AWC 雪原のワルキューレ35     つきかげ


        
#3588/5495 長編
★タイトル (BYB     )  96/12/13  20:17  ( 81)
雪原のワルキューレ35     つきかげ
★内容
である。
  ジークが右肩を外したのは、右手の骨が砕けるのを、防ぐ為であった。関節が外れる

ことにより、力が逃げ、骨は無事で済んだわけである。
  意身術はあくまでも、体の力のすべてを一点に集中する術であるから、体にある力の

総量までしか、でない。それが劣っているのなら、勝負は決まっていた。ジークには、

一分の勝ち目もない。
  しかし、一つだけ方法がある。危険な賭になるが、それしか手は残っていない。ジー

クは、右半身を前に出し、左手を体の後ろへ退げた。丁度、フレディと逆の構えに替え

たのだ。
「ほう」
  フレディが、感嘆する。それは、捨て身の構えであった。右手は捨てる、ということ

なのだ。
  生身の右手では、フレディの鋼鉄の左手は、防げない。当然、右腕は切り落とされる

だろう。ただ、黒砂掌の左手と、フレディの右手がぶつかりあえば、フレディの右手は

砕ける。
  運がよければ、相打ちとなる。ただ、フレディの鉄の義手がジークの右手を切断し、

胴体に食い込んだとしても、心臓までは届かない。せいぜい右肺を、貫く程度だ。ジー

クには、十分勝算があった。もし、フレディが、剣を抜かなければの話であるが。
  ジークが右半身を前に出すということは、剣を防げないということだ。もし、ジーク

がフレディの立場であれば、躊躇わずに剣で斬りかかる。
  しかし、目の前の男は、違うはずであった。戦いを、楽しんでいる。そんな終わりは

、望んでいないはずである。
  フレディは入れ墨に色どられた顔を、微笑みで歪めた。腰の剣をはずし、床へ投げ捨

てる。
「楽しい男だね、あんた」ジークは、笑みを返して言った。「けど、最後に立っている

のは、おれなんだけどね」
  火焔の入れ墨をしたフレディの、その姿の通りの鬼神が現前したかのような、凄まじ

い殺気が、ジークの顔を打つ。
「次で終わりだ、あんたの無敵は」
  ジークは子供のように、青い瞳を輝かす。
「本気にしたの、無敵というのを?うそに決まってんじゃん」そして、ジークはたまら

なく楽しげな笑みを、浮かべた。「でもなぜか、勝っちゃうんだよな」

  無数の色の光が、目の前を乱舞する。闇水晶を使う時、いつもみえる幻覚だ。ケイン

は色彩の洪水の中で、闇色の刃を自在に操っていた。
  絹糸を使い、空中で刃の向きを変え、斬りかかる。一度やりすごさせ、背後から斬る

。ケインは自分にできる全ての技を、試みた。
  ブラックソウルは、その技をことごとく、跳ね飛ばす。水晶がぶつかりあい、煌めく

ような音があたりに響いている。まるで結晶化した音の破片が、飛び散っていくようだ

。
(互角だ)
  ケインとブラックソウルの技は、同じレベルであった。ケインの繰り出す技は全て阻

止され、ブラックソウルの反撃も、同様にケインがブロックしている。
(気にいらねぇ)
  同じレベルのはずにも関わらず、ブラックソウルには、変わらぬ余裕が見える。まる

で、勝負の決め手を隠しているように。
(あのアニムスという野郎を、動かす気か?)
  もし、アニムスがユンクの技を使えるのなら、ケインはとっくに負けている。しかし

、アニムスは棒立ちで、ケインはいつでも彼を殺すことができた。
(くそっ、判らねぇがいずれにせよ、らちがあかねぇ)
  ケインは、右手を使う決心をした。左手と右手のコンビネーション、その技数の多い

ほうが、この戦いの勝者となるはずである。
  ケインは、右手の水晶剣を放った。それはやはり、ブラックソウルの右手から放たれ

た水晶剣により、はじきとばされる。
「むぐうっ」





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