AWC そばにいるだけで 3−6   寺嶋公香


        
#3776/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 3/11  18:29  (200)
そばにいるだけで 3−6   寺嶋公香
★内容
「そうよね。全員のプレゼントを入れて、持たせるなんて」
 袋の中身は、クラスのみんながそれぞれ持って来たプレゼント。会が始まる
前にそれらを集め、前田が見つけてきた靴下型の紙袋に一つずつ入れ、さらに
まとめてこの袋に入れた。
「うわ、重い」
 袋の口を両手で握り、持ち上げようとしてみた。ずしりと来る。
「一クラス分を集めると、結構な重さよね」
「横から支えようか」
 二人が手を伸ばして持ってくれる。純子の両手に伝わる重みが減った。
「あ、ありがと。うーん、でもさ、サンタが支えてもらってたら、格好つかな
いね。教室に運ぶだけだし、頑張る」
「そう?」
 心配げに聞いてくるのへ、大丈夫と返事する。
「じゃ、私達は教室に戻るから、歌が終わったら、ね」
 前田と町田は、後ろの扉から教室に入った。
 廊下に一人残ると、緊張が高まってきた。
(やっぱり恥ずかしいなぁ……。でも、最初だけよ、最初だけ)
 中の様子の分からない教室から、オルガンの伴奏に合わせて、ジングルベル
の歌が聞こえてきた。みんながこの曲を唄い終わったら、それを合図に教室に
入る段取りになっている。
(これが終われば、あとは楽しいことばかり。うん、楽しもうっと)
 付け髭を手にすると、純子は顔に当てた。

 わずかに手元を震わせながらも、最後の一人の持つクリスマスキャンドルに、
火を移すことに成功。ほっと息をつき、自分の持つ分を消してしまいそうにな
って、慌てた。
 教壇へ引き返し、あらかじめ考えて置いた台詞を口にする。
『炎を見つめてみてください。今、私達の手にあるこの明かりは、今年の聖夜
を照らす星々から、ちょっぴり早く分けてもらった物です。私達を暖かく包ん
でくれることでしょう。自分の内を照らせば−−優しい気持ちになれる。自分
の周りを照らせば−−たくさんの友達がいると実感できる。この光にお願いを
すれば−−かなえてくれる……かも』
 喋りながら、純子はみんなの様子を、ちらっと伺っていた。笑われていない
か、気になる。
(−−よかった)
 言っている当人は結構恥ずかしいのだが、他の者は全員、真剣で神妙な表情
をしていた。クリスマスという雰囲気のおかげかもしれない。
 いくらかうれしくなって、純子は台詞を気分よく言い終えた。
『大切な誰かがいる人みんなのために−−メリークリスマス』
 それから「きよしこの夜」を皆で唄い、キャンドルの火を消した。煙の匂い
が、漂うように立ちこめる。
(ああ、終わり! 格好も恥ずかしかったけど、キャンドルサービスって、こ
んなに神経を使うんだ)
 大役を終え、付け髭を外した純子がほっとしているところに、もう一人の進
行役、相羽が声をかけてきた。
「着替えるの、待ってて」
「え?」
「椅子を並べ終わったらすぐ、プレゼントを配る予定だろ。配るのはやっぱり、
サンタでなくちゃ」
 相羽は、純子が先ほど苦労して担いだ袋を見ながら、さも当然のように言っ
た。袋は、黒板のある壁の際に置いてある。袋の中から一つずつ品物を取り出
し、順番に回していく手筈になっているのだ。
「椅子を並べてる間に着替えられるわよ。それに、私だって、もらう立場」
「いいからいいから。サンタの格好でもらっても、おかしくない」
 純子の言葉など意に介さぬ風に、相羽。その様を見て、純子は思った。思っ
たことを、口に出す。
「……相羽君、あなたね、もしかして」
「ん?」
「サンタの格好、ずっとさせたくて言ってるんじゃないの?」
「−−当たり」
 悪びれず、相羽は認めた。ほんの少し、頬を赤くしている。
「折角だし、写真に撮ってやろうと思ってさ」
「写真? カメラなんてないでしょうが」
 純子の大声は先生に聞こえたらしい。先生が振り返った。
「カメラなら、先生が持って来たわよ」
 と、机の上にあったコンパクトなカメラを持ち上げる。
「せ、先生。何で、そんな物……」
「聞かされてないのね。相羽君に頼まれたのよ。クラス会の写真を撮っておく
のって、悪くないと先生も思ったから」
 この答に、純子は相羽の顔をきつく見据えた。
「このっ、わざと言わなかったわね!」
「サンタが怒っちゃだめ。それにさ、もう撮ったんだよ」
「ええ? い、いつ?」
 狼狽して眼をきょろきょろさせる純子に、先生が再び答える。
「さっきのキャンドルサービスよ。涼原さん、緊張してたから、気付かなかっ
たのね?」
「し、知りません、全然……そんなぁ……」
 全身の力が抜けそう。今の姿が写真に残るなんて、考えもしなかった。
「おーい、早く!」
 男子の急かす声が、いくつも上がる。教室を見渡せば、椅子が円形に並べら
れていた。準備が整ったのだ。
「ほら、時間もなくなった」
「……ぜーったい、恨んでやるから」
 小さな声で相羽に言って、純子は帽子だけ脱いだ。
「相羽君にはトナカイになってもらおうかな」
「え? 何て言った?」
「袋、持ってよ。渡すとき、床に置いたままじゃやりにくいから」
「−−うん、いいよ」
 相羽はあっさり引き受け、袋を抱きかかえるように持ち上げた。
「さあ、どうぞ。サンタクロースさん」
「……働き者だね、トナカイ君は」
 苦笑しつつ、切り返した純子は、袋の口から手を入れ、でたらめに一つを取
り出すと、一番近い席の子に渡した。その子は右隣の子に、品物を回す。これ
を繰り返すと、やがて、先生を含めた全員にプレゼントの入った袋が行き渡っ
た。最後に残った二つを相羽と純子が持って、席に着く。
「曲、始めまぁす」
 町田がレーコダーの再生ボタンを押した。しばらくして流れてきたのは、何
故か『アルプス一万尺』。この曲の歌い出しから終わりまで、テンポに合わせ
て反時計回りに品物を順送りにしていく。どれに何が入っているのか、誰も知
らないので、停滞や早回しは起こり得ない。
 最後のフレーズを歌い終わった。瞬間、何とも言い難い空気が、教室全体を
包む。今、手元にある物が何なのか、期待と不安でいっぱい。そんなところだ
ろうか。
「じゃ、みんな、開けてください。誰がくれたのか聞かれたら、なるべく名乗
り出る。もらった方は、プレゼントの中身がもしも気に入らなかったとしたっ
て、相手に文句を言わない。運が悪かったとあきらめるよーに。あと、万が一、
自分で自分にプレゼントしちゃった人は、言ってよ」
 おどけた調子の入った相羽の言い方に、みんなが笑った。クリスマス会でプ
レゼントの交換をやると決まったとき、全員で合意した約束事だから、誰もが
心得ている。
(うーん……気になる)
 純子は何をもらったかよりも、自分が用意したプレゼントが誰の手に渡った
のか、そちらの方に注意を向けていた。
「開けないの?」
 隣の相羽が、不思議そうにしている。
「あ、開けるに決まってるでしょっ。そっちこそ、早くしたら」
 他の者はほとんどが開け始めているのに、相羽は純子と同じく、靴下型の袋
から品物を取り出してさえいない。
「自分が用意したやつ、どこに行ったのか、気になってさ」
「−−あ、そう」
 「私と同じ」と言うのもはばかられたので、純子は素気なく応じて、仕方な
しに自分の手にあるプレゼントを開けにかかった。
 袋の上からの感触は、さほど大きな物じゃない。細長い直方体といった感じ。
 袋から出すと、箱には淡い桜色の地に雪の結晶を模した白の模様が散りばめ
られた包装がされ、さらに赤いリボンが角にかかっていた。
 と、そのとき、隣で息を飲む相羽の様子が伝わってきた。何だろうと思って、
純子が顔を向けるより早く、相羽が早口で言う。
「それ、僕のだ」
「ええっ、ほんと?」
 箱の外装から、女子の誰かのだと漠然と感じていた純子は、まじまじと相羽
を見返した。そして手元の小箱と、相羽の顔を見比べる。
「すぐ隣に行くなんて、参った。恥ずかしいな」
「今さら何言ってるのよ。開けるわよ」
 偶然に内心、驚きながらも、純子は相羽の反応がおかしくて、故意にきつい
調子で言った。
「いいよ。どちらかと言えば、女子向きかもしれないし、まあ、助かった」
 相羽がぶつぶつ言っているのを聞き流しながら、金ぴかのシールをはがし、
包装紙を取る。中の箱には、何の模様も文字もない。蓋を開けた。
「これ……万華鏡ね?」
 現れた千代紙模様の丸筒は、どう見ても万華鏡だった。
「そうだよ。ただし、パズルのおまけ付き」
「パズル? だってこれ、普通の万華鏡」
 純子は手に取り、端に開いた穴から覗いた。
(−−わあ)
 鏡と小さな紙切れ達が織りなす幾何学模様が、華やかさを伴って飛び込んで
きた。思わず、声を上げそうになる。
「……きれいだけど、普通の万華鏡じゃないの」
「中じゃなくて、筒の周りだよ」
 言われてみて、手触りが滑らかでないことに気付く。筒を巻く千代紙にはと
ころどころ、切り込みが入っているようだ。
「模様がパネルみたいになっていて、動くんだ」
「……あ、動く」
 指でなでると、一枚が筒の表面を滑った。
「一箇所、何もない空間があるだろう? そこを使って、ばらけさせておいた
模様を元に戻すっていうパズル」
「ふうん。凝ってるんだ」
 手の平に乗る筒に、二つの楽しみ方が詰め込んであると知って、感心した。
いや、二つどころではない。万華鏡が見せる模様は、数え切れないほどのパタ
ーンがある。だから、無限大プラス一だ。
「気に入ってくれた?」
「うん」
 そう答えると、相羽は安堵と喜びとをない交ぜにしたような顔になった。
 純子はすぐに言い足した。
「誰から、どんな物をもらっても、嬉しく感じるだろうなって思ってるんだか
らね。勘違いしないでよ」
 純子の言葉が耳に届いたのかどうか、相羽はすでに自分のもらった分を開け
るのに夢中になっているようだ。
(人の話を……もう。いいわ、私の買ったあれ、どこかな。……まさか、相羽
君に?)
 あまりに偶然が続くものだから、今日もそうかもしれない。そんな思いがよ
ぎって、純子は相羽の手元を覗き見た。
(……よかった。違う子のだ)
 まだ開封されていないが、その箱は、純子が用意したプレゼントとは全く別
の物だ。
 純子は何だか気になって、続けて相羽の手元を見ていると、立方体の箱から
また立方体が出て来た。六面の内、五面は黒く塗りつぶされ、一つだけ透明。
そこから覗くと、立方体の内部に青い小さな玉が浮かんでいる。
「貯金箱だ」
 相羽は、硬貨の投入口らしき切り込みを軽くさすっている。
「何だか、手品用品みたい」
 内部で浮いているように見える青い玉を注視しつつ、純子は言った。鏡を使
った仕掛けを知っているので驚きこそしないが、やはり不思議な印象を受ける。
「誰のかな」
 相羽のつぶやきが届いたのか、タイミングのよい反応をした者があった。
「あ、相羽君に渡っていたんだわ」
 先生の声。どうやら、「先生は何を持って来たの?」と周りの子らに聞かれ
たのを受け、誰に渡ったのかを目で追っていたらしい。
「これ、先生のですか? うわー、光栄だなぁ」
 口ではそう言いながら、顔を苦笑いで歪めてみせる相羽。言うまでもなく、
受けを狙ってやっている。
「あなただったら、あまり意味ないかもしれないわね。無駄遣いする子に当た
ってほしかったんだけど」
 笑いが起こった。先生も、本気か冗談か、区別しにくいことを言ってくれる。
 純子も笑っていたが、はたと思い出した。自分のプレゼントが誰に渡ったの
か、知りたい。全員、プレゼントを開け終わっているので、素早く視線を走ら
せる。
「あ」
 自分の用意した品を見つけたとき、思わず、短く叫んでしまった。

−−つづく




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