#3586/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 20:12 ( 82)
雪原のワルキューレ33 つきかげ
★内容
な)
ジークは、左半身を前に出し、直角に曲げた左手を揺らす、いつものスタイルをとっ
た。スリ足で近づこうとする。
(なに?)
ジークは、フレディのとった構えを見て、足を止める。その構えは、ジークのとった
構えと、全く同じであった。火焔の入れ墨が彫られた左腕を、ジークと同じ形に曲げ、
ゆっくり揺らせている。
「ほう、」フレディは、面白そうに笑う。「同じ技か。その左手、黒砂掌だな。おれに
お前の技が通用するかな、無敵の男」
ジークの表情は、変わらない。相手がどうであれ、自分のスタイルを崩すつもりは無
かった。
ジークは、間合いを測る。フレディは、長身を微かに屈めるようにして、フットワー
クを使っていた。
(まともに、行ってみるしか無いな)
ジークはラハン流格闘術の、最もオーソドックスな戦法を、とることにした。すなわ
ち、左手で動きを止め、右手でとどめをさす。意身術の為、ジークは思念の統一を始め
た。
全くジークと同じポーズをとったフレディは、ジークと同じように、フットワークを
使いながら、間合いを測り始める。二人はいつの間にか、円を描いて動いていた。
互いに見えない中心の回りを、間合いに入るぎりぎりの所で、ゆっくり回っている。
目に見えない力が、二人を押しとどめているようだ。
突然、ジークがしかけた。前に踏み込み、黒い颶風のように左手を放つ。金属のぶつ
かり合う音が、礼拝堂の神聖な静寂を破った。
(なに!)
相手の左腕を切断し、胸に食い込むはずだった漆黒の左手は、フレディの左腕に止め
られている。意身術に入る為、ジークの動きは、一瞬止まった。しかし、完全に捕らえ
られる間合いなのに、フレディも動かない。
(えい、いっちまえ)
全身の力が右の拳へ、集中する。フレディの右腕のガードごと、その胴体を粉砕する
つもりであった。
ジークはその時、信じられないものを、見る。フレディが、鏡に映った自の姿のよう
に、右手を腰に構え、自分に向かって掌底を放つのを。
(意身術もあやつるのか!)
ジークの全身の力をのせた右拳へ、フレディは右手の掌底を合わせた。鋼鉄の塊を殴
ったような衝撃が、ジークの右腕へ走る。
「うがっ」
ジークは、苦しげに呻く。後ろへ跳び、間合いを開けた。フレディも動きを止める。
(やられた)
ジークの右腕は、下へさがったままだ。構えをとることが、できない。肩の関節が外
れている為だ。
後ろに退がったフレディは、同じ構えをとる。右拳は、腰のあたりで構えられていた
。
ジークが辛うじて、左手のみで構えをとろうとするのを、フレディは鬼神のような顔
に笑みを浮かべて見ている。そして、動きを止めた。
「さすが、黒砂掌だ」
フレディは、左手を上げる。その皮膚が裂けており、鉄の肌がのぞいていた。「クワ
ーヌで買った人造皮膚が、裂けてしまったよ」
フレディは、肘から先の腕の皮膚をむしりとる。そこに現れたのは、鋼鉄で造られた
、腕であった。
「流体金属の義肢か」ジークが、呻くように言った。
体温の変化や、微弱な神経電流を感じ、形態を変化させる金属がある。その流体金属
とよばれる素材の性質を利用し、自在に操ることのできる義肢がオーラにはあると聞い
たことがあった。フレディの左手は、まさにそれである。
フレディは、鉄でできた骨のような、左手を動かしてみせた。滑らかな、普通の手と
変わらぬ動きである。