AWC (1/2)          異             常


        
#3766/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 2/28  23:56  (127)
(1/2)          異             常
★内容
「この子が欲しい」
 ご主人様がおっしゃる。
 私は耳を澄まして、続きを待つ。が、何もない。仕方なく、自ら口を開いた。
「髪を二つにくくっている、緑のドレスの人ですね」
「おまえも、私の好みが分かるようになったね」
 その甘い声だけでも、心地よさに鼓膜がとろけてだめになりそう。加えて、
お褒めに与るなんて、今日は何て幸運な日だろう。
「いつものようにすればよろしいのですか」
「その通りです。確認して、合格であれば連れて来なさい」
「今回、合格でない場合はいかが致しましょう。前回のあの人のように、身を
清めさせるか否か−−」
「よい。改めさせるほど執着を覚える美しさが、あの子にはありません」
 凛とした口調に、身震いする。
「−−分かりました」
 感情の変化を押し隠し、了解し、行動に移す私。
「早速、確認します」
 ご託宣は絶対だ。神のお導きには従わねばならない。

                 *

「何するのよ!」
 理々子は相手を怒鳴りつけた。
 スカートの中が不意に風通しよくなったと感じて、急いで振り返ったら、ク
ラスの男子の一人が、端っこをつまみ上げ、めくっていた。
「へっ、*******かよ」
 その男子はテレビアニメのタイトルを言って、からかいながら逃げていく。
他にも数名の男子が見ていたらしく、向こうで何やらにやにやと話し込んでい
た。
「すけべ! 言いつけるから!」
 舌を出す理々子。騒ぎを察したらしい女子が何人か集まってきた。
「全く、男子は子供っぽいんだから」
「そうよねえ。こんなことして喜ぶなんて」
「理々子、大丈夫?」
「平気。頭に来ただけよ」
 男子の方を睨みつけながら、大きな声で吐き捨てた理々子。
「気にしてなんか、いないもん」
「気にしないんなら、もっとめくらせろーっ」
 男子はまるで反省の色を見せず、調子に乗って騒ぎ立てる。
「ばーか! 誰がっ」
「嫌なら、最初からスカートなんか穿いてくんな!」
 スカートめくりをした張本人が減らず口をたたくと、他の男子もそうだそう
だとシュプレヒコール。
「いい加減にしなさいよ! ばかっ」

                 *

「理々子の胸、大きくていいなあ」
 身体の表面の水滴を拭き取り、水着の肩紐を外したところで、いきなり言わ
れたので、理々子は胸を腕で隠した。
「何よ、急に。小夜だって、大きいじゃない」
「気を遣わなくて結構。明らかに大きいじゃない、あなた。ブラジャーするの
も当然なぐらい」
「じゃあ、言うけど……。邪魔なだけで、最低よ。こすれると痛いし、男子に
はからかわれるし」
 全裸になる。大きなタオルケットで改めて全身を拭い、台の上の下着を手に
取った。
「……」
「? 小夜、どうしたのよ」
 視線を感じて、問い返す理々子。
 相手の少女は顔から笑みを消して、淡々と言った。
「下の方の性徴は、まだなのね」
「−−やだな、じろじろ見てると思ったら、そんなことを」
「上と下で、差があるもんなのね。私と逆。胸の方も追いついてくれないかし
ら、全く」
「さ、小夜もその内、大きくなるってば」
 うらやましげな視線をやめない友人に、理々子は背中を向けた。
「そ、それより、早く着替えなきゃ。帰るのが遅くなっちゃう」
 スイミングスクールが終わって、更衣室に残っているのは二人だけになって
いた。

                 *

「ほう。これは素晴らしい」
 歯科医は感心した口調になっている。
「虫歯が一本もない」
 理々子の後ろに続く者から、感嘆の声が上がった。
 理々子は口の中から金属の匙が抜かれるのを待って、笑顔を作った。
「色も白くて、歯並びも実にきれいに整っているな。毎日、きちんと歯磨きし
ているんだろうね」
「あ、はい」
 椅子から立ち上がる理々子。口を閉じたまま、舌で歯に触れてみた。
「いい子だ。これからも歯を大切にすることだよ。大人になったとき、役に立
つから」
「はい、分かりました」
 保健室を出る理々子の足取りは、軽かった。
「次の人」

                 *

「どうしてこんなことをなさったのですか?」
 思い切って、私はご主人様に尋ねた。声が震えなかったのは、自分のことな
がら立派だと誉めてやろう。
「違う」
 荒っぽい声で、乱れた息づかいで、私にとっての神は答を下された。
「違っていたのです。私が求めたのは、この子ではない……」
「お言葉ですが、彼女に間違いありません」
「見た目はそうであろう。しかし! 中身がだめなのです」
 ご主人様は私を指さしてきた。
「確かめたのではなかったのですか? 確かめて、合格であるとおまえは言っ
ていたではありませんか?」
「そ、そんな……合格していたはず……です」
「こちらに来て、よく見よ」
 ご主人様は私の肩を掴むと、強い力で引っ張る。
 私はふらつきながら、ベッドの脇に進み出た。
 一瞬だけご主人様へと視線を送り、ベッドの上に横たわる少女を見下ろす。
仰向け、口をだらんと開け、大の字にぐったりしている。
「ああ−−」
 私の口から勝手に漏れる声。
 ここにいる少女は、合格ではなかった。ご主人様が逆上されたとしても、無
理はない。
「確認したのはいつ?」
「は?」
「何日前に確認したのか、言うのです」
「……二週間……になります」
 恐る恐る答えた。そうせざるを得ないほどまでに、ご主人様の剣幕は怒気を
含んでおり、殺気さえ感じられた。
「なるほど。ふん」
 はっきり聞こえるほどの鼻息をさせ、ご主人様は投げ出すようにソファへ座
られた。
 私は自分の身体が、勝手に震えていると気づいた。
「あ、あの……」
「びくつくでありません。これは不可抗力のよう。この少女が合格か否かをお
まえが確認した時点では、まだ合格の部類に入ったのであろうな。だが……時
間とは恐ろしいもの」
 私の喉からは、安堵の息がこぼれた。

−−続




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