AWC エマ降誕 5   永山


        
#3327/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 7/16  21:11  (188)
エマ降誕 5   永山
★内容
 室内の空気は、エアコンにより、適度な状態に保たれている。
 が、左文字の額には汗が浮いていた。
(くそっ。ディナA出現時の分析が済んでないってのに、この反応は何だ?)
 海底火山の一つの状況を示す機器が、間断ない振動を教えてくる。今までに
ない傾向だ。
 デスク下をまさぐり、緊急召集用のボタンを押す。
(とにかく、知らせておかんとな。責任は全員でかぶってくれ。どうなるか分
からん)
 部屋のドアが、しゅんという空気の圧縮音と共に開いた。
「緊急ボタン、押したか?」
 少しも緊急らしくなく、のんびりした調子で男が現れた。格好も、Tシャツ
にトレンチコートを引っかけるという、一種奇妙な風体。足元を見れば、素足
にサンダル履き。やけに大きな丸眼鏡をかけている。
「連城か。早いな、珍しく」
「私が一番乗りか。皆さん、怠けてらっしゃる」
 勝手にパイプ椅子を持ってくると、勝手に陣取って腰掛けた連城。
「おまえほど暇じゃないんだろうよ」
「違いない」
 コートのポケットから折れ曲がった煙草を取り出すと、連城はくわえた。火
を着けようともしない。
「さて、今回はどんな『緊急』なんだい」
「掛け値なしの緊急事態なんだぜ。それを今まで、『緊急』を乱発したおかげ
で、集まりが悪くなった」
「ご託はいいから」
「見ろ」
 問題の表示計を顎で示す左文字。
 眼鏡をいじりながら、連城は見入った。
「ほほう。こりゃいい。何かが溶岩流に乗ってせり上がってくる兆しかな?」
「そこまで言い切るか?」
「DHNA−−ディナは地球の奥深くで眠って、目覚めるときは火山等を出口
に地上に現れる。福音が言ってたじゃないか。ぴたりと符合しているよ。いや、
結構結構。ん? おやおや。この場所、昨日、ディナAが現れた位置とライン
は揃ってないか?」
「そ、そうだな」
 急いで確認する左文字。
「断層が一致している。ディナAが目覚めたことで、第二のディナも呼び覚ま
されたという訳だな。ありがたくない話だが」
「こうして早期発見できても、手の打ちようはあるのかねえ」
 連城がぼやいたところで、再びドアが開いた。
 尾形を先頭に、ぞろぞろと十名のスタッフが入ってくる。男と女が半々、役
目も服装も様々。ただし、日本人ばかりだ。
「何があったのかな」
 尾形の口調には、どうせたいしたことではないだろうという響きが、明らか
に含まれていた。ついにディナが現れたことで手一杯で、余計な話にかまって
られないということかもしれない。
 とにかく、左文字はかいつまんで異常の説明をする。そして、今しがた連城
と話していた推測も伝えた。
「そうか−−」
 尾形の表情が、緊張の色を帯びたようだ。
「形状探知は?」
「できていたら、とっくにお見せしていますよ。やりたかったら、船を出して
ください。ただ、深度から言って、とても無理でしょう。やっととらえられる
頃には、化け物がもう地表に飛び出す寸前かもしれない」
「仮にディナだとして……速度は分からない?」
 グリーンスーツの女性−−藤原彩美−−が聞いてきた。
「ディナが溶岩の流れに身を任せてるだけなら、おおよそのところは分かると
思いますが」
「自力で進むと仮定すれば、まるで見当つかないってか」
 スキンヘッドの男が、茶化すように言った。比較的若い彼の名は、賀稲尽と
いう。
「知らせたかったのは、異常が起きていること、その原因がディナ出現の前触
れじゃないかってこと、それだけだ」
 左文字は立ち上がり、全員を見回した。
「あとは、潜水調査するなり、アドヴェで先制攻撃するなり、好きにやってく
ださいってことですよ」
「……分かった」
 尾形の声は重々しかった。
「よく知らせてくれた」
「……」
 左文字は気抜けして座った。横の連城と目を合わせると、訳もなく苦笑いが
こぼれた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ふくいん手紙秘密いつでも来てイーヴァエメリアン福音エマ
      サイモン
 怪物W沖襲撃炎上不明不明怪物
              エイプリルフール
    携帯電話スタンガン
  「冷たい物でも飲むかい?」 林檎
   都築エメリアン おがた
      24
 白く長い廊下壁赤い血壁壁壁壁壁蛍光灯壁壁壁壁スピーカー
 おめでとう合格だ
 青い
 /ふくいん/この人です/ふくいん/
        −−私の名前はエマ
                        思い出して思い出した?
  ファルター
アドヴェ               そこにもう一つ
ディナ
 MCM怪物沼の怪物素晴らしいジョーク・・・×・・・嘘
エマ
     甘えるな!
 乗れおまえしかいないおまえだけおまえだけ
  死にたくないなら乗れ戦え戦え戦え  狩
            戦闘可能予測時間
 赤い海
   甘え
    「役に立たないわ、あなたは」
             三八〇〇万年前、全種の四十五パーセント絶滅
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

              出口はあちらよ

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 息を飲んだ柴門安美。彼女は彼女自身が信じられない物を見ている。
「王子……」
 声を出した。
 かわいらしい声を出せたと自分でも思った。こんなときに、何故そんなこと
を考えたのかは、よく分からない。
「王子、元気ないじゃん」
 元気を出したくて、声を大きくした。
 無反応が返事だった。
「王子、王子、ねえ」
 ベッドの上、背を丸め、膝を抱えている王子。白地に青のストライプの入っ
たパジャマを着ている。いかにも病人然としていた。
 柴門が肩を掴み、揺さぶると、ベッドのスプリングがかすかにきしんだ。
「唐突に休んだりなんかして……どうしたんだよ」
 ほんの少し、王子の顔が動いた。青白く見えるその表情。目は、柴門を見て
いるのか見ていないのか。
「見舞いに来たんだよ、私」
「……」
 王子が何かを言った。
「あ?」
「ありがとう」
 小さな声だが、どうにか聞き取れた。
「どうしたの? 病気か? おばさんは何ともないようだと言ってたけど」
「誰が。誰が」
 奇異な調子だった。抑揚のない、無意味な繰り返し。
「お、おばさんが」
「……僕のお母さんは……病気じゃないよ」
「そうじゃなくって、あなたのお母さんが私に言ったの!」
「何を」
「どこも悪くないのに、学校を休み出したあなたのことが心配だって。他のみ
んなも、心配してる」
「ありがとう」
「あのね……」
 不安になってきた柴門。身震いを一つ。
「王子君。私が誰だか分かってる?」
「馬鹿にしないでくれ。サイモンだ」
「フルネームで言ってみて」
「柴門安美。ピンポーン」
「……どうしちゃったのよ」
 うつむきかける王子を無理矢理起こし、目を覗き込む。
「いいんだ、もう」
「んだよ、それは?」
 乱暴な言葉遣いに戻した柴門は、再び王子を揺すぶった。
「カンペキ人間の委員長が休んだってだけで、みんなマジで心配してるんだ。
理由を聞かせてくれてもいいじゃないか!」
「心配してくれてる? だったら、お見舞いに来てほしいな。特に……江神さ
んに会いたい」
 クラス一、いや、学年一きれいと言っていい女子の名前を挙げた王子。視線
はどこか遠くをさまよっている。
「……休むのが長引けば、副委員長の江神さんが毎日、連絡事項を届けてくれ
るでしょうねっ」
「何を怒っている」
 王子は不思議そうな目つきをする。
 柴門は知らず、歯ぎしりしていた。
「休んだ理由、聞かせてよ。気分が悪いとしたって、そうなる原因が何かあっ
たの?」
「君には話したくない」
 むかっときた。
「へえ、そう! 江神さんには話せるのか?」
「かもしれない。いずれにしたって、サイモンと江神さんじゃ、違いすぎる。
顔、長い黒髪、スタイル、物腰、心遣い。その他、何もかもだ」
 柴門はベッドから離れた。また揺れる。
「帰る」
 王子に背を向けたまま、冷たい声質で言い放った。
 が、王子の声の調子は変わらなかった。
「そうか。気を付けて。わざわざ来てくれて、ありがとう」
「……」
 振り返ってしまった柴門。王子の考えていることが全く分からないのは、彼
女にとって初めての経験だった。
 王子は笑顔だった。
「助かったよ。その内、行く。みんなによろしく」
「……明日から江神さんが来るわ、多分」
「ああ」
「本当にいいのね? そんな状態−−」
「いい」
「……さよなら」
 深く息を吐いた。きびすを返す。
「さよなら」
 おうむ返しに答える王子の声が、背中に届いた。


−−<エマ降誕>終




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