AWC そばにいるだけで 9−3   寺嶋公香


        
#3879/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 5/24  11: 7  (200)
そばにいるだけで 9−3   寺嶋公香
★内容
 白沼から、相羽と立島について質問攻めにされたその日、純子は家に帰るな
り、卒業アルバムを引っ張り出した。
「あ−−五月二十八日だったのね」
 相羽の誕生日を知って、ふんふんとうなずいた。ふと気になって、指折り数
えてみる。
(あと三週間足らずだわ……関係ないけど。去年は、転校してくる前に誕生日
を迎えていた訳ね)
「立島君は、と」
 声に出してその名を探す。八月八日生まれとなっていた。
(夏休み中なのね。ふふ、かわいそうと言えばかわいそう)
 それらの日付をノートの切れ端にメモ書きし、アルバムを仕舞う。それから、
純子は改めて疑問に思った。
(あんなに知りたがるってことは、白沼さん、相羽君か立島君をいいと思って、
親しくなりたがってるんだろうなあ、やっぱり。立島君はともかく、相羽君が
どうしてもてるのやら……。ま、少しは外見がよくて、優しくて、気を遣って
くれて、責任感があって)
 心中で列挙しながら、段々、妙な感覚にとらわれていく純子。
(あれ? いいところばかりになるじゃない! 悪いところ……えっと)
 簡単には思い付かない。
(キスは間違いだったし、着替えを覗いたのも違う。意地悪なことをたまに言
うけど、気になるほどじゃない。男のくせに料理する……別にいいじゃない。
おかしいな、こんなはずじゃ。もてても不思議じゃなくなる。うーん、いつか
郁江が言ってたみたいに、私に見る目がなかったってことになるのかしら、こ
れって)
 思い出して、苦笑い。
(その相羽君を全く意識しない内に、親しく話せるようになったんだから、私
だって大したものだわ。あはは、身長や体重は知らないけど)
 また白沼の顔が脳裏に浮かんだ。
(二人の内どちらを選ぶのかな、白沼さん。どっちにしたって、白沼さん、美
人だし、積極的みたいだから、彼女から言われたら断らないね、きっと。立島
君は前田さんが好きみたいだから、相羽君の方が可能性ある。相羽君が白沼さ
んと付き合い出したとしたら、郁江達、どんな反応するかしら……)
 不安になってきた。
(うわあ。白沼さんのこと、郁江や久仁香に言った方がいいの? そうするに
は公平に、郁江達のことも白沼さんに伝えて……ああっ、こんがらがりそう。
−−何で私が、相羽君のおかげでこんなに苦心しなきゃなんないのよ。絶対、
おかしいわ!)
 と、そこまで悩んで、ふと立ち返る。
 白沼が立島と相羽のどちらに絞ってくるか、まだ分からないのだ。前田には
悪いが、悩むには早すぎたと気付き、純子は今日何度目かの苦笑いを口元にた
たえた。

(今年ぐらい、形のあるプレゼントにしよう)
 純子はそう思っていた。
(中学生になったんだし、何たって、自分で稼いだお金があるんだもの。こう
いうときに使わなくちゃ)
 出かける前、母に言って、預けていたお金−−モデルのバイト代を渡しても
らった。
 その際、母から「何を買うつもり?」と尋ねられたが、適当に笑ってごまか
しておく。
(言えないもん。母の日のプレゼントを買いに行くんだから)
 そうなのだ。明日の日曜は、母の日。
 純子の場合、去年までは、カーネーション一輪と家のお手伝いをするぐらい
に留まっていたが、今年はちょっと変えてやろうと目論んでいる。
(何がいいかなあ)
 とりあえず、最寄りの大型店に行ってみると、盛んにセールをやっていた。
昼食後のちょうどいい時間帯だからか、なかなかの混雑ぶりで、ゆっくり歩い
ていられない。
「あ−−すみません」
 早速ぶつかってしまった。
 と、顔を見れば、富井、井口、町田の三人だった。
「あれー、純ちゃんだ。偶然」
「みんな。やっぱり、母の日の?」
「そうそう。中間試験まで一週間ちょっとしかないでしょ。お手伝いしてる暇
なんてないもんね。せめて、何かプレゼントしようと思ってさ」
「試験だなんて、やなこと思い出しちゃうじゃない。ねえ、もう買った?」
「私は買ったけれど」
 町田が言って、他の二人を指差す。
「連れが迷っているから、付き合わされてるの」
「買ったって、何を? 見せて」
「いいよ。ほら、これ」
 町田が紙袋から除かせたのは、手袋みたいな形をした厚手の布製の物。緑と
赤が鮮やか。
「何これ?」
「鍋掴み。うちの母親、無精して手拭いなんかで掴もうとするから、よく火傷
するのよね。前から買えばって言ってるのに、全然聞かないんだから」
「なるほどねー」
 ちゃんと役立つ物を買ってるんだと、感心してうなずく純子。
「純は? まだみたいだけど、何か考えてる?」
「え、う、うん。いや、別に」
 言い淀んでしまう。
 漠然とではあるが、ネックレスのような物を思い描いていたからだ。
(たまにお金があると、高い物を買わなくちゃいけない気がしちゃって、だめ
だわ。値段に関係なく、喜んでもらえる物を)
 改めて頭を悩ませる純子だった。
「あっ、あれ、かわいい!」
 井口と富井が揃って指差す方向には、アクセサリー類の回転ラックがある。
「かわいいって、あんた達、自分が着けるんじゃないんだから」
 呆れ顔の町田に、井口が振り返って反発。
「いいじゃないのー。お母さんには、ずーっと若くしといてほしいもんね」
「ふむ。そういう考え方もあるわね」
 声に出して感心した風の町田の隣で、純子も感心していた。
(そっか。実際に役立つ物に限らなくてもいいな。うーん、範囲が広すぎるよ)
「あっちのもいい!」
「どれどれ? あ、ほんと」
 富井と井口もまた、いつまでも迷っていた。

 日曜の昼一時頃、純子は気分よく、鼻歌混じりで外に出た。
(よかった。喜んでた)
 朝起きてすぐ、母にプレゼントを渡した。
 悩んだ末に昨日買ったのは、ベルト。何にでも合いそうな大人しめの物と、
鮮やかな白の二本。
(お母さん、洋服はたくさん持ってるけど、ああいうベルトは少ないから組み
合わせに苦心してるって言ってたの、思い出した。来年、また考えなくちゃい
けないな)
 今、純子が出かけたのは、いよいよ迫ってきた試験に備え、町田の家に集ま
ってみんなで勉強するため。何しろ、中学に入って初めての定期試験。多少な
りとも、怖さはある。
 門の前に立ち、一つ深呼吸した純子。小学生の頃、富井や井口の家に遊びに
行ったことはあったが、町田の家は初めてだ。ちょっと緊張しながら、呼び鈴
のボタンを押す。
 それとほぼ同時に、玄関のドアが開き、町田が姿を見せた。
「ふ、芙美……」
 純子は町田を指差し、二の句を継げないでいる。あまりにも反応が早かった
ので、面食らってしまった。
「窓から覗いてたら、純の姿が見えたの。早いね」
「あ、なーんだ」
 ようやく合点が行ってから、町田のあとについて、中に入る。
「みんなはもう来てるの?」
「だから言ったでしょ、早いねって。一番乗りだよ」
「え、でも、もうすぐ約束の時間でしょ?」
 腕時計はしていないが、家を出るときに確認した時刻では、ちょうどいいぐ
らいのはず。
「十分前ってところかな。初めて来る道だからって、余裕を見過ぎたみたいね」
「そっか。邪魔じゃない? 早すぎて……」
 そっちの方が心配になった。
「大丈夫大丈夫。どうせ、親は出かけてるから」
「そういうことなら、遠慮なく」
 あとについて、中に入った。
 初めての家に来ると、いつもの癖で、無意識の内に、あちこち眺め回してし
まう。
 古いが、荘厳さのある木造家屋といった第一印象。木の柱は、どれもぴかぴ
かに磨かれていた。棚上の置物や花瓶、壁の絵や掛け軸も、何かいわれのあり
そうな品に見える。
「畳の部屋が多いのね」
「そうかしら? 私は、これに慣れて育ってきたから」
 町田個人の部屋も畳敷で、隣室とは襖で仕切られているのみ。防音に関して
は頼りない反面、内装は落ち着きのある物だった。いかにも洋風な物を無理に
探すと、ガラスのケースに入った日本人形の横に、ぬいぐるみが二体。それと、
アイドル系の歌手のポスターが、あまり目立たない位置にあった。
 脚の短い丸テーブルに着くと、純子を置いて、町田は再び部屋を出た。と思
ったらすぐに戻って来て、
「アップルジュースだけど、いい?」
 と、ほんのり黄色がかった液体をたたえたグラスを渡された。
「わ、ありがと。いいのに」
「これぐらいはね」
 そうこうする内に十分が経っていたが、さて、富井と井口が現れない。
「遅いなあ」
 やきもきしたまま、二人で始めてみた試験勉強だったが、やはり調子が出な
い。時間が気になる。
「あの二人ときたら、こういうときはルーズなんだから、全くもう」
「こういうときって?」
「楽しくない約束は、遅れがちにする」
「なーるほど」
 純子がうなずいていると、呼び鈴の控え目な音が聞こえた。
「やっと来た」
 町田が玄関に出てみると、果たしてそうだった。
「ごめーん、芙美ちゃん。道に迷っちゃって」
「日差しがきつくて、ぼーっとなりそう」
 富井と井口の声が聞こえ、それらに対して「分かった分かった」と町田が応
じている。
「さあさ、勉強しに来たんでしょ、今日は」
「純ちゃん、もう来てる?」
「来てる。十分も早くにね」
 そんな会話をしながら、部屋に入ってきた。
「早いのねえ、純ちゃん」
「え、それは、試験が不安だから……あは」
 思わず苦笑い。
 それから四人で勉強開始。と言っても、試験範囲を手広く当たるのではなく、
町田達が調理部の上級生から教えてもらった出題の傾向に沿って、暗記するの
がメインだ。
 では、何のために集まったかというと、教科書は同じでも問題集の方が新し
くなっており、その中の難問をみんな力を合わせて解こうという寸法。
 「ここに補助線」「過去分詞、特別な変化をするから」「この分類、全部出
るのかなあ?」−−等々、結構にぎやかに進んだ。
 一段落したところで、休憩。
 井口が切り出した。
「集まって勉強するのって、去年の夏休み以来?」
「そうなるね。でも、芙美はいなかった」
 純子が言って、町田に目を向ける。
「そう言えば、そういう話、してたわね」
 町田が思い出し思い出し、ゆっくりと話す。
「えっと? 夏休みの宿題やるために郁江の家に集まったその帰りに、相羽君
と会って、分からないところを教えてもらったとかって言ってたかしら」
「教えてもらったんじゃなくて、教え合ったんだよ」
 正確を期さなくちゃと思い、訂正する純子。
 その直後に、富井が声を高くする。
「相羽君と一緒に試験勉強できたら、はかどるのにぃ!」
「それ、いいわ」
「だけど、相羽君には迷惑だろーね。色々と質問されちゃ」
 いつものパターンで、井口が同調し、町田がくさす。
 純子はと言うと。
(確かに、一緒に勉強したら楽しくやれそう、うん。頭いいもんね。国語は苦
手みたいだけど)
「次、機会あったら、誘ってもいいんじゃない? 同じ部に入ってるんだし、
そんな不自然でもないでしょ?」
「あら。珍しく、積極的だね、純」
 冷やかす目つきの町田。

−−つづく




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