AWC そばにいるだけで 10−7   寺嶋公香


        
#3965/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 6/23  17:28  (200)
そばにいるだけで 10−7   寺嶋公香
★内容
 そういった相羽が両目を閉じ、右手人差し指で、自らの眉間をとんとんとつ
つき始めた。
 これまでに四つの手品を見せられた純子達は、すっかり雰囲気に染まってい
た。だから本気で念じる。
(ダイヤ−−ダイヤよ。赤い、菱形)
 純子の目線は、自然と相羽の眉間に吸い寄せられる格好になっていた。
 と、急に目を開けた相羽。
 何だか、目が合うような感じがして、純子はどきり。
 ルミナも同じだったらしく、びっくりした風に目をぱちぱちさせている。
「分かった。二人とも、なかなか念じ方がよかったよ」
「ほんとに分かったの、今ので?」
 やっぱり信じられない思いが起こり、純子は身を乗り出した。
「うん。少なくとも、分かったつもり。それでね、実は予言をしてたんだ。何
を選ぶか、あらかじめ紙に書いておいた」
「え、どこどこ? その紙」
 ルミナもまた身を乗り出してくると、相羽はカードを入れるケースを指差し
た。ゆっくりとした、余裕のある仕種だ。
「その中。さっきは斉藤さんに選んでもらったから、今度は涼原さん、ケース
を取って、中を見てよ」
「う、うん」
 一旦、胸に片手を当て、その手を伸ばし、プラスチック製のケースを持ち上
げた。蓋が透明なので、中身が見える。
 使わなかったジョーカーと、トランプゲームの説明の紙があるだけのようだ。
「開けてみて」
 相羽に促されるまま、純子は蓋を外し、中のカードと説明書を取り除いた。
すると、もう一枚、小さめの紙が姿を見せる。
「それだよ。手に取って、書いてある文字を読んで」
「……っと……あら?」
 思わず、声を上げた。紙片を持っていない方の手を、口に当てる。
(ハートの三? ま、間違ってるじゃないのっ)
「どうしたの? 私にも教えて」
 ルミナがにじり寄って、紙を覗き込む。
 当然ながら、彼女もまた怪訝な表情を作った。
「信一君、これ、違ってるー」
 がっかりした調子で、ルミナは相羽に抗議だ。
 あぐらをかいて、両手をやや後ろについていた相羽は、「えっ?」とつぶや
くと、姿勢を正した。
「そんなことないはずだ。絶対に、それだよ」
「それって、これでしょ?」
 手にした紙を裏返し、相羽に向けた純子。
 相羽はわざとらしく顔を近づけ、大きくうなずいた。
「そうだよ、ハートの三。当たっているだろう?」
「違うー」
「相羽君、失敗したんじゃないの?」
 二人で文句混じりに言うと、相羽は腕組みをした。
「おかしいな。確認するけど、選んだカードを念じたよね」
「ええ」
 次に相羽は、腕組みを解き、置いたままのカードの山を指差す。
「この、一番上にあるカードだろ? 選んだのって」
「そうよ」
「めくってみて、いいかな」
 手を伸ばし、カードに触れた格好のまま、上目遣いに聞いてくる。
 純子とルミナは、黙ってうなずき、承知した。
「よく見ててよ」
 相羽は−−何故か−−自信ありげに微笑むと、山の一枚目のカードをひっく
り返した。
「−−あっ!」
 見事なまでに声を合わせた純子とルミナ。
 姿を現したカードは、ハートの三だったのである。
「嘘ぉ!」
 たった二人の観客は、先を争うようにして、カードへ額を寄せる。
 ルミナ、純子の順番でカードを手に取ったが、間違いなくハートの三だった。
二枚同時にめくったのでもない。
「ほら、ハートの三じゃないか。ひょっとして、二人とも忘れちゃってただろ。
はははっ」
 表情をほころばせ、愉快そうな相羽に、純子はただただ、あ然として、見つ
めるだけ。
「種、教えてー!」
 ルミナが、今夜何度目かのフレーズを発した。
 彼女に肩を揺さぶられる相羽は、とぼけ通そうとしている。
 そんな二人の横で、純子は決意を固めていた。
(凄い。でも、だまされっ放しなんて、悔しくて気が済まないじゃないっ。ど
れか一つでも、何とかして種を見破ってやるんだから!)

 南十字星は水平線ぎりぎりに見えると教えられ、純子は飛び上がらんばかり
に、いや、実際に飛び跳ねて喜んだ。
 湯上がりの汗も引いた頃合いを見計らって、庭に出る。無論、相羽とルミナ
も一緒。
「暗いから、気をつけなさい。波打ち際に近付きすぎちゃだめよ」
 大人達からそんな注意をされて送り出された。
(えっと、スピカが南に来たとき、その真下辺りに……)
「あった!」
 念願の星座を見つけて、手を叩いた。
(想像してたより、ずっと小さい。手に取ったら、ネックレスにでもなりそう)
 そんなに明るい星達ではないが、ダイヤの形に四つ、確認できる。対角にあ
る物同士を結べば、十字の完成だ。沖縄でも、町中では見えないのではと思え
るほど、水平線ぎりぎりにかかっている。
「ふうん、あれが南十字」
 相羽も目をしっかり開けて、感心している様子。
「初めて見た。前に来たときは、知らなかったから」
「小さい星座ね。あんなのが、そんなに大事なの?」
 ルミナはと言えば、視力があまりよくないのか、じっと目を細めている。あ
んまり続けていると、しわができてしまって、モデルの仕事に支障が出そう。
 それはともかく、確かに南十字星は小さい。こぶし一つで隠れてしまう。
「方角を知るのに役立つからよ。十字の縦棒を下に五倍延ばせば、それが天の
南極点なんだって。日本では見えないけど」
 純子の説明に、ルミナは何度かうなずいた。
 相羽が改めて視線を高くした。二人もそれに続く。
「他に、今頃の星座と言えば……蠍座かな」
「それと白鳥座ね」
「おおぐま座は?」
 三人で、天を見上げたまま、話をする。知ってる限りの星座の名前を、口に
している感じだ。
「おおぐま座は、一年中、よく見えるのよ」
 ルミナの問いかけに答えるのは純子。
「そうだった?」
「うん。ほら、北極星を見つけるのに、ひしゃくの形をした星座を使うの、知
ってるでしょ?」
「もちろん。と言うより、それがあったから、覚えてたんだけど」
 ルミナが舌先を覗かせる。
「方角を決める北極星を見つけるための基準が、季節によって見えなくなった
ら大変。だから一年中、よく見える星座を目印に使ったんじゃないかしら」
「なるほど。純子ちゃん、詳しい」
「これぐらい」
 謙遜して、目線を普段の高さに戻すと、相羽が何やら探している様子なのが
分かる。
「何か、星座を探してるの、相羽君?」
「そう、こと座とわし座。見慣れた夜空と、少しずつ星の位置が違うから、見
つけにくい……」
「あ、織り姫と彦星ね」
「それって、七夕の?」
 さすがにルミナも知っている。
「七夕の日に会うって言うけど、七月七日、本当に近付くのかしら」
「まさか。光の速さで十年以上かかるよ。ベガと、えっと……アルタイルの間
の距離は……どれぐらい、涼原さん?」
「な、何で、私に聞くのよ」
「詳しそうだから。違った?」
 わずかな外灯の光に、相羽が微笑んでいるのが見て取れた。
「星は好きだけど……ひけらかすような真似は」
「いいじゃない。私達が知りたいんだから」
 ルミナもそう言うので、知識の引き出しを開けることにした純子。
「織り姫星はこと座の一等星ベガの別名で、この星は太陽の五十倍以上の明る
さを持つから、夏の夜の女王とも言われてるの」
「太陽の五十倍? 嘘、全然明るくないわよ」
「それは、ベガの方が地球から凄く遠いから。もしも太陽と同じ場所にベガを
置いたら、五十倍も明るい、大きな星ってことよ。
 彦星の方は、わし座のアルタイル。こちらも一等星なんだけど、ベガには負
けちゃう」
「星の世界も、女性上位だね」
 茶化すように、相羽。女子二人はくすくす笑った。
 それが収まってから、本題の質問に答えにかかる純子。
「ベガとアルタイルは、確か、十六光年離れてるんだって。だから、両方が光
の速さで会いに行っても、八年かかる」
「ひゃあ。ロマンティックじゃないわ。年に一度、会いに行くのに、超特急に
乗って、しかも八年もかかってたら」
「年に一度じゃなくて、十六年に一度だ」
 またひとしきり、笑いが起こる。
 それからも見える星座についてあれこれ言ったり、それにまつわるギリシャ
神話を断片的に話したりと、にぎやかだ。
 その内、ルミナが切り出した。
「そう言えば、みんなの星座って何? 私は、誕生日が九月一日だから、乙女
座。ぴったりでしょ」
 頬に人差し指を当てて、かわい子ぶる。長くモデルをやっているだけあって、
そんなポーズも様になってしまうから、得だ。
「僕は、えっと、双子座だったかな。よく覚えてないけれど。五月二十八日」
「双子座で合ってる」
 ルミナは即座に言い切った。どうやら星占いが好きらしい。
「誕生日、この間だったのね。純子ちゃんは?」
「十月三日の天秤座よ」
「なーる。バランス精神に溢れてるもんね、純子ちゃん」
「な、何よ、それ? じゃあ、双子座は二重人格で、乙女座は心優しいってと
ころかしら」
 純子だって、誕生星座による性格判断ぐらい、少しは知ってる。
「当たってるもんね、私の場合。信一君はどう?」
 得意そうに胸を張るルミナ。
 問われた相羽は、真剣な表情になって考え込んだ。
「うーん、分からん。二重人格のつもりは全然ないけどさ、完全に裏表がない
かと言われたら、そうじゃないだろうし」
「やあね、何を真面目に答えてるのよ」
「ほんとほんと。軽い気持ちで、言ってくれなきゃ」
 相次いで言って、純子達は相羽の背を叩く。
 もちろん、ふざけて軽く叩いただけだが、当人は大げさに反応して見せた。
「いってー。分からないなあ。女子って、占いを信じてるんじゃないの?」
「全部は信じないよね」
「うん、都合のいい部分だけ、信じてもいいかなってとこ」
 二人の見解に、相羽はますます分からなくなったようで、首を傾げる。
「謎だなぁ」
「そんなこと、もういいから。好きな星座って、当然、自分の星座?」
 ルミナの話は、ころころ変わるから、着いていくのもなかなか大変だ。
 純子は自分が考える間、聞き返すことにした。
「そう言うからには、ルミナちゃんは、乙女座が?」
「ええ。イメージがきれいだし。でもまあ、他に知ってる星座が少ないからっ
ていう理由が、大きいのよね。純子ちゃんは、知りすぎてて迷うんじゃないの」
「当たってるかも。そう……南十字星、好きなんだけれど、今まで見られなか
ったから憧れてたってだけかもしれないし。結局、天秤座か、南の魚座かな」
「南の魚座? 魚座じゃなくて?」
「うん。秋の星空で、一等星を持っているただ一つの星座だから、かな。フォ
ーマルハウトっていう」
「はあ、全然分からないわ。信一君が好きなのは何座?」
「オリオン座。ありきたりかもしれないけど」
 ぽつりと答える相羽。
(オリオン座ということは、あのときあげた消しゴムのイラスト、ぴったりだ
ったのね。よかった……)
 そんなことを思い、純子は何だか嬉しくなった。
「涼原さん、趣味が広いね」
「は?」
 いきなり言われて、相羽の顔を見る。
「化石と星。目を向ける方向で言えば、全く逆」

−−つづく




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