#3602/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 21:20 ( 77)
雪原のワルキューレ49 つきかげ
★内容
つんだロキが佇んでいた。
「これで終わりかな?」
ブラックソウルが、黒い瞳を輝かせて言った。ロキが静かに首を振る。
「いや、ようやく終わりが始まったところだ。オーラの間者にして、魔族の女王の夫で
ある男よ」
ブラックソウルの背後で、ヴェリンダが頷く。
「事を始めたものは死んだけど、決着は誰もつけていない。闇の時が始まるようね」
一瞬、礼拝堂が昏くなる。巨大な闇がフレヤ達の頭上で、渦巻いていた。やがて、暗
黒は塊となり、ドルーズの死体へ吸い込まれてゆく。ドルーズの死体がゆっくり立ち上
がった。
「なるほど」ブラックソウルが、呟くように言った。「邪神ゴラース、ご本人のお出ま
しかい」
ドルーズであったものは、白く輝く美貌に、笑みを浮かべた。
「我が封印は解かれた。さて、そなたらはまた、奇妙な者たちだな。人と魔族、巨人に
ヌースの造った模造人間がつるんでいるとは。私が封じ込められている間に、酷く世界
は変わったようだ」
ブラックソウルは、あざ笑った。
「旧世界の者は、みんな同じ事を言う。変化を認めぬのなら、駄眠から目覚めなければ
いいのに。いずれにせよ」
ブラックソウルは、ロキに微笑みかける。
「ここから先は、あんたの仕事のようだ、ロキ殿」
ロキは無表情に、ブラックソウルを見た。
「お前はどうする。オーラの間者」
「さよならだ。ヴェリンダ!」
ブラックソウルが叫ぶと共に、ブラックソウルとヴェリンダを白い光が包んだ。二人
は光の中に、消え去った。
ロキは、かつてドルーズであった者へ、向き直る。
「お前は何が望みだ、グーヌの僕よ」
邪神に憑依されたドルーズは、美しい笑みを見せる。
「さてね。私は戦いの為にこの世に生み出された。戦いが終わって封印されたが、我が
本来の存在意義は戦いの中にある。やることは、一つだな」
邪神は夢見るような、表情で言った。
「ヌースに戦いを挑む。まずあんたを破壊し、地上に満ちた人間どもを全滅させる。そ
うすれば、ヌースも古き協定を破棄し、天上から降りてくるだろうな。あの、凶暴な天
使共をつれて」
ロキは、一歩下がった。そして叫ぶ。
「フレヤ!」
ロキの叫びに答えるように、ゆっくりと白い巨人が歩でた。その美貌に大地の女神の
ごとき、慈愛に満ちた笑みを浮かべながら。
「お前達の時代はもう終わったのだ、古きものよ。お前にふさわしい太古の夢へ、帰る
がいい」
フレヤは嘲るように、言った。その言葉にかつてドルーズであったものは、昏く笑う
。その笑みは漆黒の闇夜の終わりを告げる、明けの明星のごとく煌めいていた。
「記憶を封じられた巨人か。お前の力、我がものとさせてもらおう。そなたの力を得れ
ば、グーヌ神やヌース神も畏れる必要はない」
フレヤは凶悪な笑みを美貌に浮かべ、剣を抜いた。真冬の夜空に輝くオリオンのよう
に、フレヤの剣が光る。
「できるものなら、やるがいい!古の使い魔よ」
「剣で私を倒すというのか」
ドルーズの体に憑依したものは、楽しげに笑うと、その力を発現させる。ドルーズの
黒衣が夜空に広がる黒雲のように、フレヤの目の前で膨れ上がってゆく。ドルーズの白
い美貌は冥界に輝く月のように、黒衣の上に浮かんでいた。
やがて背後に巨大な黒い翼が出現する。闇が立ち上がったかのような、ゴラースの獰
猛な巨体が黒衣から姿を現す。
ドルーズの顔は歪み、その白い美貌を内側から突き破るように、獣の顔が出現した。
凶暴なまでに気高く見えるその狼の頭部は、黄金色に煌めく瞳でフレヤを見おろす。