#3821/5495 長編
★タイトル (RAD ) 97/ 4/ 3 23:45 (188)
【OBORO】 =第1幕・花鳥風月=(9) 悠歩
★内容
遊歩道の上に擦り付けられ、背中が傷つけられるが、恐怖に支配された香奈は痛
みを感じなかった。
「可愛いおっぱいをしてるね。散々釘崎くんに吸われただろうに」
田邊は足許に屈み込み、スカートをめくり上げると、香奈の大事なところを隠し
ている薄い布に手を掛けた。
「いや! だめ!!」
さすがにこれには香奈も抵抗をして、両脚を堅く閉じた。
「おや? いいのかなあ………嫌がる女の子に、無理強いはしないけれど………仕
方ない、また釘崎くんとでも遊ぼうかな」
背筋も凍り付きそうな田邊の言葉に、香奈は両脚の力を緩めるしかなかった。
「ふふふ、やっぱり堀江さんはいい子だ」
香奈の下着は取り払われ、淡い草むらが田邊の前に曝される。
割れ目に沿って、田邊の指が宛てられる。
「少し湿っているねぇ………そういえば堀江さんたちは、セックスをしようとして
いるところだったっけ? ごめんね、中途半端なところで中断させてしまって」
そして田邊は、香奈のもので湿った指をぺろりと舐めた。
「うん、合格だ。君には資格がある」
満足そうに頷き、言った。
「さて、お詫びをしなくちゃいけないねぇ。釘崎くんはもう、使い物になりそうに
ないし………代わりに、ぼくがしてあげるよ」
恥辱と恐怖に身を震わせながら、死刑宣告にも等しいその言葉を香奈は訊いてい
た。
恋人の命を救うために、香奈は顔を背け、ただ悪夢のような時間が過ぎるのを待
つしかなかった。
じじっと、ファスナーを開ける音。
香奈の脚の間に、田邊の身体が潜り込んだ。
「光栄に思いなよ、堀江さん。君は生まれ変わったぼくの、最初の相手に選ばれた
んだから。釘崎くんも、しっかり見ていてくれよ。君が散々蔑んでいた男に、自分
の女が犯されるところをね」
もう、香奈には田邊の言葉を理解する力はなかった。その気力もない。
自分の性器に熱い物が入れられるのを、人形のように受けとめる。
「ちっ、少しは、ヨガってくれた方が、面白いのに」
田邊の腰が振られるのに従い、香奈の躰も震える。香奈にとっては、永遠にも等
しい時間であったが、実際には二十秒にも満たない間だった。
田邊の動きが止まった時、停止していた香奈の思考が動きだした。
「だめ………中は」
香奈の願いは叶えられなかった。
田邊の精液は中で放たれ、香奈は意識を失った。
「ふう」
欲望の放出を終え、満足げに田邊は立ち上がった。
香奈のパンティーを拾い上げ、それで濡れそぼった己のペニスを拭き取った。
「このままにしておくと、後で面倒だな」
ペニスをしまい込み、失神している香奈を後目に、釘崎の前に立った。
まだ意識があるらしく、虚ろだが悔しげな目が田邊に向けられている。
「自業自得だよ、釘崎くん。虫ケラ以下の君が、ぼくを馬鹿にするから………当然
の報いさ。もう警察だろうと、なんだろうと恐れるものはないんだけど、もっと力
を付けるまで、面倒なトラブルは避けたいんだ。だから、君には消えてもらうよ」
言い終えると、田邊はさも嬉しそうに笑った。
ばり、ばり、とまるで堅い煎餅をかじるような音が、夜の公園に響いた。
その後、香奈と釘崎の姿を見る者はなかった。
白い障子に、庭の楓が影絵を映し出す。
風が吹く度、影絵も揺れる。
落ちた木の葉が、ゆらゆらと宙を舞い、障子の舞台から消えていく。
目覚めた後も、布団の上で半身を起こし、優一郎は暫しその光景に魅入っていた。
「ああん、やだ、焦げちゃった」
遠くから聞こえてきた声で、優一郎は我に返る。
「そうか、ここは俺のマンションじゃなかったんだっけ」
ようやく自分が麗花たちの家に泊まりに来ていたを思い出す。
聞こえてきたのは、真月の声のようだ。
一人きりでない安心感、そして緊張。
知り合ったばかりの従姉妹たちに、だらしないところは見せたくない。
時刻は八時少し前。
自分のマンションで過ごす夏休みなら、まだまだ布団の中に居る時間であるが、
優一郎は立ち上がって、着替えを済ます。
そして何年振りかに、布団をたたむという事をして、洗面所に向かった。
小便を終え、顔を洗いながら、ふと昨夜見た光景が頭の中に浮かんだ。
「麗花さんと、美鳥………まさか………」
鮮烈な光景だった。
たがあれは現実だったのだろうか。
断言する自信はない。
昨日はいろいろな事があり、身体も頭も疲れていた。
夢と現実の区別がつかなくなっていても、不思議ではない。
「あら、優一郎くん、お早う」
「あ、お早うございます、麗花さん」
白いエプロンの姿の麗花が居た。
着ているもので、随分イメージが変わるのだな、と優一郎は思った。
エプロンを付けた麗花は、歳上の美しい女性と言うより、可愛らしいお姉さんと
言う雰囲気だ。
まだ優一郎が小さかった頃の、若い母のイメージとも重なる。
「どうかしたの? ぼーっとして」
「あ、なんでもありません」
「そう、じゃあ、顔を洗った居間に来てね。朝食にしましょう」
「あの、もしかして、みんなぼくが起きるのを待っていたんですか?」
「うーん、それもあるけど。真月がね、朝食を作るのに随分手間取ったから」
「真月ちゃんが………あの子が、ご飯を作るんですか」
部屋で訊いた真月の声を思い出す。
何かを作るのに失敗したような騒ぎだったが、それ以前から失敗を繰り返してい
たのだろうか。
「本当は朝御飯は、音風の役目だったんだけど。あの子、今朝も微熱があったんで
美鳥が作ろうとしたらね………」
何かを思い出して、麗花は笑った。
「真月が珍しく、自分が作りたいって。ふふふ、あの子優一郎くんの事が気に入っ
たみたいよ。お兄ちゃんに食べてもらうんだって、はりきってたもの。それでね、
はりきり過ぎて、三回も目玉焼きを失敗しちゃったのよ」
「はあ」
素気なく答えはしたが、悪い気はしなかった。
そして普通に話をしている麗花を見て、昨夜のことは優一郎の夢だったのだと、
思うことが出来た。
優一郎は素早く顔を洗って、居間に向かった。
刻んだネギの香りが嬉しい、豆腐と油揚げの味噌汁にサラダ、しらす干し。
そしてメインはハムと一緒に焼いた、黄味が二つの片面の目玉焼き。添えられた
ウィンナー。
昨日の夕食がそうであったように、この家は資産家だというのに気取った食事が
出てこない。それが優一郎をほっとさせる。
朝からご飯を食べるのは、母が死んでからは初めてだった。
「この目玉焼き、真月ちゃんが作ったんだって」
「うん………あんまり上手く出来なかったけど」
真月は元気がない。
確かに片方の黄味は、ぐちゃぐちゃに潰れ形は悪いが、もう片方は綺麗に焼けて
いる。
優一郎は、箸でちぎって目玉焼きを口に運んだ。
「うまい! 美味しいよ、真月ちゃん」
「ほんと?」
真月の顔が、ぱあっと明るくなる。
この子の嬉しそうな顔を見るだけで、幸せな気分になれる。
「本当さ、旨く焼けてる。何たって、黄味の焼き上がり具合が最高だよ。堅すぎず、
かと言ってすぐに流れ出してしまうほど、柔らかくもなく………うん、最高だ」
「へへっ、なんかてれちゃうよ」
真月は、恥ずかしそうに小さな舌を、ぺろりと出す。
少々褒めすぎだと、優一郎も思うが、この子を喜ばすためなら嘘でも何でも褒め
てしまいたくなる。
けれど目玉焼きが美味しいと言うのは、大袈裟ではあったが、事実でもあった。
「そりゃあねぇ………三回も失敗した後なら、少しくらいは上手くもなるでしょう」
せっかく喜んでいる真月に、水を差すのは美鳥だった。
今朝はレモンイエローのブラウスを着ていたが、その下には昨日とは別の、これ
また派手で意味不明な絵の描かれたTシャツを着ているようだ。
ポニーテールにはしておらず、長い髪を簡単に束ね、肩から前に垂らしていた。
優一郎には、それが食事をするのには邪魔にしかならないように思える。
「俺が本当に美味しいと思うんだから、口を挟む事はないだろう」
出会ってから、まだ一晩しか過ぎていないが、美鳥と言う少女に対しては気遣い
無しに物が言えた。
従姉妹故の気安さでなく、少しばかり仲の良くない友達同士のように。
昨日の態度から、美鳥が優一郎に対し、あまりいい感じを持っていないらしいと
思ったからかも知れない。
「あんたはいいよ、四回目の、なんとか成功らしき物を食べているから」
言われて、見てみると美鳥の前にある目玉焼きらしき物は、黄味は形を留めてお
らず、ほとんど白味と混じり、マーブル模様になっていた。しかもめくれ上がった
裏側は、限りなく黒に近い、焦げ茶色になっている。
逆に麗花の目玉焼きは、ほとんど焼けていない。黄味は潰れていて、周辺の白味
に溶け込み、箸を入れた場所から皿の底へ流れている。それなのに、白味の外側だ
けは堅くなっている。
そして、真月自身の目玉焼きは黄味こそ両方とも潰れているが、焼き加減だけは
上手く行っている。
微熱で寝ている音風の分は無い。
優一郎は、自分と従姉妹たちの目玉焼きを見比べ、真月の成功までの道筋を想像
した。失敗して騒ぐ真月の姿が頭に浮かぶ。
「だから、美鳥お姉ちゃんには、こっちをあげるって言ったのに」
「いいよ、こんなのをあんた廻したって、食べやしないだろう。捨てちっゃたら、
玉子だってもったいないからね」
「ちゃんと食べるもん」
真月が皿を入れ替えようと、目玉焼きに手を掛ける。その手を美鳥の手が止めた。
「いいって言ってるの」
美鳥は口は悪いが、これで結構優しい「お姉さん」のようだ。
「まあまあ、真月ちゃん。美鳥がいいって言ってるんだからさ」
「うん」
優一郎に言われて、真月は手を引っ込めた。
「それに、最後にはこんなに上手に焼けたんだから、もうちっょと練習すれば、も
う完璧になるよ」
「ありがと、お兄ちゃん」
「ところでさあ、あんた」
味噌汁を啜ろうとした優一郎に、美鳥が声を掛けてきた。
「なんだよ」
「真月は『真月ちゃん』、麗花お姉が『麗花さん』で、どうして私だけが呼び捨て
なのよ? ちょっと、馴れ馴れしいんじゃない」
「あん? そっちこそ『あんた』だの『こいつ』だの、失礼だろうが」
「じゃあ、優一郎。これなら文句ないでしょ」
「ふん、ならこっちも美鳥でいいだろ」
「気に入らないわね」
「そっちこそ」
なんとも意味のない、子どもじみた言い合いだと思う。
美鳥の口が悪いのは、姉妹に対しても一緒だが、優一郎に対しては質が違う。はっ
きり敵意のようなものを感じさせる。
「はい、お話はもういいかしら? みんな早く、ご飯を食べて下さいね。いつまで
も片づかないから」
優一郎と美鳥の言い争いに、穏やかな口調で麗花が介入して来た。
「はあい」
「わ、分かってるよ」
二人の妹たちは、素直に返事をすると、口を噤んで食事を進める。
真月はともかく、美鳥までもが麗花に対しては素直な事が、不思議な気がした。
「優一郎さんも、ね」
「あ、はい」
相変わらずの笑顔で、言葉の調子も優しい麗花だったが、相手に有無を言わさな
い迫力があった………。