AWC 「魔術師」8回   金剛寺


        
#3545/5495 長編
★タイトル (ZWN     )  96/11/19  21:53  ( 80)
「魔術師」8回   金剛寺
★内容

 ここには、連条紀夫、夏目幸助と書かれています。この文字は
ワードプロセッサーで書かれたものですが、この次に書かれてい
る文字が重要なのです。その名前とは、園田時夫です。しかも、
手書きなのです。と、言うことは・・・」
 「突発的な殺人か」
 と、幸夫が言った。
 「と言うことになります。ここでさっき慎治君が言った向こう
岸の話が出るわけです。
 このロビーには暖炉があります。そして、この敷地内に窓すら
ない建物が、丁度暖炉の後ろに立っているのです。ある時この暖
炉に変化があったのです。それは、この暖炉には隠し通路があっ
たと言うことです。
 そして、それに気づいたとき、犯人がそこの付近から出てきた
のです。それが誠治さん、あなただったのです。
 そこでもう一度私は現場を確かめました。そして、これが出て
きたんです」
 伊集院はそう言って2枚の紙を出した。
 そこには、<おまえ等の殺した菊間辰利だ。この恨みいつかか
えすぞ。地獄のそこに落ちてでも>と書かれていた。
 「誠治君が菊間の子供だったのか・・・」
 そう言ったのは幸夫だった。
 「そうです。先程読んだ紙には社員の名前も書かれていました。
当然あなたの名前はありませんが。当時何があったか分かりませ
ん。ただ、今回の犯人は誠治さんだったのです。父親の復讐と言
う理由で・・・。誠治さんの部屋にある手帳にはもっと詳しいこ
とが書かれています。でも、ここではそう深い事実は関係ないで
しょう」
 「菊子は、菊子はどうして殺されたんだ?」
 隼人が言った。すると、
 「見られたんだよ。伊集院さんみたいに暖炉から出た所を。だ
から、口封じに殺したんだ」
 と、誠治が言った。
 「そして、時夫さんを殺した犯人は、和巳。君だ。だから、誠
治さんが殺しにきたんだよ」
 「私がおじさんを、馬鹿なことを言わないで、どうして私が殺
さなきゃぁいけないの」 
 「それは、和巳が時夫さんのことを恨んでいたからじゃないの
か。本当の父親を」
 伊集院はそう言った。
 「和巳の本当の父親である時夫さんは、今の君の母親と夫婦関
係にあった。しかし、時夫さんがそんな母親を捨てた。それが原
因じゅぁないのか」
 和巳は一瞬たじろいだが、すぐに態度を変えて、
 「そうよ、あの男は私が殺したのよ。あの憎たらしい父親をね。
まさか、翔君に手帳を読まれていたなんてね。これっぽっちも思
わなかった。今まで言ったことは当たっているは、ただ、最後の
部分だけはあの手帳には書かれていないの。それは私の死・・・」
 和美はそう言うと玄関を開けてつり橋の袂へと走っていった。
伊集院たちはその後を追った。
 「来ないで、これ以上」
 和巳はそう言った。そして、伊集院達の中から一人、和巳に寄
っていくものがいた。
 「どうして私がこの殺人劇の犯人と気づいた。その発端となっ
たのは、何だ」
 歩きながら言ったのは誠治だった。
 「それは、あの空間に落ちていたライターだよ。イニシャルが
彫ってあったんだ。そして、もう一つは時夫さんの殺人のときだ」
 伊集院はそう答えた。
 「あの時か。まさか、ほんのわずかなことだけでどうしてわか
ったんだ」 
 「見張っていたんだ、誠治さんの動きを」
 「そうか、そんなことにも気づけなかったなんてな」
 誠治は和巳のとなり間で歩いていくと、
 「伊集院。俺たちの関係も知っていたのか?」
 「あぁ、何となくはね」
 「おまえには完敗だ。原稿は書き終わっているし、後は、この
殺人劇の後始末だけだ」
 誠治はそう言うと、また一歩崖に近づいた。
 「やめるんだ。誠治さん。そんな事をしても・・・」
 伊集院がそう言いかけたとき、二人は谷底へと飛び立った。そ
して、この惨劇も静かに幕を閉じた。

 それから3か月後、光木浩二最後の小説「主人公の殺人」が新
書判で売り出された。巷では、空前のミリオンセラーで何処の書
店に行っても、山のように積まれていた。 
 「紅館」は取り壊された。二度とあのような事件は起こらない
であろう。残酷であるあの魔術師や殺人鬼も・・・。
 
             (了)




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