AWC 【OBORO】 =第1幕・花鳥風月=(8)  悠歩


        
#3820/5495 長編
★タイトル (RAD     )  97/ 4/ 3  23:45  (198)
【OBORO】 =第1幕・花鳥風月=(8)  悠歩
★内容
 肩で大きく息をする美鳥を見ながら、麗花は考えた。
 そして。
「明日の夜、優一郎さんの力をみましょう」
「明日! そんな、お姉………発作を起こしたばかりで」
「だからこそよ。もう私の時間は長くないわ………早く(日龍)の完全体を見つけ
ないと」
「お姉………そんな弱気な事、言わないでよ」
 麗花は微笑みながら、首を横に振った。
「美鳥、訊いて。時間が有る限り、私は出来るだけのことはするわ。でももし、途
中で力尽きてしまったら、後はお願いね」
「嫌だよう、そんな事言わないでよぉ」
「お願い。妹たちを守ってあげてね………音風まで巻き込んでしまったけれど、せ
めて真月だけは、普通の女の子として幸せになって欲しい」
 涙に濡れる妹の頬を、麗花は掌で包み込んだ。
「お願い、ね」
「うん………分かった、約束する。約束するから、お姉も変な事は、もう言わない
で」
 美鳥は涙を拭い、その手の小指を立てて麗花の前に出す。
「ん、じゃあ、私も約束するわ」
 笑顔で応えると、麗花も小指を立てて妹の小指と絡ませた。



 昼間は子どもたちや、老人、家族連れで賑わう公園も、陽が暮れた後には恋人た
ちの時間となる。
 枝の伸びきった木々に、街灯の明かりも遮られて薄暗い遊歩道を歩く若い二人連
れも、また、そんな中の一組だった。
「私、すっごく興奮しちゃった」
 男の腕に抱き付くように寄り添った若い女、堀江香奈は頬を紅潮させて言った。
「ああ、最高だったぜ、あの映画。けどよ、お前、最初はアクション映画なんて興
味ないって言ってたくせに、すっかりハマちまったな」
 男も満足そうだった。
「だって、あの男優、カッコイイんだもん」
「俺よりかあ?」
「うーん………」
「おいおい、悩むなよ」
 幸せな恋人たちの会話は弾む。
 二人は高校生であったが、既に将来を約束しあった仲だった。
 そんな二人にとって、いまが一番楽しい時期なのかも知れない。
「なあ、そこのベンチで少し、休もうか」
「うん」
 男に言われるまま、香奈はベンチに腰掛けた。
 その途端、男の唇が香奈の唇に重ねられる。
「んんっ………」
 熱い吐息が漏れるのは、口づけだけのせいではない。
 男の左手が、香奈の胸に強く宛われているせいだ。
 くちゃ、と湿った音とともに唇が離される。
「やだ………輝明くん。こんなところで、誰かに見られちゃう」
 言葉ほどに、香奈は抵抗をしない。
 その事を確認した男の右手は、香奈の白い腿にに置かれた。
「誰も見ちゃいないよ。こんな時間に公園に来るのは、みんな恋人同士だ。自分た
ちの事に忙しくて、他人の行為なんて無関心さ」
「でも、私は………外でなんて、いや………」
 その間にも男の左手は、香奈の胸を揉み続ける。そして右手は腿を這うようにし
て、短めのスカートの中へと潜り込む。
「やだって………ば……ああん」
 薄い布越しに、香奈の敏感な部分が指で刺激された。思わず声が出る。
「さっきメシ食ってさ、財布、空になっちまったんだよ」
「だからって………お金なら、私が………」
「女に出させるのは、男のプライドに拘わる………」
 香奈の脚が僅かに開かれ、男の手の動きがスムーズになる。
「もう………やだって………言ってるのに」
「そんな事言いながら、ほら、香奈のここ、濡れてる」
 男の指が、香奈の割れ目を強く擦った。湿り気を帯びた秘裂に沿って、薄い布が
挟み込まれる形になる。
「もう、ばか………」
 香奈の躰から堅さが抜けていく。それを見て取った男の手は、下着を脱がしにか
かる。
「ふうん、お盛んだねぇ」
 闇の中から声が掛かり、慌てて二人は立ち上がった。
「だれだ!」
 庇うように香奈の前に立った男が、声のした闇を叱咤する。
「やだなあ、ぼくの声が、わかんないのかい」
 闇の中から滲み出すように、無造作に髪を伸ばした男が姿を現した。
「今晩は、釘崎くん、堀江さん」
 どこか人を見下したような話し方に、二人とも覚えがあった。
「貴様、田邊か」
 釘崎輝明の声に、怒気が込められる。
「酷いなあ、釘崎くん。貴様なんて、さあ」
 薄気味の悪い笑みを浮かべる田邊。
「ふん、デバガメなんて、如何にもクズの貴様らしいな、田邊よ」
 そう言って釘崎は拳を握りしめ、腰を低く落とした。すぐにでも田邊に、殴り掛
かれる体勢である。
「クズ………? お前如き虫ケラが、ぼくに言っていい言葉じゃない」
 ずいっと、田邊が一歩前に出る。
 普段、卑屈な姿しか目にした覚えのない香奈は、強気なその田邊の態度に言い知
れぬ恐怖を感じた。
「だめよ、輝明くん。行きましょうよ」
 釘崎の腕を取り、その場を立ち去ろうとする。が、当の釘崎は動こうとはせず、
そっと香奈の腕を外させる。
「すぐ片づけるから、香奈はそこで待ってろ」
 そして再び田邊を睨み、凄みを込めた声で言った。
「随分と強気だな、ああ、田邊。いままでは陽野の顔を立てて、見逃してやってた
けどな。今日は勘弁しねぇぞ。はっきり言って、陽野さえいなけりゃ、貴様なんて
ゴミクズなんだよ。ぼこぼこにしてやるから、覚悟しな! 一年の時みたいによぉ」
「可哀想なくらい、愚かなんだね………釘崎くんは」
 田邊は怯むどころか、哀れむように首を振った。
「優一郎がここに居ないのは、ぼくにとってじゃなく、君にとって不幸だと言うの
に………それが分からないなんて、本当に哀れな虫ケラだ」
「ぬかせ!」
 田邊か言い終わるのを待たず、釘崎の左の拳が飛ぶ。
 これは難なく田邊にかわされた。しかし拳はフェイントだった。
 すぐさま渾身の力を込めた右脚が、田邊を捉えた。
 サッカー部でエース・ストライカーとして鳴らした釘崎は、殴る事より蹴る事に
絶対的な自信を持っていた。
 拳を牽制にして蹴りを入れると言うことは、本気で田邊を潰すつもりなのだ。
 ぐちゃ。
 嫌な音がした。
 咄嗟に香奈は顔を背ける。
「ぐああああっ」
 叫び声がこだました。
 だがそれは、香奈の予想した声ではなかった。
「輝明くん!」
 地べたに這いずり、不様に叫んでいるのは田邊ではない。釘崎だった。
「いや、輝明くん! 輝明くん!」
 香奈は釘崎の元へ駆け寄った。見れば、釘崎の右脚は不自然な方向へ曲がってい
る。
「やれやれ、ご自慢の右脚も大したことは無かったみたいだねぇ」
 さも愉快そうに笑いながら、田邊は二人に近づいて来た。
「お願い、田邊くん………救急車を………救急車を呼んで」
「えっ、なんだって? よく聞こえなかったなあ」
 懇願する香奈に、耳を傾ける仕種を見せて、田邊は倒れている釘崎の脚を踏みに
じった。
「があああっ」
 苦痛の叫びを上げる釘崎。
「やめて!」
 香奈は必死に田邊の脚にしがみつき、釘崎から引き離そうとした。そんな事には
構わず、爪先に力を込めて釘崎の脚の折れた部分を捻った。
 ぐちっ。
 いとも簡単に、折れた脚は釘崎の身体と別れを告げる。
「はははは、ごめんごめん。そんな所に寝ているから、気がつかなくて踏んでしまっ
たみたいだね。あれ? 脚がとれちゃったんだ。あーあ、これじゃあ、なんだっけ。
Jリーグだかなんだかに入って、将来日本代表になるんだ、なーんて偉そうに言っ
てた君の夢も終わりだねぇ」
「あああっ………輝明…くん」
 釘崎は苦悶で顔を歪めながらも、手をついて身体を起こし、田邊にしがみつく香
奈の身体を突き飛ばした。
「逃げろ………香奈。…こいつは、ばけ………ものだ」
「そんな、出来ないよ」
 香奈は弱々しく首を振った。
「逃げるんだ、早く………そして、人を呼んでくる……んだ」
 逡巡した挙げ句、この場に留まっても自分の力だけではどうにもならいと香奈は
判断した。釘崎の言うとおり、助けを呼びに行こう。
 そう決めて、田邊たちに背を向け走り出そうとした時………また不快な音と共に、
釘崎の悲鳴がした。
 振り返ると、今度は釘崎の左脚を踏みつぶす田邊がいた。
「いいんだよ、逃げても。堀江さん」
 田邊はのたうつ釘崎の身体を拾い上げ、右腕を掴んだ。
「逃げるのなら、ぼくは追わない………でも、君が人を呼んでくるまで、釘崎くん、
保たないと思うよ」
 そしてまるで小枝でも折るように、釘崎の腕が折られた。
「があああっ」
「いやああああ、誰か、誰か来て!!」
 力の限り、香奈は叫んだ。
 しかしその叫びに応える者はない。
「無駄だよ、誰も来ないさ。だって、ぼくがそうしたんだから」
 自信に満ちた、田邊の言葉。
 香奈にはその意味が分からない。
 しかし誰も助けに現れないこと、このままでは釘崎の命が危ないことは、はっき
りと分かった。
「お願い………輝明くんを………助けて」
「ふうん、堀江さんってもっと、常識のある子だと思ったんだけどなあ。人に物を
頼むときの態度って、知らないみたいだね」
「お願いします………輝明くんを、助けて…下さい」
 香奈は両手を地面につけ、額を擦り付けるようにし土下座した。
「うーん、堀江さん次第では、考えてもいいなぁ」
 勿体ぶった言い回しをしながら、田邊は香奈の躰を舐めまわすように見る。
 香奈は鳥肌の立つのをも堪えられない。
「だめだ………香奈…おまえだけでも…逃げろ」
 こぼっと、血を吐きながらも、釘崎が言った。
「うるさいよ、釘崎くん。死にかけは、黙っていな」
 田邊は無造作に釘崎の身体を、地面に投げつけた。
 背中から叩きつけらた釘崎は、大量の吐血をし、痙攣をした。
「輝明くん」
「動くな! こいつ、殺しちゃうよ」
 釘崎に駆け寄ろうとする香奈を、田邊は激しい口調で制した。
「さあ、どうする? 堀江さん。ここから逃げ出して、釘崎くんを見殺すか。それ
ともぼくの言うことを訊くか」
「訊きます、なんでも訊きますから………救急車を………呼んで、下さい」
「考えておこう」
 虫の息の釘崎を跨いで、田邊は香奈に近寄った。
 そしてまだ土下座している香奈の髪を掴み、強引に立ち上がらせた。震えて歯の
根も合わない香奈の唇に、田邊の唇が宛われる。
「んんっ」
 咄嗟に田邊の身体を突き飛ばしそうになるのを、香奈は必死で堪えた。
 田邊の肩越しに、倒れている恋人の姿が目に映る。
 声が出せないのか、口をぱくぱくとさせ、何かを訴えているようだった。両の目
からは、苦痛のためか、それとも悔しさのためか、涙を溢れさせている。
「ぷはっ」
 ようやく、田邊の唇から解放された。
「ふふふ、見たかい、釘崎くん。君の彼女は、恋人の前で他の男とキスをするよう
な女だったんだねぇ………」
「お願いです………救急車を」
 凍えるようにぶるぶると震えながら、香奈は懇願をした。
「まだだよ、ぼくは満足していない」
 田邊は香奈の胸元を片手で掴み、突き飛ばした。
 容易く引き裂かれたシャツは、ブラジャーと共に田邊の手中に残される。そして
香奈の躰はアスファルトの上に、仰向けに倒れた。




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 悠歩の作品 悠歩のホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE