AWC そばにいるだけで 3−5   寺嶋公香


        
#3775/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 3/11  18:27  (200)
そばにいるだけで 3−5   寺嶋公香
★内容
「誰が書いたか知らないけど、何でもかんでもやらせる気かよ、全く」
 こぼす相羽。
「誰でもいいんだろ?」
「そうだそうだ。次、行こう!」
 野次に押される形で、相羽は二枚目を手に取った。
「……まただ。−−涼原さん」
「え?」
 思わず聞き返す。「まただ」と言うから、相羽の名前の下に二本目の線を引
こうとしていたのだが、意味が違った。
「僕らの手間を増やす気だ、これは」
 相羽が再びこぼす横で、純子は悪い予感が当たったように思えて、滅入って
きた。うつむき加減の頭に合わせ、髪が垂れ下がる。
 開票は続き、男子は主に、相羽と立島の二人にばらけたが、女子は純子一人
にほぼ集中。大差をもって、純子が最多得票者となってしまった。
「冗談じゃないよー」
 副委員長として、たいていの役柄は引き受けるつもりでいるが、これだけは
勘弁してほしい。男装は一度で懲りている。−−と言いたかったが、多数決を
取るのに反対しなかったのだから、そんな抗議もできない。
「あらら、また涼原さんに決まっちゃったわね。まあ、会の最初だけだから、
無理じゃないでしょう?」
 先生に尋ねられ、よほど「無理です」と答えようかと思っても、やはり責任
感から言い出せなかった。
「え、ま、まあ、何とか……できると……思います」
 精一杯、嫌そうな顔をして、そう答えるにとどめた。
 話し合いが終わり、先生が教室を出るや、冷やかしなのか激励だか分からな
い声が、純子に浴びせられる。女子からの「頑張って」や「案外、似合うかも」
なんてのはともかく、「また名演技が見られるのかなあ」というものは、から
かわれているように感じられてならない。しかも、声の主が清水と大谷と来た。
「うるさいわね。劇じゃないんだから、名演技も何もないわよっ」
「そんなこと言って、嬉しいんだろ? 涼原は男の格好するの、好きだもんな」
「誰が!」
 手を伸ばし、つかまえてやろうとしたが、素早く逃げられてしまった。廊下
いっぱいに、「やーい、おとこおんな」という実に子供っぽい声が鳴り響くの
を、純子は身震いしながら聞くしかなかった。
「あいつらぁ」
「相手にしない方がいいってば」
 怒りに声を震わせているところへ、前田が言ってくる。
「放っておいたら、向こうもばからしくなってやめるわよ」
「うん、それは分かってるんだけれど、放っといたらつけ上がるかも」
「とにかく今は、サンタ役のことを考えなきゃ。嫌でも、選ばれたんだから」
「べ、別に、嫌だなんて、私……」
 見透かされた思いから、口では否定する。
「嘘。顔に出てる」
 ずばり言われて、指差された。当たっているだけに、純子には言葉がない。
「私だって嫌だもの。さすがに、おじいさんの格好はねえ」
「でしょ! 多数決になったときから、私、嫌な感じしてたんだ。劇のあれで」
「仕方ないところもあるわね」
「他人事だと思ってえ」
 二人で会話を弾ませんていると、相羽に呼ばれた。
「おーい。細かい打ち合せ、したいんだけど」
「あ、そうか」
 慌ててそちらに足を向ける。その途中で、前田へと振り返り、
「紙袋、お願いね!」
 と言った。「任せて」と笑顔で返事して、前田は廊下へ出る。
「隠し芸の順番なんだけど」
 相羽の声を聞きながら、純子は近くの席に座った。

 はぁ−−。姿見の前で、ため息をつく純子。その拍子に、付け髭がずれた。
ついでだからと、手荒く取る。
(自分一人でも、恥ずかしい……)
 赤い服に赤い帽子。今の純子は全身、赤尽くめと言っていい。
 借りたサンタクロースの衣装を持って帰り、試着してみたのだ。サイズは問
題なかった。が。
「トナカイの方がましかも」
 つぶやいてみて、つまらないことを言ったと後悔する。トナカイはトナカイ
で、嫌かもしれない。それ以前に、トナカイ役なんてないのだが。
(誰か代わってくれないかなあ)
 細い先っちょを引っ張り、帽子を取る。ストレートに整えた髪が、一気に流
れ出た。帽子に無理矢理押し込んでいたせいか、くしゃくしゃになっている。
 当日はポニーテールにしといた方がいいかも。強くそう思った。
「純子、電話」
 母親に急に呼ばれ、びくっとしてから返事する。
「誰から?」
「富井さんよ」
 何となくほっとして、送受器を受け取る。
「はい? 郁江?」
「やっほー、どうだった、サンタの服?」
「……今、着てるとこ」
 我が身を見下ろしながら、純子は憮然とした声で答えた。
「へえ、そうなんだ? 似合ってる?」
「分からないわよ、もう。郁江、あなたねえ、まさかサンタの服が似合うかど
うか、聞きたいだけで電話してきたの?」
「違うよぅ。買い物のお誘い」
「付き合わせる気? サンタの格好してるから、忙しいんだけど」
 皮肉を込めて言い返したが、向こうには通じなかったようだ。郁江は相も変
わらず、嬉々とした調子で続ける。
「付き合ってもらうんじゃなくてぇ、一緒に買いに行こうよ。いいでしょう?」
「何を買うの?」
「やだなあ、クリスマス会のプレゼントよ。決まってる」
「あっ、そうね。そろそろ用意しないと」
「だから、一緒に行こっ。久仁ちゃんや町田さんも誘ってさ」
「うん。いつが−−」
 ふと、違和感が起こる。何か違う。
「どうしたの、純ちゃん?」
 黙った純子を心配したらしく、富井は真面目な口調で聞いてきた。
「ねえ、郁江。私、考えたんだけど、プレゼントは一人一人、別々に買った方
がいいと思う」
「ええ? 何で」
「一緒に買いに行くと、他の人が何を買うのか、分かっちゃうじゃない。楽し
みがなくなる」
「言われてみれば……そうだね」
 すんなり、納得した気配の富井。
「それにさ、一緒だと何を買うか、ついつい相談しちゃうかも。みんなが同じ
ような物を買ったら、それこそ面白くない」
「うん、そうよね。分かった、この話はなし。一生懸命考えて、一人で買いに
行くことにする」
「……ねえ? ちなみに、私が今、何を望んでいるか分かる?」
 思い付きで、純子は尋ねてみた。
「うん? 純ちゃんなら、CDでしょ。いつか言ってた」
「そういう現実的な意味じゃなくてさ。友達の誰かからもらえるとしたらの話」
 クリスマス会用に買うプレゼントにかけていい額は、上限が決められている
のだ。CDアルバムはとても買えない。
「うーん、難しい」
「だったら、夢の話でいい。こうなったらいいなっていう」
「じゃ……胸!」
「−−あのねえ」
 本気でずっこけそうになった。送受器を改めて強く握る純子。
「郁江は大きいですよ、どうせ。うらやましいわっ」
「ひがむなひがむな。もうすぐ、純ちゃんも大きくなるって」
「そんな話じゃないっての! 私がほしいのは」
 そこまで言いかけて、気が失せた。
「……何?」
 聞きたがる富井を適当にごまかし、電話を終える。
(誰でもいいからサンタクロース役、代わってほしい。これが今の私の望みで
すよーだっ)

 日曜日にクリスマス会用のプレゼントを買いに行った純子は、その帰りしな、
相羽と出くわした(※それまでにあった短いいきさつについては、『そばにい
るだけで 番外編』をどうぞ)。
「お客さん、多いね」
 言いながら、相羽は立つ位置を移動した。つられて純子も動いたが、
(何でだろう?)
 と振り返って、その理由が分かった。今まで店の出入り口近くに立っていた
ので、他のお客の邪魔になっていたらしい。
「何を買ったの−−と、聞かない方がいいんだろうな、ここは」
「さすがぁ、分かってる」
「楽しみがしぼんじゃうからな。というわけで、僕も一人で買いに来ました。
それじゃあ」
「もう行っちゃうの?」
「そっちこそ、急いでたんじゃなかったっけ」
「急いでるけど……お願いが」
 何だかもじもじしてしまう。こんなストレートに言うつもりはなかったのだ。
明日、学校でもよかったかもしれないと後悔する。
「僕にできることなら」
「じゃあ、言うけど……サンタ役、代わってほしいなって……」
 相羽のぼんやりした目が、まん丸になった。
「……確かにできることだけど、どうして僕に?」
「だって、二番目に票が多かったの、相羽君だったでしょ」
「そういう理由。なるほどね。でも、やだ」
 意地悪く言って、相羽は舌を小さく出した。去年、風邪で休んだ彼を純子が
見舞ったときと同じように。
「−−何でよー。期待させといて!」
「みんなの希望は尊重しないとね。委員長に選ばれたとき、約束したし」
「……もう」
 にこにこしている相手を見ていると、あきらめも早くつく。
「僕も楽しみにしてるから」
「ま、まさか、あんた……私の名前を書いた?」
「−−さあ、どうでしょう?」
 気取った物腰で謎めかす相羽。もっとも、謎でも何でもないが。
「帰るわっ」
 歩き出した純子に、相羽の声が届いた。
「大丈夫、きっと楽しいって」
 そう思うんなら代わってよ、と言いかったのに、実際に口にした言葉は何故
か違っていた。
「盛り上げてよね!」

 前田と町田の二人に手伝ってもらって、着替えを始める。まず、今着ている
服を脱ぐ。と言っても、全部脱ぐわけにはいかないから、上はTシャツ一枚、
下は体育の半ズボンになるだけ。
「うわぁ、鳥肌っ。寒そ!」
 悲鳴のように小さく言って、町田は純子の二の腕辺りをさすった。逆立った
毛に触れて、くすぐったい。
「上を早くぅ」
「ごめんごめん」
 長袖の赤いコート……に似た上っ張り。言うまでもなく、サンタクロースの
衣装。腕を通すとき、袖口の白いふわふわが手の甲をなでて、さっきとは別の
くすぐったさを感じる。
「大きめだね」
 ボタンを留めた姿を評して、町田。
「だぶだぶっとした感じの方が、サンタクロースっぽくていいんじゃない?」
 前田が言って、ズボンを手渡してくる。こちらは純子一人で足を通した。上
靴を脱いで、慎重に。履いてみると、やっぱり、少しだぶだぶ。パジャマみた
いに見えなくもない。
「靴はここに置くわよ」
「はーい」
 すぐ足下に置いてもらった茶色の靴に履きかえる。サンタクロースが、学校
の上履きをしていたらおかしいというわけ。
「帽子、被ってみて」
「−−こう?」
 先の細い帽子を頭に乗せ、小首を傾げる。前田の手が伸びてきて、手直し。
「もうちょっと、こっちにこう……これでいいわ」
「うん、上出来」
 満足できたか、しきりにうなずく町田。それから二人は、後ろを振り返った。
「さあ、問題の袋だけど」
 サンタが背負う白い大きな袋が、廊下の隅に置いてあった。一抱えはある。
(改めて見ても、大きい)
 純子も袋を眺め、そんな感想を持つ。それが愚痴になって、言葉に出る。
「中身を入れるなんて、思ってなかったわ」

−−つづく




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