AWC マリィゴールドC     つきかげ


        
#3748/5495 長編
★タイトル (BYB     )  97/ 2/ 6  18:52  (168)
マリィゴールドC     つきかげ
★内容
  明日香とダークは、マリィゴールドを積んだトレーラーで白虎塔へ向かってい
た。日は既に西に傾き、夕闇がせまりつつある。明日香は落ちついた運転で西に
向かってトレーラーを運転していた。
  助手席のダークがふと溜息をつく。ここへ来て最初の仕事は思ったよりあっさ
り片付いたようだ。奇妙な相棒と今後うまくやっていく自信はまだないが、結構
この街でもやっていけそうな気はする。
  ダークはハンドルを握る明日香に尋ねた。
「あの、余計なことやとは思うけど、聞きたい事があるんや」
  明日香は微笑んだ。
「なぁに」
「どうして、女性のように振る舞って、女性のようにしゃべるんや?まぁ、おれ
がこんなこと聞くのはへんかもしれんな」
  明日香はくすくす笑った。
「大した理由じゃないわ」
「それでもいいけど」
「髪をのばしたからよ」
  ダークは肩を竦めた。
「意味がよく判らないな。なんで髪をのばしたんや」
「むかし双子の姉がいたの。その姉がとても好きだったわ。ある日髪をのばして
みたら、鏡の中に死んだはずの姉がいたの。そういうことよ」
  明日香は遠い目をしてしゃべつた。
「それ以来、姉はわたしの中にいて私は姉と一緒に振る舞い、しゃべっている。
女性的になるのはそのせいでしょうね」
「おねぇさんは病気かなんかで亡くならはったんですか」
「自殺よ。5人の男に強姦されたの。自殺したのはその後よ」
  ダークは絶句した。明日香の表情に変化はない。
「姉を強姦した男たちがどうしているか知りたい?」
「い、いや」
「なぶり殺しにしたわ。私が十五の時よ」
  夕日が紅く明日香の顔を照らしていた。ダークはなにをいっていいのか判らな
くなっていたが、明日香は気にせず喋っている。本人も自分の口の軽さに驚いて
いるようだった。
「それが私の初めて行った人殺しよ。たいして懐かしくもない、思い出ね」
「ああ、そういうもんやね」
  ダークの言葉に、明日香はふふんと笑った。
「ええ、そういうものだわ」

  白虎塔は闇の中に包まれていた。明日香はトレーラーを白虎塔へ続く道の途中
で止める。夕日の下に黒々と聳える闇はいかにも不自然であり、魔法の仕業であ
ることは明白であった。
「結界ね。多分キシオムバーグだわ。やられた」
「どういうこと?」
「白虎塔は外界から遮断された、一殊の小宇宙の中にある。きっとあの結界の中
で白虎塔は占領されているわ。テロリストたちに」
「本土へ応援を」
「無駄よ。結界の中へは入りこめない。キシオムバーグはこのままベリアルから
この島の支配を奪うつもりね」
  明日香はドアをあけた。
「明日香さん?」
「まず、私が結界を破るわ。それから白虎塔へ潜入する。ダーク、あなたはここ
で待っていて。すべてはまず白虎塔を解放してからよ」
「おれたちふたりで?相手の戦力も判らないのに」
「キシオムバーグは結界の力を利用して制圧している。ということは結界さえ破
れば、たいした戦力じゃないはずよ」
  明日香はトレーラーから降りて山の林へ向かって歩き出した。
「気をつけて!」
  ダークの声に明日香は手を振って応えた。

  明日香は夕闇の森の中を走る。薄暗い夢の中の闇を駆ける黒い死神のように、
明日香は走った。
  白虎塔の西南部、結界の闇を見おろす尾根に明日香はつく。そこには環状に配
置された石と、呪符を張り付けた杖が立てられていた。
「やはり、裏鬼門に目をつけたわけね」
  声をかけられ、明日香は振り返る。白い長衣に身を包んだ、漆黒の肌のキシオ
ムバーグが立っていた。キシオムバーグは抜きはなった剣を明日香にむける。黒
衣の明日香はキシオムバーグへ向き直った。既に陽は沈み、残照で西の空は赤暗
く燃えている。
「結界は破らせてもらうわ。ここを潰せば結界は崩れる」
「やってごらんなさい。今度は本当に死ぬことになるわよ、明日香」
「あなたはくち先だけね、キシオムバーグ」
「そういうあなたは、哀れな男ね、明日香」
  残照が消えつつある西の空を背にして立つ、黒い影となっている明日香の肩が
微かに震えた。
「どういう意味?」
「自分のベルセルクとしての本質を、女性として振る舞うことによって抑え込ま
なくては生きてゆけないなんて。とんだマヌケなオカマ野郎だわ、あんたは」
「ふざけるな」
  明日香の表情が氷ついた。その姿は美しい彫像のように闇の中に黒く浮かびあ
がる。
  空気を裂いて、明日香のナイフが疾った。闇の中で風が煌めくように、ワイア
ーが走る。後退するキシオムバーグの周囲で火花が散り、ナイフが光った。
  後ろに飛んだキシオムバーグの周囲に、切り裂かれた白衣が舞う。黒く滑らか
な肢体を晒したキシオムバーグは剣を構えた。夜空に走る赤い稲妻のように肌へ
つけられた傷は、凄まじい速さで癒えてゆく。
「あなたは私に勝てないわ、明日香。人間のあなたではね」
  風が音を立てて明日香のほうへ疾る。妖気が明日香の周囲を渦巻いた。巨大な
黒い獣が、明日香を腕に抱いたようにみえる。
「あなたの生命力は、私が吸収している。明日香、あなたはそのまま衰弱して死
んでしまうのよ。魔族に戦いを挑むのは、いかにあなたといえ、無理ね」
  キシオムバーグは漆黒の精悍な肉体を誇らしげに晒し、優雅な足どりで明日香
に近づく。明日香は動くことすらできない。獣のような闇がさらに重くのしかか
り、明日香は苦しげに膝をついた。その額に汗が浮かぶ。
「さあ、あなたの精神が錯乱をきたす前に殺してあげる。さよなら、明日香」
  明日香の目が闇の中で輝いた。
「俺を怒らせるんじゃねぇぞ、てめぇ」

  闇が周囲を包み込んだ。ダークはぼんやりとトレーラーの外を眺めている。ふ
と、道の奥で何かが動いたのを感じた。
「なんや?」
  しだいにその輪郭がはっきりしてきたそれは、身長10メートル近い鎧をきた
戦士である。2体いた。
「サブクリーチャーか」
  サブクリーチャーたちは、しだいに近づいてくる。ダークはトレーラーから降
りた。相手の足どりは遅いが、いつかはここまでくる。そうすれば、マリィゴー
ルドは破壊されることになるだろう。
「しょうがない」
  ダークは荷台に昇る。マリィゴールドを自分で動かしてみるつもりだ。うまく
いかないかもしれないが、黙って破壊されるのを見ているよりましだと思う。
  ダークは荷台を覆うシートを外した。マリィゴールドの姿があらわになる。
「なんや、これは」
  そこに姿を現したのは、全長10メートルほどの巨大な乙女の姿だった。金色
に輝く髪、安らかに閉じられた瞼、たおやかな両の腕、果実のように盛り上がる
乳房、優雅な曲線を描いた足。その大きさをのぞけば、まさにまどろんでいる少
女そのままである。
「こ、こんなんやったんか」
  見とれている暇はない。サブクリーチャーは迫りつつある。ダークは胴体にあ
るハッチを開くと、コクッピットへ入り込んだ。
  前方のモニターに明かりがつき、夜空が見えた。ダークはヘッドセットをつけ
る。マリィゴールドはパイロットの神経電流を感知してその動きをトレースする
ような仕組みになっていた。ダークが自分の肉体を動かすイメージをえがけばそ
の通り、マリィゴールドは動く。
「いくで」
  マリィゴールドは立ち上がった。優美な姿を夜の闇の中に聳えたたす。白い肌
と金の髪が闇の中で輝いた。
「武器を」
  ダークはトレーラーから武器をとりだした。それは日本刀の形をした刀である
微かにそりのある刀身は、冬の夜空に輝く三日月のように美しく光った。
  ダークは、脳裏に剣を青眼に構えるイメージを抱く。マリィゴールドはそのイ
メージをトレースした。金髪の全裸の乙女が刀を正面で構え、鎧をつけた2体の
サブクリーチャーへ向き直る。
  サブクリーチャーは2体ともブロードソードを手にしていた。左右に展開して
いる。動きは鈍い。ダークは一体に狙いをつけ前へ出た。
  サブクリーチャーはマリィゴールドの動きにあわせ、前にでる。剣を振り上げ
ると、切りかかってきた。巨大な剣が唸りをあげ、振り降ろされる。
  ダークは相手の動きを完全に見切っていた。ブロードソードはマリィゴールド
の肌をかすめ、道路に轟音をたてて食い込んだ。マリィゴールドは流れるような
動きで、サブクリーチャーの剣を持つ手を切り落とす。
  剣を持つ手が地響きとともに落下し、道路に転がった。血のような液体が滝の
ように噴出し、道路をぬらしていく。さがろうとするサブクリーチャーの動きに
あわせ、マリィゴールドは剣を出す。刀は鎧をつけた相手の胸を貫いた。
  ダークはエネルギーがマリィゴールドに流れ込むのを感じる。ジェノサイダー
とは魔族の持つ能力をとりいれた人工生命体であった。つまり、相手の生命力を
吸収し、自分のエネルギーに変換することができるのだ。
  刀で胸を貫かれたサブクリーチャーは力を失い、道路へ崩れ落ちる。傍らの林
の木が下敷きになってへし折れた。マリィゴールドはもう一体のサブクリーチャ
ーへ向き直る。
(こいつはいけるで)
  ダークは思ったよりマリィゴールドをスムーズに動かせることに気がついた。
自分の身体の延長のようである。
  ダークはマリィゴールドを走らせた。風が唸りをあげ、マリィゴールドが動く
マリィゴールドは下段より剣を一気に振り上げた。
  ずん、という衝撃とともにサブクリーチャーのブロードソードを持った手が切
り飛ばされる。腕は林の木に激突し、木を倒して転がった。マリィゴールドは上
段に振り上げられた剣を返し、相手の肩に剣を叩きつける。剣は上半身を両断し
脇の下から抜けた。
  サブクリーチャーの両断された体が大地におち、地響きが起こる。ダークはふ
っと息をついた。思った以上に緊張していたようだ。養父であり、師でもあるヘ
イクロウ・スミスに習った剣術が役にたった。
(あれ、まさか)
  ダークはモニターの中に動くものを見た。結界の闇の中から出てくるものがい
る。三体目のサブクリーチャーだ。
(こいつがボスかよ)
  結界の闇よりゆっくりと姿を現したのは、漆黒の鎧をつけたサブクリーチャー
である。さっきの連中より一回り小さいが、動きは遥かに早くスムーズだ。動き
の滑らかさはマリィゴールド以上であった。
(手ごわそうやな、こいつ)
  ダークは溜息をつく。マリィゴールドは可憐な姿を、黒い巨人へむけた。





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