AWC 雪原のワルキューレ34     つきかげ


        
#3587/5495 長編
★タイトル (BYB     )  96/12/13  20:14  ( 78)
雪原のワルキューレ34     つきかげ
★内容
「肩をはめなよ、無敵の男」フレディは鉄の左手を、ゆっくり揺らしながら、言った。

「もう一度だ。始めてだよ、思いっきり意身術を使えるのは」
  ぞっとする程、楽しげな声である。ジークは辛うじて笑みを口の端にのせた。「ちっ

たぁ、手を抜けよ。何事も余裕を持つ、そのほうが、人生をエンジョイできるってもん

さ」

(最初の一撃で、けりをつける)
  ケインは、左手で勝負するつもりだった。意識を鮮明にしてゆく。ユンクの技は、意

識を越えたスピードで肉体を動かすところに、奥義がある。
  例えば、ある種の麻薬を吸引した時、世界が止まってしまったように見える状態に、

なることがある。意識の流れが、日常とは別の流れに入り込んでしまう為だ。
  又、麻薬を使用せずとも、極限まで肉体の能力を酷使した時、一瞬世界が止まって見

えることがある。脳内麻薬とよばれる物質が、神経を伝う情報量を、飛躍的に増大させ

てしまう為だ。
  すなわち、意識の底には別の時間流に従属する、もう一つの意識がある。無意識の底

の意識とでも、いうべきものだ。ユンクはそれを単純に、「想」と呼んでいる。
  ユンクの技は、麻薬の使用や、肉体を極限状態に置くことをせずに、想を呼びさます

ものであった。ケインはその想を、今まさに、呼びさましつつある。
  極度の精神集中により、視界が一瞬暗くなり、轟音のような耳なりに聴覚が狂う。し

かし、その直後に、よりクリアな世界が開けるのだ。
  世界は、水晶の中に閉じこめられたように、明るく輝きだす。空気の粒子一つ一つが

、見えるように思える程、感覚が研ぎ澄まされる。
  ケインは、夢見るような、表情になった。その瞬間には、世界は止まっている。空間

把握は、とてつもなく広い範囲になり、なにもかもが、凍り付いたように、動きをとめ

ていた。
  頭上から降り注ぐ光は、無数のスペクトルに分かれ、鮮やかな色の光線となり、ケイ

ンの視界に映る。自分の心臓の鼓動が、ゆっくりと打ち、それに従って、目の前の光の

色が、移り変わってゆく。
  煤色のマントに身を包んだ、黒い髪の男が動いた。その男、ブラックソウルはガラス

の壁を叩き割るように、ケインの間合いへ踏み込む。
  ケインの意志を越えたところで、判断がなされ、左腕が動いた。想のレベルで、ケイ

ンの身体は動いている。ケインの意識は呆然と、自分の体の動きを見ているだけであっ

た。
  闇の中で燃える炎を封じ込めたような、闇水晶の剣が、疾風となり空間を裂く。甲高

い音をたて、闇水晶の剣が弾かれた。
  目に見えぬ壁に、跳ね飛ばされたように、闇色の半月型の水晶片は、ケインの左手へ

もどる。
(そういうことか)
  ケインは、ブラックソウルの左手に自分の持っている物と同じ、闇水晶の剣を見た時

、奇妙に納得してしまった。むしろ、正体を見抜けた安心感を、憶える。
  相手も又、ユンクの技を学んだということだ。ブラックソウルの余裕は、それで説明

がつく。後の問題はただ一つ、どちらの技が、優れているかだ。
  ブラックソウルの口元には、相変わらず余裕の笑みが浮かべられている。
(いけ好かねぇ野郎だ)
  ケインはエルフの絹糸を操り、二撃目の準備に入っていった。今や、ケインとブラッ

クソウルは、常人の感じることのできない、スピードの世界へ入り込んでいる。

  ジークは、右肩を無理矢理はめ込む。再び、右腕は動くようになる。しかし、今の右

腕では、意身術を使った技は使えない。
  フレディとジークでは、技のレベルは、ほぼ互角であった。そうなると、体を構成す

る肉の量で力は決まってしまう。さっきジークの右腕が押し戻されたのは、フレディの

ウェイトが、ジークを上回っていた為




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