AWC そばにいるだけで 14−3   寺嶋公香


        
#4118/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 8/31  13:17  (200)
そばにいるだけで 14−3   寺嶋公香
★内容
 ゲームの展開は、はっきりと二つに色分けできそうだ。
 レシーブに成功すれば、町田・勝馬ペアの方が強かった。はっきり言って、
二人ともかなりせこい戦法を得意とする。
 思い切り打つかのように見せてスローボールで落としたり、目線とは全然違
う方向へ打ち込んだりと、実にいやらしい。
 加えて、富井はさほど体育が得意でない。狙われると、がたがたに崩れてし
まう。
 そうなると、相羽のサーブが勝敗の分かれ目だ。
 が、最初はそこそこの成功率を見せていたものの、佳境に入るにつれて、外
したりネットに引っかけたりする割合が増えていく。富井のフォローに走り回
った分、疲れるのも早まったらしい。
「マッチポイントだぞ。頑張れ」
 唐沢が気の毒そうに相羽を見やっている。
「分かってるよっ、と」
 声に合わせて打ったボールに、すでに最初の勢いはない。
 レシーブされ、何度かラリーする内に、富井がミスをして、ジエンド。
「やったね!」
 と、ハイタッチをする町田・勝馬とは対照的に、相羽達二人は、へたり込ん
でしまった。
「つ、疲れたーっ」
「ほらほら、立った立った。第二試合だぞ」
 椅子から降りて、からかい気味に言う唐沢。
「少し……ううん、だいぶ休ませて」
「女の子に頼まれちゃ、聞かないわけにいかないな。はははっ」
 富井の願いを聞き入れ、十分ほど休憩タイムを入れるのに、唐沢が同意した。
「参ったな。こんな疲れるとは、思ってなかった」
「ごめんね、相羽君。私が失敗ばっかりするから」
 富井がしゅんとなったのを見て焦ったか、首にかけていたタオルを取り払い、
早口で言い添える相羽。
「そんなことない、ない。一生懸命やってて、いいじゃない」
「あ、ありがとう。次、頑張る」
 と、純子に向けて闘志を燃やす富井であった。
 苦笑して、その視線を見返す純子。
(間違いなく、意気込みでは負けちゃう)
「郁、あんたは、動かなさすぎよ」
 町田が、麦茶の入った水筒片手に、得意げに言う。勝者の特権。
「ボールが飛んで来たら、固まっちゃうんだから」
「だって、打たなきゃと思ったら、緊張するんだもん」
「それだと、テニスにならないでしょうが」
 笑いが起こる中、休憩も終わり、第二試合開始。
「俺、左手でやるわ」
 最初に、唐沢が宣言した。
「テニス部が利き腕を使ったら、やっぱ、ひどいだろ」
「それもそうか。ありがたく、ハンデをもらいましょう」
 と、男子二人の間で話がまとまってしまったが、純子はと言うと、ちょっと
不安がよぎる。
(唐沢君を頼りにしてたのに、左手だなんて、大丈夫なの?)
 そんな心配をよそに、勝負はスタート。
 どきどきしながら、ボールを待つ。
(考えてみたら、うまい人と組むのって、嫌な面もあるのね。失敗したら、申
し訳なくて……)
 始まってみると、純子の最初の懸念は杞憂だったと、すぐに知れた。
 サーブこそ、さほど威力はないようだが、レシーブとなると、これが利き腕
じゃないなんて思えないぐらい、ほぼ完璧に受けきる。
 純子自身も、最初に恐れていたほどはミスもせず、そつなくこなして行く。
かえって、自分で驚いてしまった。
 勝敗の方は、唐沢がテニス部のプライドか、はたまた女の子をいじめるつも
りがないのか、あくまで相羽との勝負に持ち込んだせいもあり、かなりの接戦
となった。だが、結局は二試合連続の疲れが出た形で、富井・相羽ペアの敗退。
「厳しすぎる! もし利き腕でやられたら、どうなってたか」
 再びぐったり、ベンチにもたれ掛かった相羽。
「何なら、試してみるか。あとで、シングルス、やろうぜ」
「冗談でしょ。せめて、コートの広さでハンデをくれよ」
 弱々しく言った相羽。それほど汗かきでない彼だが、今は随分と汗をかいて
いる。先ほどの休憩のときと合わせて、手元のタオルだけでは間に合わないと
思い、純子は新しいタオルを渡した。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして。それより、相羽君、大丈夫なの?」
「何が?」
「こんな、張り切って運動しちゃったら、料理のお手伝い、できなくなるんじ
ゃないかなって思って」
「それなら、心配いらないよ」
 二試合こなしたとあって、スポーツ飲料を口にする相羽。
「今日、実は母さんの誕生日で、外に食べに行くから」
「え、今日なの? 知らなかった」
 驚くと同時に、焦る純子。
 「へえ」「いいわね」「何歳になったんだ?」などと話しかける皆に混じっ
て、純子は言ってみた。
「だったら、何かプレゼントしないと」
「な、何で? 子供が大人に誕生日プレゼントだなんて。親子ならともかく」
「だって、色々、お世話になってるし……」
 モデルの件を口に出そうとして、はっと思い止まる。
 今、この場には、事情を知らない唐沢がいるのだ。友達として、なかなか親
しくなってはいるが、やはり躊躇してしまう。とにかく、知られる相手は少な
いほどいい。
「そんな、気を回さなくていいよ。変だよ」
 笑って手を振る相羽。
 町田達もうんうん、うなずいている。
「だいたいさあ、女の人ってものは、一定の年齢を過ぎれば、誕生日なんてあ
りがたくなくなるものよ」
 分かった風に、町田が講釈する。
「いくら相羽君のお母さんが、若くてきれいでもね。そうでしょ、相羽君?」
「あははは。ま、そうだろうね。そうしておこうっと」
「……じゃあ、おめでとうございますって、伝えて。お家におられるんでしょ
う? お願い」
「分かったよ。本当に、気を遣うんだから」
 純子の頼みを、相羽はまだ笑いながら、引き受けた。
 思いもかけない話題も出た休憩も済んで、いよいよ第三試合。星勘定から言
って、優勝決定戦だ。
 今度は唐沢も、男女の分け隔てなく攻める。第一試合での町田・勝馬ペアの
戦いぶりを見て、遠慮なくやってやろうと考えたのかもしれない。
 唐沢にそう出られては、町田達の戦法も形無し。せいぜい、純子へ集中砲火
を浴びせることで活路を見出そうとする。
「えいっ」
 ボールが来る度に、気合いを入れて、返す。一試合経験して、だいぶこつが
掴めたような気がする。
 それに、唐沢が助けてくれたおかげもあって、純子達が大きく崩れることは
なかった。
 そして、最後は……唐沢のフェイントサーブでけりが着いた。
「よっし。左で打てる、最高のサーブ、見せてやる!」
 などと前口上をやったあとで、思い切り強く打つと見せて、ひょろひょろの
ボールを打ち込んだのだ。勝負が決したあとの彼の表情−−舌を覗かせていた
−−から推測するに、どうやら、意趣返しのつもりらしい。
「どこが最高のサーブじゃあ〜」
 勝馬が、コート内であぐらをかいて、唐沢を見上げる。
「最高のサーブだぞ。サービスエースを取ったんだからな。はは。スピードだ
けじゃないってことさ」
「正論だけど、テニス部員が素人相手に言うのは、嫌味な感じ」
 頭の後ろにラケットを持ち、町田が腐すと、唐沢は「そりゃないぜ」と、弱
り顔をして見せた。

 テニスを終えて、家に戻った純子だったが、着替えもせず、再び出かけた。
持ち物は一つ。相羽から新しく借りていたCDを携えて。
(これで理由付けはできたと)
 自転車をこぎながら、自分の思い付きに満足して、うなずく。
 相羽の母に、誕生日おめでとうございますと、気持ちを直接伝えたいと思っ
た純子は、相羽の家を訪れる理由を捻り出そうと、中学校からの帰り道、ずっ
と考えていたのだ。
 急いでいるのは、あまり遅くなってから訪ねて、親子二人の時間を邪魔して
はいけないとの意識が働いたため。
 マンションに着くと、左の肘の辺りに掛けた巾着を右手で支えながら、自転
車を降りた。巾着の中は、借りたCD。下手なことをして、プラスティックの
ケースやディスクを傷めるわけにいかない。
 いつものようにエレベーターに乗って、五階の五〇三号室を目指す。ドアの
前で深呼吸したのは、緊張ではなく、休む間なく動き回って疲れたから。
 インターフォンを通じて、おばさんに表向きの来意を告げると、ドアがやが
て開かれた。現れたのは、相羽本人。
「二学期が始まってからでよかったのに」
「えへへ。私もそのつもりだったの。でも、どうしても今日、来たかったから」
「……あっ。母さんに」
 ついさっきの出来事が伏線だったとは言え、相羽はなかなか察しがいい。扉
が閉まるのを身体で防いで、純子を招き入れる。
「お邪魔しまーす」
 と挨拶してから、囁き声で相羽に。
「いきなり言うと不自然だから、一旦、相羽君の部屋に入れて」
「いいよ」
 それから、リビングのテーブルで書き物をしている相羽の母に、もう一度挨
拶しておく。
「いらっしゃい、純子ちゃん。ゆっくりして行ってね。お茶を入れるから、待
ってて」
「え、いえ、おかまいなく。少ししたら、帰りますから」
「そう? 残念ね。テニスは、どうだったのかしら? 楽しかった?」
 手を止め、意外と根ほり葉ほり聞いてくる。
「はい。相羽君のチームにも勝てましたし」
「あれは、唐沢がうますぎると思う」
 純子が冗談めかすのへ、相羽は真剣に抗議してきた。
「私の力は関係ないって言うの?」
「……うーん、少なくとも、富井さんより上手だったのは、確かだね」
 純子達の話が弾むのを見て、相羽の母は軽い笑い声を立てた。
「どうやら、邪魔のようね。早く部屋に行きなさい」
 見送られながら、純子達は相羽の部屋に入った。ここも冷房が利いており、
外から入ったばかりの身には、肌寒く感じるほど。
「相羽君のことだから」
 戸がきっちり閉まったのを確認してから、話しかける純子。
「プレゼント、悩んだんじゃないの?」
「悩むと言うか、一生懸命選んでるつもりはある」
 返って来たCDをラックに仕舞うと、相羽はクッション二つを、絨毯の上に
置いた。純子が座るのを待って、相羽も落ち着く。
「何にしたのか、よかったら教えて」
「別にかまわないけど……どうして、そんなことまで、知りたがるのさ」
「う、うんとね。……私も誕生日プレゼント、考えてみたんだ」
「ええ? あれだけ、学校で、いいって言ったのに」
 多少、声が大きくなる相羽。
「わざわざ、買い物する必要なんて」
「慌てないでよ。ほら、何も持ってないでしょ」
 両手を広げてみせる純子。
「あとで、おばさんに言おうかなって考えてみたの。プレゼントの代わりにな
るかどうか、分からないけど……もし、次にモデルのお仕事が来たら、何でも
引き受けますって」
「……」
 どう感じたのか、相羽は顔をしかめ、何か言いかけの状態で止まっている。
(あれ? やっぱり、まずかったかしら。私がモデルの仕事するの、もう何に
も気にしてないと思ったんだけどな)
 小さく首を傾げる純子へ、相羽はようやく答えた。
「僕が口出しすることじゃないけど。少なくとも、母さんは喜ぶよ」
「−−本心から、そう思う?」
「うん。その内、また話があるだろうし」
「話って……モデルの? 本当に?」
 実は九割方、もう仕事はないだろうと楽観視していた純子。
 純子の質問に、相羽はいつもより邪険な調子で応じた。
「知らないよ、僕は。知ってるはず、ないだろ。母さんから連絡があるさ」
「そ、そうよね」
 笑ってごまかそうとも考えたが、恐くてやめる。この手の話題を発端に、二
人の仲が一度気まずい状態になったのを思うと、これ以上、深く突っ込まない
のが賢そうだ。
「話、戻すけれど、あなたは誕生日プレゼント、何にしたの?」
「ああ、その話。ほんとはさ、夕食を作ってあげたいんだけど、まだまだ腕が
追い付かないから、今年はこれにした」

−−つづく




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