AWC 死霊の都11    つきかげ


        
#3760/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 2/19  19:24  (184)
死霊の都11    つきかげ
★内容
  ユーベルシュタイン教授は亜空間ウィルスとの接触によって実現される世界に、
人類は適合できないであろうと予言した。つまり、過去の生命体は自らが生み出
す重力エネルギーを制御できずに絶滅すると予測したのだ。
  多くの人間は、これを一つの侵略と捉えた。すなわち、人類のレベルを遥かに
超えた高度生命体が自分の望む形に地球という惑星を再編成する為に、亜空間ウ
ィルスというものを地球に発生させた。
  ユーベルシュタイン教授はこうした仮説に対して、なんの見解も示していない。
ただ、対処策のみを提示した。その対処策とは下記の通りである。

  @亜空間ウィルスの性質を安定したものに変化させ、新種のウィルス「ゼータ
  ウィルス」をユーベルシュタイン教授は生み出した。このゼータウィルスに
  よって人類は亜空間ウィルスとの共存が可能と考えられる。
    ただし、ゼータウィルスの作用により、全ての生命体は大きさが約四分の一
    になる。これは、自らの生み出す重力エネルギーに適応する為の手段である。
    このゼータウィルスにより生態系の変革が終了するのにおよそ五百年かかる
  と予想される。亜空間ウィルスによる生態系の変革がおよそ千年と予想され
  た為、飛躍的な速さといえる。

  A亜空間ウィルスのもつ時空間を変化させる性質を利用し、超光速宇宙船の開
  発が可能であるとユーベルシュタイン教授は提唱した。つまり、光の速度を
    超えた宇宙船を利用し、他星系への移住の可能性を示唆したのである。

  人類は亜空間ウィルスを侵略と見なしていた為、ユーベルシュタイン教授の提
示した案は、一種の戦争行為として遂行された。人類はいうなれば、遺伝子レベ
ルの宇宙戦争を戦ったのだ。その結果、ユーベルシュタイン教授の案は統合地球
政府のつくりあげた非常時体制によって実現された』

「ばかばかしぃっ!」
  ジュリは、眉間にしわをよせ、とんと、足を踏みならす。
「何が真実よ。こんな言葉の羅列には、何の意味も価値もないわ。そんなことも
判らない馬鹿になりさがったの、あんたは」
  ジュリはきらきら光る目で、シュラウトを睨みつける。
「いいこと、何が真実かですって、教えて上げる。私が真実なのよ。私の中に真
実があるの。私がリアルと認めないものに価値なんて無い!」
  シュラウトはせせら笑った。
「ジュリ、じゃあ、あなたのリアルとは、偽の女性として生きることなのかい?」
  ジュリは軽蔑したような目でシュラウトを見る。
「ジュリ、あなたの言いたい事は判るよ。僕にとってもこんなことは、どうでも
いいことだ。要は、星船が現実に存在し、王国を破壊し尽くすだけの力を持って
いるということだよ。僕にとってのリアルとはそれだ。
  オーラも、トラウスも、すべての国家、すべての都市が破壊し尽くされ、剥き
出しの大地で人々が剥き出しの生と向き合う瞬間にこそ、僕のリアルがある」
  ジュリが鼻で笑った。
「どうやってそんな事をやるつもり?ここは、ただの死者の都だわ」
「ああ、ここは仮想現実空間だ。星船の電子頭脳が見せる夢。元々は、長期間の
星系間航行を行う際に、移住者たちは仮死状態で保持しておく予定だったが、仮
死状態でも夢を見ることが判り、彼らの精神に異常をきたすのを防ぐ為に、仮想
現実空間がつくられた」
  私は、思わずシュラウトに尋ねる。
「じゃ、あのクイック・デッドとかいう麻薬は星船で旅をする連中が飲むための
ものだったのか?」
「まぁ、そうだ。クイック・デッドを飲んだ人間の精神を星船が感知して、その
精神を仮想現実空間へ組み込む。ただ、この仮想現実空間は多層化されていて、
今いるのは居住レベルの空間であり、二十世紀末のある都市をモデルとした仮想
現実だ。これが、作業レベルの空間になると星船のコントロール機能へのアクセ
スが可能となる」
  ジュリが疑わしげに言った。
「あんた、そのアクセス権を手に入れたの?セキュリティコードがあるはずよ」
  シュラウトはにこにこと微笑む。
「手に入れたのさ。だから、みんなで行こうといってる」
  ぱん、とジュリが手で腰を打った。
「おーけぃ、判った。行きましょう。ただ、ひとつだけ、なぜこの星船が地上に
残っているか知ってる?本来、星系間航行の旅を行っているはずなのに」
「事故があったはずだ。よくは、判らない」
「事故があったはずね。おそらく、神話で女神フライアの侵入と呼ばれている事
故が」
  シュラウトは苦笑する。
「神話だろ、それは」
「こういう解釈もあるっていうこと。本来、ユーベルシュタイン教授の唱えた計
画が実現していれば、地上に魔法が溢れた状態にはならなかったはずね。でも、
神々や魔族が横行する世界になったのは、なにか不測の事態が起きたって事でし
ょう。神話にも、原初の神マクスルは全てを把握していたにも関わらず、女神フ
ライアの侵入だけは予測できなかったとしている。フライアは神話の中の特異点。
それが何であるかを理解せず、星船を操れると思う?」
「くだらない。行けば判ることさ」
  そういうと、シュラウトは部屋を出ていく。私たちは、彼の後に続いた。

  シュラウトは、エレベータに乗る。階を指示するボタンを、シュラウトは立て
続けに幾つも押す。エレベータは、上昇し始めた。
「なあ、あんたの部屋は、塔の天辺にあるんじゃなかった?」
  私の問いに、シュラウトは上機嫌で応える。
「見せてあげるよ」
  シュラウトは、扉を開けるボタンを押す。私たちの目の前に広がったのは、昏
い湖に、宝石を散りばめたような夜の街だ。光の川のような幹線道路が縦横に走
り、十三のガラスの塔が天空を目指す。
  私たちを乗せたエレベータは、夜空に向かって上昇していった。私は、上を見
上げる。そこにあるのは、光の円盤だった。輝く光が、漆黒の夜空に穴を穿った
ようだ。
  エレベータはその穴へと吸い込まれていく。私たちは、光の世界へと入り込ん
だ。光の世界に入り込んだ瞬間に、エレベータである鉄の箱は姿を消した。足下
に開いていた、暗黒の穴である下界の夜空も閉じられる。
  私たちは、光でできた巨大な塔の内部へ入りこんだようだ。上方はどこまで高
いか見当も付かない。光の壁は、めくるめく水晶の螺旋で構成されている。無限
に変化していく色彩が、透明な血液のように絶えず螺旋を高みへと駆け昇ってい
く。
「天使でも、降りてきそうな感じだな」
  私は思わずつぶやく。
「シュラウト、ここが星船のコントロール用仮想空間だというの。なにもないじ
ゃない」
  ジュリの馬鹿にしたような発言は、シュラウトに黙殺された。
「見たことがあるな、これは」
  沈黙していたツバキが、突然呟いた。
「ここによく似た場所が、オーラのクリスタル塔の内部にもある。神々と一体化
できる場所だ」
  シュラウトとツバキは無言で見つめ合う。
「あなたは、判ったようだね、ツバキ。いや、あなたがここへ来るときどう考え
ていたかを、言ってあげよう。あなたの考えはこうだ。デルファイへ来るという
ことは、魔道の言い方を使えば、星船に憑くということだ」
  シュラウトは満足げに、微笑む。
「さて、星船とは何かと考えた場合、魔道の表現を使えば、神の憑坐だともいえ
る。ここに憑いている神と、ここに憑いている僕は、一体化することも可能だ」
  ツバキは、何も応えない。おそらく彼女の考えていることは、シュラウトの考
えとほぼ同一なのだろう。
「で、あなたはこう考えた。憑いているのなら、祓うこともできる。僕と自分自
身、そしてケインとジュリを祓うことにより、地上へ帰ることができると。その
考えは正しいよ、ツバキ」
  ジュリは叫んだ。
「シュラウト、あんた神に喰われる気?」
  シュラウトは、歓喜の笑みを見せた。
「馬鹿あんた、神に喰われて神の意識を支配しようというの。無理よ。なぜそん
なことを?」
  シュラウトは、喜びにあふれた顔でいった。
「ジュリ、あなたの言ったように、僕がリアルと認められない世界は、何の価値
もない。僕のリアルを実現する為の手だてが、神に喰われることだったのさ。
  クリスタル塔や、トラウスの聖樹の元でも神は降りてくるだろう。しかし、ヌ
ース神聖教団の管理下にある所でそんなマネはできない。ここだ。ここだけが、
僕に侵入できる唯一の場所だ」
「ちがう」
  ジュリは昏く目を光らせる。
「そうじゃない。あなたは結局のところ、怨念しか持っていないのよ。テロルで
母親を殺されたあなたは、幼い頃から自分から母親を奪った世界に対する憎悪だ
けを糧にして育った。でも、怨念とリアリティは違う」
  シュラウトは、笑った。楽しげな笑いだ。
「破壊はすべてを超越して、神聖なものだ。もちろん、怨念など、リアルとは違
う。破壊の為の破壊。それこそ神に至る超越の道だ」
「神なんて」
  ジュリは吐き捨てるように言った。
「ただの、世迷いごとじゃない」
「そうだ」
  シュラウトは厳かに頷く。
「だから僕が神になるのさ」
  ツバキが口を開く。
「それだけしゃべれば、気がすんだろう」
  ツバキは冬の月光のように冴えた眼差しで、シュラウトを貫く。
「始めようか、私がおまえを祓えるか、おまえが神を召還できるかの戦いだ」
  ツバキの言葉が始まりの合図となった。ツバキの瞳が紅い光を帯びる。彼女の
中に、別の人格が生成されていくのを感じた。おそらく、彼女の兄。
 そして、シュラウトも又、瞳に金色の光を宿す。星船のコントロール機能への
アクセスを行ったようだ。
 無数の光の点が、ツバキとシュラウトの周りで渦巻く。色彩の嵐が二人の周り
を荒れ狂った。二人の居る場所がガラスの中のように、歪んで見える。
「見ろよ」
  私は、上方を指さし、ジュリに声をかける。
「何かが近づいてるぜ」
「神が降りてこようとしている」
  光の塔の高い所に、暗黒の渦巻きが生じた。その黒い不定形生物のような渦は、
ゆっくりと下降しているようだ。
「あれが降りてきたら、私たちはおしまいね。見なさい、シュラウトを」
  シュラウトのいた場所の、光の渦が薄くなりつつある。
「この仮想空間から意識のチャネルをずらされていってるわ。どちらが早いかね。
あの黒い固まりが降臨するか、シュラウトの光が消えるか」
「神と一口にいっても、何が降りてくるんだ?いわゆる邪神か?」
  ジュリは首を振る。
「星船を憑坐とする神なんて、一人しかいない。グーヌ神だけよ」
  私はあきれた。最も邪悪で最も強大な神グーヌ、聖なるヌース神と数億年戦っ
ても決着のつかなかった神をシュラウトは支配しようというのか。
「無茶苦茶だな」
「普通ならね。でも、星船は本来グーヌ神を制御することにより、動かされてい
たものよ。星船の機能を本当にシュラウトが理解して使いこなせるなら、勝ち目
はあるわ。ただ、問題は」
「女神フライアか」
「シュラウトは女神フライアが、ただの伝承の中にのみ存在するということに賭
けた。伝承の中でもフライア神は殺された存在だしね。ただ、…どうかしらね」
「おい、見ろ」
  暗黒の雲が、黒い雷を打ち下ろした。ツバキを覆った光の球が、薄らぐ。
「やばいだろ、ありゃあ」
「やったわね。シュラウトはグーヌ神を制御している。見事だわ」
「呑気なことを」
  ツバキは、立て続けに黒い閃光に貫かれる。シュラウトの光球は、激しく輝き
だす。一方ツバキの光は力を無くしていた。
「負けるな、こりゃ」
  私は観念した。
「馬鹿ね、奥の手があるじゃない」





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