AWC 代償   第一部 12    リーベルG


        
#3906/5495 長編
★タイトル (FJM     )  97/ 6/ 9   5:22  (174)
代償   第一部 12    リーベルG
★内容

                12

 美奈代は次の日から三日間、学校を休んだ。
 母親からは、熱を出しているという連絡が毎朝、学校に届いていた。電話を受
けるのは担任と決められているので、由希が応対したが、声を聞いている限りで
は、美奈代が受けた凌辱に、母親が気付いている様子はなかった。由希はしつこ
いぐらいに、美奈代の服を破いたり、髪を汚したりしないように克也に言ってお
いたし、男たちも忠実にそれを守ったため、両親は特に疑問に思ったりはしなか
ったのだろう。
 由希の計算通りだった。
 美奈代が何日か休むことも予想していた。その間は、美奈代に対しては何もで
きないが、由希にはまだやることがいくつかあった。そのひとつが、秘かに、何
人かの生徒のロッカーの中にプレゼントを入れておくことだった。人選は、由希
のところに届いた手紙の内容を参考に行った。

 由希のクラスの有松友悟は、帰宅してから、スポーツバッグの中に入れた覚え
のない紙袋が入っていることに気づいた。不審に思いながら取り出して中を見る。
 中に入っていたのは、一本のVHSテープと、封のしていない封筒だった。ど
ちらも何も書いていない。
 封筒から中身を出す。数枚の写真である。最初の一枚を見た友悟は、思わず大
声で叫びそうになった。
 クラスメイトの藤澤美奈代が写っていた。全裸でベッドの上に仰向けに寝転が
っている。脚は大きく開かれ、ややぼやけているが、ヘアや他の場所もしっかり
映っていた。
 長い時間、食い入るように見つめてから、次の写真をめくる。美奈代の上半身
がアップになっていた。目は閉じているが、顔をしかめている。そして横から突
き出された男の性器を口いっぱいに頬張っていた。
 次は美奈代の上にスキンヘッドの男がのしかかっている写真。
 次は美奈代がバックから犯されている写真。
 次は美奈代が騎乗位で入れ墨をした男と交わっている写真。
 次は膝を立てて開かれた美奈代の下半身のアップの写真。
 友悟は自分が勃起していることに気付いた。
 あわただしくテープをビデオデッキに押し込む。音量を小さめに絞っておいて
から、再生ボタンを押した。
 映像が始まった途端、友悟の視線はテレビに釘付けになった。

 同じ頃、由希のクラスの時田あゆみも、顔を真っ赤にして美奈代の写真を凝視
していた。あゆみは、美奈代とは仲がよく、校舎の裏で田上紀子をいじめた時も
参加している。
 あいにく自分の部屋にビデオデッキはなかったが、何が映っているのかは予想
がついた。
「藤澤……」あゆみは茫然とつぶやいた。
 あゆみは受話器を取って、美奈代の家の番号をダイアルしかけた。が、思い直
して受話器を置くと、改めて別の番号を押した。クラスメイトの一人の家である。
「……もしもし、坂上?うん、あたし。あのさあ、ちょっと聞きたいんだけどさ
あ。あんた、バッグの中に何か入ってなかった?うん、今日……ほんと?じゃあ
さ、ちょっと、今からそっち行っていい?部屋にビデオあったでしょ?うん、V
HS……ううん、そんなんじゃないんだけど、ちょっとすごそうなビデオがある
から……ううん、中は見てない……でも、だいたい……ちがうって。そんな普通
のアダルトなんかじゃないってば……うん、ちょっと電話じゃ言えないの。うん、
じゃあ、すぐ行くね」
 あゆみは電話を切ると、素早く着替えて、カバンにテープと写真を入れた。そ
して、母親にクラスメイトの家で勉強することを告げるために部屋を出た。

 由希の計算では、クラスの男子三名、女子三名程度に写真とテープを送れば、
数日でクラスのほとんどの人間が、美奈代が処女ではないことを知ることになる
はずだった。さらに他のクラスや、二年生、一年生の間にも知れ渡るのは時間の
問題だろう。
 当然、何人かの保護者の耳にも入るのは間違いない。保護者間のネットワーク
は非常に高速だから、あっと言う間に街全体に広がる。だが、当の美奈代の保護
者がその噂を耳にするのは少し先のことになるだろう。由希は美奈代の保護者に
余計な騒ぎを起こしてもらいたくはなかった。少なくともここしばらくは。
 数人の生徒は手紙の中で、「絶対に内緒なんだけど……」という前置きをつけ
て、美奈代のことを知らせてきた。わざわざ写真を同封してきた生徒もいた。由
希は、写真などはいくらでも合成できるものだし、ビデオもよく似た人かもしれ
ない、そういう無責任な噂をたてるものではない、と返事を出しておいた。
 その一方で由希は、毎日、藤澤家に電話をかけて、美奈代の様子を訊いた。母
親は何も気付いていないようだった。由希は美奈代に代わってくれるように言っ
てみたが、母親は申しわけなさそうに、誰とも話したくないと言っているので、
と答えるだけだった。

 悪夢のような夜から五日めの月曜日の朝。
 美奈代は表面上は元気を取り戻したように家を出た。だが、駅に向かって数歩
進んだところで、立ち止まってしまった。
 この四日間、美奈代はほとんどベッドの中にもぐりこんで過ごした。何とかあ
の夜のことを記憶から消し去ろうと、いろんなことをしてみた。一晩中ロックを
聴いていたり、普段は手に取ることもしなかった古典を読んでみたり、バラエテ
ィ番組や落語をテレビで見たりした。夜中に三時間ぐらいシャワーを浴び続けた
りもした。
 だが、何をしても忌まわしい記憶は、繰り返し繰り返し甦ってきた。思い出す
たびに吐きそうになり、実際に胃液も出なくなるまで吐いたこともあった。
 不幸中の幸いというべきか、妊娠の心配だけはなかった。生理は一日遅れたが、
昨日きていた。
 学校へなど行きたくはなかったし、誰とも顔を合わせたくはなかった。だが、
これ以上休めば、さすがの母親も何かあったと勘づくだろう。
 やっぱり学校なんか行けない……。
 そう思った時、後ろからクラクションの音が小さく響いた。
 振り向くと、見慣れた由希のシビックがゆっくりと近づいてくるのが見えた。
「先生!」
 由希は歩道に車を寄せて降りると、いつもと変わらない落ち着いた笑顔で美奈
代に呼びかけた。
「おはよう、藤澤さん。もう、身体の調子はいいの?」
「先生……」
「あー、何かまだ元気ないみたいね」
 美奈代は泣き出しそうになった。
 由希の胸に飛び込んで思いっきり泣いて、自分に起こったことを全部話してし
まいたかった。母親やクラスメイトには言えないことも、この先生になら言えそ
うな気がしていた。
 それを思いとどまったのは、汚された女として見られたくないからだった。
 彼氏と初体験をしたのなら、喜んで由希に報告したことだろう。レイプされた
としても、相手が一人だったのなら、由希に慰めてもらいたくて打ち明けたに違
いない。
 だが、相手は三人でヤクザだった。しかも一部始終をビデオに撮られた。そん
な凄惨な事実を由希に知られたくはない。知られれば、自分を見る目が確実に変
わってしまう。美奈代はそう思った。
「そんなことないよ、由希先生」美奈代はやっと答えた。「ちょっと、その久し
ぶりだったから」
「そうね。あなたが来なくて寂しかったわ」
 由希が浮かべた優しい笑みを見て、美奈代はまたもや涙があふれそうになるの
をこらえた。
「普段ならこんなことはしないんだけど」由希は美奈代の肩を抱きながら、車の
方へ導いた。「病み上がりだから、特別に車で送っていってあげる」
 以前の美奈代であれば、飛び上がって喜んだだろうが、今朝はかろうじて強ば
った笑顔を作ることができただけだった。
「ほんと?うれしいな」
「さあ、乗って」
 由希に肩を押されるように、美奈代はシビックに乗り込んだ。これで、どうあ
っても学校に行かなくてはならなくなってしまった。
 何も心配することはないのよ。美奈代はシートベルトを締めながら、自分自身
に言い聞かせた。あのことを先生やクラスメイトたちが知っているはずはない。
これまで通りにふるまっていれば、誰にも知られることはない。少しぐらい元気
がないように見えても、それは田上紀子に対する引け目からだと思うだろう。
 でも……ビデオを撮られた。美奈代は思い出したくもないことを、思い出して
身震いした。
「どうかした?」
 由希がめざとく、美奈代の様子を訊いた。心配する様子が言葉からも感じ取れ
る。美奈代は首を横に振った。
「いえ、なんでもないです」
「じゃあ、行くわよ」
 シビックはゆっくりと動き出した。

 美奈代は始業時間ぎりぎりまで、トイレに隠れて時間をつぶし、何度も逃げ出
したくなる衝動をなんとかおさえつけた。
 教室のドアを開けるのには相当の勇気が必要だった。すでにほとんどのクラス
メイトは登校しているだろう。今、入っていけば全員の注視を浴びることになる。
こんなことならもっと早い時間に来ていればよかったと後悔した。
 ドアの前で躊躇った後、美奈代は何とか笑顔に近い表情を浮かべ、ドアを開い
た。
「おはよー」
 まずドアの近くのクラスメイトが反射的に、おはようを返した後、入ってきた
のが誰であるかに気付いた。会話が途絶え、戸惑ったように美奈代をみつめる。
 当然よ。美奈代は落ち着きを崩すまいと唾を呑み込んだ。三日も休んでいたん
だから。あたしだって、変な顔するに決まってるじゃない。
「おはよー」
「おはよー、藤澤」
「藤澤あ、便秘直ったあ?」
「ばーか」
 何人かが声をかけてくる。笑顔を返しながら、美奈代は彼女たちの言葉に、ど
こか哀れむような響きがあるような気がしてならなかった。
 考えすぎだわ。そうに決まってる。美奈代はそう思うことにした。
 自分の席まで歩いていく途中で、数人の男子生徒が美奈代の方を見ながら、ひ
そひそ話しているのが目に入った。ぞっとするような恐怖がわき起こりかけたが、
知っているはずなんかない、と思い直した。それでも、男子生徒の好色そうな視
線が、気になってしかたがなかった。
 固まって話していた数人の女子生徒たちが、不意に口をつぐんで、歩く美奈代
を見つめていたが、席に座った途端、顔をくっつけるようにしてひそひそ話を再
開した。いつもなら、そういう話には顔を突っ込んでいく美奈代だが、さすがに
何もする気になれなかった。
 隣の席の時田あゆみは、少し赤い顔で美奈代をまじまじと見つめていた。
「あゆみ、おはよー」
「お、おはよう、藤澤」あゆみはどもりながら答えた。「あ、あの、か、風邪直
ったの?」
「うん、まあね」
「そう」
 それっきれあゆみは沈黙した。いつもなら「学校さぼって男とデートしてたん
じゃないの?」ぐらいの冗談を言ってくるはずのあゆみが、なぜか怯えたように、
美奈代から視線をそらしている。
 再び、どす黒い恐怖が腹の中に生じたような気がした。美奈代は、思い切って
あゆみに問い質してみようと口を開きかけたが、そのとき始業を告げるチャイム
が鳴った。
 由希が教室に入ってきた。いつもの通り、落ち着いた微笑を浮かべている。美
奈代は、耐えられなくなってうつむいた。





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