AWC そばにいるだけで 7−1    寺嶋公香


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#3843/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 4/19  15:13  (200)
そばにいるだけで 7−1    寺嶋公香
★内容                                         16/08/31 04:45 修正 第2版
 学級会で、卒業記念にタイムカプセルをしようという話が、たった今まとま
った。すかさず、何を入れるんですかと、先生に対して質問が飛ぶ。
「思い出になる物なら、何でもいいのよ。ただし! 通知表はだめですからね。
お父さんお母さんに見せないとね」
「開けるの、いつですか?」
「そうねえ。先生がこれまで受け持った六年のクラスでも、一回だけ、やった
ことありますが、成人してから、つまりみんなが二十歳になる年の成人の日に、
掘り出そうと決めたわね」
「今、十二だから、八年後?」
「いいえ、七年後になるのよ。みんな、今年十三歳になるでしょう?」
 クラスのあちこちで、西暦何年になるのかを数えている様子が見られた。
「前のとき、どんな物を入れたんですか?」
「先生も詳しく知らないの。そのときの子達、まだ二十歳になってないから」
「そうだ、埋める場所は? 学校?」
「学校だと色々と問題もあるから、先生の家の庭に埋めることになるわね」
 先生の家と聞いて、みんな、ちょっとざわつく。純子は想像を巡らせた。
(そう言えば、先生の家、行ったことない。庭……ってことは、広いのかな?)
「埋めるのは春休みに入ってからになるでしょうね。それまでは先生も忙しい
から。都合のいい人は来て、手伝ってほしいわね」
「行く行く!」
「学校から近い?」
 一斉に、そんな声がいくつも上がった。その話も収まってから、タイムカプ
セルに何を入れるか、各自考えてくるようにという言葉で、学級会は終わった。
「考えろったってねえ」
 富井が面倒くさそうに言う。
「写真なんか入れても、意味ないような……アルバムにしとけばいいんだから」
「使ったノートとか鉛筆とかじゃないの?」
 ランドセルを背負いながら、純子は先ほど漠然と浮かべた考えを述べる。
 と、そこへ井口と町田が加わった。順に言う。
「ノートだったら、結構、懐かしいかもしれないね。それにしよっと」
「じゃあ、下手したら、全員一緒になりそう」
 みんな同じ考えのよう。純子は口元に人差し指を当てながら、考えた。
「ありきたりになるね。何か他に、思い出になるような」
「涼原! おまえは悩むことなんかないんじゃねーか」
 突然、荒っぽい声に呼び捨てにされた。見れば、清水と大谷が笑っている。
どうやら、純子達の話を聞いていた様子だ。
「どういう意味よっ」
 廊下から階段に差し掛かる地点、トイレの前で立ち止まり、言い返す。二人
組はあっと言う間に追いついてきた。
「あれを入れりゃいいじゃないか、着物」
「着物って何よ」
 まだにやにや笑いの消えない清水に、純子はつっけんどんな口調で応じる。
「分かんねえのか。古羽相一郎の衣装だよっ」
「な−−」
 開いた口がふさがらない涼原の前で、清水と大谷は勝手な言い種を続ける。
「男の格好するなんて、滅多にできない経験だぜ」
「そうそう。さぞかし、思い出深い記念になったことでしょー」
「相羽の汗も染み着いていることだし」
「何の関係があるのよ、ばか!」
 純子が大声で叫んだ直後、トイレの方から男子が一人、出て来た。相羽だ。
「僕がどうかしたって?」
 その場の他の者は全員、あまりのタイミングのよさに、呆気に取られている。
 相羽はハンカチで手を拭きながら、不思議そうにする。
「名前、呼ばなかった?」
「言ったのは、私じゃなくて」
 純子は清水達二人を指さした。自分の口から説明するなんて、ばからしい。
「何か用か?」
「別にぃ。行こうぜ」
「お、おう」
 清水は大谷と連れだって、さっさと階段を駆け下りていく。二人は−−特に
清水は、相羽を苦手としているのがありありと窺えた。
「何だ? ねえ、いったい何の話?」
 当の相羽はそんなことを意識する風もなく、純子達に聞いてくる。
「つまんないことよ」
「さっぱり分からないや」
「タイムカプセルに何を入れようか、話してたのよ」
 横合いから町田が説明して聞かせる。
「途中であの二人が、ちょっかい出してきたの」
「ははあ。何か、ありそうな感じだな」
 言葉を切ってから、相羽は歩き始めた。と同時に、口調を改める。
「それで、何を入れるつもり?」
 問いかけに、富井が嬉々としてこれまで出た案を話して聞かせる。
「ノートかあ。いいけど、何か違う」
 聞き終わって、首を傾げる相羽だった。
「あなたは何か考え付いたの?」
 下駄箱の手前で、純子は尋ねてみた。
 が、相羽が答えようとするところへ、外にいる勝馬が大声で呼ぶ。
「おーい! 遅いな! 待ちくたびれたっ」
 状況から判断して、トイレに寄った相羽を、勝馬が待っていたと見える。
「悪い! もう少し待っててくれ」
「何で? あ、また女子引き連れて」
 勝馬は言うなり、通用口の内まで戻って来た。
「何の話してんだ、この」
「タイムカプセルだよ。−−僕が考えたのは」
 相羽は純子達へと向き直った。
「自分の姿や声を記録して、入れるのはどうかなって。大人になってから、自
分の小さいときの声を聞いたら、面白い気がしてさ」
「あ、そうかも」
 純子だけでなく、町田達他の女子三人も感心したようにうなずく。
「いいわね。私もそうしようかな」
「一緒に録音しようよ、相羽君」
 富井がいつになく積極的に、相羽に持ちかける。
 相羽は手早く靴を履き替え、これも早口で答える。
「どうせなら、全員でやれたらいいと思うんだけど」
「それもそっか。先生に話してみようか」
「うん。その前に、前田さんに伝えといてよ。委員長の口からみんなに言えば、
まとまりやすいだろうし。頼む」
 相羽は言うだけ言って、勝馬と共に走って外へ。用事でもあるのだろう。
「……頼まれちゃったわけ?」
 取り残された観の純子達は、顔を見合わせた。
「いいじゃない。相羽君の頼みごとなら」
「だからってさあ」
 呆れたけれども、言っても無駄かと思い、純子は続きを言わなかった。
(ま、いいか)

 六年生最後の月を迎えてすぐ、その知らせはもたらされた。
 純子が教室に着いたときには、みんなが鈴木と木戸を取り囲んでいた。
「何、あれ?」
 訳知り顔の富井をつかまえる純子。
「発表があったのよ。二人とも真陵、合格だって」
「あ、昨日だったの?」
「そうみたい。ま、片方だけ落ちるなんてことがなくて、やれやれだわ」
 手で顔を扇ぐ富井。純子は苦笑いしてから、ほっと息をつき、席に収まった。
「そっか。よかった……凄いね、鈴木君も木戸君も。あとは国奥さんね。国奥
さんも今日、分かるんだった?」
「と言うか、昨日の内に発表のはずだよ。まだ、本人は来てないけど」
 同じ女子のこととなると、きっちり覚えている。
「引っ越すんじゃないんだから、そんなことしなくても」
 人の輪から、鈴木の声がする。同時に、輪から外れて、町田が純子達の方に
近付いてきた。情報を集めてきたわよという風に、口をすぼめて笑っている。
「あ、涼原さんも来てたの」
「うん、さっきね。ところで何の話をしてた?」
「立島君から、お別れ会やろうという話が出たわ」
「ああ、なるほどね」
 鈴木の言葉の意味を理解し、うなずく純子と富井。
「クラスメートが転校していくとき、やった覚えあるけど、こういう場合はす
るものなのかしら」
 純子は四年生のときのことを思い出しながら言った。
「さあ? 鈴木君や木戸君自身は、別にいいって感じみたい」
 彼らの方を振り返りながら、町田。
「国奥さんが受かってたら、三人まとめてやろう−−ってのはどう?」
 後方、頭の上から、相羽の声がする。
「いつの間に?」
「だいぶ前からいたけど。後ろのドアから、こっそり入った」
 本気とも冗談ともつかない、飄々とした口調の相羽。座って、机に置いたラ
ンドセルの上に腕を乗せる。
「状況、分かって言ってんでしょうね」
「鈴木と木戸が合格したんだろ? 二人とも、感心させられるなあ。……で、
お別れ会って話が出て。でも、お別れ会よりもお祝いがいいな」
「お祝い?」
「勝手な想像だけど、お別れ会だと湿っぽくなるかもしれないぞ。中学に行っ
てからも、会いたかったら会えばいい。無理矢理、線を引くことないじゃんか」
 相手の立場を考えているんだ−−。純子は思わず、見つめ返した。
「ん? 何か変なこと、言ったか?」
「−−ううん。いいこと言うじゃない」
 独りでに表情がほころぶのが分かった。
 横に立つ町田が賛意を示す。
「ほんとね。ねえ、鈴木君達に言ってみたら。これならきっと」
 相羽はうなずくなり、勢いよく立ち上がると、鈴木と木戸を取り囲む輪に割
って入っていく。
 しばらくして、話がよい方向にまとまったらしい。いつ、どこでやる?とい
う風な声が聞こえ始めた。
「どうやら決まり、だね」
 うれしそうに、うんうんとうなずく富井。両手を合わせ、続けて口走る。
「さすが相羽君、だわ」
「それよりも、国奥さん、遅いね」
「言われてみれば……。いっつも、早い内から来てるのに」
 町田の感想に、純子も少し不安になった。
「まさか」
 悪い予感を口にしようとしたそのとき、当の国奥が入ってきた。
「あ、国奥さん! どうだった?」
 入口に近い位置の純子が、真っ先に尋ねる。
 国奥は、純子達の方に視線をやってから、ついっと逸らす。心なしか、うつ
むき気味の表情が、いつもより固いような……。
(え? 国奥さんほどでも落ち−−)
 純子の心がずきりとした次の瞬間、国奥は面を上げ、にこっと歯を覗かせた。
「受かってた!」
 右手で小さくVサインを作りながら、国奥は目を細めた。
「−−やった!」
 純子達も、自分のことのように喜んでいた。

「書いてくれる?」
「もちろん」
 卒業間近、休み時間の教室のあちらこちらで、こんなやり取りが聞かれる季
節になった。
 サイン帳と言って、普通、一人一ページずつ、自分のプロフィールや帳面の
持ち主との学校での思い出等を綴る。プライベートな名簿ができあがるわけだ。
「純ちゃん、書いてね」
 純子の席の横に、富井がやって来た。手には横長のメモ帳のような物。と言
っても、かなり厚手で、表紙も赤地に緑や黒、黄色のラインが縦横に走るなか
なか凝ったデザインが施されていた。
「あれ? 郁江もサイン帳、回していたの?」
「うん」
 両手を添え、帳面を差し出してくる。
 純子は受け取ると、ぱらぱらとめくったみた。
「結構、書いてあるのね」
「当然、女子全員に書いてもらったんだもん。純ちゃんが最後」
「何だぁ。真っ先に書かせてほしかったなあ」
「純ちゃんだったら、いつでも頼めるから、最後にしたんだよぉ」
「あ、そーですか」
 苦笑いを浮かべながら、白いページを探す。中程で見つかった。
「今から書こうか?」
「最後なんだから、ゆっくり書いてよ。何だったら、家に持って帰っても。卒
業式の日までに持って来て」
「そんなにかからないわよ。一ページ分でいいんでしょ?」
 筆入れから鉛筆を取り出すと、名前から始める。続いて、誕生日や血液型、
住所に電話番号といったデータを書いていく。
「他に、どんなことを書いたらいいの?」

−−つづく





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