AWC すべてがAIになる 10   永山


        
#3719/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/12/31  17:42  (197)
すべてがAIになる 10   永山
★内容
「そんな理由で殺す……?」
 信じられないとでも言いたそうに、首を振る野瀬。激しくて、髪が乱れた。
「僕にも理解できません。院生じゃなく、学部生の中には、キャンパス内でポ
イ捨てしている連中なんて、いくらでもいます。彼らを咎めずに、高倉先輩を
ねらったのは、やはり大学院生というのが大きいのかどうか……」
 喋っている内に、段々と自信がなくなった千堂は、語尾を濁した。宍戸の語
ったとされる殺人理由は、彼にもさっぱり理解できない。
 −−じゃ、じゃあ、何故、ロボットを改造させた? それを使って、部屋を
密室にするなんて、何の意味があって?
 村木の問いかけに、宍戸は勝ち誇ったような笑みを浮かべたらしい。
 −−決まっているじゃないか。もしものとき、村木さん、あなたに罪を被っ
てもらうためですよ。ロボットにはあなたの指紋がべたべた着いているはず。
そのロボットが密室作りに必要不可欠となれば、警察はあなたを逮捕するでし
ょう。
 −−た、他人に濡れ衣を着せるための密室?
 −−そうなんですよ。私、保安という立場にあるでしょう? 鍵を自由にで
きるから、普通に密室を作ったら即座に怪しまれちまう。苦心しました。思っ
ていたより早く、ロボットが見つかったのには驚きましたがね。その上、警察
じゃなくここの学生が見つけるとは、誤算だった。
 −−何の恨みがあって、私に濡れ衣を……。
 −−恨みはないですがね。私としては、仕方なしにあなたとお友達になって
あげたんです。だから、少しぐらい役立ってもらおうかと思いまして。
 −−む、無茶苦茶だ。
 −−そんなこと言いますか、村木さん。じゃあ、首を切った理由もお話しし
ましょう。あなたの犯行としてふさわしく見えるよう、わざわざ首を切って差
し上げたんですよ。ほとんどを研究室に閉じこもっている、怪しげな研究生−
−村木さんのことですよ−−が行う殺人となれば、一種異様じゃなきゃいけま
せん。そのためには、首を切って持ち去るのが手っ取り早いと考えたんです。
保安室の冷蔵庫に入れていたんだが、使い勝手が悪くなって、いやはや、不便
でしたよ。
「……何よ……」
 頭部を切断した理由を聞かされた野瀬に、言葉はなかった。
「……続けます。あと少しですから」
 千堂は静かに言って、警察から聞いた話を思い起こす。
 −−黙っていれば、助けてくれるのか?
 −−現時点では、私があなたを殺す理由はない。助けますよ。でも、このま
ま行ったら、あなたが犯人として逮捕される日も近いでしょう、ふ、はははっ。
いくら弁明したって、私はこの頭部や凶器を処分しちまいますからね、あなた
の言葉なんて誰も信じやしません。
 −−そ、そんなこと、あってたまるか。
 −−どうかなあ。ああ、これで証明された訳だ。大学院に行く人間よりも、
私の方がよっぽど頭がいいとね。
 こう言われた瞬間、村木は相手に飛びかかったそうである。このままでは本
当に罪を被せられかねない。切羽詰まった上での行動だ。
 が、宍戸もそれを予想していたのであろう、手にしたナイフを一振りし、牽
制してから低く言った。
 −−抵抗するなら、この場で殺します。自殺に見せかけたいから、大人しく
してもらいたいものですな、村木さん。
 あとは何も分からないまま、もみ合いになり、村木はとにかく死にたくない
と、相手のナイフを持つ手を必死で掴み、その切っ先を宍戸に向けて、押し返
した。
 その刹那、とてつもない力で蹴り飛ばされた村木は、何か固い物、たぶん、
スチール製のロッカーの角に後頭部をしたたか打ち付け、そのまま意識を失っ
たと思われる。
「その時点で、宍戸は自分が手にしたナイフで首を斬りつけてしまい、そこが
たまたま頚動脈だったために、失血死したとのことでした。部屋の鍵について
は、村木さんは閉めた覚えはないと言ってますが、恐らく、宍戸が部屋に入っ
た折、密かに鍵をかけたのだろうと考えられています。これからの話し合いの
内容を、第三者に聞かれないようにするために」
 粗方話し終わって、千堂は紅茶を喉に流し込んだ。
「どこか……」
 何か言いかけて、やめる上島。野瀬の様子に注意が向いたらしい。
「野瀬さん? 大丈夫ですか?」
「……さっきはああ言ったけど、だめみたい。気分、悪くなってきて……」
 上島は野瀬に肩を貸し、寝室まで連れて行く。野瀬の身体に触れるのをため
らった千堂は、そのまま着いていった。
「すみません、野瀬さん」
 女性の寝室にいるのを居心地悪く感じながら、千堂は野瀬に頭を下げる。
「いいよ、千堂君。私の方から希望したんだ。だけど……ごめん、今日はもう、
一人にさせて」
「……分かりました。失礼します。お大事にしてください」
「何かできることがあれば、言ってくださいね、先輩」
 千堂と上島は来たときと同様、静かに野瀬の部屋をあとにした。
「何かおかしいですよ」
 エレベーターの中、ぽつりと上島が言った。
 数字の点滅を見ていた千堂は、何が?と視線を向けた。
「宍戸さんが犯人なら、密室を作るのに鍵を使ったですよね?」
「多分、そうでしょ。慣れないロボットを操縦して、時間をかける必要はない」
 一階に着き、会話を続けながら二人は外に出た。アスファルト道を渡り、バ
ス停に向かう。
「だったら、あのロボット、あそこまで正確に作らなくてもいいんじゃないか
なって思うんですよ」
「そんなことない。村木さんに罪を着せるためには、あのロボットで本当に施
錠できないとまずいよ」
 バス停の前まで来ると、千堂は時間を確認した。次のバス到着まで、十五分
弱の余裕がある。緑色のベンチに腰を下ろすと、上島も続いた。
「じゃ、宍戸さんはどういう指示を村木さんに出したのかしら? 研究室のド
アのボタンを押せるように作ってくれなんて、言う訳ないですよ」
「……正確にサイズを測れば、何とかなるでしょ」
 少しおかしいなと思いながら、千堂は答えた。
「そうですか? 仮にそうだとして、出来上がったロボットが、実際に試した
ら鍵をかけられない可能性も、かなりあると思いますが」
「村木さんの技術がそれだけ高かった。それでいいじゃないか」
「……それじゃあですね、ロボットを盗み出したのは宍戸さんになりますが、
学生じゃないあの人が制作室に出入りしたら、目立つんじゃないですか?」
「そうでもないでしょ。保安の仕事をするため、よく見回っていたよ。村木さ
んが出歩くよりも、よほど目に着かないんじゃないかな」
「それなら、毒物の入手経路。宍戸さん、どうやって毒を手に入れたんでしょ
うね?」
「そこまで分からないけど……金さえ払えば拳銃も手に入る時勢だから、毒も
似たような物じゃないか?」
「うーん、何だかなあ。じゃあ、次」
「まだあるの?」
 呆れて、声に嫌がる響きを混ぜる千堂。対する上島は、けろりとして答えた。
「細々した点なら、いくつもありますけど、特に気になるのは−−ナイフです」
「ナイフ。ああ、宍戸が村木さんの部屋に持って来たナイフ?」
「はい。宍戸さんが村木さんを、自殺に見せかけて殺すつもりだったのなら、
宍戸さん自身のナイフを使うのは不自然です。その場の成り行きで殺すかどう
かを決めるような状況だったから、毒を使わずナイフにしたのは、まあいいと
しましょう。でも、自分のナイフを使う必要はないです。だって、そのナイフ
を現場に置いて行く訳にいかないから、わざわざ別のナイフを用意しなくちゃ
いけない。そんなことするぐらいなら、最初からその別のナイフを使うべきで
す。それが論理的行動です」
「論理的とは大げさだね。しかし……」
 一理あると、千堂は感心していた。
「たとえば、こう考えたらどうだろう? 殺人には使い慣れたナイフを用い、
現場に残す分はダミーを別に用意しておく。自然だよ」
「自然なのは認めますけど、宍戸さんが別のナイフを用意していたという話、
警察から聞きました?」
「いや……」
 首を振る。彼の内でも、疑問が膨らみつつあった。
 事実、千堂は、野瀬にはもちろん、上島にも伝えていない警察の情報を胸に
仕舞っていた。曰く−−高倉の脳がそっくり抜き取られていたらしいのだ。こ
の点について、村木は宍戸から何も聞き出せていないまま、小競り合いになっ
てしまったという。
(宍戸が高倉先輩の脳を取り出さねばならない理由……)
 心中、首を捻った。納得できる答えは、簡単には見つかりそうもない。
 ふと、上島の訝しげな視線に気づき、急いで言った。
「そこまでは明かしてくれないだけかもしれない。滅多なこと、口にするもん
じゃないよ」
 バスが来た。

 千堂が待ち望んだ機会を得るまで、一週間を要した。
「村木さん、よろしいですか?」
 自信を持って四〇二のドアをノックする。事前に連絡して、了解を得ていた
からだ。
 ドアが開き、村木が出て来た。包帯も取れて、元通りになった様子。
「千堂君か。時間通りだね。でも、確か、上島君も一緒と言ってなかったか?」
「あの、彼女は遅れているんです。ほんとに、しょうのない奴で」
「そうなのかい。まあ、どちらにしても空けている時間は一時間だけだから」
 村木に促され、部屋に入った千堂は、後ろ手でぴたりとドアを閉めた。
「事件について聞きたいとか」
「はい。僕だけじゃなく、野瀬さんも知って、安心したがっていますから」
 テーブルを挟み、向き合う形で座る。
「ああ。彼女、高倉の首を見たショックで、まだ休んでいるだってね。気の毒
に。私が勇気を持って早い対処をしていたら、そんなことにはならなかったの
に」
「村木さんのせいじゃないです」
「そう言ってもらえると、肩の荷が降りるよ」
「それでですね。いくつか不明瞭な点があるので、村木さんのご存知だったら
と思い、こうして貴重な時間を割いていただいたんです」
「協力は惜しまない。何でも聞いてくれ、知っていることは全部話そう」
「では、時間も少ないので、遠慮なく行きます」
 前置きしてから手帳を開き、千堂は事件について納得できなかった項目を列
挙し、村木に尋ねていった。もちろん、上島との会話で気づかされた点も数多
くある。
 が、その多くに対する村木の返答は、「私には分からないな」というものだ
った。
「すまないな。ほとんど役に立てそうもない」
「いえ。次で最後です。高倉さんが殺された夜、村木さんは何の物音も聞かな
かったんでしょうか?」
「それも残念ながら、聞かなかったとしか言いようがない。何しろ、この部屋
のドアには」
 と、ドアの方向を差し示す村木。
「防音材を施してあってね。廊下の物音も、ちょっとやそっとじゃ聞こえない
んだ。ドアをノックしてもらって、やっと気がつく」
「そうですか……」
 ぱたんと音をさせ、手帳を閉じた千堂。
「お時間を取らせました。どうもありがとうございます」
「いや、こちらこそ、大したことが証言できなくて。結局、上島君は間に合わ
なかったらしいな」
「……それはどうでしょうか」
 千堂が故意に意味深な言い方をすると、村木はその瞬間、緊張した面持ちを
露にした。
「……どういう意味だい。分からないな」
「ちょっと失礼。まだ少し、時間がありますよね」
 言って、千堂は立ち上がり、ドアを開けた。そこには上島がいた。
「愛ちゃん、やってくれたかい?」
「ええ、何度もやりました。どうでした?」
「さっぱり、気づかなかったよ」
 千堂達の会話に、村木は立ち上がり、いらついた調子で割って入ってきた。
「一体、何なんだ、君達は?」
「ねえ、村木さん。聞こえませんでしたよね?」
 にやりとした笑みを作り、千堂は村木へと振り返る。
「聞こえ……? 訳が分からない。はっきりしてくれ。思わせぶりな言い方は、
大嫌いだ」
「言うよりも、見た方が早いかもしれません」
 千堂は上島に目配せした。
 上島は、腰の後ろに隠していた両手を前に持ってくる。握られていたのは、
楽器のトライアングル一式と、タンバリン。
「……音楽会でもやらかすつもりか」
「いえいえ。村木さん、この音、聞こえませんでしたよね? さっきから何度
も上島さんが鳴らしてくれたんですが」
「は」
 呆れたのか、声を上げると、村木は大げさな身振りで肩をすくめた。

−−続




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