AWC マリィゴールドD     つきかげ


        
#3749/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 2/ 6  18:54  (136)
マリィゴールドD     つきかげ
★内容
「まさか!」
  キシオムバーグは息をのむと後ろへ飛んだ。その剣を持つ右手が宙を飛んだ。
キシオムバーグは唸る。
「まだそんな力がのこっているなんて、さすがは明日香ね。でも」
  キシオムバーグは笑った。
「魔族の力はこんなものではないのよ」
  血のしたたる右手の切り口は瞬く間に塞がり、右手は鞭のように延びた。
「くそっ」
  明日香はワイアーを振るう。三日月型のナイフが疾る。キシオムバーグは鞭と
化した右手で、ナイフをはじくと、右手を明日香に向かって走らせた。
  明日香の体の周囲に風がはしる。明日香の服はきりきざまれ、宙に舞った。白
い肌に、無惨な傷が刻まれる。
「これでおわり」
  明日香の首に、キシオムバーグの右手が巻き付く。明日香の顔色が変わった。
急激に衰弱していくのがわかる。生命力を吸収されていくのと同時に、全身から
血が失われていく。
「ふふ、あなたの力が私の体の中にくるのが判るわ。これで終わりね」
  明日香は気を失った。キシオムバーグはゆっくりと明日香に近づく。
「あっけない最後だったわね、明日香」
「ちがうな」
  明日香の目が見開かれた。その体に急激な変化が起こっている。明日香の体は
女性のそれへと変化していっていた。
  その胸には女性の乳房が現れ、体の線も女性的な曲線をえがきだす。赤い蟲が
白い肌に絡みついたような傷も、急速に癒えていった。
「俺は、明日香じゃねぇ。今日子だ。未来今日子」
  その声は凶暴で野に潜む野獣の唸りを思わせた。その女神のごとく美しい肉体
に不釣り合いな凶悪な輝きを、その瞳は放っている。
「憑依か。うわさは本当だったな。明日香の周囲には残留思念があり、魔族であ
ろうとも力を及ぼすことができないというのは」
「なにごちゃごちゃいってやがる」
  キシオムバーグの右手が切断された。全裸の明日香は首に残った切れ端をむし
りとる。
「おまえ、明日香ではないといったな。明日香の姉か」
「おう。俺は明日香ほど甘くねぇぜ。いっておくが」
  明日香は獰猛に笑う。その笑みはまさにベルセルクの笑いだった。官能的な美
を備えた肢体がしなやかに動く。
 風がまきおこり、金色のナイフがとぶ。キシオムバーグの頬が裂け、鉛色の血
が流れた。
「俺は地上最強よ。おれに勝てるやつはいねぇぜ」
「どうかしら」
  キシオムバーグの右手はさらに細く長くなった。その先端は半月型の剣のよう
になっている。
「やってみなくては判らないわ」
  キシオムバーグは意識をきりかえた。魔族のものは通常の人間とは違う時間の
流れを感じることができる。その時間の流れは遥かに高速で、その時間流に意識
をまかすと地上のすべてが止まって感じられた。
  空気は氷つき、森の木も揺れることなく月の地表のように静まりかえった世界
にキシオムバーグはいる。その世界で彼女は右手を明日香に向かって走らせた。
通常の世界であればすさまじい高速で動いているはずだか、今のキシオムバーグ
の意識の中ではゆっくりとした動きにすぎない。
  しかし、明日香は通常の時間流の中にいるのだから、右手を見ることすらでき
ないはずだ。明日香は氷ついた死せる乙女のように、動かない。
 キシオムバーグの右手は高速で流れる時間流にのり、液体のように感じられる
空気を切り裂き明日香のほうへ進む。右手は、明日香の胸に触れそうなところま
で来た。鋭利な刃物と化したキシオムバーグの右手が、たおやかに膨らんだ明日
香の左の乳房に食い込もうとする。その時、明日香の姿がふっと消えた。
「ばかな」キシオムバーグの顔が恐怖で歪む。キシオムバーグは傍らに気配を感
じ、振り向く。そこに明日香はいた。
「俺は死人だぜ、ねぇちゃん。あんたとはちがう時間の流れの中にいる。わかっ
たかい」
  キシオムバーグの首がとんだ。銀色に光る頭が結界のほうへ転がる。明日香は
首を失った死体をまるで恋人を抱きしめるように、抱き止めた。その顔には慈母
のような笑みが浮かぶ。
「さてと」
  キシオムバーグの死体を横たえた明日香は、息をついた。
「結界を破るか」

  黒い巨人戦士は剣を抜いた。マリィゴールドが持つものと同じような、片刃の
日本刀のような剣だ。
  黒々と聳える結界を背おった黒い戦士は、剣を上段に構える。ダークはその構
えから発せられる殺気に、かつてない恐怖を感じた。
(こいつ、とんでもなく強い)
  所詮ダークはジェノサイダーに生まれて初めて乗った、ビギナーである。相手
のパイロットは、サブクリーチャーを完璧にのりこなせる剣士らしい。
(あかん、こら死ぬな)
  金色に輝く髪を風になびかせた全裸の乙女は、漆黒の戦士を目前にして立ち竦
んだ。剣は自然に下げられたままである。その姿は虚の構えともとれた。
  黒い戦士は間合いを詰めてくる。相手は、完全に勝利を確信した動きであった。
こちらがどう攻撃しようと、その前に上段からの一撃で致命傷を与えようという
のだ。
(スキがなさすぎるで)
  ダークはまさに死を確信した。黒い戦士はもし剣でうければその剣をへしおり
そのままこちらを両断しようというつもりらしい。相手の構えにはそれだけの気
迫があった。
  ダークは円明流の虚の構えにも似た体勢で、相手の気を受け流している。ただ
間合いをつめられると、そうはいかなくなってしまう。
  黒い戦士は間合いをつめた。完全に相手の狙いは、判っている。上段からの一
撃。そう判っていても、よけれるものではない。黒い戦士の殺気が頂点に達し、
まさに動こうとした瞬間にそれは起こった。
  突然背後の結界の闇が崩壊したのだ。巨大な津波のような闇が崩れ落ち、走り
さってゆく。流れてゆく闇の中に瞬間的に様々な幻影が映る。
  変形し、同じ姿をとどめることのない黒い獣達が走ってゆく。
  闇の中に遠い風景が瞬間的に映る。
  崩れ去った蒼古の寺院。
  鮮やかに紅い夕日に照らされた少女の顔。
  嵐の過ぎ去った後の恐ろしいほど深みのある青い海。
  強い風のふきすさぶ冬の透明な空。
  草原の鳥達についばまれる獣の屍。
  死滅し燃え尽きた恒星に咲く最後の金色の花。
  鏡の奥に映る迷路の果ての街路。
  疾走する狼の紅い瞳。
  森林の木々の切れ間から見えるもの凄い勢いでながれてゆく黒い雲。
  水晶のコップに落ちる水しぶき。
  夏の夜を飛び立ってゆく色鮮やかな極楽鳥。
  淀んだ空気の暗い部屋の中で光る銀の食器。
  千もの色彩で輝くドワーフの細工した宝石に満ちた洞窟。
  雨の中で光っている金属でできた彫像。
 戦い続ける少年たちの持つピストル。
 落下してゆく黄色い果実。
 原色の花々の咲く繁みの向こうに見える澄んだ湖。
 窓に映る疲れた女性の横顔。
 霧に隠された血塗れの死体達。
 それら無数の幻影が崩壊した結界の闇の中に浮かび上がり、流れてゆく。闇の
向こうに白虎塔が輝いている。そして、結界の崩壊と同時にマリィゴールドの後
ろから3機の兵員輸送用ヘリが姿を現した。
  ヘリは強烈なライトで黒い戦士を照らしだす。黒い戦士はマリィゴールドに切
りつけようとしたその瞬間に光を浴び、崩壊してゆく幻影の中で一瞬呼吸を乱し
た。ダークにはその一瞬で十分である。
  ダークは黒い戦士の振るう剣の動きを完全に見切った。後の先をとった形とな
る。マリィゴールドは下段より刀を振り上げた。鎧をつけていない分、マリィゴ
ールドの動きのほうが僅かに速い。
  マリィゴールドの振るった剣が走り抜け、黒い戦士の剣を持った手が手首から
切断される。しかし、剣の勢いはとまらず、マリィゴールドの左腕を切断して地
面に突き刺さった。跳ね飛んだ左腕が転がる。
  マリィゴールドの剣を持った右手は上段で止まり、そのまま刃を返すと切り降
ろした。黒い戦士の肩から鼠蹊部まで切り抜ける。両断された黒い戦士は幻影の
消えた道路に倒れた。その頭上をヘリが通り過ぎていく。
  ダークはほっと息をついた。
「ラッキーやったな」

  こうしてキシオムバーグの企てたクーデターは未遂に終わった。白虎塔制圧と
同時に行われた王ベリアルの暗殺も、ベリアル自身の手によって阻止されている。
  この後このネクロマンスシティは遷都計画によって、急速に変貌してゆくこと
となった。その変化は誰にも止めることはできなかった。

  マリィゴールド 完




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 つきかげの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE