AWC (1/2)          手             常


        
#4144/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 9/30  16:41  (149)
(1/2)          手             常
★内容
「もっときつく」登場人物1.横谷礼美
 きっかけはささいなことだった。
「これでどう?」登場人物2.坂川一徳−−僕
 それがあんなことになるなんて。
「……だめ。ほどけちゃうわ」
 ここでやめておけばよかったんだ。
 でも、そうしなかった。

「もっときつく、結べないの?」
 不機嫌にする横谷さんを前に、僕らはおろおろした。
「無理なんだよね」登場人物3.牛島喜直
 牛島は、いつもの調子で答えると、跪いた姿勢から立ち上がった。そして椅
子の後ろから、座っている横谷さんの正面に回り、お手上げをしてみせる。
「横川さんが痛がらない程度の力で結ぶのなら、どうしてもこれが限界だね」
「私のせいだって言うの?」
 腰の後ろで組んでいた手を前に持って来て、手首をさする横谷さん。かすか
ではあるけれど、赤くなっていた。
 僕は、椅子の下に落ちた黄色いタオルを拾い上げ、そのまま手持ちぶさたに
握りしめた。
「そんなこと、言ってないんだよね。ただね、こうなったらもう、セロテープ
で貼り付けるしかないんじゃないかな、なんて」
「冗談じゃないわ。劇が嘘っぽくなるじゃない」
 立って、頬を膨らませ、不満を露にする横谷さん。怒っているんだけど、か
わいらしく見える。美人は特だ。
 長い髪をかき上げ、彼女は続けた。
「絶対、一番を取りたいのよ。八つの班の中で一番に」
「横谷さんの気持ちは分かるけどさあ、そんなに気合い入れなくたって、たか
がクラス会の寸劇だぜ」登場人物4.志村晃
 今まで黙っていた志村が、気楽な調子で言った。
「嫌よっ。絶対に、一番。六年生最後のクラス会なんだから、いい思い出にし
たいじゃない。それには一番を取ること。志村君こそ、いい加減、台詞をきち
んと覚えてよね。ずっと台本とにらめっこしてたけど、どうなの?」
「多すぎて、無理だと思えてきたところ。この魔法使い、お喋りだよなあ」
「短いんだから、台詞で説明するしかないのよっ。文句があるんだったら、時
間制限を決めた先生か、台本書いた人に言ってよね」
 台本を書いた寺井さん【登場人物5.寺井聡子】は、今日、学校を休んでい
る。彼女は役柄はなく、脚本その他舞台裏を担当。身体があまり丈夫でない彼
女が、自ら望んでのことだ。
「無理言うなよなあ」
 参ったという感じに、丸めた台本で自分の肩を叩く志村。
 急に沈黙が訪れた。
 真っ先に耐えられなくなった僕は、ふと閃いたことを、そのまま提案した。
「なあ、だいたい、お姫様を捕まえとくのがタオルっていうのが変なんだから、
何か別の物にしよう」
「別の物って、何だい?」
 牛島の視線が、僕を向く。
「えっと、たとえば……」
 きょろきょろすると、机の横にかかるグリーンの、ビニール製の縄跳び縄が
目に入った。
「縄跳びとか」
「タオルが変なら、縄跳びも変だろう?」
 志村が、即座に否定した。言われてみれば、もっともである。
「まあ、結んでも、タオルみたいに劇の途中でほどけることはなさそうだけど」
 横谷さんは、好意的に受け止めてくれた。嬉しくなる。
 私立中を受ける僕が、この時期、塾を休んでまで劇の練習に熱心なのは、横
谷さんが同じ班にいるからという理由が大きい。その上、最近になって、横谷
さんも同じ私立を受けると知り、僕は有頂天になっていた。
「要するに、お姫様を捕まえとく道具で、不自然じゃなくて、横谷さんが痛が
らない物を見つければいいんだよね」
 牛島は、分かり切ったことを繰り返した。しかし、条件をまとめてくれたお
かげで、名案が浮かんだ。
「手錠なんか、いいんじゃないかな」
「手錠?」
 三人の反応は、面白いぐらいに一致していた。
「もちろん、おもちゃのだけど。手錠だったら、お姫様役の横谷さんを椅子に
くくりつけるのに、ちょうどいいと思う」
「おもちゃってことは、プラスチックか何か?」
 横谷さんは、心配そうな目つきになっている。と、一瞬思った。
「そうだよ」
 僕は答えてから、クラス一の美人を少し恐がらせてみたくなった。好きな子
に意地悪したくなるというやつかもしれない。
「痛くないと思うけど、一度はめたら、簡単には取れないよ。力で外そうとし
たって、絶対に無理。きっと、怪我する。それでも使ってみる?」
「いいわよ」
 僕の思惑は外れた。すんなり、横谷さんは承知した。
「坂川君が持ってるのね?」
「う、うん。ここにはないけど、家に帰れば」
「取って来いよ」
 志村が命令口調で言った。
「近いだろ、家。練習できる日、残り少ないからなあ」
「変なの。急にやる気出して」
 不審がる横谷さん。眉を寄せたその表情も、きれいだった。
 それはともかく、練習できる日が少ないのは、本当だ。しかも、今日は唯一、
教室を使える日。本番さながらにしなければ、もったいない。
「坂川がいない間に、台詞を覚えたいだけだよ」
 ぶっきらぼうな志村の声を背に、僕は部屋を飛び出した。

 かちゃり。閉じる音は、なかなか本物っぽい。と言っても、本物の手錠がど
んな音を立てるのか、知らないけれど。
「感じはどう?」
 横谷さんを後ろ手にして、銀色に輝く手錠をかけ終えた。僕は、ともすれば
一点を見つめてしまいがちな視線を、無理矢理に上へ向けた。目の前にある横
谷さんのお尻は、スカートの上からでも丸味がよく分かる。
「痛くないよね?」
「平気よ。思ってたより、感触、冷たくなくていいわ」
「勇者役がお姫様に手錠かけるなんて、変な場面だな」
 台本から顔を上げ、魔法使い役の志村は言った。
「君が台詞の暗記やってるから、代わりにやってやったんだぞ」
「ああ、そうでしたそうでした。ま、何とか覚えられた」
 本当か嘘か、志村は言って、腰を上げた。
「じゃあ、やってみよう」
 牛島の声で、僕らはそれぞれの位置に着いた。
 話の筋は単純で、悪い魔法使いがお姫様を連れ去り、国に無茶な要求をする。
それを防ぐために国内の勇者が何人も立ち向かったが、ことごとく命を落とす。
そこへ流浪の旅をしていた勇者が通りがかり、事情を知って、魔法使い退治に
乗り出し……そこからの場面を今からやる。
『ノワール! 今度こそ、姫様を返してもらうぞっ』
 牛島が、甲高い声で言った。彼は、勇者に同行する従者の役で、言ってみれ
ば引き立て。魔法使いノワールに呆気なくやられた上に、ゾンビとなって、勇
者の僕に襲いかかって来るという設定。で、今度は僕に、あっさりとやられる
のだ。気の毒と言えば気の毒な役柄だけど、本人は気に入っているらしい。
『グレン、注意しろ』
 僕は、重々しく言った。

 この日、四度目の練習に入っていたと思う。
 僕と志村との対決シーン−−チャンバラを演じているとき、つい、勢いが余
った。相手の剣に押されて、僕は吹っ飛ぶことになっている。それが、いつも
より強く押されたような気がした。
「と−−」
 足や腰の辺りに、冷たい感じがあったなと思う間もなく、悲鳴が被さった。
「きゃっ」
 そして、どすんという、椅子の倒れる音。
 僕が肩越しに振り返ったら、横谷さんが椅子ごと、横倒しになってしまって
いた。手錠のせいで動けない彼女は、痛さに顔をしかめながら、足をばたばた
させている。
「だ、大丈夫? ごめん」
 慌てた。僕は身体の向きを換え、彼女の身体を起こそうと、手を伸ばす。
「大丈夫じゃないわっ。早く、起こしてよ、もう」
 横谷さんは、喋りにくそうに、だけれども叫んだ。何故、喋りにくいかとい
うと、乱れた髪が顔にかかり、口の中にも毛先が入った様子だから。
「ごめん。でも、志村の奴が、思い切り押すから」
 僕は謝罪と言い訳をいっぺんにやってから、周囲に立つ牛島と志村に目を向
けた。力を借りようと思った。
 それなのに、二人は突っ立ったままで、手を貸そうとしない。
「おい」
 どやしつけようとした僕だったが、ふっと、志村の目つきが普通じゃないの
に気が付いた。見取れて、動けない。そんな具合。
 僕は、彼の視線の先を追った。
 そこには、白い下着があった。
 横谷さんのスカートが、倒れた拍子にめくれ上がっている。
 彼女が足をばたつかせる度に、さらにめくれていくようだ。
 白い下着は外見上、僕ら男子がしているのと、そんなに差はないと思えた。
余計な穴が開いていない。代わりに、縁のところに、フリルがあるぐらいじゃ
ないか。
 それだけの差なのに、僕らは間違いなく、普通じゃなくなっている。やっぱ
り、女子が履いていると、全然違う。白く、長く伸びる足の肌は、すべすべし
ているのが見ただけで想像できた。

−−続




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