AWC (2/2)          異             常


        
#3767/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 2/28  23:58  (200)
(2/2)          異             常
★内容

                 *

「これで七人目だぞ」
 刑事1が言った。
「行方不明の子供を含めると、十五人。けっ」
 刑事2が吐き捨てる。
「いい加減、目星を着けないと、面目丸潰れです」
 ぼやく刑事3。
「そういきたいところだが、しかしな、手がかりが何もない。被害者の数も、
まだ掴めないと来た」
「誰も暴行されてねえのが、せめてもの慰みってか」
「そんな弱気でどうします」
「何か、妙案でもあるのかい」
「聞き込みの範囲を広げるぐらいっきゃ、ねえだろっ」
「動機から見てみましょう」
「動機? んなもん、決まってる。ロリコンの変質者だよ」
「そうそう。ロリコンだけならまだしも、そいつが変質者なのがいけねえ。だ
から楽しんだあと、殺しちまうんだな」
「犯人に少女偏愛癖があるという見方には、僕も賛成です。が、さらに一歩踏
み込みまして、どういうタイプの少女を襲っているか、その傾向を探ろうと言
いたいのです」
「傾向? 受験勉強みたいなことをいう奴だね。傾向と対策」
「調べてどうしようってんだ、ええ?」
「犯人が次に狙いそうな少女に見張りを着けてですね」
「ああ、分かった。犯人が手を出してきたのを、取っ捕まえる。悪くない。が」
「机上の論理ってんだよ。仮に犯人の狙うタイプが絞り込めたとしてだ、この
区内だけで、候補がどんだけ出て来ると思ってんだい?」
「分かりません。ですが、かなりいい線行けると、僕は思っています」
「楽観的だねえ」
「全くだ。なめてんじゃないよ。十人、いや、五人だな。五人以下に絞り込め
たら、おまえさんの言う作戦も取れねえことはねえが」
「具体的な数は勘弁してください。ただ、とにかく、僕が気づいたことを言い
ますから、聞いてください。お願いします」
「ああ、いいよ。暇つぶしにな」
「しょうがねえなあ」
「まずですね、死んだ少女達は皆、胸が大きいんです」
「何だそりゃ。発育のいい子ばかり、狙ってるって意味か」
「被害者の胸がどうだったかなんて、俺は記憶してないが、おまえさんの言う
通りだとしても、特別な意味があるとは考えられんねえ」
「そうでしょうか。胸の大きな子が狙われる−−これだけでも、かなりの情報
だと思います。今後の対策の」
「もういいよ。胸が大きいっていう定義は何だ? 太っててもいいのか?」
「そもそもだ、最近の発育のよさから考えて、胸がでかいってだけでは、ちー
っとも、次の被害者を予測する役に立ってねえじゃねえか」
「それはそうですが……。じゃ、これはどうでしょうか。死んだ子達は誰もが
同じ種類の下着を身に着けていたそうです。*******っていう、テレビ
アニメのキャラクターがプリントされた柄です」
「*******なら、わしだって耳にしたことあるぞ。小学生の特に女の子
に大人気のテレビ漫画だろう」
「そういう人気番組なら、同世代の少女がその柄の下着を着けてたって、全然、
不思議じゃねえぞ、おい」
「だめですか。じゃあ、次に行きます。遺体となって見つかった少女は、全員、
毛が生えてないんです」
「−−何つった? 毛?」
「毛って、髪じゃねえよな。おまえさんの言うのは……」
「下の毛です。解剖に当たった先生に尋ねて、確認取りました」
「何を言い出すかと思っていたが、やっぱり、期待外れだなあ、こりゃ」
「いいかい、よく考えろよ。犠牲者の平均年齢は、いくつだ?」
「さあ……正確には分かりませんが、十歳に届くかどうかってところではない
でしょうか」
「だったら、当たり前と言っていいんじゃないかねえ。いくら最近の子供の成
長が早いからって、みんながみんな生えてる訳じゃあるまい」
「うちの子供は男だが、同じ年頃で、やっぱり生えてねえ」
「そう来ると思っていました」
「お、言うねえ」
「何だ何だ。偉そうだな。続きを言ってみな」
「僕が注目したのは、本当に生えていないのかどうか、でした」
「本当に?」
「生えていない?」
「ええ。実は、四人目の子の遺体解剖に立ち会ったんですが、そのとき、ふと
思い付いたんです。この子は毛を剃られたんじゃないかと。うっすら、剃り跡
らしきものが見えたんですよ」
「本当か、おい?」
「それで、他の子供はどうだったんだい? 詳しく聞かせろや」
「法医学の先生の中でも、特に毛の権威とされる方にお願いして、調べてもら
いました。その結果、六人中三人が毛を剃られていました。あ、六人というの
は、今回の七人目の子の鑑定結果は、まだ出ていないからです」
「何だ、三人だけか。こりゃあ、大きな手がかりになるかと思ったんだが、ど
うやら空振りらしい」
「そうだねえ。全員が下の毛を剃られてたってんならまだしも、半分じゃな。
要するに、犯人は毛がお気に召さなかった、それだけだろうが」
「ですが、犯人が狙うのは、まだ下の毛が生えていない……」
「そりゃ、狙った子供がそうであったらいいなっていう程度じゃないかね。生
えていたら、剃る。それまでのこと」
「だいたい、どうやって確かめるんだ、ええ? 少女をさらう前に、犯人が聞
くのか。『お嬢ちゃん、下は生えてるかい?』って。うぇ、気色悪い」
「そんなはずありません。うーん、だめですか。じゃあ、こんなのはどうです。
これは七人全員に共通しているんですが、虫歯が一本もないんですよ」
「虫歯が……。何か、あるような、ないような。子供なら、虫歯が少ない子も
たくさんいるんじゃないのかな」
「いや、しかし、ガキは甘いもん、食うからねえ。うちの子も、チョコやら飴
玉やら、ずっとしゃぶってるような気がする」
「虫歯が『一本も』ないんです。学校にいる子供から七人、でたらめに選んだ
として、その子達の歯に虫歯が見つからない可能性は、どのぐらいか」
「そんなもん、統計値がある訳じゃなし、想像もできんなあ」
「ともかく、あんまり高くねえってのは、予想できるがな」
「でしたら、これは犯人が執着している条件の一つと見なしても、いいんじゃ
ないでしょうか」
「そうだな。まあ、いいだろう」
「俺も認める。だがな、おまえさん。それがどう、犯人逮捕に結び付く? と
てもじゃねえが、虫歯のない女の子なんて、ざらにいるぜ」
「見張りのことは、ひとまず忘れてください。その代わり、こう考えてみます。
ある子供に狙いを定めたとして、その子が虫歯を持っているかどうかを知るに
は、どういう立場の人間がいるか」
「そりゃまあ、歯医者だわな。あと、咽喉科の医者も、患者の口の中を覗ける」
「他には考え付かねえな」
「そこで、犯人の職業は歯科ないしは咽喉科の医者と断じてはどうでしょう」
「なるほどな。だが、子供の口の中を見る職業なら、他にもありそうだが。す
ぐには思い付かないが」
「親か。いや、いくら何でも親は犯人たり得んよな。となると……教師」
「教師の場合も、自分の教え子ぐらいにしか通用しないでしょう。被害に遭っ
た少女らの通う学校は、ばらばらです。ここは歯と喉の医者に絞ってかまわな
いと思います」
「限定は危険だが、理屈は面白い。可能性は高いと思える」
「じゃあ、早速、調べようじゃねえか。殺された子供達が、もしもたった一人
の医者にかかっていたのなら、そいつが有力容疑者って訳だ」
「そうなります」

                 *

 ちょうど一週間前に九人目の犠牲者と見られる少女の遺体が発見された、連
続少女殺人事件に有力容疑者が浮かびました。
 捜査本部が重要参考人として呼び、事情を聴いているのは、H区で開業する
耳鼻咽喉科医で、四十三歳の男性です。
 警察の発表によりますと、犠牲となった少女九名の内、六名がこの開業医の
診察を受けた事実が判明したとのことです。また、開業医は独身で、自宅の部
屋からアダルトビデオ、特に少女を虐待する模様を収めた市販のビデオが多数、
発見されたとの情報もあります。
 病院の評判はよく、学区が異なる学校の子供達も、この男の病院を訪れるこ
とも珍しくなかったという話です。
 それでは、現場を呼んでみましょう。深山さん?−−
<はい、こちら現場です。事情聴取を受けている開業医の医院のある通りに立
っております。最初に、近所の人の声をお聞きください>
『ほんと? いやあ、そんな、子供を殺すなんて、そういうことする人には、
いやあ、見えなかったけどねえ』
『腕前は評判になってたけど、他の点で、別に目立つような人でなかった、ね
え。ええ、全然、普通』
『感じ? まあ、年齢に相応しい、落ち着いた感じの人でしたよ。きちんと挨
拶するし。根暗って雰囲気じゃなかった』
『あの人がもし犯人なんて、信じられませんねー。気を付けないと、安心して
子供を医者にやれませんねー』
 ……

                 *

「『犯人』が捕まったそうではないですか」
 目を細めるご主人様。このようなお顔は、久しぶりのような気がする。
 私は平身低頭しながら、訂正を口にする。
「おそれながら……『犯人』ではありません。『容疑者』でございます」
「細かいことを、言うでありません」
 ご主人様の口調は、あくまで穏やか。私の心も安まる。
「そもそも、犯人はここにいる。かの開業医が犯人でないのは、明らか」
「さようでした」
 上げかけた顔を、私は再び下げた。
「よい。面を見せなさい。我が身は、ますます安泰になる。奴らの無能ぶりに、
乾杯したいほど」
「それはよいのですが、実は、次の……」
「分かっています。じっくり選定なさい。このところ、不完全な物ばかり味わ
わされてきましたからね」
「も、申し訳ございません」
 みたび、頭を下げる。いくらご機嫌がよろしくても、安心はできない。
「気にするでない。ただね、そろそろ、完全な物を味わいたい精神状態になっ
ていますからね。この意味、分かるであろう、賢明なあなたなら」
「はい。よく承知しております。次の少女は、必ずや完全な物を。完全に条件
を満たす物を調達して参ることを、お約束いたします」
「ほう、言い切ったな。よほど自信があると見える。当てがあるのかい?」
 嘲笑うかのようなご主人様の甘い声に、私は酔いつつ、返事する。
「ございます。私は先日、水泳教室を変わりました。そこに、お眼鏡にかなう
であろう候補者が幾人もおり、調べれば、必ず完全な物が」
「分かった。期待しよう。まずは写真を心待ちにしている。私を満足させた暁
には、おまえにも褒美をやろう」
「ありがたきお言葉です」
 即座に浮かんだ夢想に、私は思わず舌なめずりをした。
「今しばらくのお待ちを」

                 *

 着替え終えた理々子は、その瞬間に肩を叩かれ、そちらを向いた。今日のス
イミングスクール、友人の小夜は休んだため、誰だろうと不思議がりながら。
「あの、いいかしら」
 話しかけてきたのは、前回、新しく入ったばかりの子だった。ショートカッ
トの女の子で、目が大きい。初回だと言うのに、理々子を始め、女子全員にあ
れこれ話かけていた。話題が豊富らしく、誰とでも話を合わせていたようだ。
「なあに?」
 勝手の分からないことがまだ多いのだろうと考え、笑顔で応対する。
「この間、帰ってから、お母さんに理々子ちゃんのことを話したの。そうした
ら、どんな子か知りたがっちゃって……。あとで写真、撮っていい?」
「写真?」
 目をぱっちりと開け、まじまじと見返した。相手の手に、レンズ付きフィル
ム−−いわゆる使い捨てカメラ−−が握られているのに気づく。
「お願いっ」
「いいけど」
 変わってるなあと感じつつ、オーケーする。
「わぁ、ありがとう! お礼にお菓子、あげるね。お口、開けて」
「え? う、うん。−−こう?」
 理々子は上を向き加減に、口を開けた。相手の子の叫声が聞こえる。
「あ、きれいな歯、してるんだ! いいなあ」

−−幕




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