#3557/5495 長編
★タイトル (BYB ) 96/12/13 19:28 ( 77)
雪原のワルキューレ4 つきかげ
★内容
オーラのものらしい、独特の金属加工がなされていた。さらに金細工の装飾品は、南西
の草原の国キタイのものらしく、緻密な造りをみせている。
部屋の家具は木製で、西方のトラウスあたりの細工らしい。ライゴールはどこの国と
も軍事同盟を結んでおらず、中立の立場を貫いている。そのため、西方、東方様々な国
と貿易を行っており、その利益により栄えている国であった。
「そうですか、私の麻薬は効きませんでしたか」
若き魔導士ドルーズは、肩を竦めジゼルに言った。その後ろには女性の助手、クリス
が控えている。
「あの怪物には本当に手を焼かされたぞ。実際、数十頭の馬が倒れたのだから効き目は
確かなのだろうがな」
「古代の巨人族は、完全無欠の戦士だったと聞きます。それを生け捕りにできたのなら
、大変な幸運といえるでしょう」
「信じられぬな。古代の巨人の生き残り?神話では邪神グーヌとともに、地底の魔界へ
降りたと聞くが。しかし、それはただの神話だ」
黒髪の若き魔導士ドルーズは、秀麗な顔に苦笑を浮かべた。
「われらは、その神話の神、グーヌに従う者。ただの神話とはいえ、真実を含むもので
す」
「かもしれぬ。あの戦いぶりは、まさに神話の中の出来事であった。それはまあいい。
それよりも、ドルーズ、お主の仕事の進み具合はどうなのだ」
ドルーズは、もの想いに耽る表情となる。くせなのか、額にたれた前髪をいじってい
た。
「グーヌの僕の神、ゴラースの封印を解くですか。八分通り終わりました。それにして
も奇妙なことをお望みだ」
黒い長衣に身を包んだジゼルは、荒野の狼のような笑みをみせた。
「太古の邪神とは、かつて中原を支配した魔族の使役した使い魔であり、強力な魔族の
兵器であったと聞く。それを利用すれば、我がライゴールも南のオーラや、東のクワー
ヌを恐れる必要はなくなる」
ジゼルは暗き瞳を、闇の色に輝かせ、黒髪の魔導士に語った。
「我がライゴールが中立の立場を貫くには、それが必要なのだ。古代の技術を復活させ
、軍事力の強化に成功したオーラ、そして古代の秘術に通暁し、知の王国としてしられ
るクワーヌ、その二大強国の狭間の国、我がライゴールが生き抜くにはそれだけの力が
必要だ」
魔導士はそっと、笑った。まるで深夜に渡る黒い風のような、笑みである。
「恐るべき野望をお持ちだ。おかげで、グーヌの神殿を追放され、住むところを失った
破戒魔導士にも仕事ができたというものだが。
ただ、忠告しておきますが、太古の神を使い魔として使用できたのは、古の魔族の大
いなる魔力があったからこそだ。この私にしても邪神を使いこなせるかどうかは、判り
ませんよ」
ジゼルは、猛々しい笑みをみせた。
「たとえ邪神が制御できず、このライゴールが滅びようと構いはせぬ。それならば、こ
の私の命運がそこまでであった、ということよ」
ドルーズはそのジゼルを見ながら、さらに深くもの想いに沈んでいった。
ライゴールの若き破戒魔導士ドルーズの助手、女魔導士クリスは、ジゼルの城を出て
街へ向かった。魔導士らしく、灰色のフード付きマントをはおり、月の女神を想わす神
秘的な美貌をフードで隠し、昼下がりの道を下って行く。
ジゼルの城は山の中腹にあり、ライゴールの首都ゴーラの街は、谷の底にあった。城
下街であるゴーラは坂道の多い、入り組んだ地形を持つ。天然の城塞都市とも呼ばれる
。
クリスはジゼルの家臣の館が並ぶ山の裾を抜け、街である谷の中へと入って行く。両
端を崖に挟まれ、ずっと南の街道へ続いてゆく街は、活気に満ちている。