AWC 雪原のワルキューレ5     つきかげ


        
#3558/5495 長編
★タイトル (BYB     )  96/12/13  19:30  ( 77)
雪原のワルキューレ5     つきかげ
★内容
  道端には市が立ち並び、商人や旅人たちが行き交っていた。旅人の人種は様々で、東

のカヤンの商人や、キタイの騎馬民族らしい行商人、南のオーラの傭兵らしき者もいる

。
  クリスは街道に近づいた宿場の並ぶあたりで、裏の路地へ入り込む。そのころには、

陽は傾き夕暮れ時が近づいていた。
  薄闇に包まれた路地は、クワーヌで調合された麻薬を商う店や、トラウスから流れて

きた魔導士の店、あるいは様々な国の女たちを商う店が並び、表通りとは違う賑わいが

ある。行き交う人も、クリスと同じような風体の魔導士や、傷だらけの防具を身につけ

たならず者、地味な身なりの盗賊といった裏稼業の者が多い。  角にはグーヌ神の僕を

現す邪神のシンボルや、神像が置かれ、動物の死骸などの供物が置かれている。クリス

は麻薬や酒に酔ったものたちが行き交う、狭い路地を進む。起伏が多いため、階段や歩

道橋が多用され、道も狭く曲がりくねっており、立体的な迷路のようだ。
  所々に、血のあとらしい黒ずんだ染みがあり、夜になると辻切り強盗や、傭兵同しの

、物騒な喧嘩が多いらしい。しかし、一般的には金も持たず、仕返しの恐ろしい魔導士

に手を出すものはいなかった。クリスは剣呑な通りを顔色を変えず、進んでいく。
  クリスは一件の酒場の扉を開く。中はまだ陽が沈まぬというのに、客で溢れている。

多くは傭兵か、野盗のたぐいらしい。そうした客がめあての売笑婦や、吟遊詩人もいた

。
  クリスは酔客の間をすりぬけ、片隅のテーブルで一人杯を傾けている男の前へ行った

。男はクセのある黒い長髪をしており、見た目は盗賊ふうだ。チャコールグレーの地味

なマントで身を包み、静かに酒を啜っている。
  物静かな様子に似合わず、男の黒曜石のように黒い瞳は、キラキラと輝いていた。騒

々しい酒場の中で、男の精神は激しく活動しているようだ。
「ブラックソウル様」
  クリスは男に声をかける。男、ブラックソウルは頷くと、クリスを前に座らせた。
「城の様子はどうだ」
「ジゼルはやはり、ゴラースを復活させるつもりのようですわ。ドルーズの準備は整っ

ています。でも彼は恐れています。神を自分に制御できるのかと」
「神ね、神。ある種のエネルギー生命体だろう。彼らを使いこなすのは確かにやっかい

だろうが、大した力を持ってはいまい」
「おそらくは」
  ブラックソウルは微かに笑みを、見せる。野性的ではあるが、無邪気な明るさを持っ

たその笑みにクリスは戸惑いを感じた。
「どうなさる、おつもりです」
「どうとは?」
「ドルーズは放置させておくのですか」
「好きにさせるさ」
  ブラックソウルは凄みのある笑みを、見せる。
「ジゼルがたかが魔族の使い魔ごときで、オーラに対抗できると想っているのなら、大

間違いだ。オーラはかつて暗黒王ガルンと、二百年以上戦ってきた。オーラは軍事的に

も、神霊的にも鉄壁の国であることを知るだろうよ、ジゼルは」
  ブラックソウルは杯の酒を呑みほす。
「俺がここへ来たのは、そんな事とは関係ない」
  クリスは冷静な表情でブラックソウルを見つめたが、内心は闇の中に置き去りにされ

た子供のように、困惑していた。誰が聞き耳を立てているともしれぬこの酒場で、彼女

の上司は自分がオーラの間者であると、公言するようなことを言ってる。
  しかし、ここのもの達は、皆、周囲に無関心であった。自分達の計略に夢中な、盗賊

たち。他人に酒をたかるのに熱心な、流れ者。金勘定の最中の行商人。羽振りの良い客

の気を引こうとする、売笑婦。そしてその女達を振り向かそうとする、美貌の詩人。
  この雑然とした店の中では、大国の計略なぞ、おとぎ話のように、現実味が薄い。ブ

ラックソウルはそう考えて、ここを選んだのだろうか。クリスには判断できなかっ




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