#4183/5495 長編
★タイトル (GVJ ) 97/11/ 9 12:55 (200)
紅の鋼騎兵(14) 赤木 錠
★内容
波のようなゆらめきがナグワルのりんかくにそうように立ち、それがかたわらの
森へと移動した。
エアガレーの砲門がそれを追ってつづけざまに移動する。
それがいくどか火を噴いたが――やがて沈黙した。
ステルス状態で移動するナグワルを、ついに見うしなったのだ。
とまどったように、二機のエアガレーが機体をおもおもしく旋回させ――
それを待っていたかのように、同時に二方向からブラスター、レーザー、プラズ
マ弾の一斉連射がおそいかかった。
集中砲火をあびた一機が、旋回動作のつづきのようにしてぎくしゃくとふらつき、
どしゃりと地に落下する。
つぎの瞬間、ようやく砲撃地点をつきとめて旋回する残り二機の砲塔をあざわら
うように、集中砲火が一瞬にして沈黙する。
パルス・レーザーと光子弾の照射がでたらめに森を灼いたが、効果はまるで確認
できなかった。
この場面で、迎撃用ミサイルのかわりに装備していた機雷に機動性が付与されて
いたとしたら、あるいはさらに状況の変化もみられたかもしれない。
残念ながらそれはあきらかな後知恵にすぎなかった。
のこり二機も巧妙なヒット・アンド・アウェイによる集中砲火をうけてついに沈
黙した。
三機とも、その重装甲は赤熱してはいるものの破られてはいない。
それでも数万度の熱エネルギー兵器の集中砲火をあびて、内部の人間が熱にやら
れてしまったのである。
「でも、さきが思いやられるよ」巨大な棺桶と化した、赤熱する黒い機体を見あげ
ながらナグワルからおり立ったビショップがため息とともにそういった。「これが、
大統領の私設兵団を十五分で壊滅させたっていうエアガレー、というわけなんだな。
とすると、さっき食堂のところで出会ったのがイスフェル中尉、か。まいったな。
たった三機が相手なのにこれだけ苦労させられたんだ。こんなのがまたでてきたら
と思うと――ましてそれが、イスフェル中尉の直接指揮下にあるのかと思うと、ど
うしていいのかわからなくて目の前がまっくらになっていく心地だ」
ふふん、とガルウイングのむこう側からするりとあらわれたシェリルが鼻をなら
す。
「とかいいつつ、楽しんでたんじゃないの?」
ビショップは笑いながら肩をすくめてみせただけでそれにはこたえず、
「ああ、それと、気になることがあるんだ。見てくれよ」
と自分のナグワルのコクピット内部を指さした。
シェリルがのぞきこむと、パネル上に、可視化した仮想地図が表示されている。
地図上の、遺跡からやや離れた位置に、赤い点滅がまたたいていた。
遺跡をはさんでほぼ反対方向にある青い点滅が、いまビショップたちがいる現在
地を表示しているはずだ。となれば――
「この赤い点滅は?」
シェリルはきいた。
「ハッサンの認識票から送信されるはずの、発信だよ」
「――てことは、つまり」
大きく目を見ひらいて、シェリルが飛びあがる。
らしいね、といってビショップも微笑んでみせた。
「このあたりにひそんでいるんだろうね。ということは、遺跡からは離れているっ
てことかな」
「でも、なんでまたいまになって、急に? 敵に探知されるのをおそれてたのかな」
「たぶんね。まあ、敵のしかけてきたわな、って可能性も、否定はできないけれど
ね」
「でも、たしかめてみる価値はあるわね。となれば――」
急ごうよ、とまたもや飛びだしかけるシェリルのえり首をつかむようにして、ビ
ショップはいった。
「待って。その前に、ぼくたちの装備に関して、すこし見なおしてみたい点がある
んだ」
は? と目をまるくするシェリルに微笑をおくり、すたすたとビショップは――
エアガレーのわきに歩みよった。
「当面、ぼくたちにとって最大の脅威はこのエアガレーだ。さいわい、この三機は
どうにか落とせたものの、これだけでおわりってわけじゃないんじゃないかな。さ
っき食堂の外で会った二人組のこともあるし、用心のために対エアガレー戦用に対
策をたてておいてもいいんじゃないかと思うんだけど」
ふんふん、とシェリルはうなずいてみせる。
「で、どうすんの?」
「それなんだけどね」
と笑いながらいって、ビショップはエアガレーの黒い装甲をぽんぽんとたたいて
みせた。
「連絡がとれない、だと?」
移動するエアガレーのコクピットで、最後部の指令席に腰をおろしたイスフェル
中尉は無表情にききかえした。
通信機の画像のなかで、遺跡探索の責任者であるアリー中尉がにがにがしげに顔
をゆがめる。
『通信機の故障かもしれん。三人一組で四班、地下に発見された通廊を捜索させて
いるのだが、そのうちの二組が交信を断ったのだ。なに、たいしたことじゃないだ
ろう。逃亡者が残したと思われるマーカーを発見したとの報告もはいっている。イ
アドラ・ルナフの姫君を捕獲できるのももう時間の問題だ。だからなにも、あんた
たちエアガレー軍団がかけつけてくる必要などなかったんだ。なんならいまからひ
きかえしてもらっても、こちらとしては一向にかまわんのだがね』
「いや」と、イスフェルはうす暗いコクピットのなかで静かに、妙に機械じみたし
ぐさで首を左右にふってみせた。「おそらく連合の派遣してよこした救出者だろう
が、得体のしれん連中がそちらにむかっているらしい。追撃の手はだしておいたが、
シスタレスの補給基地を一時間たらずで壊滅させてしまった連中だ。一個小隊では
たりないぐらいかもしれん。二時間後にはそちらにつく」
『そうかい』いかにもめいわくそうな顔をかくそうともせずアリー中尉は皮肉な口
調でいった。『きてもあまりおかまいできんがね。ま、追撃が成功したとでも連絡
があったら、また呼んでくれよ。ここじゃあんたがたのどでかい図体のでる幕は、
ありそうにないんだ。わざわざご足労願っては、もうしわけなさに身のすくむ思い
なんでね』
「いや……」
と、イスフェルは、指令席付属の前方視界ディスプレイを信じられぬ思いでのぞ
きこみながら、つぶやくように口にした。
いつのまにか、巡航していたエアガレーが停止している。
そしてその眼前には――無惨に地面にころがった三機の僚機が、異様な色に変色
した機体をぶざまにさらしているのであった。
「どうやら、侵入者はまんまと逃げおおせたらしいな。そちらに向かうぞ。未確認
だが、そうとうスピードがある機体で移動しているらしい。おそらくフル装備のエ
アガレーでは追いつくことは不可能だろうな」
『おい』と通信機のパネルのなかでアリー中尉の顔色がかわった。『冗談じゃない
ぞ。エアガレーの追撃をふりきれるような連中か?』
「しかも、三機が撃破されている」
さすがににがにがしく、イスフェルは吐きすてた。
『なんだと?』目玉がとびでるほどおどろいて、アリーはぐいと身をのりだす。
『ひとをかつぐのもいいかげんにしろ。エアガレーを撃破しただ? いったいどん
な化物がこっちにむかってるんだ? わかった。待っている。はやくきてくれ。た
よりにしてるぞ』
ころりと態度をかえてきた。
対してイスフェルは、苦笑ひとつかえさず真顔でこたえる。
「さっきもいったように、小隊をさらにふたつにわけて行動するかもしれん。そち
らには最低六機、派遣するつもりだ」
『あんたはくるんだろうな?』
「わからん。ふたつにわかれた場合は、おれはそちらにはむかわんだろうな。ラマ
ロがいく。不服か?」
アリー中尉の顔が複雑にゆがむ。無愛想だが成績はすこぶるつきにいい歳上の同
僚――つまりイスフェル中尉とは、アリーはまったくうまがあわなかった。顔を見
るのもいやなので、こないといわれれば諸手をあげて同意したいところだが、いざ
というときにはたよりになる男であることもたしかなのだ。
プライドと不安を天秤にかけ――どうやら勝利をおさめたのは過信であるらしい。
『よしわかった』どん、と胸をたたき、『状況によっては、わしが指揮をとっても
いいだろう。よろしい。ラマロとやらをよこしてくれ』
きいて、はじめてイスフェルは笑いの形に口もとをゆがめた。
嘲笑であった。
ラマロというのは、めざましい功績を長年にわたってあげつづけながら出世コー
スからは完全にはなれている、きわめつけの偏屈者のイスフェルのもとで副官をつ
づけている男である。剣呑さでは軍内でも一、二をあらそうだろう。アリー中尉ご
ときが制御できる相手では、まちがってもない。
「では、ラマロがいく」
一年に一度といってもいいほどの上機嫌な笑顔で、それでもぶっきらぼうにイス
フェルはいい、まかせてくれ、と胸をはるアリーの返事をみなまできかずに回線を
オフにした。
「現場の実況検分をしておけ。手短にな。回収の依頼はおれがしておく」
待機状態の砲撃手と運転手にそう命令をくだし、通信機でコールをかける一方、
イスフェルはかたわらの戦略パネルをたぐりよせてさっきまで検討していた地図を
再度、表示させた。
森林地帯に、三つの光点が点滅している。
青い点滅は現在位置、残るふたつの赤のうちのひとつは、ルバンストラ遺跡だが
――もうひとつは?
返答をよこしてきたルバンス駐留軍に、破壊されたエアガレーの回収を要請しお
えるとイスフェルは、点滅する最後の赤い光点をじっと見つめながらひとり、無言
のままいくどもうなずいていた。
「まずいな」背後をふりかえりながらハッサンがうめいた。「追いつかれちまった
らしいぜ」
「革命軍ですか?」アミーナも声をひそめてききかえす。「どうしてこんな迷路の
なかを……」
「赤外線で追尾してきたんだろうな。そうとう感度のいいセンサーを装備してやが
ったんだろうさ。まいったぜ」
「こまりましたね」
いって見あげるアミーナに、ハッサンは肩をすくめてみせただけだった。
枝道にさしかかり、いっぽうの下り階段のわきに身をひそめるスペースがあるの
を発見する。
姫君につづいてハッサンは、その巨体を暗がりにむりやりおしこんだ。
「ぎゅう」
ひょうきんにアミーナが口にする。
「すまねえな。でかい図体でよ」
「しかたがありません。許してつかわします」
け、とハッサンは苦笑とともに吐きすてる。
そして何かいいかけるアミーナを、しっとするどく制した。
沈黙。
しばしの間をおいて、砂利をふみながら前進する複数の足音が近づいてくる。
「ありました」と声があがった。「マーキングです」
よし、とだれかが答える声をききながら、キッとアミーナ姫がハッサンをにらみ
あげる。
巨漢は、しまった、というふうに首をすくめてみせた。
苦笑いをうかべている。
対してアミーナは、きわめつけのしかめ面でハッサンの手の甲をおもいきりつね
りあげた。
「マーキングはいらない、といったでしょう」
ひそひそ声でするどく追究する。
「だが、戻れなくなっちまったらもともこもねえからな。いて。すまん。すまねえ
ったら。許してくれもう二度としません」
「あたりまえです。おまえなど本国でなら一日でしばり首よ」
「おいおい、ほんとうかよ。イアドラ・ルナフってのは……」
ふたたび、ぎゅ。
「いて」
「静かになさい。冗談にきまってるでしょう。ばか。しーっ」
首をすくめた。
それを見はからったかのように、階段上に追跡者たちの影があらわれた。
ハッサンたちが使用しているのとまったくおなじ発光スティックを、それぞれ手
にしている。どうやら発掘隊の天幕から徴用してきたらしい。つごう、三人。
いずれも、ごていねいに森林用の迷彩服でびっちりと決めている。黒が基調の、
異様な地下都市のなかではいささかこっけいな風情であった。
先頭の兵士が階段手前で立ちどまり、四囲に視線を走らせる。
「階段の下も確認しろ」
背後から命令が発された。
発光スティックが階段わきの左側にふられる。つづいて右側――ふたりがひそん
でいる方向へ。
にがにがしい表情でハッサンが身がまえた。
その巨体が、はじかれたバネのように立ちあがる、まさにその寸前――
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「でたぞ!」
悲鳴めいた叫び声とともに、マシンブラスターの銃声がけたたましくひびきはじ
めた。
火線は、階段下にひそんだハッサンたちではなく、まったくべつの方角にむけら
れていた。
暗闇に熱火の閃光がまばゆく点滅し、凶猛なエネルギーの連射が黒い壁のむこう
がわを灼きつくしていく。
そのむこうでは――異様な苦鳴があがっていた。
獣のあげる断末魔の苦鳴である。