AWC 紅の鋼騎兵(13)       赤木 錠


        
#4182/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  97/11/ 9  12:51  (200)
紅の鋼騎兵(13)       赤木 錠
★内容
から」
「きょろきょろしていただ? おれたち以外にだれかがここに――」
 軽口の口調でいいかけて、ふいにハッサンは真顔でだまりこんだ。
「どうかしたのですか?」
 問いかけに、むつかしい顔をしてハッサンはこたえた。
「やつらも、ここへの入口を発見して追ってきたのかもしれねえな」
 アミーナ姫もまただまりこんだ。充分にあり得ることだとかんがえたからだ。
「こまりましたわね」
 ぽつりとつぶやく。
 ハッサンもぼりぼりと頭をかきながら自分たちが戻りつつある方角を見やり、
「となると、マーキングを残してきたことがあだになるかもな。おれたちはこちら
に逃げます、とかいてあるようなもんだからな」
 そのときふいに、アミーナがぐいとこぶしをにぎりしめて宣言した。
「さきにすすみましょう」
「しか、ねえかな」ハッサンも肩をすくめて同意し、「しかしマーキングはどうす
る? つけなきゃ確実に帰り道をなくしちまうし、かといって行き先に明確な当て
があるわけじゃねえ。こんな地下の迷路のなかとくりゃ、野草や狩りでサバイバル
ってわけにもいかねえし、まさに八方ふさがりの状況だぜ、こりゃよ」
「だいじょうぶです」という自信ありげなうなずきが、アミーナのこたえだった。
つづけていう。「わたくしにだって道がわかっているわけじゃありませんが。だい
じょうぶ。なんとかなるでしょう」
「おいおい」とハッサンは目をむく。「根拠があっていってるんだろうな」
「もちろん、そんなものはありません」
 きっぱりといい切り、姫君は力強くうなずいてみせた。
 ハッサンは頭に手をあてて、天をあおいだ。
 さっさとさきに立って歩きはじめる姫を追ってあわてて走りかけ――立ちどまっ
てふところからマーカーをとりだし、姫の目をぬすんでこっそりとマーキングをす
る。
「どうしたのです、ハッサン。なにをぐずぐずしているのですか」
「はいはいはいはいいまいきますよ」いってとことこと走りだし、姫にはきこえぬ
ようにつぶやいた。「リスクの大きすぎる賭にゃ、のれねえからな。……となりゃ、
追跡してくるやつらにバレる恐れがなきにしもあらずだが……」
 太い手首にまいた、メカニカルなブレスレットに手をやり、何かのスイッチをい
れた。
 姫君の背中にぺろりと舌をだし「これも保険だぜ」とつぶやいた。
「なにをぶつぶついっているのですか?」
 ふりかえるアミーナ姫に、なんでもねえ、それより、追いつかれないうちにとっ
ととさきを急ごうぜ、とハッサンは少女の背中をおしながらいった。

 一直線に突進をかけながら、シェリルはディスプレイ内部で猛烈ないきおいで減
少していく彼我の距離差を無意識に数えあげていた。
 手はすでにトリガーにかけられている。
 敵がはなつ光子弾の弾着の間隔が着実にせばまってきた。
 正確さは猛進するナグワルのランダムなうごきに翻弄されてかあいかわらずだが、
一撃でも直撃をくらえば、エアガレーとちがって外装甲のやわいナグワルはひとた
まりもない。
 勘だけでかわしてのける。強烈なギャンブルだった。
 無我夢中でにぎりしめたレバーをたくみにあやつりながら、シェリルの口もとに
たまらず笑みがうかびあがる。
 無意識のうちにわきあがった笑みだった。
 ぎりぎりの限界状況での、死へと直結したタイトロープ――この瞬間を味わいた
いがために、シェリル・アレンバッハは連合宇宙軍に入隊したのである。
「へへ」ゆがめたくちびるのはしから、おもわず声がもれ落ちた。「反撃、いくぜ
い。ブラスター・キャノン、セットオン」
 コマンドとともにナグワルの機体側頭部が口をひらき、深紅の砲身がせりあがっ
た。
 ヘッドアップ・ディスプレイのなかで、出現した黒点がみるみるうちに三機の巨
大な長方形へと拡大していく。
 耳もとに警告音。
 無骨に武装した三機の鋼の箱に、巨大なエネルギー反応を感知したのだ。ハンマ
ーボルト・キャノン。
「へん、こっちのがはやいぜ!」
 いうよりはやく、たてつづけにブラスター・キャノンのトリガーをしぼりこんだ。
 ご、と破裂するような轟音とともに、熱塊と化した野太いエネルギー束が、やつ
ぎばやに漆黒の巨影へと撃ちこまれる。
 同時に――大地がドラムと化したかのような、壮烈な大音響。
 あいついで発射されたにぶい赤のエネルギー光が、ナグワルにむけて牙をむく。
 三条――奇跡と断言していいだろう。紅蓮の獣は、おそいかかる凶猛な炎の吐息
をすりぬけるようにして通過した。
 そしてさらにつぎの瞬間、瞬時にして三機のエアガレーのあいだを曲芸のように
ナグワルはかけぬけていた。
 が――そのコクピット内でシェリルは、ぎりりと奥歯をかみしめていた。
 鼻から二筋の血が流れでている。
 ディスプレイ内部もまた、すべてのデータを消失させノイズの嵐と化していた。
それがようやくつぎの瞬間、せきこむようになりながら回復する。だがまだ完全で
はない。ノイズと映像・データの表示とを、臨終寸前の老人の呼吸のごとく不規則
にくりかえす。
 すべて、ハンマーボルト・キャノンのまきおこす、激烈な衝撃波による影響だ。
 もし直撃をうけていれば、まんがいちラグナス・コートの作用で機体自体の大破
はまぬかれたとしても、コンピュータもシェリルも一撃でハングアップしていたに
ちがいない。
「ちくしょー」
 よわよわしく毒づきながら、シェリルはナグワルを急回頭させた。
「いっけえ!」
 ぐいと鼻血をぬぐいとりながら、しぼりだすようにして叫んだ。
 どん、と強烈なGとともに紅蓮の獣はふたたび疾走を開始する。
 すぐに、敵に追いついた。
 エアガレーの編隊が減速していたからだ。さっきとおなじスピードで敵が疾走し
ていれば、とてもこれほどはやく追いつくことはできなかっただろう。
 それにしても――と、シェリルはいぶかしんだ。なぜ回頭してこなかったのか。
 ナグワルほどの急激な方向転換は、重機であるエアガレーには不可能な芸当だろ
う。しかしそれにしても、ハンマーボルト・キャノンの衝撃にシェリルがくらくら
きていたすきに充分、減速・回頭して正面からの攻撃をくらわすことは可能だった
はずだ。
 交差戦をきらったのか――それとも。
「ええい、かんがえてたって、わかんないやい」
 威勢よく叫び、シェリルはふたたび大口径ブラスターを起動させた。
 砲撃する。
 最後尾の一機を集中して攻撃するが、予想どおりちょっとやそっとの集中砲火で
はエアガレーのぶあつい複合重装甲には傷ひとつついたようすもない。
 そうこうするうちに、三機の砲塔が連動したように旋回した。パルス・レーザー。
そして光子弾。
「ヤバい」
 急減速させる。彼我の距離はまたたくまにひらき、射程から遠ざかった。
 と――
 望遠映像が、エアガレーの機体側面に開口部を捕捉する。エネルギー反応は――
ゼロ?
 データによれば、ひらいた開口部はミサイル発射口だが、たとえミサイルだろう
と飛翔のためにエネルギーを噴出する以上、エネルギー反応がないなどとというこ
とはあり得ない。
 では――
 重浮遊戦車は、ひらききった開口部からなにやら黒いかたまりのようなものをぽ
ろぽろと落下させた。
 それがみるみる、接近してくる。
「ちょっ、やな予感」
 暗闇にまぎれてなにがどれだけの数、まき散らされたのかまるで確認はできなか
った。シェリルは勘だけで機体に回避行動をとらせた。
 がん、と――機体側面で何かがはじけた。
 それが合図だったかのように、たちどころにあちこちでおなじような閃光と爆発
が起こりはじめる。
「――機雷(マイン)かよ!」
 物体の正体に思いあたって、シェリルは奥歯をかみしめた。
 ミサイルにしろ砲にしろ、基本的には前方に位置する標的にむけられたときにも
っとも威力を発揮するようにできている。エアガレーの各種砲身は浮遊戦車の名に
ふさわしく百八十度旋回は可能だが、ミサイルなどはたとえ追尾式であっても後方
の標的に対しては格段に命中率が低下する。
 にもかかわらず、追撃されている状態で敵が応戦してきたのは――この武器があ
ったからだ。
 機雷を散布する戦法はこの場合、追撃に対処するに有利なだけでなくもうひとつ
の利点をもっている。
 すなわち、追撃者のバール・システムにダメージをあたえることが可能なのだ。
 ナグワル、エアガレーなどにかぎらず地上走行に使用されるほとんどの機体は浮
遊効果を発揮する、バール・システムを装備している。そのうちの主要なシステム
の大部分は、機体下面に集中しているのである。
 バール効果によって浮遊している機体は例外なく浮遊粒子の老廃物を下方にむけ
て噴出しているから、それに反応して爆発するようセットしておけばあとはただば
らまくだけで機雷はきわめて効果的にはたらいてくれる。
 まさにそのわなに、シェリルははまってしまったのである。
 驚異的な動態視力、そして、もってうまれた非人間的なほどの勘の冴えを総動員
してシェリルは、必死に爆裂する機雷の直撃をさけつづけたが――
「ちくしょー。このままじゃ時間の問題だよー」
 弱音がでた。
 そしてついにたまらず、制動をかける。
 そのタイミングを見こしていたかのように――
 ついに回頭してきた三機のエアガレーが、ナグワルの眼前に出現した。
 ハンマーボルト・キャノンの砲身はすでに熱対流によるかげろうを凶暴にゆらめ
かせている。
 くそ、とつぶやきながらシェリルはナグワルを旋回させて逃走の準備にかかった。
 だが、絶望的に時間が不足していた。ダッシュをかけるよりはるか以前に、三門
の重砲塔は地獄の炎をナグワルになげかけてくるだろう。
 これまでか、と、きつく目をとじて衝撃の到来を覚悟した、まさにそのとき――

  13

 雷鳴の轟音がなりひびいた。
 ハンマーボルト・キャノンの発射音――ではない。
 プラズマ弾だ。エアガレーには装備されていないはずの――
 思わずシェリルはとじていた目をいっぱいに見ひらき、
「リアヴュウ拡大」
 信じられぬ思いとともに、コマンドを口にした。
 赤熱するハンマーボルト・キャノンの砲身を凶暴にむきだしにした三機のエアガ
レーの下面――撃ちだされたプラズマ弾が、雷手をはじきだしながら爆裂する光景
が、そこにはあった。
「うそ……なにがどうなってんの?」
 ぼうぜんとつぶやくのへ、かぶさるようにしてリン、とコール音がなる。
「アハザ」
『やあ、シェリル。騎兵隊の到着だよ』
「ビショップ!」すずしげな呼びかけに、シェリルは涙を流さんばかりに叫びかえ
す。「ナイス・タイミングよビショップ! 感謝感激雨あられだわ!」
『そういってもらえると、かけつけた甲斐があるってものだね。さて、とどめだ』
 言葉とともに、かたわらの森林からさらに数発のプラズマ弾が矢つぎ早にくりだ
された。
 地面すれすれをはうようにして飛翔した光球が、エアガレーの機体下面で炸裂す
る。
 周囲をどよもしていた、筒を吹きならすような轟音が、ぎゃりぎゃりぎゃりと耳
ざわりな異音に変化した。
 一機のエアガレーが、ふらふらとよろめいてからどさりと地表に落下する。
 のこり二機も壮絶な異音をまきちらしながらふらふらとその機体をぶれさせはじ
めた。
 バール・システムに不調が生じたのである。
『きみが連中の足をとめさせてくれたから、ことはずいぶん簡単になったよ。高速
走行中のエアガレーが相手じゃ、射的みたいに簡単には機体下部にプラズマ弾を撃
ちこむことはできそうにないからね。ところでシェリル』
 ディスプレイの窓のなかで、さわやかな美貌がぱちりと片目をつぶってみせる。
「なな、なんだよ」
 思わず腰のひけるシェリルに苦笑をかえしながら、ビショップはつづけた。
『きみもそろそろスペクトル・ジャマーを活用したほうがいい。敵の足どめはなっ
たが、武器がなくなったわけでもないし、ましてやあのぶあつい装甲を攻略したわ
けでもないんだ』
「あわわ」
 とうめいてシェリルはレバーをひいた。
 尻に帆かけたナグワルのすぐ後方で、撃ちだされたハンマーボルト・キャノンの
熱い光条がはじけとんだ。
「あちゃ」
 後方から炸裂する衝撃波を感じつつ、ようやくシェリルもステルス機能を起動さ
せる。
 深紅の機体がゆらめいて、周囲の闇に同化した。
『熱感知されるよ。森にかくれたほうがいいんじゃないかな』
「わかってる。どーも」
 こたえつつシェリルはいわれたとおりにする。




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