以上はなれた壁面に、力まかせにぶつけら
れた果実のようにして、たたきつけられていた。
「ハッサン――」
ハッサンの巨体にくずれかかるようにして上体をあずけながらアミーナ姫は、あ
えぐような口調でいった。
さらに何かをいいかけて、こみあげてくるものをのみこむように口もとを手でお
さえながらだまりこむ。
ハッサンは無言で、肩にかけた手にそっと力をこめた。
かみしめた奥歯が、無意識に音をたてる。
「容赦がねえよ。どっちもな」つぶやくようにいい、小刻みに全身をふるわせてう
つむくアミーナを気づかわしげに見おろした。「気分が悪いのか?」
「……だいじょうぶ」
よわよわしく、それでも決然とした口調で姫君はつぶやき、キッとハッサンを見
あげる。
「だいじょうぶよ」
もう一度くりかえし、にっこりと笑ってみせた。
むりをして笑ってみせていることは一目瞭然だったが、ハッサンはあえて異をと
なえずにやりと笑いかえす。
「上出来だ。なら、さきに進むとしようぜ」
そういうと、ふりかえろうとする姫を制してその華奢なからだをぐいと抱きあげ、
ぶあつい胸に顔を伏せさせるようにしながら足早に歩きはじめた。
百メートルもすすみ、角をひとつ曲がったところでハッサンは姫君を床におろし、
歩けるか、と問いかけた。
「あ……ええ、だいじょうぶよ」
夢からさめたような顔つきでアミーナはいい、よりかかっていたハッサンの巨体
からためらうようにからだを離した。
「上出来だ」
くりかえし、ハッサンは行くさきに視線をむける。
凄惨な殺人現場にいきあたって以来、いままで姿をかくしていたかげろうのよう
なちいさな影――“案内者”が、ふたたびふたりの前に舞い戻っていた。
さそうようにして円を描きながら、前方にただよっている。
「さあ、いこうぜ姫。案内人も、待ちくたびれたとよ」
「……わかりました」
なにかをふりはらうように姫は口にし、うん、とひとつうなずいてからみずから
先に立って歩きはじめる。
しばらくいってから、ふりかえらぬまま姫が口をひらいた。
「さっきのあれは、やはり……あの生体兵器たちがしでかしたことなのでしょうね」
「だろうな」そっけなくハッサンはこたえ、姫がだまりこんでしまったと気づいて
つけ加えた。「やつらにゃ、撃とうとしたときにとめてくれる姫さんがいなかった
んだ。報復攻撃をくらったんだろうさ。まあ、半分くらいは自業自得っつっても、
まちがっちゃいないだろう」
「そうかもしれませんね」
しずんだ口調でいって、姫はふたたびだまりこむ。
しばしの無言の行軍をおいて、ハッサンはため息をひとつついた。
「姫は、あの生体兵器――“遺跡の番人”たちが気にいりかけていたのか」
アミーナは、はたと立ちどまってハッサンをふりあおいだ。
しばし、ぼうぜんとした表情でかんがえこみ、そしてうなずいてみせる。
「そう……だと、思います。あの子が」と、半透明の蝶を指さし、「わたくしたち
を案内してくれているのだと気づくころから、なんとなくこの遺跡の……そう、番
人たちは、わたくしたちをたすけてくれているものと、そう思いこんでいたのです。
つまりその……革命軍の追手から守ってくれているとか、そういう意味ではなくて
……そう、人類とかれらとは、仲よくやっていけるのではないかと。……そういう
ことをなんとなくかんがえていたんだわ」
目を伏せて立ちつくし――やがてふたたびハッサンを見あげながらフフ、と笑っ
て自分の頭をぽんとたたいた。
「ばかみたいですわ」
「そんなこた、ねえさ」
ハッサンも、あわい微笑をうかべながらそういった。
そしてふたたび歩きはじめた。
「わたくしはね」
しばらく無言で歩きつづけたあと、ふいにまたアミーナ姫が口をひらいた。
「あん?」
うわのそらでいたハッサンがびっくりしたようにききかえすのへ、アミーナは笑
みをかえしながらくりかえした。
「わたくしはね。王家に生まれ育ってきたのですよ」
ぽかん、とハッサンが姫を見かえす。
そんなハッサンのようすを笑いながら見あげて、姫は大男の横腹をちょんとつつ
いた。
「だいじだいじに、育てられてきたのです」
「ああ、だろうな」
それが、といいたげにハッサンは姫を見やる。
姫はうなずき、
「だから、ほんの幼い子どものころはべつとして、他人にふれられたことなどずい
ぶんながいあいだ、ついぞなかったのです」
小首をかしげてハッサンは少女を見かえし――ふいに、ああ、と思いあたった。
「そういう意味か。まあ、すまねえ。危急の事態がつづいたしよ。おれだってふつ
うのときだったら、あんなふうに気楽にひとを抱いて走ったり歩いたりしねえんだ。
ま、許してやってくんな」
ぼりぼりと後頭部をかきむしりながら弁解する。
そんなハッサンを見やりながら姫はもう一度、たくましい大男の腹をちょんとつ
ついた。
「許せません。わたくしをだれだと思っているのですか」
「いやあ。すまねえってば。弱ったなこりゃ。どうすりゃいいんだ」
すると、姫君はとびはねるようなしぐさをしながらハッサンから二、三歩しりぞ
き、くるりと舞うようにして立ちどまった。
そしてはにかむような笑みをうかべながらハッサンを見あげて何かを口にしかけ