#3547/5495 長編
★タイトル (ZWN ) 96/11/19 21:58 (191)
「魔術師」6回
★内容
伊集院はすぐさま「絵」があるかを確かめた。が、「絵」など
は何処にもなく、また、置き手紙もなかった。そして、部屋のド
アを開けて、外に待たせた3人を中に入れた。
「時夫さんは殺されていました。ただ、変なことに「絵」がな
いんです。そして、あの赤い魔術師も」
伊集院は3人にそう言った。3人は何があったのか始めは分か
らないようだったが、伊集院が殺害現場を見せると皆、納得がい
ったという顔になった。
「誰がおじさんを殺したの。ねぇ、誰が・・・、誰が、殺した
の・・・」
和巳がそう言いながら泣きだした。
伊集院はそんな和美の肩を軽く支えて廊下へと出ていった。そ
して、和巳の部屋へと連れていった。
「ねぇ、どうして、どうして・・・」
和巳が伊集院の胸の中で泣いていった。伊集院はそんな和巳を
ただ、抱いていることしかできなかった。そして、和巳をベッド
に寝かせると、部屋を出て現場へと向かった。
「何かありましたか?」
伊集院は中にいる2人言いながら部屋に入っていった。
「いや何も。ただ、始めの事件とは全くの別人である可能性が
高いということだけですね」
誠治の指摘は、伊集院の期待の上をいっていた。これほどにま
で推理力のある作家がいるだろうかと、伊集院は考えた。
「カギの束は見つかりますかね・・・」
慎治がそう言うと、
「机の引き出しとかを探せば・・・」
誠治がそう言って、近くにあった引き出しを開けた。そして、
「ほら、今いった通り出てきましたよ、ねっ」
誠治は自慢そうに言った。
伊集院はそのカギの束を借りると、次に慎治の父である幸助の
部屋に向かった。2人も伊集院のあとをついて部屋を出た。
伊集院は今度は、部屋をノックをするのを省いて、カギの束か
ら一本ずつかぎ穴に差し込んでいった。4本目辺りでやっと部屋
のドアが開いた。
「お父さん」
慎治はそう言って部屋に駆け込んだ。そして、
「なっ、なんて事だ、どうして父さんまでが・・・」
慎治の嘆く声が廊下の方まで聞こえてきた。伊集院たちはそれ
を聞いてから少し部屋に入るのを遅らせた。これが人の情けと言
うものなのかと、伊集院は思いながら待っていた。
慎治の嘆きが収まったのを見極めてから2人は入っていった。
そして、伊集院はすぐに幸助の死体を調べた。
死体のとなりには「絵」が飾られており、その「絵」の通りに
死体が飾られていた。正座で床に座っている死体は辺り一面に自
らの血を振りまいていて、一面赤い花畑のようになっていた。
血の生々しい匂いが漂っていて、誠治が窓を開けても匂いは外
へは出ていかなかった。
「絵」の中は正座をしている男性が舌を切られて死んでいる絵
だった。
伊集院は幸助の口を指でこじ開けた。すると、口の中からどす
黒い血があふれ出してきた。それだけではなく、切られた「舌」
の一部が、床へと落ちていったのである。
伊集院は腹の中からあふれ出す吐き気に耐えながら死体の足元
にある紙を手にとって読んだ。
***************************
悪人は 閻魔の餌食になるべきだ それを私が買って出て
悪を成敗し続ける 我は赤い魔術師なり
目立つ衣服をまとっても 誰も捕らえることできぬ
時の死こそは我ではなく 我の偽物の仕業なり
***************************
その紙にはそう書かれていた。時夫の死が別の死であることは
伊集院にも分かっていた。だが、未だとして誰が犯人かは分から
ない。
伊集院はそれを読み終わると「絵」をもう一度見た。微かにだ
が、一度動かされた様子があった。壁が日焼けをしていたためか、
色の違う部分が出ていたのである。
その絵にも血が飛び散っていたがその飛び散り方が、伊集院に
は妙に引っかかったのだった。壁に飛んでいるものの飛び散り方
と、違う飛び方をしている血があったのである。
「皆さんを起こして、ロビーに集まってもらってください」
伊集院がそう言うと誠治が「分かりました」と言って部屋を出
ていった。伊集院の方が年下なのだが、なぜか言う事を聞いてい
た。
「慎治君。ロビーに行こうか」
伊集院が慎治に言う。
「えぇ、取り乱してしまってすみません。もう平気ですから」
慎治はそう答えた。
伊集院は慎治と一緒に部屋を出て、ロビーへと歩いていった。
そして、慎治をロビーに座らせると、伊集院は2つの現場へと舞
い戻った。
まず、幸助の部屋に行き、壁にかかっていた「絵」を取り外し
部屋を出た。そして、第1の現場だと伊集院が断定した時夫の部
屋にその「絵」を持っていった。
「これをこの壁にかけて・・・。やっぱりだ、この絵は始めこ
こにあったんだ・・・」
伊集院はその「絵」をかけたまま、ある部屋へと行った。廊下
では誰にも合わなかったし、ロビーも通らなかった。伊集院は誰
にも見られずにその部屋に行きたかったのである。伊集院は自分
が持っているカギの束で、その部屋の扉を開けた。中はどの部屋
も同じ造りであるなぁと、伊集院は思いながら「ある物」を探し
た。
一つ一つ丁寧に部屋のあらゆる場所を探していった。そして、
やっとお目当ての物を発見した。
伊集院はそれを開けて中のあの場所に目をやった。
「やっぱりか、でも、どうしてこいつが・・・。それに、後か
ら書き加えた部分がある・・・。うん?どういうことだこれは!
もしかして、偽物とは・・・」
そこには、時夫と和巳の名前が書き足されていた。
伊集院はそう呟くと、急いでそれを書き写し部屋を出て、ロビ
ーに向かった。
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「またしても、この中で殺人事件が起こりました。今度の被害
者は時夫さんと幸助さんです。幸助さんの方には「絵」と「置き
手紙」がありました。が、時夫さんの方には何もなかったのです。
死因は、私が見る限り出血死であると思います」
伊集院は集まった皆にそう言った。和巳と慎治はまだ、少し泣
いていた。それだけではなく、理津子も何が何だか分からないと
言うように錯乱していた。
萌はまだ事を理解できないらしく、ボーッとしていた。
「私がまた見た方がよろしいんでしょうか?」
陽子が重たい空気の中でそう言った。
「えぇ、できれば・・・」
「分かりました。後ほど見ることにしましょう。それに、詳し
いことをもっと教えていただきたいわね」
「わかりました」
伊集院はそう言うと、皆にもっと詳しい説明をした。
日も大分高い所まで上がっていた。鳥たちが群れを成して青い
大空を飛んでいく。3日前のいまわしきつり橋墜落事故から、色
々な出来事が短期間の内に起こってきた。赤い魔術師が誰か、こ
れが一番の謎である。それだけではなく、何故殺されたのかも謎
である。
室内は暗く鈍よりとしていた。誰一人てして話さない。伊集院
の声だけが、だだっ広いロビーに響き渡る。その声は事の重大さ
を物語っているように低くはっきりとしていた。
話していてふとこの部屋に変化があるのに伊集院は気づいた。
それと同時にあの場所は何のためにあるのかの検討を始めた。伊
集院は話し終えると玄関を出て建物の裏側へと歩いていった。そ
して、高さが1階分であまり広くなさそうな小さな立方体の白い
建物を見つけた。それは暖炉のあった場所の丁度裏側に当たる所
にあった。しかし入り口らしきものは何処にもなく、窓すらなか
った。伊集院はそれを確かめると室内へと戻っていった。
「どうしたんです、伊集院さん」
幸夫が聞く。
「いえ、ちょっと気になることがありまして・・・。でも何も
ありませんでした。ただの勘違いでしょう」
「そうですか・・・。それと、家内が現場の検索をしましょう
かって言ってましたが?」
「そうですか。では、5分後に食堂にいらっしゃってください
とお伝え下さい」
「分かりました」
幸夫はそう言うと階段を上っていった。ロビーにはもう誰もい
ない。伊集院はそれを確認すると暖炉へと近づいていった。そし
て、隅々まで偵察した。暖炉の奥の壁が、少しばかりだが、ずれ
ているように思えたからである。
「伊集院さん?何をしているのですか?」
伊集院が振り返ると西側の建物から燐子が歩いてきた。
「ちょっと捜し物を・・・。燐子ちゃんは何をしにきたの?」
「私は、おなかがすいたから何かもらおうと思って、食堂に行
くんです」
「そうなのか、何なら僕も一緒に行こうかなぁ、丁度用事もあ
ることだし」
伊集院はそう言った。
「いいですわ、一緒に行きましょう!」
燐子はそう言うと伊集院の袖をつかんで引っ張っていった。
食堂に着くまで、伊集院と燐子は、ごく普通の世間話をしてい
た。そして、食堂に着くと伊集院は奥に入っていって、何か作っ
てくれるように頼んだ。
すると、陽子が一番奥のドアを開けて中に入ってきた。
「ありがとうございます。忙しい所を」
伊集院は陽子に向かってそう言った。
「いいえ、丁度退屈していましたから。あれ、燐子ちゃんだっ
たっけ、何しにきたの?」
「おなかすいちゃって」
「そうなの、それは大変だわ。何か頼んだの?」
「えぇ、僕がさっき頼んでおきました」
「じゃぁ、おばちゃんたちはお仕事があるから、ゆっくり食べ
ててね」
陽子がそう言うと燐子は「うん」と頷いた。そして、伊集院と
陽子は食堂を出て、現場へと向かった。
「まず、僕の検討でいくと、この時夫さんの部屋が第1の現場
だと思うのです」
伊集院はそう言って時夫の部屋のドアを開けて中に入っていっ
た。陽子もその後に続いて中に入っていく。
「まず、死因は出血し。で、この絵は何なの?」
陽子が検死をしながら言う。
「これは僕が幸助さんの部屋から持ってきたものです。ちょっ
と引っかかることがあったので持ってきておいたんです。いいで
すか、まず、この血の飛び方を見てください」
伊集院はそう言うと、「絵」の中に飛び散っている血を指さし
た。そして、今度は壁にかかっている血を指さした。
「これは不思議。血の吹き方が一致しているわね。て、言うこ
とは、この「絵」はここのもの?」
「いいえ、この「絵」は第2の現場である幸助さんの部屋のも
のです」
伊集院はそう言って、陽子を第2の現場へと連れていった。