AWC 雪原のワルキューレ39     つきかげ


        
#3592/5495 長編
★タイトル (BYB     )  96/12/13  21: 6  ( 76)
雪原のワルキューレ39     つきかげ
★内容
上より燃え尽きた星の墜ちる日に、あなたは目覚めると語られていた」
  フレヤの口は、彼女の意志に関わり無く、かってに言葉を紡いだ。
「私は、フレヤという名なのか?」
「その通りです」老戦士は頷く。
「我がなすべきことを告げよ、小さき者。我が記憶が戻るまで、汝にしたがおう」  老

戦士は、明るく微笑んだ。
「まずは神殿へ。そこにあなたの武具と、剣があります」
  フレヤの体が、動き始める。記憶の中の彼女が、そうした通りに。
(私は過去にいる)
  フレヤは夢の中で、夢を見ていると感じるように思った。
(これは、夢なのか)
  しかし、裸足で踏みしめる雪原の感触、肌に触れる夜の空気、総てがリアルであった

。
(では、あのナイトフレイムの宮殿が夢で、今、真に目覚めつつあるのか?)
  答を得る術は、無かった。

  ロキは、フレヤに向かって踏み出す。フレヤは神の声を聞くシャーマンのように、硬

直した状態で直立している。両手を掲げたクリスも又、聖なる狂人のように体を凍り付

かせたままだ。
  フレヤが魔導の技にかかったのは、明白である。次第にその存在が、希薄化しつつあ

った。完全に存在感が消え去った時、フレヤは別の時空へ送り込まれる。フレヤが留ま

っているのは、彼女の意識が一部、この時空間に残っている為だ。「おいおい、ロキ殿

どこへいく」
  ブラックソウルが、声を掛ける。ロキは、鉄鞭を抜く。彼の意図は、明白であった。

聖壇上のクリスを倒す。術者が倒れれば、術も解ける。
「そうは、いかないよ」
  ロキの歩が止まった。
「エルフの絹糸か」
  ロキは、静かに言った。いつの間にか、ロキの体にエルフの紡いだ絹糸が、纏ついて

いる。その糸は、虚空へと消え、そのもう一端がブラックソウルの手元にあった。ブラ

ックソウルの手から放たれた糸は、時空の歪みを通り抜け、ロキの周囲に出現し、その

体を縛りつけたのだ。
「魔繰糸術を身につけているとは、オーラの間者にしては上出来だ」
  ロキの落ちついた言葉に、ブラックソウルは苦笑する。
「ロキ殿、あんたは人間じゃないな。普通糸に斬られて、首が落ちているよ」
  ロキはブラックソウルを昏い瞳で見る。
「愚かなまねはやめろ、オーラの参謀殿。すでに戦いは終わった」
「ああ、巨人はもうすぐ術に堕ちる」
「違うな」
  ロキの言葉と同時に、聖壇の棺が、ごとりと動いた。
「逃げるなら今だ、オーラの参謀」
  それは、黒い虹が棺から立ち昇るのを、見るようであった。それ程強力で凄絶な瘴気

と波動が、棺より立ち昇っている。そして、暗黒の太陽が世界の破滅を告げるように、

ゆっくりと魔族最強の魔導師が立ち上がった。
  その長身の魔導師は、美と青春の若神のように美しい肢体を、晒す。奈落の果ての闇

を思わす漆黒の肌は、闘争の為に生きる獣のような生命力に輝き、地上で人間が繰り広

げたあらゆる虐殺より遥かに深い罪を宿した、真夜中の太陽のごとき金色の瞳が、神々

しく、そして邪悪に輝く。
  西の地平へ消えゆく、太陽の最後の残照のように、金色に燃える髪を靡かせ、魔族の

最も強大で邪悪な神官は、ゆっくり棺の中から歩みでた。骨のように白い僧衣を身につ

け、魔界の王が謁見するように礼拝堂を眺める。
  ふと、珍しいものを見るように、クリスに目をとめ、手を触れた。その瞬間、クリス

の体は弾け跳び、聖壇の下へ叩きつけられる。その様を満足げに見たクラウスは、ブラ

ックソウルを見た。
「眠っているうちに、世界は変わったのだな」





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