AWC そばにいるだけで 7−5   寺嶋公香


        
#3847/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 4/19  15:20  (200)
そばにいるだけで 7−5   寺嶋公香
★内容
 あとから車で来るという先生の声に送られ、純子達児童は、それぞれ自転車
でスタート。しばらく行くと、川沿いの自転車道に出た。
「初めて先生の家に行ったけど、広かった!」
 斜め前を行く富井が、純子に話しかけてきた。うなずき返して、続ける。
「昔、農業やってたって、本当だったのね。古い外見だったけど、いかにも和
風って感じ。庭も広かったから、あれなら、まだいくつもカプセル埋められる」
「そうだっ、純ちゃん、テープには何を入れたの?」
 急に思い出したという風に、富井は振り返りながら聞いてきた。カセットテ
ープには全員が声を吹き込んだのだが、他の者には聞かれないよう、一人ずつ
録音を行ったのだ。
「えー、やだ。言いたくない。七年後まで待ってよ」
「それじゃあ、物の方は? 何か入れたんでしょ、品物」
「それもだめ。これだけは、もし郁江が教えてくれたって、私は言わないから」
「ちぇ、けち」
 男子のような舌打ちをする富井。
「ま、いいか。ぜーんぶ、七年後のお楽しみってわけね」
「そういうこと」
 話す内に、小学校に到着した。春休みに入っているせいか、にぎやかさはま
るでない。
「なーんか、早くも懐かしい気分だ」
「卒業する前は、あんまり来たくなかったのになあ」
 そんな会話をしている男子もいる。
(実際、懐かしい感じがする……。次に来られるのって、いつになるのかな)
 体育館の前で待っていると、立島が体育館の鍵を、前田と相羽がボールを持
って来た。
「ドッジボールでいいんだろ?」
「ああ。時間がもったいないから、すぐ始めよう」
 相羽と立島のやり取りを耳に挟んで、純子は聞いてみた。
「先生がまだだけど」
 答えるのは前田。
「それなら、先に始めててって、先生が言ってたのよ。さっき、先生のお家を
出るとき、聞いた」
「あ、そうなの? じゃあ、てきぱきと」
 家から持って来た体育館用の靴を履くと、すでに大きく開け放たれた出入口
から、体育館内に入った。
「寒いー!」
「カーテン、開けようぜ」
 三月下旬とは言え、まだまだ寒い。この体育館に暖房設備はないから、カー
テンを開けて太陽の光を入れることで、少しでも暖かくしようという寸法だ。
 手分けしてカーテン全てを開け終え、チーム分けに移る。二人一組−−一つ
だけ三人一組−−でじゃんけんをして、集まった二十七名を十四と十三に分け
た。先生がこの時間に間に合えば、十三人の方に入ってもらえばいい。
「スタートは……っと」
 相羽が三個のボールを両手に抱え、きょろきょろする。
 純子達の間では、ボールを複数個使うドッヂボールが主流であったが、三個
は滅多にない。
「木戸!」
 相羽は叫びながら、木戸へボールを一つ、放った。木戸の方はいささかびっ
くりした顔つきで、ボールを止めはしたものの、受け損なってしまった。
「相羽君、これ」
「やっぱ、今日の主役から始めるのがいいと思って。ほら、鈴木!」
「おっし」
 鈴木は相羽からのボールをしっかり、キャッチ。
「はい、国奥さん」
 最後のボールを、奥奥のそばまで近寄り、手渡した相羽。
「あ、ありがとう……」
 国奥は、戸惑ったような返事をした。その国奥と木戸が同じチーム。つまり
は、ボールは二個と一個とに別れたことになる。
「『命』の貯金はなしだよな?」
「当然だろ! いつもの通り、当てられても外から当てれば復活できるし、復
活できるときはすぐに復活しなきゃいけない」
 ルールの確認が行われたあと、立島がこれも借りてきたホイッスルを手に、
宣言する。
「じゃ、始めるぞ」
 体育館の中いっぱいに、笛の音が高らかに響き渡った。

「あいたっ」
 教室の、かつて自分の席だった場所に腰を下ろした純子は、思わず声を上げ
た。すぐさま、椅子からまた立ち上がった。
「どうしたの?」
 近くまで来ていた町田が聞いてくる。
「石が……」
 純子は自分の椅子の上に乗っかる、米粒大の小石をつまみ上げた。決して大
きくないが、三角錐型をしており、角も割と尖っている。
「うー、自分で運んで来ちゃった物だろうけど……痛い」
 キュロットスカートの上から、お尻をさする。
 と、今度は富井がにんまりしながら言った。
「なーんだ。私はてっきり、さっきぶつけられたのが痛くなったのかと思った」
「痛いわよ。あれだけ集中されたら……。まだひりひりしてる」
 体育館でのドッジボールは、合計三回戦が行われた。
 一回戦、まだ身体の暖まらない内に、純子はボールを取りに行って受け損ね、
敗退。一度は復活したが、直後に後ろからボールをお尻に当てられ、すぐまた
外に出る羽目となった。
 この回はチームは勝ったものの悔しくて、二回戦は最後まで粘った。が、今
度は純子のチームの他の者がだめで、次々と脱落。純子は最後の一人になって
しまった。なるべくボールを受け止め、外の味方に回して復活を期待したいと
ころだが、三つのボールを使う場合はなかなかそうもいかない。逃げるだけで
精一杯だ。最終的に、一つのボールを床−−体育館だから板張り−−すれすれ
でキャッチしたところを、残り二個のボールを集中放火されて、敢えない最後
を迎える。しかも、このときのボールも二個ともお尻に当てられたのだ。
 結局、純子が被害に遭わなかったのは最後の三回戦だけであった。
「涼原ぁ、大丈夫かぁ」
 純子がぼやいているのを耳ざとく聞きつけたらしい、清水がわめいている。
お尻にボールをぶつけてきた張本人の一人である彼は、無論、純子のことを心
配しているのではなく、からかうつもりなのだ。そのすぐ横では、例によって
大谷がにやにやしている。
「何よ」
「大きなお尻が、はれて、ますますでかくなったんじゃないか」
「うるさいっ!」
 立ったまま怒鳴り返す純子。
(いつまでもガキなんだから!)
 続けて怒鳴ってやろうかと思ったが、周りの町田らになだめられ、純子は大
人しく引き下がった。
「放っておいて、早く食べようよ」
 ただ今、昼食の時間である。これまで遠足が雨で中止になったことはなかっ
たし、運動会のときも常に外で食べていたから、教室の中でお弁当を食べるの
は、初めての経験だった。
「言われなくたって、もう気にしない」
 弁当箱を開け、箸でウィンナーを突き刺すと、一口でぱくつく。
「災難だったわね」
 井口が同情する口調で言った。ところが、それも束の間で。
「でも、うらやましいっ。相羽君にぶつけられて。しかも二回」
「な、何よそれ」
 二口めの箸が、寸前で止まる純子。
 井口に代わって、富井が口を開いた。
「あ、私も思ったな。相羽君にだったら、ぶつけられてもいい」
「……あのねえ」
 辟易しつつ、純子は相羽の姿をちらっと見やった。相羽は、いくらか離れた
前方の席で、仲のいい勝馬の他、立島や鈴木や木戸、女子では前田や国奥らと
一緒にお弁当を食べているところだった。ことさらに鈴木、木戸、国奥の三人
と話をしようと努めている様子である。とにもかくにも、向こうに純子達の会
話が聞こえる心配はなさそうだ。
「そんなに言うんだったら」
 純子はお茶を飲んで口を湿すと、せいぜい茶化してやることにした。
「試合中、叫べばよかったじゃない。『当ててー』ってさ」
「できるわけないじゃなーい。ほんと、どうして二回も当たるのよ。一回ぐら
い、他の人に回してちょうだいよぅ」
「無茶苦茶だわ。回せと言われても」
 またまた呆れてしまう。
「ぶつけられた自分にしか分からないけどね、手加減してくれないわよ。本当
に痛かったんだから」
「それならいっそのことさ、痛くて痛くてたまらないってことにして、倒れち
ゃうのよ。そうしたら、相羽君、責任感じて、保健室まで運んでくれるかも。
抱きかかえてもらって」
 とうとう町田まで、こんな軽口を叩く始末だ。純子の、茶化してやろうとい
う気力は早くも消え失せ、再び昼食に専念すると決めた。
 食べ終わったところへ、相羽がやって来て、純子の後ろの席に着いた。元々、
三学期のときの彼の席だから不自然ではない。
「涼原さん、ごめんな。思った以上にきつく当てたみたいで」
「もういいって」
 首をすくめ、申し訳なさそうに言ってくる相羽へ、純子は淡々と言い返した。
体育館で一度、謝られているのだ。
「それより、クッキー、楽しみにしてるからね」
「こ、ここで言うなよ」
 焦って立ち上がりかける相羽。
「平気よ。ここにいるみんな、知ってる」
「……ということは」
 相羽は町田、富井、井口の順に視線を移した。
「連れて来る友達……」
「私は行けないの」
 井口が言った。眉を寄せ、いかにも残念そう。
「家族で旅行の予定ができちゃって」
「代わりに私達が、たっぷり楽しんできたげる」
 うらやましがらせるように、富井は両手を腰に当てた。
「楽しみだな、相羽君のお家、見るのって」
 町田の口調には、いくらか芝居がかったところが感じられる。素直に反応す
るのが恥ずかしくて、照れ隠ししているのかもしれない。
「結局、何人になりそうなわけ?」
 相羽の問いかけに、涼原は名前を挙げていく。
「私の他は、郁江に町田さん、前田さんに遠野さん。五人よ。いいでしょ?」
「仕方ないからなあ」
「何よ、その言い方。嫌ならやめるけど」
「何を言うのよ、純ちゃん! そんなことないない。絶対、行くから」
 声を大きくしたのは相羽ではなく、富井。万が一にも中止となったら目も当
てられないとばかりに、必死の表情だ。
 気圧されたように静かだった相羽は、やがて吹き出した。
「統一ができていないようですねえ」
 そう言って笑う相羽を見て、純子は、また向こうのペースにはまったことを
嫌でも自覚した。

           *           *

 三月も終わりの日。やっと、本格的な春の訪れを予感させる陽気になった。
「あれ?」
 相羽は公園の前に自転車で乗り付けると、急いで飛び降りた。待ち合わせの
相手がもう来ているのが見えたから。
「待たせてごめん」
 時計のすぐ下のベンチで待つ相手の前まで来て、息を整えてから言った。時
計の針は、約束の時刻−−午後三時−−の五分前を指している。
「私が早すぎたから」
 彼女−−国奥が首を横に振った。以前なら長い髪が、ふわりと広がったこと
だろう。でも、今の彼女の髪は、耳を隠す程度に切り揃えられている。
「それで、何の用事?」
「せっかちだね。座ってよ」
 国奥はくすっと笑い、手で左隣を示す。反対側には、小振りな紙袋があった。
 相羽は腰を落ち着けた。最後になって走ったせいで、汗が少し出て来る。
「どう、この服? 似合ってる?」
 今日の国奥は、丞陽女学園の制服だ。ダークグリーンのブレザーには胸の膨
らみがはっきり分かる。スカートは茶系統のチェック柄。襟元にはワンポイン
トの緋色のリボンが、形のよい結び目を作っていた。
「何て言うか……似合ってるし、大人っぽく見える」
 内心、戸惑いながら答える相羽。
「ほんとに? ありがと!」
「僕も制服、着て来りゃよかった」
 実際はまだ買ってないから、できない話なのだが。
「似合うわよ、きっと」
「見た目が暑苦しいから、僕は好きじゃないんだけど……似合うんならいいか」
「−−相羽君、これ」

−−つづく




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