#3747/5495 長編
★タイトル (BYB ) 97/ 2/ 6 18:45 (177)
マリィゴールドB つきかげ
★内容
奥の部屋は暗闇となっていた。天井はドーム状でプラネタリウムふうに星が写
しだされている。天井の仄な蒼白い光が部屋を照らしだす。そして部屋の奥、天
空に輝く大鎌のような北斗七星の下にその人はいた。
「ようこそ、未来明日香。待っていたわ」
「あなたが黒幕ね、キシオムバーグ。久しぶりね」
キシオムバーグは黒い肌をしたエルフである。その瞳は金色に輝き、銀色に渦
巻く髪が肩にかかっていた。
地の底の闇のように漆黒の肌と対照的な純白の長衣を身につけ、傲岸な表情で
明日香を見つめている。その瞳には嘲るような色があった。
明日香は部屋の壁に張り巡らされた暗幕の後ろに、人の気配を感じる。およそ
十人ほどの人数が、潜んでいるようだ。
「明日香、相変わらず美しいわね。あなたは本当にこの街に相応しい人だわ」
「ミウ・ミウがお世話になったようね」
「彼女のことなら心配しないで。永遠の夢の中へ旅だっていったから」
明日香の瞳が嫌悪で微かに曇る。キシオムバーグの言っている意味は、致死量
を越えた麻薬の夢のことだった。
「それでキシオムバーグ、あなたはこの街の女王になるのかしら」
キシオムバーグの目が闇の中で金色に燃えた。
「馬鹿馬鹿しい。支配や政治はベリアルにまかしているわ。そういった煩わしい
ことは、あのうつけもので十分。わたくしは、レジスタンスをやっているのよ」
「本気なの」
「もちろん。明日香、あたはいつまであの下らない遷都計画に関わっているつも
り?わたくし達は誰からも支配されるつもりはないし、支配するつもりもない。
人間たちがこの街にいたいというのであれば、好きにさせる。けれどもこの街を
支配し利用するのであれば許さない。判るでしょう明日香」
「興味ないわ。この街がどうなろうと」
明日香は物憂げにいった。キシオムバーグは高らかに笑う。
「無理しないほうがいいわよ、明日香。あなたはこの街でしか生きられない。あ
なたは、こちら側の人間なのよ。明日香、いつまでもあの醜い人間どものところ
にいることはないわ。あなたの本来所属する世界、わたくし達のところへいらっ
しゃい。人間どもに勝ち目はないわよ」
「残念だけど、私はどこにも所属していないし、どこに所属するつもりもないの」
キシオムバーグの唇が、微かにふるえた。
「じゃあなぜあのジェノサイダーに執着するの?」
「そんなものどうでもいいわ。でも法は守られねばならない。いついかなる時も
いかなる法であっても」
「醜悪な人間どもの法など!」
明日香の目が冬の空に輝くオリオンのように光った。
「法は定められるのではない。私たちが生きる上で、妥当とするものを共有する
のよ。法を守ることは、生きるということと同じだわ」
キシオムバーグは侮蔑の目で明日香をみた。
「それがあなたの答えね、明日香。では下劣な地上の法に縛られたまま、死ぬが
いい。わたくしは天上の法のみに従う」
キシオムバーグは手を挙げて合図した。その合図に答え、黒い肌の戦士たちが
姿を現す。動きだした夜の闇のような黒い金属の鎧を身につけた魔族の戦士たち
は、両刃の長剣を手にしている。立ち上がった影のような黒い戦士たちにかこま
れた全裸の明日香は、死神につれさられる死せる乙女のようであった。
明日香は左手を上げる。金色の指輪が光った。明日香はその指輪に仕込まれた
小さな三日月型のナイフを、引き起こす。三日月型ナイフはワイアーで指輪と繋
がれたまま、引き出された。
明日香の左手が一閃して細いワイアーに繋がれたナイフが空を飛ぶ。正面の魔
族の戦士の右手に一瞬ナイフが触れる。とたんにワイアーが手に巻き付き、魔族
の男の長剣を持った右手は剣を握ったまま切断され床に落ちた。
昏い鉛色の血が放物線を描き、迸しる。続けざまに明日香の左手が動く。三日
月型のナイフはワイアーに操られ、戦士の左手、右足にも絡みついていった。男
は手足を切断され屠殺場の家畜のように血をまき散らせ、床に転がる。
明日香は血塗れのナイフを床近くにたらし、満面に笑みを浮かべた。
「武器を捨てておとなしくなさい。逆らう者はやむをえません。死ぬ事になるわ
よ」
キシオムバーグは明日香に笑いかける。
「明日香、やめなさい。あなたの相棒はわたくしの手の中にある。相棒が死んで
もいいの?」
「しかたないわ」
明日香はあっさりと言った。
「彼女も刑事。自分の身を自分で守れないのなら生きていく資格はない」
「冷たいのね」
「当然よ」
しかし、明日香の動きは止まった。キシオムバーグは勝ち誇ったように笑う。
「明日香、もう一度考えてみなさい。あなたがわたくしと手むすぶなら、あなた
の相棒は殺さない。どうかしら」
ダークの通された部屋は豪華で広々とした応接間である。しかし、ダーク出迎
えたのはそうした部屋にふさわしくない、薄汚れた戦闘服を身につけた二人の男
であった。男たちは短機関銃を構え、ダークに狙いをつけている。
「よお、刑事さん。ようこそ」
男はにやにや笑う。ダークは少しがっかりした。
(なんや、おもったよりレベル低いな、こら)
「まず銃を渡してもらおうか」
ダークは男の言葉にこたえ、ポケットから出した物を放り投げる。男が受け取
ったそれは、スタングレネードであった。スタングレネードは男の手の中で炸裂
する。両腕で顔をかばったダークはスタングレネードの放った光と音を感じた。
その直後に立ちすくむ男たちに向かって、ダークは抜きはなった拳銃を撃つ。
男達は二人とも肩を打ち抜かれ、倒れた。ダークは同時に後ろに立つ案内係の女
性の頭を殴り、気絶させる。ダークは手にした古典的リボルバー、S&Wのミリ
タリー&ポリスに素早く給弾し、男達に近づく。男達の頭を蹴飛ばし気絶させた
男達の機関銃は呆れたことにトンプソンであった。
(すげぇ、ど田舎のゲリラさえMP5K使ってるのに、こんな博物館行きの銃も
ってるなんて)
ダークはトミーガンをとりあげ、45ACP弾の予備弾倉も奪う。45口径の
短機関銃を使うはめになるとは夢にも思っていなかった。
ダークはトミーガンを構え、気絶した女の鼠蹊部を蹴る。女は苦痛の呻き声を
あげて気づいた。ダークは女を立たせる。
「先にいってもらおうか。相棒のところへ案内してもらうで」
女は蒼ざめた顔で頷く。扉を開けて部屋の外へ出た。
銃声が轟いて、女の悲鳴が上がる。ドアを出て左側だ。ダークは銃声が静まる
のを待つ。やがて銃声は静まった。ダークはドアを開け、銃弾のきた方向へスタ
ングレネードを投げる。ドアの後ろに隠れたダークの背中に衝撃波と閃光が来る
ダークは廊下へ飛び出す。棒立ちになっている3人の男へトミーガンを打ち込
む。45ACP弾が男たちの腹を射ちぬいた。
ダークはトンプソンの弾倉を替え、男たちに近づく。男たちの銃もトンプソン
であった。ダークは弾倉を奪っていく。
ダークは呻いている男の頬に銃身を押しつけた。皮膚が焼け、悲鳴があがる。
「相棒はどこや」
「上のフロアだ」
ダークは血塗れの廊下を抜けて、階段へ向かう。階段をかけながらスタングレ
ネードをほうり投げる。ダークは頭を下げた。頭上を爆音と閃光が走り抜ける。
ダークはトミーガンを乱射して上のフロアへかけ昇った。階段を昇りきったダ
ークは息を呑む。そこに待ち受けていたのは2メートル近い図体の、蒼ざめた巨
人トロールであった。トロールは全身に45ACP弾をうけていたが、意に介し
ていないようだ。トロールは死人のような目をダークへ向ける。その手にあるの
はM60機関銃だ。
「くそっ」
ダークはトミーガンをトロールへ撃ち込む。トロールは苦痛すら感じないのか
感情のない目でダークを見ている。
トロールは突然野獣のように咆哮した。ダークは反射的に後ろへ飛ぶ。階段の
下へ隠れた。銃弾が頭上を飛びすぎる。
「冗談やろ、全く」
野性動物並の生命力である。こんなことならホーランド・アンド・ホーランド
マグナムでも用意しておけばよかったと思う。
「しゃあない、あれ使うか」
ダークは背中から銃をぬく。ワルサーカンプをベースに改造した、グレネード
ピストルだ。足にくくりつけておいたストックを装着し、対人用榴弾を装填した。
頭上で咆哮が聞こえる。トロールがそばまできていた。M60は射ち尽くした
ようだ。血塗れの姿にダークは言葉をかける。
「よう、大将。やるやないか」
トロールはM60を振り上げた。ダークはグレネードピストルを射つ。反動で
めまいがした。
弾はトロールの口に飛び込む。口の中で炸裂しトロールの頭は消し飛んだ。
倒れ込んだトロールの体を盾に、ダークはトミーガンを射つ。再びスタングレ
ネードを投げると、トロールの体を飛び越え突入していった。
キシオムバーグの銀の髪が、漆黒の肌の上でゆらめく。そっと溜息をつくと明
日香に向かっていった。
「馬鹿なひとね。死になさい」
魔族の戦士たちは包囲の輪を縮めた。明日香は美しく輝く肌を晒したまま、動
く様子をみせない。死の宮殿につれてこられた月の女神のように落ちついている
魔族の戦士たちの気が高まり、襲いかかろうとした瞬間、部屋に爆音と閃光が
走りダークが飛び込んできた。
ダークの機関銃が火をふき魔族の戦士たちが倒れる。ダークは凄みのある笑み
を浮かべた。
「ここで終わりかい。親玉はそこのねぇちゃんか。明日香さん、はやいとこマリ
ィゴールドをとり戻しましょうよ」
明日香は苦笑しながらダークをとめる。
「近寄らないで」
魔族の戦士たちはゆっくりと立ち上がった。銃弾がその体から抜け落ち、乾い
た音をたてて床に転がる。
「なんや、ここはこんな奴ばっかりかいな」ダークがやれやれといった表情にな
る。明日香は微笑んで言った。
「あてがはずれたわね、キシオムバーグ。誰を殺すんですって。誰を」
キシオムバーグは動じたふうもない。その黒い肌の美貌はなんの表情も見せな
かった。ダークの存在は無視している。
「もちろん、明日香。あなたをよ」
その言葉と同時に魔族の戦士たちが邪悪な気配を発し始めた。呪詛の能力を使
い始めたのだ。相手の生命力を衰弱させ弱りきったところを襲う。それが魔族の
手である。
まるで空気が倍の重さを持ったように、部屋の中は重苦しくなった。ダークは
視界が霞むのを感じる。地の底へ引きずり込まれるような脱力感を感じた。
明日香は黒く邪悪な力の渦の中心にいたにも関わらず、平然と立っている。呪
詛の力は、明日香にとどいていないかのようだ。しかし確かにその肌は光を失い
目に闘志が消えていた。明日香はすでに気を失いつつある。
「さよなら、明日香」
キシオムバーグの言葉と同時に魔族の戦士たちがうごいた。と、同時に明日香
の目が煌めく。
輝く風が部屋の中を吹き荒れた。金色の煌めきが部屋の中を駆け抜ける。明日
香のナイフが、つっと空を舞って血をふきとばすと、もとの指輪の中へ収まった。
同時に魔族の戦士たちが倒れてゆく。その手足、首は胴体から離れ、血の海の
中へ沈んでいった。部屋の中は鉛色の血で満ち、そこらじゅうに切り飛ばされた
人体の破片が転がっている。
キシオムバーグはむしろ陶然とした表情で言った。
「すばらしいわ、明日香。素敵よ」
明日香は激しく息をついた。立っているのがやっとのようだ。ダークが駆け寄
り、その体を支える。
「マリィゴールドは返してもらうわ」
キシオムバーグは鼻で笑う。
「あんなものはもう意味を失っているわよ。まぁいいでしょう。持っていきなさ
い。誰かに案内させるわ」