AWC 死霊の都2     つきかげ


        
#3751/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 2/19  18:25  (184)
死霊の都2     つきかげ
★内容
  私とジュリアス王子は、ローズフラウという街に来ていた。交易で栄える街で
あり、東方の辺境にしては、かなりのスケールの街である。この街で、私たちは、
ジュリアス王子の友人であるツバキという名の魔導師と合流した。
  ジュリアス王子の話では極めて有能な魔導師らしく、今回の探索には不可欠ら
しい。そこで、私たちはローズフラウの酒場でツバキと落ち合った。
「なあ、魔導師殿」
  魔導師ツバキは、私に顔を向ける。
「なんだ」
「よく食うな」
  ツバキの前には、大量の皿が積み上げられていっている。酒は大きな瓶が、二
三個は空になっていた。それでもまだ、食う勢いは衰えない。
「羊一頭ぶんくらいは、食ってるぜ」
「何か問題が?」
  ツバキは、真っ直ぐこちらを見る。黒い宝玉のように、艶やかに輝く瞳。まっ
すぐな長い髪。顔立ちは整い美しかったが、稟とした眼差しが中性的な印象をも
たらす。男性であるはずの、ジュリアスのほうが遥かに妖艶である。
  ツバキは僧侶の着る純白の修行着を身につけている為、よけい男性的に見えた。
両手、両足にはやたらと重そうな、鋼鉄の武具をつけているが、まったくそれを
感じさせない軽々とした身のこなしだ。
「いや、」
「心配するな、金はすべてローゼンフェルト家からでる」
  ツバキの言葉使いは、全く男のものだ。
「そうだな」
  私は、頷く。問題は、むしろジュリアスのほうだ。
「おい、ジュリアス王子」
「やあねぇ」紅く頬を染めた、ジュリアスがこちらを見る。明白に酔っていた。
「ジュリって呼んでって、いったでしょ」
  私は、ため息を付く。ジュリは相変わらず露出の多い、黒革の服を身につけて
いる。やたらとベルトやらストラップやら鎖のついた、奇妙な服だ。
「ジュリ、さっきから何をしている」
「なぁんにも、してないわよぉ」
  ジュリは飲む量は、ツバキより少ないが、普通なら泥酔していてもおかしくな
いだけ飲んでいた。問題は、それよりも別の事である。
「さっきから、向こうのテーブルに流し目を送っているだろう」
  酔った勢いなのか、ジュリははす向かいのテーブルの男たちに、死人でも悩殺
できそうな強烈に悩ましい秋波を送っていた。はす向かいの男たちは、絵にかい
たような、ならずものたちである。派手な色の服を身につけ、原色の赤や黄色に
染めた髪を、逆立てていた。その目は麻薬を常習しているものに特有の、昏い翳
りがある。
「向こうの男たちも、おまえに興味を持ってるぞ」
「おっけぇー、でぇーす」
  ジュリは手をあげる。振った手に、向こうも答えた。私は、ツバキのほうを見
る。彼女は当然だというように、涼しげな目で見つめ返す。
  ひとりの男が、こちらのテーブルへ来た。体格を見ると、かなり逞しく鍛えら
れている。髪をピンクとオレンジの二色に染め分けており、深紅の生地に、金色
の糸で刺繍の施された上着を着ていた。
  けっこういい男であるが、麻薬の為か目の回りに隈ができており、眼差しの焦
点があっていない。男は、ジュリの横に手をついた。
「おれ、ギランていうんだ」
「かっこいいわね、あんた」
  ジュリの言葉に悪い気はしないらしく、ギランはにやにや笑う。
「向こうで一緒に、飲もうぜ」
「悪いが、こいつは俺のつれだ」
  私の言葉を聞いたギランは、私を見ずジュリに聞く。
「このおっさん何?あんたの保護者?」
「関係ぇ、ねぇっす。ただの通りすがりのおやじよ」
  ギランは、焦点のあってない無感動な目で、私を睨みつけた。
「むこういってろじじい、まじ殺すぞ、こら」
  私は、あまりの陳腐な言葉に苦笑をかみ殺した。
「行ってもいいが、君、ギラン君か、重大な誤ちを、ひとつ教えてあげよう」
「なんだよ」
「君がくどこうとしている私のつれだが、男なんだ」
「ぼけてるぜ、こいつ」
「そうよねぇ、失礼しちゃうわ」
  私は、肩をすくめると続けた。
「今晩ベッドの上で、きっと君はいいものを見せてもらえるよ」
「構わないわよねぇ、あなたについてるのと、同じものがついてるだけですもの」
  ギランは、しげしげとジュリを見直した。そして、悪い夢を見たというように、
首を振ると立ち去ろうとする。
「まちなさい、君」
  意外にも声をかけたのは、魔導師ツバキである。ギランはツバキの顔を覗き込
んだ。
「私が相手をしてもいい。私は正真正銘の女だ」
  私がなにか言おうとするのを、ジュリが目でとめる。酔っている目ではなかっ
た。
「ただし、条件がある」
「ほう」
「私は自分より弱い男の相手をするのは、御免だ。私と腕相撲をしてもらおう。
それに勝てば、相手をしよう」
「ふん」ギランは鼻をならす。
「いいぜ、やろうじゃねぇか」
  ギランは腕まくりをして、右腕をあらわにする。そのジュリの太股くらいの太
さがありそうな腕には、犬の姿の刺青があった。いや、尾の太さからすると、狐
だろうか。
  その刺青を見たジュリとツバキは、素早く目配せをする。
「そういや、名を聞いていなかったな」
「我が名はツバキ、ツバキ・ロンドンナイト。ロンドンナイト家の十三代当主だ」
  ギランに魔道の知識があれば、そこで引いたろう。魔導師の女に、手を出す馬
鹿はいない。しかし、ギランはツバキの前に手を出した。
  ツバキは、鋼鉄の手の甲までを覆う頑丈そうな籠手をつけた手をだす。がちゃ
りと、防具の音がした。
  ギランは、誇らしげに胸の筋肉を蠢かせてみせる。ジュリが二人の手をとり、
あわせた。ジュリの手があがる。振り下ろすと同時に叫んだ。
「レディ、ゴォ!」
  みちり。
  とても、嫌な音がした。ギランの手が、紙でできているかのようにあっさりと
握りつぶされた音だ。原型をとどめぬまでに破壊された手を抱え、のたうち回る
ギランの頭をジュリが黒い革のブーツで素早く蹴った。
  頭蓋骨にひびの入る音がし、ギランは気絶する。私は、ツバキに素早く言った。
「意神術か」
  ツバキは頷く。
「戻れなくなったな」
  ツバキはもう一度頷く。意神術とは、東方のある種の拳法の秘伝として伝えら
れている術だ。陰陽拳とよばれるその拳法は、身体の中にある太一真君と呼ばれ
る宇宙エネルギーの受信器官を目覚めさせ、常人にはないパワーを発揮すること
に極意がある。
  意神術は、太一真君からもたらされるエネルギーを全身に回し、体力を通常時
の数十倍に高める術だ。しかし、時としてこの術に失敗し、目覚めさせた太一真
君を封印できなくなる事がある。おそらく、ツバキはそうした状態になったもの
と考えられる。
  必要以上のパワーを抑制する為に、鋼鉄の重い武具を手足につけているのだろ
う。
「終わったわね」
  ジュリが立ち上がり、ツバキに言った。ツバキも頷き、立ち上がる。ジュリは
完全に、素面の表情になっていた。
  私たちは、ギランのつれが、ギランを介抱するのを横目でみながら、怯えた目
で見る店長へ支払いを済ませ、店を出る。
  ここは、ローズフラウの歓楽街であった。夜も遅いが、結構人通りがある。私
たちは店を出ると、裏通りに入った。その時、後ろから声をかけられる。
「待てよ」
  さっきのギランと一緒にいた、男たちである。皆、ギランと同じように、派手
な服装であり、髪も鮮やかな色彩に染め、逆立てていた。
  人数は、3人である。私は、ジュリとツバキを制すると、一歩前に出た。男た
ちは、皆体格がいい。戦場で活躍してきた、男たちなのだろう。手にしている武
器も、ロングソードではなく、メイスである。
  戦場では剣は、役にたたない。鎖帷子を身につけた相手に斬りつければ、刃が
こぼれる。又、打ち合えば折れてしまう。戦場で戦ってきた男たちは、剣ではな
く、棍棒に鋼鉄をつけた武器のほうが手になじむ。
「さっきのギランのつれだな」
  私の言葉に、男たちが頷く。昏い目に、殺気を漲らせている。私は懐から金の
入った袋を出すと、男たちの前へ放った。金貨が何枚か、こぼれる。ジーク王か
らたんまりと、路金をいただいていた。
「持って帰れ。ギランの治療費にしてやれ」
  男たちの目から、殺気が薄らぐ。一人の男が金に、手を伸ばす。その瞬間に、
微かな煌めく風のようなものが、男の手首のあたりを走り抜けた。手が切断され、
地に落ちる。悲鳴が上がった。
  後ろの男たちも、メイスを振り上げようとして、自分の片手が切り落とされて
いるのに気づく。白い蜘蛛が降りてきたように、地面に手首が落ちる。男たちが、
悲鳴をあげた。血が錆びた鉄のような色を放ち、地面にこぼれていく。
  私の手には、水晶剣があった。長さ10センチ程の水晶の剣。透明な三日月の
ように、涼しげな光を放っている。私の学んだユンク流剣術は、この剣を放ち、
エルフの紡いだ絹糸で操るものだ。
  私が踏み出すと、男たちが後ずさりし、逃げ出した。私は、彼らの背中に声を
かける。
「命が惜しかったら、腕を縛って血を止めておけよ」
  私は、手首につけた鞘へ水晶剣を戻すと、金を拾った。後ろでジュリとツバキ
が囁きあっている。
「なんだかねぇ」
「やりかたが、せこいな」
「金やっとけば、黙って帰ったんじゃないかしら」
「うるさい」
  私は、不機嫌にいった。ジュリは、妖艶であるが少女のあどけなさを備えた瞳
を、輝かせている。
「なぁに、怒ってんのよ」
「おまえら、何を考えている。やつらは、あの入れ墨からすると東方の犯罪結社
黒狐団だろうが。どういうつもりだ」
「あぁら、入れ墨ですって。ツバキ、知ってた?」
「さあ、気がつかなかったが」
「偶然よ、偶然」
「わかったよ。好きにしろ」
  私は、ようするに信頼されていないらしい。私は、宿に向かって歩き出した。
二人に向かって、手を振る。
「後は、まかすぜ。おれは宿で寝ているから、終わったら結果を教えにきな」
「やぁねぇ、僻まないの、仲間はずれにしたからって。さあ坊や、ママの胸にも
どっておいで。キスしてあげるから」
「あのなぁ、おれはもう疲れたんだよ」
「狐というのは、東方では神格化されていて、信仰の対象になる」
  ツバキが、語り始めた。
「しかし、それは白い狐のことだ。黒い狐は別の意味を持つ。それはすなわち、
歓喜天」
「歓喜天?」
「そうだ。快楽、特に男女の交合の際の快楽により、解脱を得る事ができるとい
う信仰により支えられる神。それが、歓喜天だ」
  売笑婦の笑みを浮かべたジュリが、後を続ける。
「歓喜天には、もう一つの意味があるの。それは麻薬。黒狐団は、麻薬を扱う組
織。ひとつは、麻薬を売買することにより、利益をあげる。もう一方で、麻薬に
よっててなづけた兵士を使った、犯罪結社としての顔」
  私は、うんざりしたように、言った。
「それくらいのことは、大体知ってるよ。いったいなぜ、黒狐団に手を出したん
だ」
  ジュリは、あはは、と笑った。
「言ってなかったっけ。デルファイという街はね、伝説の街なの。実在している
かどうか判らない、麻薬の夢の中でのみ、辿り着けるという街」





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