#4088/5495 長編
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代償 第二部 11 リーベルG
★内容
11
「真面目そうな顔して、結構えっちなのね」志穂はタバコをくわえた。「まさか
最初……あ、二回目か……のデートですることになるなんて思わなかった」
片肘をついた田辺はにっこり微笑んだ。決して美男子ではないが、その笑顔に
は志穂の心を騒がせる何かがあった。
裸の胸を隠した志穂は、タバコに火をつけると深々と吸い込み、それから田辺
に差し出した。田辺は受け取る前に志穂に軽くキスし、それからタバコをくわえ
た。
「いつも吸ってるの?」田辺が訊いた。
「ううん。えっちの後だけ」志穂は照れくさそうに笑った。「こんなによかった
の初めてよ。やっぱ年上の人は違うわねえ。ずいぶん経験深そうだし」
「年上か」田辺は苦笑した。「28だもんな。志穂ちゃんとはひとまわり違うわ
けだ。おじさんって感じだろ?」
「お兄さんぐらいにしといてあげる」
田辺はタバコを消すと、志穂の肩を優しく抱いた。
「だいぶ疲れてるみたいだね」
「わかる?」田辺の胸に頬をつけた志穂は、心配そうに訊いた。「そんなにあか
らさま?」
「そういうわけでもないけど。激しいセックスは、積み重なったストレスを解消
しようとする結果であることが多いからね」
「そんなに激しかった?」
「すごかったよ」
「ばか」
しばらく二人はベッドの上で抱擁したまま、微かなエアコンの音に耳を澄まし
ていた。田辺は志穂の髪をゆっくり撫で、志穂はうっとりと目を閉じている。
「まだ例の噂は消えないの?」
「無視してるんだけど」
「一日中緊張しっぱなしだろ?」
「授業中はそうでもないんだけど。休みの間がね。学校って、トイレぐらいしか
一人になれる場所ないのよ。ずっとトイレにこもってるわけにもいかないし」
「帰るのが待ち遠しいわけだね」
「そういうわけでもないの」
「というと?」
「最近、無言電話がかかってくるようになったの。家の電話じゃなくて、あたし
の携帯に。番号知ってる人間、そんなに多くないはずなのに」
「どんな感じ?」
「無言電話?たいてい黙ってるだけ。たまにテレビの音とか、なんかを引っかく
みたいな音が聞こえるときもあるけど。切ってもすぐかかってくるから」
「電源切っとけばいいんじゃないの?」
「切ると家の電話にかかってくるもん。親にばれるといろいろうるさいし」
「夜?」
「っていうか、夜中にも。一時間おきにかかってきたこともあるし。前は手紙だ
ったけど」
「手紙は来なくなったの?」
「うん」志穂は力なく笑った。「切手代がもったいなくなったのよ、きっと」
田辺も少し笑った。
「でも今日は久しぶりにすっきりした」志穂は田辺の身体にまわした手に力をこ
めた。「後でもう一回やろうね」
「えっちだなあ。ああ、でも、スキンがないよ」
「あ、そっか」志穂はベッドサイドを見た。「ここって、一個しか置いてないん
だ。自販機もないし。サービス悪いね」
「ぼくも持ってないし」
「あたしも今日は予想してなかったから持ってないなあ」志穂は残念そうに舌打
ちした。「あーあ。ちぇっ!今日、安全日だったらよかったのに」
「今日はもう時間も遅いし、そろそろ帰らないと」
「そうね。明日は学校だしなあ」
「シャワー先に使っていいよ」田辺は志穂の肩を軽く叩いた。「それとも、一緒
に入ろうか?」
「ちょっとそれは……」志穂は顔を赤らめた。「まだ恥ずかしい」
「ほう。少しは羞恥心もあるんだね」
「どういう意味よ。じゃ、シャワー行ってくる」
田辺の車で駅に向かう途中、志穂は心地よい疲れを感じながら、シートに身を
預けていた。
「本当は家まで送りたいけど」田辺が言った。「ご両親に知られると心配される
から」
「早く卒業して堂々と会いたいな」
「大学生になれば、一日中えっちしててもいいしね」
「そういう意味じゃないんだけど。でも、そういうのやってみたい」
「楽しみにしてるよ」
「ゴムいっぱい用意しといてね」
田辺は考え込むような表情を作った。
「どうしたの?」
「もしよかったら、ピルが手に入るよ」
「ほんと?」
「研究室にメーカーからのサンプルがいっぱいあるから。みんな結構勝手に持ち
帰って使ってるよ」
「田辺さんは誰に使ったのよ?」
「ぼくはまだ使ったことないよ」田辺は苦笑した。「使ってみる?」
「ちゃんとしたやつ?」
「もちろん」
「そっかあ」志穂は少し躊躇ったが頷いた。「じゃ試してみよっかな」
「うん。明日持ってくるよ」
次の日、田辺は約束通り、カプセルがたくさん詰まった小ビンを志穂に手渡し
た。
「これがそうなの?」志穂はビンを眺めた。「パブロンって書いてあるよ」
「それはただの入れ物。中身はピルだよ。それなら持っててもヘンに思われない
だろ?」
「そっか。どうやって飲むの?食後?」
「一日3回から4回飲めばいいらしいよ。大体均等に間隔を開けてね。別に食後
じゃなくてもいいらしいけど。カフェインに似た成分が含まれてるから、飲み始
めた最初は寝付きが悪くなるって言ってた」
「じゃあ、多少夜更かししても、眠くないってこと?」志穂は笑った。「受験生
にとってはありがたいわ」
「効果が出るまで一日ぐらいかかるそうだから、今日はえっちはやめとこう」
「えー、そんなあ」
「こらこら」田辺は苦笑いした。「少しは休ませてくれよ。志穂ちゃんみたいに
若くないんだから。それに、毎日やってると飽きてくるかもしれないだろ?」
「うーん。じゃあ、今日は我慢するから。明日はたっぷり可愛がってね。土曜日
だし。昼からずっとでもいいからさ」
「はいはい。飲むのを忘れないようにね」
「わかってるって」
その日の夕食後、志穂はピルを飲んだ。
服用して1時間ほど経過したとき、志穂は身体中に活力が満ちあふれているよ
うな爽快感に包まれていることに気付いた。
「さっそく効き目が現れたかな」
そうつぶやいた声は、自分でも驚くほど陽気だった。同時に、これまで抱えて
いた胸が締め付けられるような不安感が、きれいさっぱり消失している。不安そ
のものは残っていても、思い悩むほどのことではない、と考えてしまうのだ。
皮膚感覚がやけに敏感になっている。いつの間にか、全身にうっすらと汗をか
いていた。
「こりゃ……すごいわ」
机の上に開いてある現国のテキストを見た。目が冴えていて、勉強するチャン
スだとは思うものの、全く興味がわかなかった。テキストを閉じて、ベッドに寝
転がる。
大きくため息が出た。
無意識のうちに、Tシャツの上から乳房に手がのびていた。夕食前にシャワー
を浴びた後、ブラは面倒なのでつけなかった。薄い布地を通して、指が触れた途
端、予想もしなかった快感が走り、志穂は思わず声を上げそうになった。
乳首が固くなっていた。ショーツがうっすらと濡れているのがわかる。
志穂に自慰行為の習慣があれば、その場で激しい快楽を求めて指を動かしたに
ちがいない。だが、志穂はそのような行為には罪悪感を感じてしまう性格だった
ので、手を離して身体を起こした。
明日のデートが待ち遠しかった。
「どう調子は?」
いつもの志穂なら、田辺が自分を見つめる視線が、観察するようなそれである
ことに気付いたかもしれない。田辺はいつもの通り、志穂を魅了した笑いを浮か
べながら、志穂をじっと見つめている。
「あんまり寝てないの」志穂は打ち明けた。「でも、いつもみたいに、学校のこ
ととか思って寝れないんじゃなくて、ずっと身体が熱くって」
「ピルの副作用だね。気分は?」
「悪くないわ。ううん。それどころか、ものすごくいいの。今すぐ何かしたいっ
て感じ。午前中、じっと授業を聞いてるのが、耐えられなかったわ」
「とりあえずお茶しようか」
「だめ!」志穂は叫んだ。「今すぐしたいの」
田辺は満足そうに頷いた。
「よし、行こう。車に乗って」