#3563/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:39 ( 77)
雪原のワルキューレ10 つきかげ
★内容
がどこかも知らぬまま、中原をさまよっているのか、教えてやろう」
フレヤの瞳が、好奇心を見せた。
「お前はそれを、知っているのか?」
「おれは、ヴァーハイムの岩石人間ロキだ。不死の一族の一人。我々の伝承の中には、
記憶を封印された巨人のことも語り継がれている。それをお前に伝えよう」
「今ここで、しゃべる気にさせてやろうか?」
フレヤが腰の剣に、手をかける。
「無駄だよ、脅しは。おれは、剣では殺せん。フレヤ、あんたが人間とは、取引をしな
いのは、知っている。しかし、あんたの知っての通り、おれは人間ではない。この取引
は損ではないぞ、フレヤ」
「よかろう、ロキ。お前は何を私に手伝わせたいのか?」
「黄金の林檎を」
フレヤは、はっと息を呑んだ。その瞬間だけ、無表情のロキの瞳が、求道者のように
光る。
「黄金の林檎を、探し求める旅の道連れと、なってほしい。おれは地の果てであろうと
も、地獄のグーヌの根城であろうとも赴くつもりだ」
フレヤは低く笑った。
「いいだろう。一つだけ条件を付ける。ジゼルは殺す。それを認めるなら、旅に出よう
」
「かまわんさ。今はまずいが、ここでの用事が済めば、好きにさせてやる」
フレヤは頷くと、牢獄の外へ出た。未だ空は、混沌と暗く、無数の妖魔が飛び交うよ
うに、暴風が吹き荒れている。風はフレヤの輝く黄金の髪をかき乱す。
千の針のような雨が、フレヤの頬を打つ。フレヤは、地上を支配する大地の女神の様
に、美しい笑みを見せたまま、荒れた空を見上げた。
「ジゼルよ、虫けらがわが身に手をかけたらどうなるか、教えてやろう。暫し待て、蟻
の女王」
後ろに現れたロキが、フレヤに声をかける。
「いくぞ、フレヤ」
フレヤは、頷くと、白い巨身を崖の縁から奈落に向かい、踊りださせた。そのまま、
巨大な白い鳥が地上へ向かうように、崖をすべり降りてゆく。ロキは、後を追い、身を
投げだした。
そして、漆黒の男と、白い巨人は夜の森の中へ、姿を消す。
夜が明け、ライゴールの首都である、ゴーラにも朝日が差し込む。昨夜とはうって変
わり、輝くばかりに青く高い空を、朝日に染められた雲が流れてゆく。
何もかもが、雨に流されてしまったかのような街角に、ジークとケインは立っていた
。ケインがぽつりと言う。
「お迎えが来たぞ」
ジークはぼんやりと、頷いた。ジークとケインの前にやって来た男は、灰色のマント
を身に纏った、地味な男である。ただ、目付きの鋭さが、男の職業をものがたっている
ようだ。
男はケインの前に立つと言った。
「あんたが、ケインか?」
ケインは頷く。ジークは欠伸をした。2足で立ったトドを思わす仕草である。「おれ
は、ミル。黒い炎団のものだ」
そう言って、一瞬印章を見せる。炎を形どった、黒い紋章が見えた。闇だけを見つめ
てきたかのような、男の瞳がケインとジークを写す。ミルがどう思ったのかは、その表
情からは読み取れない。
「行こうか、ミルさん。あんたとこの、お頭に会わせてもらえるんだったな」
ケインの言葉に、ミルは黙って頷く。そして歩きだした。
冬眠から目覚めた熊のように、のそのそ歩くジークの臑を、ケインは素早く蹴飛ばし
た。
「いいかげん、目を覚ましたらどうだ」
「ああ、悪いな、昨日の酒が残ってるようでな」
ジークはぼやきながら、頭の後ろを叩く。ケインは諦めたように、ため息をついた。
ミルという男は、二人の話しが聞こえているだろうが、無視して歩いていく。