AWC そばにいるだけで 7−4    寺嶋公香


        
#3846/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 4/19  15:19  (200)
そばにいるだけで 7−4    寺嶋公香
★内容
 暇つぶしに相羽の話し相手になっている純子。
「そっちも送ってもらえるんだ。もちろん、卒業生扱いじゃないけどさ」
「ふうん。便利……と言うより、親切なのね」
「それよりか、楽しみだって言ったのは、自分のことじゃなくてさ。こっちの
修学旅行、どんなだったか知りたい。それとか、五年のとき、林間学校か何か
でキャンプファイヤー、やった?」
「うん、やった」
「そういうの、見たいんだ。みんなの『歴史』を知りたいってところかな」
「歴史だなんて、おかしい」
「おかしいかな。何で?」
 純子が笑うと、相羽は不思議そうに口を尖らせた。
「ね、前の学校のアルバム、見せてくれる?」
「いいよ。春休み、家に来たときにでも」
「楽しみだなあ。相羽君のことだから、きっと、一年の頃から目立ってたんじ
ゃない?」
「ひどい言われよう。残念だけど、前の学校にいたのは、四年のときからなの」
「ええ? じゃあ、その一つ前の学校もあるわけ? 凄い」
「凄くなんかないよ」
 つまらなさそうに肩をすくめると、相羽は改めて言った。
「まだかな、アルバム。ぜひ、じっくり見てみたい写真があるんだ。載ってい
るのかなぁ。さっきは暗かったから、はっきり見えなかったもんな」
 こちらを見てにやにやする相羽の顔つきから、純子は即座に、彼の言う見て
みたい写真の内容を察した。
「推理劇のでしょ! わざわざアルバムにまで載っけられたら、一生、言い続
けられちゃう。男役して男子に間違えられたって」
「悪い思い出じゃないだろ。違う?」
「……まあね」
 意識することなく、笑みがこぼれる。
「強く印象に残ってるのは、間違いないわね」

 教室を出ると、快晴の空の下、在校生から最後の送迎が待っていた。
 一年生から四年生までの拍手の中、五年生達が作ってくれた「人のトンネル」
をくぐり抜ける。
 全員通り抜けたあと、在校生の中には卒業生に駆け寄って、色々と話しかけ
る子も見られた。
 純子にも、そういう後輩達がいる。
「涼原先輩」
 初めて「先輩」付けされ、くすぐったく感じる。
「あ、あのね、恵ちゃん」
 そう。相手は椎名恵。純子に、いや、古羽相一郎にバレンタインのチョコを
渡した五年生女子だ。
「先輩って言うのは、やめて。同じクラブや委員会にいたのならともかく」
「はい。じゃあ、涼原さん。中学に行かれても、私のこと、忘れないでくださ
いね。私も忘れません」
「うん、覚えておく。友達のこと、忘れるはずがないでしょう」
「嬉しいっ。……でも、中学生になったら、制服なんですねぇ」
 寂しげな口振りに、純子は思わず尋ねた。
「何? 何か不都合でもあるの?」
「だって、涼原さん、普段は男の格好できなくなるっ」
「あ−−そういう意味なのね……」
 気分的に疲れ、肩を落とした純子。
 そんな純子へ握手を求めてから、椎名は小走りに去って行った。
 空くのを待っていたかのように、やや遠くから声がかかった。
「おねえさーんっ。す・ず・は・らのおねえさーん!」
「あ、藍ちゃん」
 元気いい声に振り向くと、すぐにその姿を確認できた。仕種も元気よく、両
手を頭の上で振っている。純子は自ら近付いて行った。
「久しぶり。私のこと、覚えててくれたのね」
「忘れなーい。絶対に絶対に、ぜーったい、忘れない」
「うん、ありがと。スケート、うまくなった?」
「あれからね、一回だけだけど、行ったぁ。最初より、ずーっと滑れるように
なってた」
「圭君に教えてあげられるほど?」
「そこまでは、無理。おねえさん、教えてよー」
「ようし。約束したもんね。今年はもう無理かもしれないけれど、来年、一緒
に行こうか」
「うん! 圭君も一緒に行きたいな」
「誘うのは、自分でやってよ。いいわね?」
 人差し指で、藍ちゃんの鼻の頭をちょんと押す。
 すると藍ちゃんは、恥ずかしそうに笑った。微笑ましくなって、純子も笑顔
になる。
「涼原おねえさんは、どうなったのー?」
「何の話?」
 純子がしゃがんでから、首を傾げてみせると、藍ちゃんは飛び跳ねながら言
った。
「あの人のことー。おねえさんとごっつんこした」
「こら。一年生が言う話じゃないでしょ」
「もう二年生になるのっ」
「はいはい。分かったから」
 頭を撫でてやってから、純子は藍ちゃんと別れた。
 それからも、登校する班で一緒だった下級生達としばらく思い出話に花を咲
かせて、やっと純子は解放された。
「遅かったわね。何をしていたの?」
 式に出席していた母の姿を見つけると、純子が口を開くよりも早く聞かれた。
「別に何もない。−−あ」
 すぐ隣に、相羽の母の姿を見つけた。
「こ、こんにちは。えと、お久しぶりです」
「まあ、固くならなくていいのに」
 ぎくしゃくと頭を下げた純子に、大人の女性二人の軽い笑い声が降りかかる。
「お話ししていたんだけど、純子、あなたのこと、かなり評判いいみたいよ」
「え?」
 何の話か分からず、瞼をぱちぱちさせる純子。が、やがて思い当たった。
「モデルの話ですか?」
 おばさんへ聞く。
「その通りよ。光る物があるってね」
「お、お世辞でもうれしいです」
「そうじゃないわ。本当なの。きっと、写真を見たら純子ちゃんもびっくりす
ると思うな。そうそう、見本、もうすぐ送りますから」
 最後の言葉は、純子の母へと向けられたもの。
(いくら言われたって、信じられないよ)
 人知れず息をついたところへ、相羽の声。
「もう、こんなところにいた。約束と違うじゃないか」
 駆け寄ってくるなり、自分の母親を非難するように相羽。
「東門で待ってるって」
「ごめんなさい、信一。涼原さんと会えたものだから、つい長話になってね」
「涼原さん……え、あ」
 そこでようやく、相羽は純子の母の存在に気が付いたらしく、取り繕うよう
に頭や胸元を手で直した。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。信一君とは二度目ね」
 純子の母も、笑顔で返す。
「去年のあのときは、息を乱して、何だか必死の様子だったけれど、あれ、一
体何だったのかしら?」
「えっと、それは」
 戸惑った風な相羽に、今度は彼の母が尋ねる。
「あら、何の話なの? 母さん、聞いてないなあ」
「な、何でもないよ」
 どうやら相羽も、キス事件のことは一切話していないらしい。
「それがですね、相羽さん。信一君たら、純子に謝りたいって家まで来て」
「お母さん!」
 慌てて遮る純子。
(言っちゃだめ!)
 そう念じながら、相羽へと視線を向けると、彼も純子へ視線を送ってきた。
 目が合うと、思い出されて、顔が熱くなってくる。
 そんな二人の様子を見て何か感じ取ったか、母親達はかすかに肩をすくめた。
「この子達だけの秘密みたいですから、よしておきましょうか」
「どうやら、そのようですわね」
 大人達の横、純子達は、ようようのことで安堵の息をつけた。

 小学校が春休みに入り、先生もようやく余裕ができたらしかった。当日、タ
イムカプセルを埋めるために先生の家に集まったのは、元六年二組のおよそ三
分の二に当たる二十七人だった。来られなかった者は、家族旅行や塾と言った
用事が入っていたらしい。
「みんな、入れ忘れはないわね?」
 元はペンキか何かの容器だった大きな缶を前に、先生が皆を見渡す。たった
今、先生自身が、来られなかった子の分を収め終えたところだ。
 缶−−タイムカプセルの中には、各人が一分から二分ほど喋った声を収めた
テープを筆頭に、それぞれの思い出の品が大きめのナイロンにくるまれて、入
れられてあった。六年間使い続けた帽子、ぼこぼこにゆがんだハーモニカ、苦
労して作った工作、最後の授業で使ったHBの鉛筆等々……。入れた当人達に
とっても、今はまだ大した感慨はないはず。が、およそ七年後に手にしたとき、
きっとたくさんの思い出を語り、懐かしさを呼び起こしてくれるであろう、未
来の宝物に違いない。
「ないよー!」
「それより先生、穴、これぐらいでいい?」
 シャベルを手に、穴掘りにかかりきりだった男子の一人が言った。先生は穴
のある庭の片隅へと、首を伸ばす。
「うん、ちょうどいい感じ。充分、入るわね。じゃあ、カプセル、閉めるから」
 手にしていた蓋を缶に被せる。それから蓋の縁にガムテープを三重四重に巻
き付けた。さらにごみ出し用のビニール袋にカプセルを入れ、厳重に防水処置
を施して完成。
「運ばせて!」
 と、みんながカプセルに群がった。さすがに二十七人がかりは無理だが、大
げさなぐらいの多人数で穴に運び入れる。純子も、七年間さわれなくなると思
うと、自然と手が伸びる。
「ぴったりだ」
「深さも、ちょうどいいぐらいだよ。ねえ、先生?」
 穴の出来映えに、得意げに言う男子。先生は多少、苦笑混じりにうなずいた。
 それから、みんな面白がって、足で、穴の周囲から土を蹴落とす。掘り起こ
されたばかりの湿った黒土が、また戻っていき、カプセルを覆った。
 すっかり埋まったところで、踏み固めにかかる。これも全員で列を作って、
次々と踏んでいく。
(電車ごっこみたい……何だか楽しい!)
 へこみができたら、また土を入れ、さらに踏み固める。これを繰り返す内に、
すっかりできあがった。
 最後に、先生が用意した札を差し掛ける。札はプラスチック製の長方形。白
地に黒い文字で、今日の年月日とクラスの名前が記されてあった。
「はい、これでいいわ。あとは七年後のお楽しみ」
「結局、七年後のいつ、開けるんですか?」
 前田の質問に、先生は軍手を外しながら、その場の全員に答える。
「そうねえ、みんな、成人式って知ってるでしょう?」
「うん!」
「みんなが二十歳になったとき、どこで何をしているかはまだ分かりません。
でも、成人を迎えれば、普通は自分が生まれた土地に戻って来て、成人式に出
るものなの。つまり、みんなが集まりやすい日とも言えるわね? だからやっ
ぱり、成人式の前後がいいんじゃないかしら」
 先生の話に、うなずく。
「いずれにしても、その頃になったら、みんなに葉書を出して日を知らせるつ
もりだから」
「忘れないでよー!」
「先生、案外、忘れっぽいもんな」
「その上、七年後には当然、それだけ歳を取るんだから……」
 教え子の悪気のない言いたい放題に、先生は形だけ声を荒げた。
「こら! あなた達こそ、忘れたりしないように!」
 場が笑い声に包まれる。
 それが収まってから、立島が先生に言った。
「今日、教室と体育館、使えるんですよね?」
「あぁ、それがあったわね。ちゃんと手続きしといたから、このあと、行ける
人は参加しましょう」
 先生が言っているのは、鈴木と木戸と国奥のお別れ会改めお祝いのことだ。
かなり多くの者が参加できると事前に分かったので、誰かの家でやるのは難し
い。そこで先生に頼んで、小学校の教室を使えるようにしてもらったわけであ
る。昼食の弁当持参で、目一杯騒ぐことになっている。
「じゃ、一旦、解散しましょうか。小学校へは十一時、体育館前に集合−−だ
ったかしら」
 途中、立島と前田に確認をする先生。今日のことを中心になって企画したの
は、この二人だ。無論、発案者として相羽もいくらか加わっている。
「みんな、気を付けて行くのよ」

−−つづく




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