AWC 紅の鋼騎兵(3)       赤木 錠


        
#4172/5495 長編
★タイトル (GVJ     )  97/11/ 9  12:11  (200)
紅の鋼騎兵(3)       赤木 錠
★内容
 二人のわきに立つ小柄でがんこそうな初老の男――整備部きっての古顔で、役職
こそないが部長さえ頭のあがらないベテラン職人のクロムウェルも、ふんと鼻をな
らして眉根をよせてはいるが、まんざらでもなさそうな顔つきだ。
「武器が見あたりませんね」
 なおもぼうぜんとした口調のまま、ビショップが口にする。
 それに対して、クロムウェルがしてやったりとでもいいたげな表情でにやりと笑
った。
「武器なんざ露出していちゃ、空気抵抗が大きすぎてスピードがにぶらされちまう
からな。安心しろ。ちゃんとついとるよ。見せてやる」
 いって老人は、雑然とした整備部の、大小無数のメカにかこまれるようにして鎮
座ましました、流線型をした二台の深紅の機体に、無造作な足どりで近づいていっ
た。
 そのうちの、近いほうの一台を前にして、おもちゃを自慢する子どものような顔
つきでにやりと笑いながらふりかえってみせる。
 そして大げさな身ぶりをしてみせながら、紅の機体をさし示してみせた。
 そのおおげさな身ぶりにふさわしい美しさをもった、機体であった。
 それは鋭利な刃のようでありながらまた、宙を飛翔する巨大な弾丸のようでもあ
った。
 ナイフのようにきっさきのするどいノーズ。
 のぞきこむ者の像を紅に映す、なめらかな外観。
 尾部にコンパクトにおさめられたエンジンノズル。
 全長は四メートル近くあるのだろうが、その量感は見た目をより大きくしている。
 浮遊型高速地上走行機――超高速で地表を疾走する、小型要塞といいかえてもい
いほどのしろものである。
 その浮遊走行機の、中央よりややうしろよりの部分に、クロムウェルはそっとそ
のしわがれた手をのばした。
 傷つきやすい存在をいとおしさをこめて愛撫でもするかのような手つきで、見た
目にはとくにほかの部分とかわらぬなめらかなその機体表面についと手のひらをあ
てる。
「掌紋登録式だ」
 言葉とともに、音もなく紅の翼が上方にむけてひらいた。
 赤い天使が、いましもとびたとうとでもしているかのような光景だった。
 その、天使の翼にも似たガルウイングの扉の内側に、コンパクトで機能的なコク
ピットが出現する。
 単座であった。
「……ひとり乗りですね」
 ビショップはちらりと首をかしげながら、アフマドに問いかけの視線をむけた。
「残念ながら、試作機でな」口をひらきかけるアフマドを制してクロムウェルが返
答する。「姫君を収容するスペースが必要になるとは考えてもいなかったのさ。ス
ピードと機能性を追究すると、単座にしたほうがどうあっても好都合だったんでな。
まあ、救出作戦に関してはわしの知ったこっちゃない。おまえさんがこれをどう利
用するもしないも勝手だよ」
「いじわるをいわないでくださいよ、クロムウェル」苦笑しながらビショップはい
った。「こんなものを見せられて、乗るなとでもいわれたらぼくは眠れなくなって
しまうかもしれないな」
 ふん、と老人は鼻をならした。
「おまえさんが安眠できなかった日がいままで一日でもあろうとは、とても想像で
きんがの」
 にくにくしげにいった。アフマド大佐もかたわらで、心中ひそかに同意する。
 クロムウェルはからだを横にどけて機体にあごをしゃくってみせる。
「掌紋を登録しろ。それからロックだ。一度登録をロックされた掌紋は、おまえさ
ん自身が解放しないかぎり変更はされない」
「わかりましたよ、クロムウェル。では、失礼」
 ビショップは無造作な足どりで赤い機体に歩みよると、クロムウェルのさし示す
部分にそっと手のひらをおしあてた。
 コクピットの奥で、リン、と鈴をならすような音がひびきわたる。
「よろしい」老人は無表情にいい、シートにむけて手のひらをふってみせた。「で
は着座するがいい。上部にフード型のヘッドアップ・ディスプレイが収納されてい
る。それを装着しろ」
 いわれるままにビショップは、ゆっくりとコクピット内部に身を横たえた。
 見た目にはかなり狭隘で、からだをすべりこませるだけでもやや苦労がいったが、
いざシートに背中をあずけてみると非常にリラックスできる、ゆったりとした姿勢
におちついていた。
「人間工学が考慮されているんだね」
 視線に感謝をにじませながら、のぞきこむクロムウェルにうなずいてみせる。
 老人は毒虫にでもほほえまれたかのように渋い顔をして思わず身をのけぞらせた。
「よせよせ、この油断のならない小僧めが。おまえさんなんぞに感謝されたら、あ
とがおそろしくておちおち夜も眠っていられなくなる」
「ひどいいわれようだな」
 ビショップはしずかに声をたてて笑いながら、コクピット上部の機構に収納され
たフードの突端を手にし、頭上にひきおろした。
 装着が完了する寸前に、やはり鈴をならすような音が耳もとでひびきわたった。
 同時に、半透明のバイザー部分に立体映像がうかびあがる。
 シンプルな前面パネルにかさなるようにして、ウインクするクロムウェルのシン
ボルががうかびあがった。三次元映像による仮想システムである。
「ようこそ“ナグワル”へ」
 しわがれ声でそういい、にたりと笑う。もちろんデフォルメされた映像だが、気
むずかしやの老人にそんなことをいわれてもあまりいい気分はしない。
「いまからおまえさんの掌紋をロックする。パネル中央のボタンをおせ」
 そんなビショップの感想にはいささかも頓着せず、仮想映像の老人は不気味な愛
想笑いをうかべながら、その表情とはおよそふつりあいなぶっきらぼうな口調でそ
ういった。
 同時に、バイザーのむこう側のパネル部分に赤色の巨大なボタンが点滅しはじめ
る。現実には格子状にくぎられたキーボードがそこに存在しているわけだが、それ
に同調して仮想映像がボタンを構築しているのである。
 ビショップは苦笑しながらボタンをおした。
 耳ざわりなファンファーレがなりわたり、ヘッドアップディスプレイのなかで無
数の花火が派手はでしく展開しはじめた。
「悪のりがすぎるんじゃないかな、クロムウェル」
 肩をすくめながらいうと、フードのむこうがわからしわがれ声がこたえる。
「よろしい。登録は終了した。くわしい操縦法のシミュレーションははすでにその
なかにプログラムしてあるから、おいおいマスターするがいいさ。なに、おまえさ
んなら五時間もトレーニングすれば簡単に使いこなせるようになるだろう」
「ありがとう」ビショップはおおげさに安堵のため息をつきながらフードをむしり
とり、コクピットからおり立った。ガルウイングをとじながら問いかける。「ナグ
ワル、というのがこの機体の名称?」
「そのとおり。人間の運命をつかさどる守護神の名でな。姿を消し、すばやく移動
することができる精霊だよ」
 ふむ、とビショップはきまじめな顔でうなずきかえす。
「ということは、ステルス機能が組みこまれているんですか?」
「そのとおり」とクロムウェルは胸をはってみせた。「ただし熱感知に対してはあ
まり強くないが、まあよほど感度のいいホーミングでもされないかぎりどうにかな
るだろう」
「ラグナス・コートは?」
「むろんだ」むっとしたようにクロムウェルは眉間にしわをよせた。「あたりまえ
だとも。完璧なコーティングだぞ。レーザーの直撃をうけても、一発や二発なら簡
単にはじきかえせるわい。見ればわかるだろうが。それからおもな武装だが、レー
ザー砲一門、ブラスター一門、プラズマランチャーが二機、小型ミサイルのランチ
ャーが十二機」
「装弾数は?」
「およそ七千発」
 ふむ、とビショップは鼻をならす。
「十二機でフルスピードで回転させたとして……」
「一分弱で撃ちつくしてしまうな。ま、弾幕のうすさは機動性でおぎなえるさ。も
っとも操縦者の技量にもよるだろうがな。ああ、それと」にやり、とクロムウェル
は歯をむきだしにして笑った。「最後にひとつ。ルシファーズ・ホークも二門、装
備してある。装弾数は四発だ。むだづかいはしないほうがよかろうな」
 ヒュー、と口笛をならしてからビショップは、にっこりと笑いながらうなずいて
みせた。
「ありがとう、クロムウェル。使いでがありそうでうれしいですよ」
「いいか、いっておくぞ」下くちびるをつきだしながらクロムウェルはいった。
「おまえさんが死んでも、この機体だけはここにもち帰るんだ。わかったな? こ
れはあくまで試作品なのだからな」
「全力をつくしますよ」
 対してビショップは、すずしげにそうこたえてから、いまやおのれのものとなっ
た“ナグワル”の横にならぶ、もう一機の同型機にむけて視線を移動させる。
「で、こちらは?」
「おなじものだよ。なかじゃ、操縦法トレーニングのシミュレーションがおこなわ
れている真っ最中だがな」
 クロムウェルの言葉にかぶせるように、アフマドが進みでてきながら口にした。
「ま、おまえさんが到着するまでのあいだにすこしでも操縦に習熟してもらえれば、
ということでな。なにしろ六課に配属されてくるような人間だ。たいくつには耐え
られんからとさわぎまくるんでな」
「たいくつには耐えられない、か」おもしろそうにあごに手をあててビショップは
いった。「そんなことをいうような人間が、このちいさなコクピットにこもってで
てこないということは、シミュレーションがよほどおもしろい、ということなのか
な。となると、今度は夢中になってしまって、でてくるのを拒否するかもしれませ
んね」
 ぎくり、とアフマドとクロムウェルは顔を見あわせた。どうやらビショップのい
ったとおりのセリフをいいそうな人物であるらしい。
「い、いくらなんでも、そんなことはあるまいさ」
 いかにもびくびくとした風情で強がりをいいつつアフマドは“ナグワル”に歩み
より、その表面をコンコンとたたいた。
「こらばかもの」とあわててクロムウェルが走りよる。「傷でもついたらどうする」
 レーザーの直撃をうけてもだいじょうぶ、と自信たっぷりにうけおったおなじ口
からでたセリフであった。
 ぷっとふきだすビショップを無視して、二人は内部にむけて呼びかける。
「アレンバッハ、作戦のブリーフィングをするぞ。でてきなさい。アレンバッハ。
おかしいな。きこえないんだろうか」
「外の様子はマルチディスプレイでモニターしているはずだ。きこえていないはず
はない。そうだろう、アレンバッハ」
「でてくるんだ。ビショップはさきほど到着したぞ。ブリーフィングのつづきを、
わたしの執務室でおこなう。アレンバッハ」
 ふたりしてアレンバッハ、アレンバッハと連呼するのだが一向に伝わっているよ
うすがない。とうとうクロムウェルが、おかしい、故障かな、そんなはずはないん
だが、と自信なさげにうろたえはじめたころに――
 ふいに、音もなくガルウイングが展開した。
 だん、と宙をけりつけるようにして、ながい足があらわれる。
 ごついジャングルブーツからすんなりとのびた、褐色に陽焼けした健康的なむき
だしの足であった。ほどよくあぶらののった素肌のなめらかさは――どう見ても、
女性の足にしかみえない。
 さすがのビショップも、意外そうに目をむいていた。
「んもう、うるさいわねえ。ぎゃあぎゃあさわがなくったって、ちゃんときこえて
るわよ」
 そしてひらいたウイングのむこう側から、歯切れのいいセリフがぽんぽんととび
だしてきた。まちがいなく女の声だ。
「いっときますけど、あたしはいま、ここから離れる気なんて、これっぽっちもあ
りませんからね。ブリーフィングなら、かってにすましといてください。こんなに
楽しいシミュレーションなんて、成層圏戦闘機隊(ストラトファイターズ)でガルーダと出会
ったとき以来だわ」
 早口でまくしたてながら、ひょいと上体を外にのぞかせる。
 かがやくような金髪を無造作にポニーテールに結いあげた、明るい顔だちの美女
であった。
 ビショップを一目見るなり「あらいい男」と、ぱちりとウインクをよこしてみせ
る。
「……やあ」
 と、なおもぼうぜんの余韻を残したままビショップが手をあげると、威勢よく
「よお!」とやりながらビッと手をあげかえしてみせる。
 そして、
「そういうわけで、ブリーフィング、よろしく」
 すぱりといって、ふたたびコクピット内部にその豊満な肢体を入れなおす。
「おい、ちょっと待て!」アフマドがあわてて飛びあがりながら、大声で制止した。
「きいていなかったのか? これから潜入の手順を説明する。わたしの執務室にく
るんだ!」
 なによ、と、ひょいとふたたびのぞいた仏頂面が小気味よくいった。
「大佐こそきいてなかったんですか? あたしはいまここを離れられないっていっ
てるんですけど。大佐のつまらないブリーフィングなんかより、ここでナグワルち
ゃんと楽しい楽しいシミュレーションしてたほうが、一万倍も有意義なんですから。
――あ」
 ひっこみかけ、いまにも爆発しそうに真っ赤になったアフマド大佐の怒り顔に気
づき、まずい、とでもいいたげな顔にかわった。
「……ちょっとまずかったかな、いまのセリフ」
 いって、ぺろりと舌をだしてみせた。
 そのしぐさにビショップは、ぷっと思わずふきだしていた。
 大佐が、じろりとふりかえった。
 真っ赤な顔をして、全身をぶるぶるとふるわせている。
「なるほど」おおげさに首をすくめるしぐさをしながらビショップはすずしげな口
調でいった。「これはそうとうまずいかもしれないね」
「でしょ? でしょでしょでしょお?」ぴょん、とコクピットから飛びだしてきな
がら、アレンバッハなる女性は機関銃のような口調ででしょでしょでしょとくりか




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