AWC そばにいるだけで 3−8   寺嶋公香


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#3778/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 3/11  18:32  (200)
そばにいるだけで 3−8   寺嶋公香
★内容                                         16/06/19 21:04 修正 第2版
 三番目のカードマジックは、一見単純なカード当て。相羽がカードを切るの
を、誰でもいいからストップをかける。その時点で山の一番下にあるカードを
クラス全員に見せ−−クラブの3だった−−てから、相羽はこう言ったのだ。
「みんなのテレパシーを感じ取って、当てようと思います。僕の額の真ん中」
 言いながら、相羽は自分の額、眉間のすぐ上の付近を指差した。
「この辺に意識を送るつもりで、さっき見たカードのことを念じてください。
もちろん、口に出したら意味がないから、黙って」
 このころにはすっかり、相羽の手品に魅せられていたから、全員、素直に言
うことを聞く。失敗すればいい気味だと最初は考えていた者も、今や、成功を
願うようになっているであろう。
 純子は最初から、成功を願っていた。失敗されると、見ている側が気を遣わ
なければならないから。でも、今ではそんな意識も薄らぎ、不思議な手品を見
たいという気持ちが強くなっている。
(クラブの3、クラブの3よ。当ててよ、相羽君)
 眼を閉じて念じていると、相羽の声が聞こえた。
「あー、だめだめ。弱い。念じ方が足りない。みんな、もう少し、頑張って」
 誰もが必死に念じる。
(クラブの3! クラブ、3! クラブの3だってば!)
 純子も、眼を閉じる力を強めて、心の中で繰り返し唱えた。
 そこへ再び、相羽の声。必死に念じている方からすると、実にのんびりした
口調に聞こえる。
「だめー。もっと強く。強く念じて。たとえば『さっきのカードはクラブの3
だ!』っていう風に」
「え?」
 ぱちくりと目を見開く純子。どうやら他の人達も同じだったらしく、みんな、
きょとんとした表情だ。
「今、何て言った?」
 立島が聞いた。たいていのことでは驚かない彼も、口を半開きにしている。
「あれ? クラブの3で当たってた? いやあ、偶然ってコワイな」
 とぼける相羽に、「嘘だぁ」「分かってたんだろ」という、非難のような感
嘆のような、一風変わった歓声が飛んだ。
「じゃあ、最後に一つ」
 相羽は藁半紙を同じ長方形に切った紙を、皆に配り始めた。すぐそばの純子
は紙の束を受け取り、一枚抜いて、隣に回す。
「えっと、みんな、鉛筆、持ってるよね? じゃあ、説明します。これからカ
ードを一枚ずつ引いてもらって、カードの数字とマークを配った紙に書いてほ
しいんだ。ただし、他の人には何を書いたか絶対に見られないように」
 みんなが「分かった」とうなずくと、相羽はカードを何度か切って、机の上
に置いた。そして透明なビニール袋を一つ、同じく机にそっと載せた。
「僕は黒板の方を向いているから、一人ずつ順番に上から取っていってほしい。
カードの数字とマークを書いた紙は、その数字なんかが見えなくなるように折
り畳んでから、今度は自分の名前を書いてください。そうして、このビニール
袋に入れる。取ったカードは、誰にも見せないように持って、席に戻ってくだ
さい。カードは人数分に減らしているから、最後はゼロになる。カードがなく
なったら、教えてよ」
「誰から取るの?」
 黒板の方を向こうとする相羽に、町田が聞いた。
「そうだね……じゃ、勝馬から」
 勝馬は教卓の横、左隣の位置にいる。この順番だと、純子は最後になる。
 みんな、次々と席を立ち、カードを引いて戻っていく。純子は待たされてか
ら、最後に残った一枚を手にして、そのカードを確認した。
(ハートのクイーンね。これでよし、と)
 書き終えて、紙を丁寧に四つ折りし、名前を書いてから袋に入れる。カード
の方は、左の胸ポケットに滑り込ませた。何しろサンタの格好だから?、ポケ
ットはいくらでもある。
「終わったわ」
 告げると、相羽は待ちかねたとばかり、軽く首を左右に傾け、向き直った。
「これから、みんながどのカードを手にしたか、一人ずつ当てていきます。最
初は……最後まで待たせちゃったから」
 と、純子を見つめてくる相羽。
「私?」
「そうだよ。まず、マークから行くね。……サンタだから、赤は間違いないと
思うんだ。どう、涼原さん? 当たってる?」
「う、うん。でも、赤か黒なんだから、五十パーセントよ。当てずっぽうでも」
 そう簡単に当てられっこないという気持ちから、否定したくなる。
「じゃ、次はマークだね。赤なんだから、二つに絞られるけど……涼原さんは、
自分で自分のこと、優しいと思う?」
「な、何を言い出すのよ、いきなり」
 どぎまぎして、手で胸を押さえる。あり得ないと分かっていても、左の胸ポ
ケットの中を覗かれているような気がしてくる。
「うん、だから、涼原さんは優しくて、心が広い。心、つまりハートじゃない
かと思うんだ。違った?」
「え−−あ、はい。うん、うん」
 わずかに照れ笑いを浮かべた相羽に対し、心底驚いた純子は、返事が遅れて
しまった。教室全体にざわめきが波紋のように広がる。
「よし。それで数字だけど。涼原さんのイメージは……サンタの格好をしてて
も、やっぱり女子だから、クイーンだね」
「それじゃあ、クラスに四人しか女子がいなくなるぞ」
 立島の声に笑いが起こったが、純子は当然、どきり。すぐには声が出ない。
(合ってる! どうしてこんな正確に……)
「……当たってる」
 わき起こるざわめきに混じって、「嘘!」「まじ?」「組んでるんじゃない
のか」などという声が。
「涼原さん、持ってるカード、みんなに見せて」
「え、ええ。……はい」
 相羽に促されて、純子は胸ポケットからカード−−ハートのクイーンを取り
出し、高く掲げた。
「まず、一人目は大成功」
 驚きの声に満足げにうなずきながら、相羽。
「っと、その前に、紙の方でも確かめておかないとね。涼原さんのは、と」
 ビニール袋の中身を教卓の上にばらまいて、探す相羽。やがて涼原純子の名
前を見つけたらしく、一枚の紙を引き寄せ、机の上で押し広げてから、またう
なずいた。
「ハートのクイーン、間違いなし」
 言って、相羽は紙をくしゃくしゃに丸め、空にしたビニール袋へと放り込む。
「次は、同じクラス役員てことで、町田さん。君は−−」
 と、それ以降も相羽は間違えることなく、みんなのカードを当てていった。
 自分のカードを当てられたときは、もしかして全部同じカードだったんじゃ
ないかしらという疑いを抱いた純子だったが、その見方はあっさりと覆された。
各人、全く別のカードであったのだ。
(凄い。こんなにたくさんのカードを、どうやったら一度に当てられるの?)
 そのとき、純子の足下に、紙くずが転がってきた。最後の一枚を、相羽がビ
ニール袋に入れ損なった物らしい。
「あ」
「拾うから」
 教卓を離れ、こちらに来そうになる相羽を制して、純子は丸められた紙を拾
い上げた。何が書いてあるのか読み取れないが、文字の一部が見える。
(−−あれっ? 何か……変な感じ)
 理由の分からない違和感に純子が戸惑っていると、相羽の手が差し出された。
「ごめん。顔とかに当たらなかった?」
「ううん、床に直接」
 そう答えながら、紙を渡す。結局、違和感の正体は分からなかった。
 純子や相羽は、三つ目の企画のクイズ大会から、また進行役に戻る。クラス
をチーム分けして、普通のクイズの他、連想ゲームや伝言ゲーム、ジェスチャ
ーゲームなどで競う。司会進行役の方が、観客として眺めることもできて、面
白かったと言えるかもしれない。
 最後に全員で写真に収まって、おしまい、となった。

 二学期終業式の日を迎えても、純子はずっと引きずっていることがあった。
純子だけでなく、六年二組の大半の者が頭を悩ませているに違いない。
「あ、来た。なあ、教えてくれー」
 朝、相羽が来るなり、教室で待ちかまえていた勝馬が、いの一番に聞いた。
「手品の種、どれか一つでいいからさあ」
 言って、相羽の肩にしなだれかかる。昨日までならランドセルに体重を預け
ていたが、今日は手提げで登校だから、それはできない。
「重い! 全く……まだそんなこと言ってる」
 席に着いて、呆れたように額に手をやる相羽。そうする間にも、種を知りた
がっている子が男女を問わず、集まってくる。
 清水もその一人で、身を乗り出すようにしてせがんできた。
「教えてくれてもいいじゃないか。寝不足になったら、おまえのせいだからな」
「冬休みなら、いくら夜更かししたって、平気だろ。どーぞ、お悩みください」
「ちぇ」
 舌打ちしてから、周囲を見渡す清水。
「女子だけになったら、教えるんじゃないのか。いい格好しようと思って」
「教えないよ」
 清水のからかい半分、妬み半分の言葉を、相羽はさらりとかわした。清水が
何か言い返すより早く、集まっていた女子が騒ぐ。
「そんなこと言わないで、教えて」
「減るもんじゃないんだし。ね?」
「秘密にしておきたいのなら、絶対、喋らないから」
 富井や町田、井口らの勢いに弾き出される風にして、清水達男子は退散を余
儀なくされた。
 そんな様を何とはなしに観察しながら、純子は両手で頬杖をついていた。
(よく続くなあ、みんな。クリスマス会が終わってすぐ聞いて、教えないと言
われたんだから、あいつの口を割らせるのはあきらめた方がいいのに。私だっ
て、種を知りたいのは山々だけど)
 純子は自分で種を見つけてやろうと、ここ数日、暇を見つけては考えている。
が、全く分からないでいる。
 そのとき、相羽の声がふっと、耳に飛び込んできた。
「手品の種は、知らない方がいいんだってば。知ればきっと、がっかりするよ」
(えっ?)
 思わず、頬杖を解き、相羽の方にしっかりと顔を向ける。
(あの人と同じこと言ってる)
 純子は思い出していた。この間の日曜日、クリスマス会用のプレゼントを買
いにP**に行ったときに出会った、不思議な人のことを。名乗っていないの
に、純子の名前を言い当てた不思議な人。そのからくりは、ばかばかしいぐら
いに単純だった。
「がっかりなんかしないって。だから、教えてよぅ」
「だめだよ。手品による驚きが大きければ大きいほど、種を知ったとき、幻滅
する。これまでの経験から、分かるんだ」
「経験って、昔、種明かししたことあるのね?」
 町田の問いかけに、軽くうなずく相羽。
「うん。前の学校で……四年のときだったかな。友達の前で手品やって、受け
てさ。種を教えろって頼まれたから、調子に乗って種明かしした。そうしたら、
『つまんねえの』って言われてさあ。がっくり」
「……私達は、そんなこと言わないわよ。ねえ?」
 皆に同意を求めるように、町田は他の女子を振り返った。「ええ」という具
合に、首を縦に振りながらの返事があった。
「どう言われても、だめ。まあ、この間やった分は、手品の本を見ればほとん
ど載ってるから、どうしても知りたかったら本屋に行って探して。それか、自
分で考えるかだね」
「考えて分からないから−−」
 町田の台詞の途中で、教室の前のドアが、がらりと引かれた。先生の到着。
手には大きな紙袋を提げている。
 当然、全員、着席せねばならない。相羽の周りから、ようやく人垣が消えた。
 クラス委員長として相羽が号令し終わると、先生は紙袋からある種の紙の束
を取り出した。
「早速、お待ちかねの通知表を渡しますから、呼ばれた人は」
 げっ、わぁ、という声に、先生の言葉はかき消される。
「静かに!」
 先生の注意のあとも、ざわつきを残したまま、「儀式」は始まった。
(……よかった)
 通知表を受け取り、他の子から見られぬよう、こっそり覗いた純子は、ひと
まずほっと胸をなで下ろす。何故なら、下がっていると思っていた成績が、一
学期並を維持していたから。
(副委員長の仕事、結構、忙しかったもんね。勉強、あんまりできなかったけ
ど、これなら何とか)
 不安でどきどきしていた気分も回復。その上、通信欄の書き込みに、副委員
長の仕事をよく頑張りましたとの誉め言葉を見つけ、一層、機嫌がよくなった。
「はい、席に着いて。次は、本当にお待ちかねの物を配るから」
 と、福谷先生は再び紙袋に手をやった。
 何だろ?と、誰もが不思議がっている。
 先生は少し子供っぽい笑みを見せて、袋の中の物をクラス全体に示した。
「クラス会の写真ができたから、渡しておくわね」
 今度は歓声が起こった。怪訝な表情だったみんなが、気色をたたえた顔に一
変した……一人を除いて。
「こ、これがあったのね……サンタ姿」
 思わず、純子はつぶやいていた。ある意味、通知表よりも嫌かもしれない。

−−『そばにいるだけで 3』おわり





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