#3546/5495 長編
★タイトル (ZWN ) 96/11/19 21:55 (200)
「魔術師」7回
★内容
「これを見てください。まず、この壁の部分だけ色が濃いでし
ょう。周りが日によって焼けていたんです」
伊集院はそう言って、時夫の部屋から持ってきた「絵」をつけ
たりはずしたりして見せた。
「本当だわ。ちよっと伊集院さん。その絵をあった通りに壁に
かけて下さい」
「わかりました」
伊集院は言われた通りに壁にかけた。ちゃんとあった通りにず
らして。
「この血の吹き方も一致しているわね。それに、影になってい
る部分も一致するし、この死体の死因もやっぱり出血死ね。で、
伊集院さん。ずれているけど、あなたが合うようにずらしたの?」
「いいえ、これが僕のさっき言った「絵」の移動の証拠ですよ。
このずれがなかった「絵」を付け替えたりしたなんて分かりませ
んでしたからね」
伊集院はそう言って部屋を出た。
「ありがとうございました。本当に」
「いえ、こちらこそ、楽しい推理を聞かせていただいて」
陽子はそう言って少し笑った。伊集院もごまかすように笑って
見せた。
陽子はその後、すぐに部屋に戻っていった。伊集院は自分の部
屋に戻って行くことにして、廊下を歩き始めた。
その日の午後、何も起こらずに1日が過ぎていこうとしていた。
僕は和巳に今日の夜は自分の部屋からでないようにと言って和巳
の部屋を出た。
伊集院は部屋を出ると誰にも気づかれないようにロビーへと降
りていった。そして、腕時計を見て、時間を確認した。
「8時45分か・・・」
伊集院はそう呟くと、暖炉の中で見つけた隠し通路に入ってい
った。
10
中は暗かった。当たり前の話である。伊集院はライターをポケ
ットから出して火をつけた。伊集院のいるすぐ右に小さなボタン
があった。伊集院はそのボタンを左手で押した。
辺りが急に眩しくなった。まるで部屋から外に出たときの太陽
光線のような明るさである。伊集院はライターの火を消して手で
目を隠した。そして、ゆっくりと目の前に置いた手を退かしてい
った。
そのボタンはこの中の電気のスイッチだった。辺りには裸電球
が等間隔に天井に吊されていた。伊集院はこの道が何処につなが
っているのかを確かめるために前へ進んだ。
入り口からすぐに下へと降りる階段、いや、梯子があった。伊
集院は落ちないように梯子を降り、前へと進んだ。丁度さっきの
暖炉からあの窓のない部屋との距離を歩いたあたりで、今度は昇
りの梯子を見つけた。
伊集院はその梯子を上っていった。一番上まで上ると大きな空
間があった。が、暗くて何も見えなかった。ライターの火の光で
電源を探し、つけた。
そこはまさに、さっき外から見た窓のない空間だった。そこに
は何も置かれてなく、ただ下へ降りていく梯子が2本あるだけだ
った。今、伊集院が昇ってきた近くにライターが落ちていた。何
処にでもあるようなジッポである。裏面には、KOと彫られてい
た。
伊集院は今上ってきたのとは別の梯子を降りていった。梯子の
近くにはスイッチがあり、それを押すと梯子の中の電気がついた。
その梯子はとても長かった。距離的に言うと、つり橋から下ま
での距離に等しいのではないかと、伊集院は思った。梯子の中と
いう表現はおかしいが、梯子がある空間は人が2人入ると一杯に
なるほど狭かった。それだけではなく、下に降りて行けば行くほ
ど気温が下がっていった。
普通、山などを登るときは登れば登ほど気温は下がっていくの
に、ここの場合は下がれば下がるほど気温が下がっていくのであ
る。
降りはじめて10分近く経って、ようやく一番下に着いた。下
に着くと今度は横道が延々と続いていた。伊集院は頭の中で外の
どの辺りを今歩いているかと言うことを考えながら歩いた。
歩き始めて20分が過ぎた。場所的にはあの建物から直線的に
つり橋の辺りに出て、つり橋を渡り終えた辺りにいることとなる。
そこから1、2分歩くと、石段の階段が現れた。伊集院はその
石段の階段を上っていった。その石段は何重もの螺旋を描きなが
ら天へと昇っていた。伊集院は半ば、目が回っていたが、何処に
出るのかを確かめるという強い意志に助けられながら、暖炉の中
に入ってから50分後に地上にへと出た。
綺麗な星が夜空一杯に輝いていた。月も欠けてはいるがその明
るさを星達に見せつけていた。崖を挟んだ向こう側には、こうこ
うと明かりがついている「紅館」があった。
伊集院は来た道を休むヒマも惜しんで帰っていった。時間は9
時35分。暖炉の前に出たのはそれから45分後だった。
伊集院は「紅館」に戻ると自分の部屋に戻った。そして、シャ
ワーを浴び、和巳の部屋へと行った。そして、赤い魔術師への罠
を仕掛けた。
11時37分。魔術師は突如となくこの「紅館」に現れた。ロ
ビーの前に仁王立ちをして、大きなシャンデリアを眺めていた。
赤い服をまとった魔術師は、ロビーの横にある階段をゆっくりと
した足取りで登っていった。廊下はもちろん、何処の部屋からも
声など聞こえてこなかった。ただ、廊下を歩く魔術師の足音だけ
が、静かに鳴り響いていた。
この3日間の中で一番星が綺麗な夜だった。月もそれに負けず
と綺麗に輝いている。風は全くといっていいほど吹いておらず、
樹々もゆっくりと眠っていた。
魔術師は2階の廊下を歩いていた。何かを狙っているかのよう
に歩いて部屋の前を通過していった。廊下の突き当たりにある階
段をめざし歩き続け、また、その階段を昇っていった。
ピチャッ、ピチャッ。
そんな音が聞こえてきた。風呂場か何処かで水が出ていたのだ
ろう。栓をきちんと閉めていないせいか、一滴一滴落ちる音が聞
こえる。魔術師はそんな音にも耳を向けず、ただ、階段を昇って
いった。
3階に着いたその者は、突き当たりの部屋を目指して歩いてい
た。服を引きずる音が今度は聞こえてきた。赤い服にはこれまで
の勲章たる「血」がついている。まさに、死に神のような人物で
ある。
その部屋は和巳の部屋だった。その者は部屋の前に立つと、何
処からともなくカギを出し、音を立てずにかぎ穴に入れた。そし
て、かかっているカギをはずし中に入っていった。
中にはいたその者は懐から刃物を出すと、ベッドめがけて飛び
込んだ。そして、何も確かめる事なくめった刺しにした。ベッド
にいる者は何の一言もあげず、ただ刺されていた。見るも無残な
刺され方である。
正気を取り戻したその者は刺すことをやめ布団を剥いだ。
その時である。消していた部屋の電気がつき、伊集院の声が聞
こえてきたのである。
「そこまでです、誠治さん。あなたの復讐は、もう終わったは
ずです」と。
魔術師こと沖田誠治は、伊集院を狙ってベッドから起き上がっ
た。周りで待機していた慎治や隼人達が、その暴れ狂う体を押さ
えた。そして、凶器である刃物を取り上げた。
「もうやめませんか、いい加減」
伊集院が言う。
「君がこの殺人の犯人だったのか」
隼人がつけ加えていった。
「私が犯人だって。私はただ、ここの女を殺しに来ただけじゃ
ないか。私があの紙に書かれた赤い魔術師なら、証拠を見せてみ
ろ」
「分かりましたよ、誠治さん。そこまで言うのなら。皆さんを
集めてロビーで謎解きでもしましょうか」
伊集院はそう言ってロビーへと歩いていった。皆が集まるのは
早かった。そして、
「では、この「紅館」で起こった3つの殺人事件と1つの殺人
未遂についての謎解きを始めましょう」
伊集院はそう言って椅子から立ち上がった。
「まず、犯人からズバリ言いましょう。赤い魔術師は、誠治さ
んあなたです。と、言っても、誰にも信じてもらえないでしょう
から、事の起こった順に1つ1つ説明していきましょう」
伊集院はそう言いながら、皆の座っている椅子の後ろを歩きな
がら言った。
「まず、最初に起こったつり橋墜落事件。あれは用意周到な計
画でした。つり橋のこちら側には、刃物で切り込みが入れられて
おり、向こう岸にも、同じように切れ込みが入っていました。こ
れが第1の準備でした。
次に、誠治さんは、いや、ここではまだ、犯人と言っておきま
しょう。犯人は第2の準備として「あの悪戯の手紙」を連条さん
に見せたのです。犯人は、連条さんがすぐカッとなることを巧み
に利用したのでしょう。何故そのことを知っていたのか?それに
ついては後で説明します。かくして。計画通りに車でつり橋を渡
り、重さに耐えきれなくて、谷底に落ちたのです」
伊集院がそこまで言うと、慎治が尋ねた。
「さっき、向こう岸もそうなっていたと言っていましたね。で
も、橋が切れたのに、どうして向こう岸のことを知っているので
すか?」
「良い質問ですが。まだ、それを話す時期になっていないので
それはその時に話しましょう。
そこで、犯人として考えられるのはその場に居なかった誠治さ
ん、燐子さん、理津子さん、そして、菊子さんです。
そして、第2の殺人が起こったのです。初めに言っておきます
と、被害者は利根田菊子さんでした。
菊子さんは部屋に飾られた「絵」とほぼ同じ状況で死んでいま
した。正確な死亡時刻などは分かりませんが、大体の時刻は分か
っているんです。陽子さん、あれは何時頃でしたっけ」
伊集院が陽子に荘尋ねると陽子は口を開き言った。
「確か、朝方の3〜5時でした」
「菊子さんが死んだのはその時間となります。当然と言って良
いかは分かりませんが、この時間に現場不在証明をもっている人
はいないと考えて、ここに居る全員が犯人となります、自分も含
めて・・・。
さて、次に起こったのは幸助さんを殺害した事件です」
伊集院がそういうと和巳が、
「おじさんは誰に殺されたの?」
「それは後にとっておきましょう。
幸助さんが死んだ部屋は自分の部屋でした。ただ、一つだけ変
な場所がありました。それは、私だけではなく、検死してくれた
陽子さんも知っています。「絵」がずれていたんです。殺人のモ
チーフとして役に立ってきた「絵」が。
そこで私は時夫さんの殺人に関係しているのではないかと考え
たのです。実際、私と誠治さん、慎治君、和巳の4人は初めに時
夫さんの部屋で死体を発見した。そして、幸助さんもと思い、み
に行ったわけですから。
時夫さんの殺人にはもっと不明の点がありました。あの部屋に
は「絵」がなかったんです。そして、もう一つ、殺したときに飛
んだはずの血が中途半端に切れていたんです。
ここでさっき話した「絵」のずれと、今しがた言った中途半端
だったと聞いて、思い浮かぶことはありませんか?」
伊集院は自分の席の位置でそう言った。
すると、燐子が、
「その「絵」が一度時夫さんの部屋にいき、そして、元の位置
に戻ってきたと言うこと?」と、言った。
「その通りです、が、ここで引っかかることは、あれほど姿を
見せなかった犯人が、そんなへまな事をするでしょうか?いや、
しないでしょう。そこで私は一つの結論に達したと言うことです」
「分かった。犯人は二人いたんだわ」
と、理津子が言った。
「その通りです。時夫さんだけは別の犯人がこの場を借りて殺
したんだと。そうするとある出来事も説明できるのです。それが
ここに書かれた文です。