#3593/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 21: 8 ( 73)
雪原のワルキューレ40 つきかげ
★内容
クラウスは凶星が煌めくように、陰惨な笑みを見せる。その笑みは、まともな人間で
あれば意識を失うほど、邪悪な瘴気を放っていた。
「我が寝所まで家畜が、迷い込むとはな」
すっ、とクラウスは天使が宙を飛ぶように、聖壇から跳び降りた。クラウスは大地に
一枚の黒い花びらが落ちるように、静かにブラックソウルの前へ立つ。
「畏れることをしらぬ、獣のようだな、黒い髪の家畜よ。名を聞いておこう」
ブラックソウルは不遜な顔で、見下したように言った。
「我が名は、ブラックソウル。忘れられぬ名となるぞ、おまえが生き延びればな」
クラウスは、楽しげに笑う。
「私の前で魔繰糸術とは、大胆というより、無謀だな」
ロキを縛っていたエルフの絹糸は、ロキの戒めを解くと、虚空を通りクラウスの手の
中へ来た。そしてその絹糸は、再び空間の歪みを通じ、ブラックソウルの体を縛る。
クリスの術から抜けでたフレヤが、戒められたブラックソウルの後ろへ立った。クラ
ウスは、フレヤに微笑みかける。
「久しぶりだな、フレヤ殿。といっても、記憶は戻っていないようだな。封印を解かね
ばなるまい。しばしまってくれ、フレヤ殿」
「急ぎはしないさ」フレヤは笑みを返す。
クラウスは邪悪な欲望に満ちた顔で、ブラックソウルを見つめる。
「ブラックソウル、このまま君の糸で、君の首を斬ってもいい。しかし、君には別の死
を与えよう。魂の奥底まで昏い恐怖に侵される、崇高な死を与えてあげよう」
そしてクラウスは、右手をブラックソウルの首へかけた。空間が歪むような、瘴気が
立ち昇る。それは、揺れ動く死の海底の光景を、思わせた。
歪んだグラスの中のような、邪悪な瘴気に閉じこめられたブラックソウルは、常人で
あれば、干涸らびた死体となったであろう。しかし、ブラックソウルは春の日差しを浴
びているように、穏やかに微笑んだ。
「どうした、魔族最強の魔導師。おれを殺すんだろ」
クラウスは無言である。闇色の炎が渦巻くように、凶暴なまでに激しい邪悪な波動が
、ブラックソウルのまわりを、覆う。それは地底の奥底から甦った、暗黒時代の野獣達
が身を捩らせながら、のたうちまわる様を思わせた。
「無駄だ、無駄!」
ブラックソウルが叫ぶとともに、一瞬、左腕が揺れる。黒い炎のような色の剣が、稲
妻のようにクラウスとブラックソウルの間を走った。
ブラックソウルを縛っていた絹糸は、断ち切られ地に落ちる。ブラックソウルは平然
と立ち、一歩退った。同時に、クラウスも後ずさる。その僧衣の右肩に、真紅の線が走
っていた。血の染みである。
とん、とクラウスの右腕が床に落ちた。何かを掴もうとするように、床に落ちた右手
は手のひらを開いている。血が金属質の輝きを持って、迸った。白い僧衣が紅に染まっ
てゆく。
ブラックソウルは魔界の貴公子のように、微笑んだ。その笑みの影に潜む邪悪さは、
魔族のクラウスの前ですら、歴然と感じとることができた。
「ほう、奇妙な人間だな、おまえ」
フレヤが、呆れたように言う。クラウスは、ゆっくりとした動作で腕を拾うと、右肩
にあてた。幾度か指先が痙攣し、やがて自由な動きを見せ始める。クラウスはふっと、
ため息をついた。右手を、軽く動かす。
「やれやれ、驚いたよ。こんなことは、昔一度あったな」
クラウスは美しい笑みを浮かべ、金色の瞳を遠くを見るように、そっと細めた。その
姿は美と青春の神を思わせたが、一瞬浮かんだ表情は、数億年以上生き続けている、魔
族の魔導師にふさわしいものである。
「エリウス・アレクサンドラ・アルクスルT世。彼の者もそうであったな。我らの力を
受け付けぬ人間」
「そして、王家の血を受け継ぐ者に時として、同じ体質の者がいる。その者は常にエ