#3777/5495 長編
★タイトル (AZA ) 97/ 3/11 18:30 (200)
そばにいるだけで 3−7 寺嶋公香
★内容
何故って、純子のプレゼントに当たったのは、清水だったから。
「何だぁ、これ?」
透明なビニール袋いっぱいのピースを目の前に掲げ、怪訝そうな顔つきをす
る清水。
「ジグソーパズルじゃねえの」
清水の左隣に座る大谷が言った。
「へえ? 面倒くさそう。俺にこんなの、できるかってんだ。おーい、これ、
くれたの、誰だよ?」
「わ、私よ」
一部始終を見聞きしていた純子は、即座に返事した。席を立つと、相手の席
まで真っ直ぐに近寄る。
「えっ、涼原か……」
何にびっくりしたのか、言葉をなくす清水。
「面倒くさそうで、ごめんなさいねっ。女子でも男子でも大丈夫なように、よ
く考えた結果が、あんたに当たったんじゃあ、たまんないわ」
「女子でも男子でも? どこがぁ?」
珍しく、清水が話の流れに沿って尋ねてきた。
「そのジグソーの絵柄はね、片方がS**で、もう片方はT**になっている
のよっ」
S**とは、女の子に人気のあるアニメ番組。同じく男子に人気のあるアニ
メ番組が、T**だ。
「へえ? 手間かけてんなあ」
口の悪さは、簡単には直らないようだ。そんな清水の右隣の国奥が、感心し
た風に口を開いた。
「両面に別々の絵があるんだったら、片方の面だけで分からないとき、裏を見
れば早いかもね」
「そう、国奥さんの言う通り」
強くうなずき、同意を示す純子。
「でも、裏表両面見ても、できない人もいるかもね」
付け足して言いながら、清水の方を見やった。
「な、何だよ。おい、俺のことか」
「さあ? だけど、初めからやろうとしないのなら、絶対に完成させられない
のは間違いなし。その意味では、あんたも当てはまるかもね」
「何だと。馬鹿にするなよ。これぐらい、簡単に」
鼻の穴をひくつかせ、憤慨した様子の清水は、手を左右に引いて、ピースの
入ったビニールを破ろうとする。この場でジグソーパズルを作ってみせる気の
ようだ。
「やめてよ。今からやられたら、進行の邪魔になっちゃう」
「だ、だったら……」
頭を片手でかきながら、考える仕種の清水。大谷の方は、面白い見せ物を楽
しんでいるかのように、にやにやしていた。
「よし、冬休み中には絶対に完成させてやる。三学期の最初の日に持って来て
やるから、びっくりすんなよ」
「やれるもんなら、やってみせてよ」
口調は乱暴になりながらも、心の中で純子は、嬉しくなりつつあった。どん
な形であってもやってくれる方が、放っておかれるよりはずっといい。ジグソ
ーパズルを選んだ意味があったというもの。
「おぉい、ほんとにできんの、清水?」
大谷が笑ったまま、悪友に尋ねた。心配しているというよりも、からかって
いる感じが強い。
「おまえも手伝えよ」
「何っ? 俺が、どうして……」
「いいから、絶対に完成させるんだっ」
二人のやり取りを背中で聞きながら、純子は意気揚々と席に戻った。
プレゼントの騒動も収まったところで、紙の容器に入ったお菓子と飲み物が
配られ、次に移る。隠し芸である。
隠し芸と言っても、特別なことをする必要はない。事前の調べで、クラスの
半分以上は歌と分かったから、歌を唄う者だけでカラオケの得点を競うことに
なった。他の者はクラブ活動での成果を見せたり、有名人の物真似をしたり、
変わったところでは漫才や手品といったのもある。
鼓笛クラブの純子は最初、バトントワリングをしようと考えていた。が、教
室内では天井から下がる蛍光灯に当たるかもしれず、危ないため、仕方なく歌
にした。それだけでなく、進行役なのだからという理由で、トップに唄わされ
る始末。マイクを通して届く自分の声に違和感を覚えながら、どうにか最後ま
で唄いきった時点で、げんなりしてしまった。
「涼原さんの得点は−−七十七点。どの辺に行くか分からないけど、拍手ぅ」
カラオケ大会の司会を買って出た町田が、明るい声で言っている。
「緊張してたみたいだね」
次の次の番の富井が、話しかけてきた。
「純ちゃん、音楽の時間は、もっとうまいのに」
「はあ……。マイクを持って唄うの、初めてなんだもん。変な感じ」
「そうかなぁ? 私が初めてカラオケ行ったときは、そんなこと、全然、気に
ならなかった」
「行ったことあるんだ? じゃあ、頑張って優勝を狙って」
「あははは、私はだめ。慣れてても、基本的に音痴だから」
富井は実にあっけらかんとしている。気楽さがうらやましくなりそう。
(郁江だったら、カラオケで悪い点が出ても、平気なんだろうな、きっと)
と、妙な部分で感心してしまう。
実際の富井の点数は、六十一点だった。確かに、下から数えた方が早い順位
に終わった。
カラオケ大会は、鈴木の優勝で幕を閉じた。九十点を叩き出した彼は、高得
点を出すこつを聞かれて、「少しぐらい外しても、声は大きい方がいい」とコ
メント。カラオケの機械にもよるのだろうが、事実、この日の得点は、大声を
出すのをためらわない男子の方が、軒並み点がよかったように見受けられる。
カラオケが終わると、その他の隠し芸。立島のけん玉、前田の琴演奏、木戸
(きど)の暗算等、自分から申告してやるだけに、なかなか大したものばかり。
中でも受けたのが、清水・大谷コンビによる漫才。途中、少々下品なネタもあ
ったが、大きなとちりもなく、オリジナルと思われる話で皆を沸かせた。
「やるなあ」
漫才が終わって、拍手しながら、感嘆した様子の相羽。彼が隠し芸の取を務
めるのだが、こうも笑いを取られたあとではやりにくいに違いない。
「相羽君、何をやるんだったっけ?」
今日の準備にかまけて、その辺りを把握していない純子は、プリントにある
演目に目をやった。
「−−手品? できるの?」
「できなきゃ、名乗り出てません」
取り澄まして答えると、相羽は片手を頭にやった。
「でもなあ、これは本当に、やりにくいや」
「手品って、学芸会の出し物に言ってたけど、本気だったのね、あのときから」
「もち。今日は腕試し」
会話の途中で、出番が来た。半眼のようにぼんやりした目つきになって、相
羽は緊張した様子もなく、前に立った。
「漫才で笑ったあとには、ちょっと眠たい隠し芸になるけど、うまく行ったら
拍手を頼みまっす」
前置きしながら、相羽は教卓に緑色の厚手の布を敷いた。さらに五百円玉を
一枚取り出し、みんなに見えるようにかざしてから、右隅手前に置く。
「大きな手品はできないから、見えにくい人は、近づいてもいいよ。多分、種
までは見えないはずだしね」
自信を覗かせる相羽の言に呼応して、教室後方の者は前に寄ってきた。
純子の席からは、首を少し横に向けるだけで、よく見通せる。
「まず、このコインを使って」
相羽は右隅の硬貨を手に取ると、テーブルにこつんこつんとぶつける。種も
仕掛けもありません、という意味だろう。
それから、左手の小指と薬指の間に硬貨を挟んだ相羽は、流れるような手つ
きで、硬貨に指の階段を駆け下りさせた。それを右手でもやって見せ、再び左
手に。と、そこで変化が起こった。
左手を右手の平で一瞬、隠したかと思うと、次に見えたときには、硬貨が二
枚になっていた。
呆気に取られるクラスメートを前に、相羽は左右に一枚ずつ握った−−かの
ように見せたのだろう。右手は空で、左手から−−何故か−−三枚の硬貨が出
て来た。そんな身振りを繰り返す内に、硬貨は四枚となった。それらを一枚ず
つ、布の四隅に置いて、相羽が肩をすくめると、拍手と歓声が起こる。
「すげえ、早業!」「どうやったの?」という声が飛ぶが、それには答えず、
相羽は続けた。硬貨一枚を教卓の上で消したり、二枚の硬貨を一枚にして見せ
たり、四枚の硬貨をトランプのカード一枚をかざすことで次々に消したりと、
見事な連続技だ。種があると分かっていても、不思議に見える。
「コインの手品はおしまいにして、今度はこのトランプを」
相羽は先ほど使ったカードに加え、残りのカードを箱から取り出した。
「最初は、手伝ってくれる人がいるんだけど……先生、お願いします」
「私が?」
子供達よりいくらか後方で見守っていた福谷先生が、半歩ばかり前に出た。
指名されて驚いているらしく、普段より声が高い。
「はい。だって、先生以外だと、最初から組んでたと疑われるかもしれないか
ら」
「どんなことをすればいいのかしら」
すでにやる気満々といった表情の先生は、教卓の近くまで来ると、目の高さ
を相羽に合わせた。
「簡単です。ここに、一組のトランプがあります。並んでる順番は、この通り、
ばらばらで」
口上を続けながら、手を掲げ、トランプを広げてみせる相羽。それを素早く
元の形に整えると、カードの数字が見えないように、つまり裏向きに左手に持
った。そして上から順に、カードを二つに配り分け始めた。
「先生は、こんな風にカードを分けていってください」
相羽から福谷先生の手に、カードの山が渡った。
「こうね」
先生は、相羽が配ったカードに重ねる形で、同じ動作をする。
「はい。そのまま、好きなところまで配ってください。先生がいいと思ったカ
ードで止めるんです。僕は何も言いませんから」
「好きなところで……分かったわ」
しばらく配り続けた福谷先生は、不意に手の動きを止めた。カードはちょう
ど半分ほどが配られた具合だ。
「これでいいのね、相羽君?」
「はい、大丈夫です。カードの山が二つ、できました。先生、今度はこれらの
山を、同じように二つに分けてください。上から順に、配り分けるようにして」
「さっきと同じ要領でいいの?」
確かめてから、先生は山の一つを手に取り、二つに配り分けた。もう一つの
山も、同様にする。結局、カードの山が四つできたことになる。もちろん、相
羽の手元には使わないカード(全体のおよそ半分)が残っているが。
「どうもありがとうございました。それじゃあ、好きな山の一番上をめくって
みてください」
「先生が選んでいいのね。じゃあ」
めくられたのは、先生から見て右から二番目の山。スペードのキングが出た。
「キングですね。先生、もし、他の山の一番上もキングだとしたら、驚く?」
「え? それは……そうね。偶然でも、滅多に起こりそうにないわ。四枚のカ
ードが一致するなんて」
「確かめてみてください」
相羽の言葉に誘われるように、先生の手が一番右の山に触れる。めくってみ
ると、ダイヤのキングが現れた。と同時に、おおっというどよめきが起こった。
(何で?)
純子も傍らで、息を詰めるようにして見入っている。
先生が残りの山の一番上をめくってみると、ハートのキング、クラブのキン
グが姿を見せた。さらにざわめく教室内の空気。
「驚いた……。何もしていないのに、揃うなんて」
福谷先生は、いくらか気味悪そうに言う。演じる相羽は、緊張のせいだろう、
声を震わせて応じた。
「手品なんですから。でも、これで驚かれると、僕も困るんです。先生、最後
の手伝いをお願いします。どの山でもいいですから、キングの一枚下のカード
をめくってください」
何も言わずに、先生は左から二番目の山に手を伸ばした。ハートのキングを
どけて、その下のカードをひっくり返した。ハートのエースだった。
「エースですね。マークは同じ。このエースの力を借ります」
相羽はハートのエースを右手に取り、左手で残る三つの山のキングを横に置
いた。そしてエースを向かって左端の山に重ね、何度かこする。ハートのエー
スがあった山以外の三つに、同じことをした。
「めくりたい人、いる?」
「はいはい!」
視線を走らせる相羽に、多くのクラスメートが手を挙げた。相羽は前田、大
谷、井口の三人を指名し、三つの山のカードをめくるように言った。
前田がめくったのはクラブ、大谷のはスペード、井口のはダイヤ。いずれも
エースだった。どよめきに感心が混じり、教室中にあふれる。
「ハートのエースの力が、他のカードにも移ったみたいだ。成功してよかった」
「種明かし、してくれよ」
大谷がすかさず言ったが、相羽は相手の手にあるカードを受け取ると、「だ
めだよ」とつれない返事。そのまま、次の手品に移行した。
続いて行ったのは、カードをきちんと二組に分け、それぞれの山から一枚ず
つカードを抜き取り、元あった山とは違う山に入れる。各山をクラスメートに
念入りに切らせてから、その入れ替えられたカード二枚を当てるという趣向で、
これも見事に成功した。
−−つづく