#3865/5495 長編
★タイトル (AZA ) 97/ 5/20 0:23 (200)
白マムシ団 4 永山
★内容
白マムシ団
the 1st work ****/05/09 18:30 佐藤 章一 (44) 会社員 撲殺 路上 …
the 2nd work ****/05/12 18:30 福島 俊也 (39) 歯科医師 撲殺 歩道橋 …
the 3rd work ****/05/15 18:00 出川 春江 (42) 主婦 撲殺 路上 …
the 4th work ****/05/18 19:00 西林 京 (65) 舞踊師匠 撲殺 駅便所 …
the 5th work ****/05/21 18:30 村下 晋太郎 (23) 公務員 撲殺 河原 …
the 6th work ****/05/24 20:30 山際 聖子 (20) 学生 撲殺 路上 …
the 7th work ****/05/30 20:00 鴻上 厚仁 (32) 会社員 撲殺 公園 …
*the 8th work ****/06/06 20:00 六田邸(便乗犯への警告?) 放火 住宅街 …
ここ数日、白マムシ団が大人しくしているのは、光井先生が帰国したように
見せかけた効果があったものと信じていた。
だが、敵は意外な行動に出た。
「見落としていたミスは認めるけれど……まさか、六田邸を焼くなんて、予想
できなかった」
「尾林さん一人が責任を感じる必要なんて、ないですよ」
江守君はそう言ってくれた。
「僕らも誰も気付かなかったばかりか、警察も考えが及ばなかったんですから」
「だが、先生がいない間に、こんな失態を……。いや、それだけじゃないんだ。
今、先生は日本にいることになっている。世間の人は、『何故、光井探偵がい
ながら、予測できなかったんだ?』と訝しく思っているに違いないんだ。僕は、
先生に申し訳が立たない」
「……先生に伝えたんですか?」
「もちろん、時間を置かずにね。返事はまだなんだけれど……。それよりも、
僕が六田靖史逮捕の一件を先生にすぐ伝えてさえいれば、きっと適切な指示を
くださっただろうに」
どうプラス思考を試みようとしても、気が滅入ってきてしまう。
だが、いつまでも落ち込んではいられない。僕は下を向いていた顔を上げ、
江守君他、全員を見渡した。
「名誉回復のためにも、頑張ろう。まず、問題にすべきは、白マムシ団の意向
がどうなのかを知ることだと思う」
「意向?」
辺見君が不思議そうに聞き返してきた。
「つまりだね。連中は光井先生が帰国したと信じているが、プライドを守るた
め、敢えて六田邸の放火に踏み切ったのか。それとも、僕らの仕掛けた罠を何
らかの手段で見破り、光井先生がまだブラジルにいると知って、悠々と事件を
起こしたのか。その見極めをしたいんだ」
「罠を見破るなんて、できるはずないですよ」
声を大にして、江守君が主張した。いつになく強い調子に、僕は思わず身を
引いた。
「尾林さん、この計略を知っているのは、非常に限られていますよ。僕ら九人
の他は、力沢警部と先生のふりをしている刑事さん……えっと、瀬野倉刑事ぐ
らいでしょう?」
「うん。まあ、警察の関係者に、もう少し知っている人がいるとは思うけれど
ね。言うまでもなく、信用できる人ばかりだ」
「そうでしょう? だったら、白マムシ団はどうやって先生が偽者だと分かる
って言うんですか。たとえ先生のマンションを見張ったとしても、瀬野倉刑事
の変装は完璧です。いつもサングラスをかけている点を除けば、どこにも不自
然さはりません」
「僕もそう思う」
我ながら、あっさりと認めた。
「だからこそ、奇異に感じるんだ。白マムシ団が放火事件を起こしたのが。罠
を見破れるはずがないと考えれば、不遜にも、敵は光井先生のお膝元で犯行を
続けることになる。信じられない」
「先生が日本を発つのを待っていたかのように、犯行をスタートさせた奴らな
のに、確かに変ですね」
沼木さんが同調した。
「僕らが甘く見られたんじゃないか」
豊田君が、不機嫌な口調で言った。最近、この子は常に怒っているようなと
ころがある。
「どういうことさ?」
「最初、白マムシ団は光井先生が恐ろしくて、先生のいない時期を狙って、連
続殺人を始めた。犯罪を重ねる内に、留守を預かる警察や僕らが真相に近付き
もしないのを見て取り、調子に乗ったんだよ。だから、光井先生が戻って来た
というニュースを知っても、逆に、好敵手が現れてくれたってな風に受け止め
たんじゃないのか? 腹立たしいけど……」
「いや、そこまで自信過剰な犯人なら、恐らく、最初から光井先生に勝負を挑
んでくるよ。腕試しをするには、犯罪をリスクが大きすぎる」
僕の断定的な物言いに、みんな納得したのか、何度もうなずいている。
「僕が言いたいのは、白マムシ団はこちらの計略を見破ってるだろうってこと
だよ。情報が漏れる余地がないように見えるとは言え、事実は残念ながら、そ
うじゃないんだ。あの有名な言葉を思い出してほしいな。−−残った可能性が
どんなに意外であっても、論理的に考えた結果ならば、それが真実である」
「はあ……それは分かりますが……」
弓川さんと志村さんが、一度顔を見合わせてから、揃って視線を向けてきた。
「じゃあ、一体、どんな風にして計略がばれたんでしょうか?」
「それはまだ分からない。警察の方にも、詳しく聞いてみなくちゃならないし。
そうだ、改めて確認しておこう。君達は、誰にもこの計略について、話してい
ないね?」
僕のこの問いかけに、八人の小学生は激しく反応した。「当ったり前だよ!」
「決まってる」「信用してくれてないんですか?」等々、圧倒されるほどだっ
た。こんなにも誇りを持っているなんて、頼もしい限りだ。
僕は両手で彼らの勢いを制しながら、謝った。
「分かった、分かったよ。疑うような言い方をして悪かった。確かめたかった
だけなんだよ。分かってほしい。さあ、そうなると、あとは警察の線だね。江
守君、いつものように君に頼んでいいかな?」
「もちろんです」
彼は元気よく答えた。
「尾林さんは、心おきなく、先生と連絡を取ってください」
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尾林君、光井だ。
メール、読了。
こちらの事件は、犯人も逮捕できたから、安心していい。こちらの人は皆、
どこかのんびりしているため、事後処理に少し手間取るかもしれないがね。
今の私は、重大な関心を持って、白マムシ団事件に取り組んでいる。
あれこれと推理を巡らす内に、気掛かりな点がいくつが浮かんできてね。早
い内に白黒を着けておきたく思う。
六田邸放火事件において、塀に残された文字が、本当に白マムシ団の手によ
る物なのかどうか。
身代わりをしてもらっている瀬野倉刑事の下へ、宅配業者やセールスマン等
が訪れていないかどうか。また、そのような一見の訪問者への応対はどうして
いるのか。
各殺人事件において、殴打痕から、加害者のおおよその体格や体力、性別が
割り出せるはずだ。以前、力沢警部が秘密にしているとメールにあったが、ぜ
ひとも聞き出してほしい。今度は尾林君、君自身が直接聞くんだ。
それから、これは関係ない話なのだが、D.K.C.のホームページにある、
メンバーの顔写真についてなんだ。
そろそろ新しいのにしてはどうかな? なに、この間、皆の顔を見たくなっ
て覗いてみたんだが、あの写真はどれも古くていけないよ。明日にでも、君を
含めた全員の写真を新しく撮って、登録しておいてくれたまえ。異国の地にい
る私の、ささやかな願いだ。
帰国は三日後になると思う。
それまで、充分に注意して行動するんだ。いいね? 下手をすれば、君達の
身に悪いことが降りかかるかもしれないのだから、自重してくれ。
みんなにもよろしく伝えてほしい。
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光井先生からのメールで指示されたことを、僕は忠実に、可能な限り迅速に
実行した。
挙げられた三つの疑点に関しては、以下の通り。
塀に残る文字は、それまでの殺しと違い、ラッカーで描かれているため、判
定の下しようがないとのこと。
瀬野倉刑事が入っている先生の部屋には、確かに訪問者があるものの、多忙
を理由に顔を出さずに追い返しているとのこと。
殴打痕から推測される犯人の特徴は、複数犯である可能性が非常に強く、ま
た被害者が最終的に横たわった状態で殴られているため、断言は避けるが、身
長は一六〇センチ以下、殴打する力はさほど強くなく、女性と推測される、と
いうことであった。
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尾林君、光井だ。
メール、読了。ホームページも更新されていたね。素早い応対、ありがとう。
これから非常に重大なことを述べるから、以下の文章は、誰にも見せないよ
うにしてくれたまえ。
あらかじめ断っておくが、以下で語ることは全くの推測であり、ブラジルに
いる私には確かめる術がない。しかし、白マムシ団事件を食い止めるためにも、
伝えておこうと思う。
白マムシ団は、D.K.C.だ。
驚かないでくれ。私の頭は正常だよ。
まず、確認をしておきたい。前回もらったメール以来、白マムシ団は火曜日
に犯行を起こしているだろうか?
起こしていないという前提の下、続けるよ。
火曜日だけ犯行をしないのは、何故か。犯人(達)が普段の生活を営むにお
いて、時間的に拘束されているからではないか。
そう考えると、D.K.C.のメンバーは、火曜日に夜遅くまで会議を開く。
会議が終われば、小学生のみんなは家に直行しなければならない。
他の曜日はどうか? 何人かが塾に行っているね。塾の帰りに某かの行動を
起こして帰宅が少し遅くなっても、「先生に質問していたんだ」とでも言えば、
家の人も疑わないだろう。
推定される身長や殴打する力については、言うまでもあるまい。小学生の彼
らも当てはまる。複数で襲撃するのも、当然だ。
メンバーのみんなが犯人だとすれば、私の帰国が欺瞞であったことも知って
いる。情報を盗む必要さえない。
さらに、パトロールの裏をかくようにして殺人を起こせたのも、同様だ。
行動範囲が狭いのもうなずける。小学生の移動手段と言えば、自転車がメイ
ンだろうからね。時間的制限と考え合わせれば、十五キロが限度だろう。
このような推理を君にだけ伝えるのは、君だけは白マムシ団の犯行に加わっ
ていないと推察できるからだ。
その根拠は、ホームページに載せてもらった、君達の最新の顔写真だ。
私は人間観察に自信があるし、長い間、君達と親しく付き合ってきた。嘘を
ついているときの顔ぐらい、分かる。九枚の顔写真の中で、邪気のない真の表
情を見せていたのは、尾林君ただ一人だ。
根拠が薄いと言うかもしれないね。
だから、傍証として、こういうのはどうだろう。
便乗殺人だった渡会友直殺害の翌日、尾林君は部屋の外で聞いたそうじゃな
いか。みんなが、「これは明らかに僕らへの挑戦です」と話しているのを。
おかしくないかね? 何故、七つも殺しが起こってから、挑戦だの何だのと
言い出したんだろう? 遅くとも、二件目が起こった時点で言い出したのなら
ともかくね。これは恐らく、自分達の犯罪を利用した殺人を起こされたことに
対する怒りが、「僕らへの挑戦」という言葉になって現れたんじゃないか。
動機は何だろう? これについては、私のせいかもしれない。
私は彼らに、「常に正しくあれ」と求め続けてきた。自転車は左側通行、吸
い殻や空き缶のポイ捨て禁止、電車やタクシー待ちの行列は守る、席を余分に
占領するなんてもってのほか……エトセトラエトセトラ。
世間一般のマナーを説いただけのつもりだが、感受性の強い−−そして、上
から命じられれば素直に従う−−彼らが、極端に受け取ってしまったと考えれ
ば、どうだろうか。道徳的なことを守れていない大人達を、自らの手で罰しよ
うとしたのかもしれない。
動機は置くとして、以上の推論を笑い飛ばすことができるだろうか、尾林君?
ぜひとも調べてほしい。無論、他の八人には内密にだ。
私が帰れるのは、明日の夜遅くになるが、それまでくれぐれも慎重に行動す
るんだ。私の推理が当たっていれば、君自身の命が危なくなるかもしれないこ
とを肝に銘じてほしい。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−続く