AWC 白マムシ団 3   永山


        
#3864/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 5/20   0:21  (200)
白マムシ団 3   永山
★内容

 白マムシ団が次の行動をなかなか起こさないでいるのを安堵すると同時に、
不安に駆られてもいた僕達にとって、六田靖史なる男が殺人の容疑で逮捕され
たとの報道は実に衝撃的だった。
 今日、火曜日は元々会議の日に当てていたけれども、緊急事態なので、早め
に収集をかけることとなった。
「みんなは、どう思う?」
 喋りながら、八人全員を見渡した。
「白マムシ団の犯行全部が、この男の仕業かどうか」
「ニュースを信用すれば、違うみたいですね」
 代表する形で、江守君が口を開く。
「白マムシ団の手口を模倣した便乗犯罪である可能性が高いと思います。六田
容疑者は渡会氏にのみ恨みを持っていて、他の七人の被害者とのつながりはな
いようですし、やり方がお粗末でしたし」
「何と言っても、証拠品を遺したのは、白マムシ団らしくない」
 豊田君も強い調子で主張した。
「決して、白マムシ団の一味ではない。そう結論付けていいですよ」
 異議は出なかった。
「では、この前作成してもらった一覧から、えっと、第七の事件を除外し、鴻
上氏死亡の件を繰り上げなければならない」

 白マムシ団
 the  1st work ****/05/09 18:30 佐藤 章一  (44) 会社員  撲殺 路上  …
 the  2nd work ****/05/12 18:30 福島 俊也  (39) 歯科医師 撲殺 歩道橋 …
 the  3rd work ****/05/15 18:00 出川 春江  (42) 主婦   撲殺 路上  …
 the  4th work ****/05/18 19:00 西林 京   (65) 舞踊師匠 撲殺 駅便所 …
 the  5th work ****/05/21 18:30 村下 晋太郎 (23) 公務員  撲殺 河原  …
 the  6th work ****/05/24 20:30 山際 聖子  (20) 学生   撲殺 路上  …
 the  7th work ****/05/30 20:00 鴻上 厚仁  (32) 会社員  撲殺 公園  …

「こうすると……うん、犯行時間帯が、早い内に限られているな」
 僕は感想をそのまま言葉にした。
「渡会氏の事件だけ、飛び抜けて遅い夜十一時半というのがどうも気になって
いたんだが、これですっきりした。七つの中で最も遅いのでも、八時半か。夜
六時から八時三十分までの間に犯行をなしている。この時間帯が、犯人にとっ
て、一つの枷になっているような気がする」
「八時半の事件は、土曜日に起こっている……」
 つぶやくように、志村さんが言った。
「それが?」
「何となく気になって……。普通のお勤めをしている人だったら、土曜日はお
昼までということが多いと思うのに、この犯人は他の曜日と比べて一番遅い時
間に犯罪を起こしてるなって」
「ふむ」
 表を見れば、土、金、日が遅い時間帯になっている。もっとも、大人にとっ
ては夜六時も八時も、大した違いではないという見方もできる。
「今のところ、気にする必要ないだろう。それよりも、光井先生からの伝言の
方が、みんな、気になるんじゃないかな?」
 僕が先生の名前を出すと、皆の目の色が変わるのが見て取れた。やはり、先
生の威光は絶大だなと思い知らされる。
「先生は向こうの事件を解決されましたか?」
 弓川さんや志村さんといった女の子達が騒ぐ。男子勢は声には出さず、姿勢
をよくして、僕の言葉を待っている。そんな感じだ。
「ブラジルでの事件は、謎解き自体はほぼ完了したそうなんだ。ただ、犯人が
逃走中で、その立ち回り先に足を延ばすために、時間がかかるというお話だよ」
「帰って来られるのは、いつ頃になるんでしょう?」
「帰国の時期については、言及がなかったなあ。その代わり、白マムシ団の事
件に関して、色々アドバイスをくださった。それをこれから伝えるよ」
 言葉を区切ると、僕はポケットからB5用紙を取り出した。光井先生からの
返信メールを、プリントアウトした物だ。
「注意すべき点、気にかかる点として、次の四つを挙げられている。
一.連続殺人事件にしては、実に狭い地域に集中している。犯人の使い得る移
動手段を示唆する物ではないか。
二.全くの無差別殺人であれば、『白マムシ団』とメッセージを残す必然性が
ない。何らかの意図を持って、被害者を選んでいると考えるべきである。
三.七番目の事件のみ、比較的遅い時間帯に発生しており、また、それまでの
犯行ペースから微妙に外れている。何かポイントがあるのではないか。
 −−この三つ目の指摘は、すでに先生の正しさが証明された訳だね」
 注釈を入れると、みんなもうなずいた。我が意を得たりとばかりの、実に満
足そうな笑みが並んだ。
「続けよう。最後の四つ目。
四.私が日本を発ってから事件が始まったということだが、今度の南米行きは
一部の者しか知らない。偶然でなく、私が日本を離れるのを待って白マムシ団
が動き始めたのだとすれば、情報がどこからか漏れているのかもしれない。注
意してくれたまえ。
 −−以上だ」
 四つ目の指摘は、メンバーを驚かせるのに充分だった。八人が互いに顔を見
合わせるようにして、ざわついている。
 無理もない。このメールを自宅のパソコンで受け取ったとき、僕も驚かずに
はいられなかった。
「情報が漏れてるって、一体誰が」
 いつも冷静な江守君も、今このときばかりは、眉をつり上げて緊張と焦りを
露にしていた。
「慌てないでほしい。先生はその可能性を指摘されただけで、断定はしていな
いのだから」
「しかし、見過ごせません」
「もちろんだ。早速、検討してみよう。まず、今度の先生のブラジル行きを間
違いなく知っているのは、僕らD.K.C.の九人と力沢警部、さらには検事
や判事、弁護士の方が何名か。この中に犯人がいるとは考えられないから、他
のルートを当たろう。
 先生に家族はおられないから、真っ先に思い浮かぶのは、先生が暮らすマン
ションの関係者だね」
「住人や管理人ということですか」
 沼木さんに先回りされ、思わず苦笑した。
「そうなるね。はっきりブラジルに行くと告げているかどうかはともかくとし
て、長期間部屋を空けることぐらい、伝えていて当然だろう。それが常識とい
うものだからね」
「そうなると、新聞を配達する人も知っているかもしれないですね?」
 小杉君が嬉しそうに発言した。
「いつも配る部屋が、ある日突然、配らないでいいと言われ、その状態が長く
続いているとなったら、嫌でも気付きます」
 その意見に対して、苅谷君が反論する。
「その可能性は五分五分じゃないかな。先生は表札を出していないし、新聞配
達夫は一階にある各部屋の郵便受けに入れるだけだからね。部屋に向かう訳じ
ゃないから、どこの誰に配っているかなんて、認識していなかったかもしれな
い」
「そうかぁ……」
 悔しがる小杉君に、僕は言葉をかける。
「観点はいいんだよ。忘れずに、確認しておこう。さて、他に何か、思い付か
ないかい?」
「やっぱり……先生がよく利用される店なんかだと、ここしばらく姿を見ない
なあって、変に感じてるんじゃないですか」
 今度は豊田君の意見だ。
「悪くない考え方だ。だけど、僕の知る限りで判断すれば、先生が利用する店
の人達は、皆さん、先生の偉大さを知っている方ばかりじゃないかな。先生が
いないことを推定したとしても、悪事を働こうなんて、及びもしないような」
「それもそうですね」
 メンバーのみんなも、先生に連れられ、先生お気に入りの店を利用した経験
が何度もある。その記憶から、マイナスのイメージが浮かばないに違いない。
「他には、もうないよ」
 辺見君が、考え疲れたような声を上げた。
 確かに、先生は誰とも派手な交際はしていなかったし、自分が探偵だと宣伝
するような真似も避けていた。
「同業者はどうですか?」
 江守君が、満を持したように発言した。
「同業者? と言うと、私立探偵や興信所の人間かい?」
「はい。滅多にありませんが、光井先生はたまに、私立探偵の力を借りること
がありました。その探偵と今も関係が続いているとすれば、長期不在のことを
知らせているかもしれませんよ」
「なるほど、面白いね。これも調べるべきだろう」
 それから僕は、先生の示した疑問点の最初の二つに立ち戻ることにした。
「二の方は、継続して調査を重ねるとして……行動半径という発想は、見落と
していたね。半径およそ十五キロ。確かに、狭すぎる印象だよ」
「限定された範囲しか動けないのか、敢えて動かないのか」
 小学生らしくない、論理の匂い漂う表現をするのは江守君だ。
「犯行推定時刻が、ある程度の枠に収まっていることから考えても、この十五
キロしか動けないと見るべきでしょう」
 沼木さんが言った。すると、すぐさま小杉君が異議を出した。
「そう思わせたい白マムシ団の罠かもしれないじゃないか。犯人像に偽りの条
件を求めると、真犯人に逃げられる」
「裏を読み始めると、きりがないよ」
 江守君が、早い段階で議論の打ち切りを明言した。
「今は、行動範囲が限定されているのだという考えを基礎にして、事件を追う
べきじゃないかな。そのあと修正が必要になってくれば、すればいい」
「分かったよ。それでいい」
 意外にあっさり引っ込んだ小杉君。これもまた、江守君の資質を示すものな
のかもしれない。
「行動範囲が狭いということは、犯人は車を持っていないと考えていいんじゃ
ないですか」
 弓川さんがタイミングを見計らったように言った。僕はいつものように、評
価しつつ、自身の考えも述べる。
「そうだね。普通は、車があれば、少しでも広範囲で犯罪を起こそうとするの
が連続殺人犯の心理だと思う。
 ただ、こういう考え方もできるんじゃないかな。本当に白マムシ団が僕らへ
挑戦するつもりで事件を引き起こしているのであれば、わざわざ僕らの本拠地
であるこの街にやって来ている、とね。どこか遠方より、この街まで車で来て、
学校から半径十五キロ以内の地点で殺しを実行。終わればまた車で去って行く
……絶対にないとは言い切れない」
「言われてみれば……」
 弓川さんに限らず、みんなうなずいている。
 僕としては、やっと、いくらか失地回復できたような気がした。調子づいて、
もう一つ、考えていたことを披露するとしよう。
「犯人像に関する検討はこれぐらいにして、現時点で最も重要な課題−−次な
る犯行を未然に防ぐための案があるんだ。聞いてほしい」
 場が静かになった。注目される中、僕は始めた。
「昨日、光井先生からのメールを読む内に思い付いた策なんだ。もし本当に、
白マムシ団が先生の不在を狙って犯行を繰り返しているのであれば、先生に帰
ってきてもらえばいいんじゃないかって」
「そんなの、無理だよー」
 一斉に声が上がる。
「帰ってきてもらえるぐらいなら、最初からしてるよ、尾林さん」
「何も本当に帰国してもらう必要はないんじゃないかな? 日本に、この街に、
名探偵光井秀吾郎が戻って来たと世間に思わせるだけで、充分な効果があると
思う」
「ああ−−」
 一転して、感嘆したような空気が満ちた。
「思い付かなかった。尾林さん、さすがです」
「手配は任せてくれるかな、みんな? 力沢警部に頼んでみようと思うんだ。
光井先生と背格好の似通った人を警察から貸し出してもらって、その人がマン
ションで光井先生らしく振る舞えばいい」
「その線で行けそうですね」
 まとまった。

六月四日付け朝刊
<名探偵 光井秀吾郎 帰国
 日本有数の私立探偵として知られる光井秀吾郎氏が三日、ブラジルより緊急
帰国した。解決の糸口を見せない白マムシ団事件解決のためと思われる>

六月七日付け朝刊
<便乗殺人被疑者の自宅、全焼 −−白マムシ団の報復か−−
 六日午後八時頃、**区**の六田猪五郎さん宅から出火、木造家屋を全焼
し、約四十分後に消し止められた。六田さんら家人は全員避難して、無事。警
察と消防によると、出火原因は放火と見られ、また、塀に白いラッカーで「白
マムシ団」と書き残されていたこともあり、関係を調べている。
 猪五郎さんの息子の六田靖史(三五)は、先日、白マムシ団の連続殺人に便
乗して殺人を犯した容疑者として逮捕・送検されており、この放火は、名前を
利用された白マムシ団による報復の可能性もあるとして、警察は白マムシ団事
件の捜査班とも連動して、真相究明に当たる模様である>


−−続く




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