#3774/5495 長編
★タイトル (AZA ) 97/ 3/11 18:26 (200)
そばにいるだけで 3−4 寺嶋公香
★内容
冬休みには楽しみなイベントが二つはあると言えるだろう。始まってすぐ、
その一つがやって来る。
「サンタがいないと知ったのは、いつだったか」
国奥が近くの席の友達にそう聞いたのが、始まり。
「うーん、二年生の頃は信じてた気がする」
「私は一昨年までかな。お父さんがプレゼント置いて行くのを見ちゃって」
「周りの人が言っても、信じなかった口じゃない?」
「俺、幼稚園のとき。つまんねー親でさ。直接渡すんだぜ。『ほい、サンタか
らだぞ』って」
「きゃはは、それ、かわいそうっ」
二学期ももうすぐおしまいのある日、クリスマスあるいはサンタクロースの
話で盛り上がる。
「相羽君は?」
国奥が相羽に話を振ってきた。顔を向けた拍子に、長い髪が机の上をなでる。
相羽は委員長の仕事をしていた。副委員長の純子、書記の町田とともに、今
学期最後のお楽しみ会−−季節柄、クリスマス会−−の企画について、まとめ
ているところ。今度の水曜日だから、あと五日。
相羽は、皆のお喋りはちゃんと聞いていたらしく、例によってぼんやりと答
え始める。
「僕? いると思ってる」
「−−今も、てこと?」
「そうだよ」
「嘘ぉ!」
大げさに反応したのは富井。彼女だけでなく、話の輪に加わっていた男女全
員が注目する。
(何を言い出すのよ、こいつは……)
その一人、純子は黙って相羽を見やった。
「本気か? 受け狙いで言ってんじゃねえの?」
「……じゃあ、聞くけど」
大儀そうに頭をかきながら、椅子の上で身体の向きを換えた相羽。
「みんな、宇宙人はいると思う?」
「いるんじゃないの、宇宙全体で考えたら」
「いるかよ!」
「人間みたいなのじゃなくて、怪物みたいのならいるかも……」
議論百出、収拾がつかなくなりそうだ。
「分かった。それなら、ネッシーは?」
これもいる・いない、真っ二つに分かれてしまった。
「結局、何が言いたいわけ?」
純子がたまらず、相羽に聞く。
「待ってよ。もう一つだけ。一つ目小僧は?」
「いないよ!」
今度はその場の全員が揃って同じ答。
「ふうん。何故、言い切れる?」
「決まってる。一つ目小僧って、人が考え出し物じゃないか」
勝馬が代表する形で主張する。
相羽はそれを予測していたかのように、笑った。
「それなら宇宙人やネッシーなんかも、人が考え出した物かもな。人が想像し
た物というか」
「それはそうだけど」
返答に窮してしまう勝馬。
代わって、国奥が口を挟んだ。
「目撃者がいるかどうか、じゃない? 一つ目小僧を見た人なんて、聞いたこ
とない」
「今は少なくなっただけかもしれない。昔はいたかもね」
「屁理屈だわ」
「サンタだって似ていると思うけどなあ。小さい頃、見たことがある人、いる
んじゃないか? それを、ちょっと大きくなったからって、あれはお父さん、
お母さんだったと思い込んでいるだけかもね」
いつの間にか、相羽の顔からぼんやりは消え、いかにも愉快そうな表情へ。
「実際、サンタは本当にいた人が元になってできた伝説だって、本で読んだこ
とある。セイント=ニコラスだったっけ、そういう名前の人が、貧しい家の女
の子にお金をこっそりあげようとして、その子の家に出向くんだ。だけど、ど
こも鍵がかかっている。どこか開いたところはないかと探してみたら、屋根に
煙突が見えた。ニコラスはこれだと思い、屋根に登り、煙突から金貨を投げ込
む。一方、女の子は雪で濡れた靴下を乾かすために、暖炉の側につり下げてい
たんだ。朝になって乾いたかどうか、靴下を手に取ってみると、中から金貨が
何枚か転がり出た……」
みんな、聞き入っていた。相羽の話が終わると、一斉にざわめく。
「おもしろーい!」
「本当かよ?」
「本に書いてあったんだよ。よくできてる話だと思うよ。サンタは煙突から入
ってきて、靴下にプレゼントを入れていくっていうのと、ぴったり重なる。名
前だってさ、セイント=ニコラスとサンタクロース、似てる」
「それ、本当だとしても、昔の話だろ?」
男子の大部分は不満そうに文句をつける。
「そうだよ」
相羽は、またぼんやりした表情に戻って、素直に認めた。
「でも、他人のためを思ってプレゼントを贈る人なら、今でもいくらだってい
るだろ? そういう人とサンタクロース、何も違わない。別に北極だか南極だ
かの家から、トナカイのそりに乗って飛んで来なくてもいい」
「……付き合ってられねー」
男子達は呆れてしまったらしい。わらわらと散っていく。
「案外、ロマンチストなんだ」
町田や国奥、富井ら、女子の方は声を弾ませている。サンタクロースの存在
を信じるかどうかはともかく、相羽の話が気に入ったらしい。
「結構、現実的なつもりだけど……」
机へと向き直り、相羽はぼそぼそと返事した。
「そうは思えないわよ。ねえ、どうしてそんな話、知ってるの?」
「どうしてって、理由なんか。ただ、不思議な物事とか伝説とか、好きなんだ。
推理小説好きなのと関係しているのかもしれない。手品も好きだし」
答えてから、本来のやるべきことに戻ろうと、座り直す相羽。
(本棚に、そういう本もあったような。分厚いのも持ってたっけ)
相羽の家を見舞いで訪ねたときを思い出す純子。急におかしくなってきた。
思わず、口走る。
「じゃあ、相羽君。昆虫と化石と手品と推理小説が好きで、その上、伝説が好
きってことになるわねぇ」
「ん、まあ、そう」
適当な相づちを打つ相羽とは好対照に、富井らが素早い反応を見せた。
「昆虫や化石って、何よ? どうして純ちゃんが、そういうことまで知ってる
のかしらあ?」
「え、それは……」
しまったなと思いつつ、相羽の顔をちらりと見やる。が、彼はちょうど町田
と話しており、気付いてくれない。やむを得ず、言葉に出す。
「言っていい?」
「あ? ああ、別にいいんじゃない。しょうもないことだよ」
あっけらかんとした相羽の返事に、純子は拍子抜けした。
(本当に話、聞いてたのかな)
疑いつつも、ともかく、夏休みの出来事二つを説明する。
「−−これだけ。だから知ってるわけよ」
「そうか。あのときの宿題も、元々、虫がきっかけになってたんだ?」
富井は納得したようにうなずいてから、今度はじーっと純子を見据えてきた。
「何よ」
「意外だなあって」
きょとんとする純子へ、次に国奥が改めて言った。
「涼原さんが化石に興味あったなんて、知らなかった」
「あ」
そのことがあったかと、純子は口を押さえる。
「自由研究が化石だったのも、本当に好きだからだったのね」
「恐竜ならまだ分かるけど、化石は広すぎない? 珍しい」
口々に言われ、気が萎えてきた純子。
(思ってた通り。言うと、変な目で見られる。だから、やなんだ)
「知らない面が色々あった方が、面白いじゃない」
相羽が唐突に言った。なかなか進まぬ作業に苛立つ風でもなく、口調はあく
までゆっくりと。
「ある人のこと、全て知ってしまったら、そのあと、きっとつまらなくなる」
「言われてみれば……そうかも」
相羽が言ったからなのか、富井や町田らは大人しくうなずいている。
(どこかで耳にしたと思ったら、少し前に電話したとき、似たような話をして
たっけ)
そんなことを思ってから、ふっと、応援に回ってくれたのかなと感じて、純
子は名を呼んだ。
「相羽君、あのね」
「そろそろ仕上げようぜ。二人とも、お喋りのしすぎ。何とか、先生が来るま
でに−−」
相羽が言ったのと同時に、先生が教室に入ってきた。
「あちゃぁ、間に合わなかった。帰るの、遅くなるな」
「ごめーん」
「でも、相羽君だって、サンタの話、したよ」
などと言いながら、みんな、各自の席に急ぎ気味に着いた。
福谷先生からの連絡が終わって、いよいよクリスマス会の話題に移る。
「できてる? どんな感じになった?」
先生の声に、相羽は席から立ち上がった。
「まだ完成じゃないんです。細かい進行とか役目が決まらなくて」
「そうなの? でも、大きな変更はないんでしょう?」
クラスの話し合いで、大まかなところは決められている。
「はい」
「進行は相羽君達に任せます。でも、分からない点や難しいところがあれば、
いつでも言ってきて。早い方がいいのは、もちろんだけれど」
「はい。あと、決めなくちゃいけない話が少しあって、誰がサンタ役をやるか
ということと、全員の袋をどこで用意するかということが」
サンタ役というのは、サンタが他のみんなにキャンドルサービスを行う案が
採用されたのだ。サンタをやりたがる人がいないのが問題。
もう一つの、全員の袋とは、みんなでプレゼントを用意して、交換するのに
使う。プレゼントを一つずつ持って全員で輪を作り、曲が流れる間、プレゼン
トを横の人に回す。曲が終わった時点で手元にある物が、自分へのプレゼント
になる。そのとき、外見から誰が用意した物か分かっては面白くないから、全
部、同じデザインの袋で包んでしまおうという狙い。
「それじゃあ、早く決めないと。今からね」
先生に促され、相羽と純子は前に出た。書記の町田は、机を離れなくていい。
「袋の方は、いいのを見かけたんだけど、言っていい?」
ありがたいことに、意見を求めるより先に、手を挙げた者がいる。前田だ。
「どうぞ、言って」
「駅を出て、少し行ったところにP**があるでしょう? あそこに入ってい
るフロムWっていうお店で、大きな靴下の形をした紙袋を見つけたの。だいぶ
大きくて、たいていの物なら中に入れれば、どれがどれだか分からなくなると
思うのね」
「数は足りるのかな?」
相羽がもっともな質問をする。
「あの量だと千枚以上あったから、すぐに行けば大丈夫よ、きっと」
「値段は?」
今度は純子。あまり値が張ると、それがまた障害になる。
しかし、前田の情報に抜かりはなかった。
「心配いらないわ。一枚十円だって。店で五百円以上の買い物をした人には、
その紙袋をくれるぐらいだから」
「そう。それなら」
「決定だね」
クラス全員に問いかける相羽。無論、異議はなかった。
「今日か明日の内に、そろえておきたいな」
「私が買ってくるわ」
前田が名乗りを上げてくれて、一つ目は簡単に片づいた。
問題は、残るサンタ役の方だ。今になってやめようという声は上がらないが、
積極的にサンタ役を志願する者も現れない。
結局のところ、多数決しかないようねという先生の一声により、急遽、投票
が行われることになった。
裏が無地の、不用になったプリント何枚かを小さな長方形にちぎり、投票用
紙とした。それを配り終え、純子や相羽も一旦、自分の席に戻る。
(やだなぁ)
純子は誰にするか悩むよりも、とにかく嫌な予感を抱いていた。
(多数決だと、ひょっとしたら……)
劇のいきさつが思い出される。主役をこなしたことにかこつけて、純子の名
を書く者がいるかもしれない。
(せめて、男子に。サンタは男なんだから)
願いながら考え、少し迷った挙げ句、立島の名を書いた。立島の他、相羽も
票を集めそうだが、彼は進行役であるからサンタをやって抜けられては困る。
全員が書き終えたのを見計らい、再び教壇に立ち、用紙を前に回してもらう。
「読み上げます。−−相羽」
相羽が最初に開いた紙には、その名があった。板書する純子の表情に、つい、
笑みが浮かぶ。
−−つづく