#3564/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:40 ( 74)
雪原のワルキューレ11 つきかげ
★内容
ミルはゴーラの下街のほうへと、入り込んで行った。朝だけに、人影は疎らであるが
、麻薬の夢の中を漂っているような男や、妖魔の血が流れているふうな娼婦が、けだる
げに水タバコを吸引しているのを見かける。おそらく昨日の夜ここで殺されたものがい
たとしても、その血は雨で流されてしまっているだろう。
2時間ほど、その迷路のような下街を歩いた後、ミルは、とある建物の地下へと続く
階段を、下っていった。その壁には、邪神グーヌの僕の姿や、東方の名も定かではない
、性愛の神の淫らな姿が描かれている。
ケインとジークは、その半神半獣たちの戯れる姿を描いた壁画を見ながら、地下へと
降りていった。ミルは扉を開き、薄暗い部屋へ入る。ケインたちも後に続いた。白い布
で仕切られた向こうへミルは声を掛ける。
「二人をつれて来ました」
「ああ、こっちへこい」
布の向こうは思ったより広い部屋であった。部屋の中央は一段低くなっており、食物
と壷のおかれた低いテーブルが置かれている。そのテーブルの向こう側に背が高く、体
つきの逞しい男がいた。男はクッションの上に胡座をかいて、座っている。どうやらそ
の男が首領らしい。
部屋の周囲は、布で覆われており、その奥に人が潜んでいる気配をケインは感じた。
ミルは後ろにさがり、姿を消す。ケイン達は、男の前に立つ。
「私が黒い炎団の首領、ゲールだ。腰をおろしたまえ」
思ったより若い男である。肌は浅黒く、髪も黒い。顔の彫りは深く、顔立ちは結構整
っており、二枚目だ。目もとは、盗賊の首領とは思えないほど、涼しげであったが、豊
かな口髭をはやしている口元は、皮肉っぽく歪められていた。
ゲールは値踏みするように、目の前に腰をおろした二人を見る。微かに笑みを含んだ
目もとからは、何を考えているのか、読み取れない。
「ラハンの弟子といったね、君たちは」ゲールはよく通る美声で言った。盗賊には、似
合わない声だ。
「ラハンの弟子はおれじゃない。こいつだ」
ケインに小突かれたジークは、愛想よく笑う。
「まかしてくれ。オーラの闘竜と、さしでやっても負けない。実力はラハン以上だ」ジ
ークは粒らな瞳をキラキラさせて、言った。
「東方の二十七の都市で、武闘会に出場し、すべて優勝した。あんたは好運だよ、ゲー
ルさん。なにせ、地上最強の男が味方につくんだ」
「生憎と私は、言葉を信用できなくてね、」
ゲールの言葉と同時に、ゲールの後ろの布がゆれ、3人の男が現れた。3人とも、黒
い革の鎧を身につけ、長剣を手にしている。
ジークは丸まると太った顔に、愛くるしいといってもいいような笑みを浮かべ、困惑
したように肩を竦めた。
「ゲールさん、どういうことです?」
「実力を目に見せてくれ。彼らを相手に」
ジークは本当に困ったというように、丸顔を歪める。
「ゲールさん、私はあなたの部下を傷つけたくない。困りましたね」
「構いませんよ」ゲールは、涼しげに言った。「彼らには、あなた達を殺すように指示
した。あなたが彼らを殺してもいいですよ」
急に、ジークの目が鋭くなり、口元に不逞ぶてしい笑みが浮かんだ。
「あんた、殺していいと、言ったな」
ジークの口調は楽しげですらあった。ケインが小声で素早く言う。
「殺すなよ」
「心配ないって、ケイン」
心配ないとはどういう意味かと思ったときには、ジークが立ち上がっていた。 3人
の男たちは、ゲールの左側から回り込んで来る。ジークは、3人の前に立った。3人の
男達は、長身の男を中心に、残りの二人が左右に展開する。
3人とも構えは自己流であったが、人を