#3297/5495 長編
★タイトル (PVN ) 96/ 6/ 3 6:24 (165)
私の邪魔をしないでよ!(2) いっちゃん
★内容
二、心配
「ただいまー」
と、宿の二階の一番奥にある部屋の扉をニニルはそっと開ける。
右の端っこにベッド一つ、ちょうど中心に小さな机、その上の花瓶には、
小さな白い花が一輪無邪気に咲いている、というだけの粗末な部屋だっ
た。ニニルはそんな部屋に入り、真っ正面にある明かり窓を開ける。冷
たい風が彼の横を通っていく。
「ふぅ……まだ帰ってないみたいだな――」
頭の後ろで手を組み、壁にもたれかかる。
(もしかして、僕を置いて先に次の目的地に行ったとか……いやそれは
ないよな――それじゃあ……誘拐!!)
思うと同時にニニルは、部屋の中を行ったり来たりしながら沈思する。
(じゃあ誰が……わからない、誰なんだ!! 思い当たる節が多すぎる
んだよっ!!)
ちゃんとしたことが考えれないことに対し、苛立ちが増してくるのをニ
ニルは感じていた。
冷静に、と思いながらも体が勝手に動くのには、やはり姉に対する執着
心が強いせいだろう。
「考えてても始まらないっ!!」
そう気合いを入れたのち、髪の毛を掻きながらニニルは部屋を足早に後
にした。
ふと落ち着いて考えてみると、ニニルは自分が急いでるのが馬鹿らしく
感じられた。自分より戦闘能力や冷静さ、すべてにおいてシーラが勝って
いるのだ。彼は自問した。自分が行ったことで人が助けられたことが何度
あっただろうか?シーラ姉さんの足手まといになって、嫌われるだけじゃ
ないのか?
などといろいろ考えながら、ふと足を止め青天を見る。
(もしかして戻って待ってた方がいいかも)
最後に思いながらふとニニルは自分自身に失望していた。
いくら、いい学校を優秀な成績で卒業したって、人を助けないで足手ま
といになるなら魔術の使えない一般人の方がよっぽど役立つのかも――
そんなことを考えれば、考えるほどニニルの足は宿の方に進んでいた。
少しずつ、少しずつ、宿に近づき、気づけば彼は宿の中の食堂の椅子に腰
を掛け下を向いていた。その時には何も考えられず、ただ、ただそうして
いるだけだった。食堂には壁時計の音が聞こえるだけだった。
そして、しばらくして宿の女将が食堂に入って来た。女将は若くして宿
を構えたので(来たときに教えてくれたのだ)、見た感じ三十前後のなか
なかの美人である。
「あらっ、ニニル君もどっていたの?」
彼女は、何か抜けたような声でこちらに話しかける。
「呼んでくれれば何か作ったに・・・・・・今から、何か作るわね」
そう言ってカウンターの方に進む。
「あの……いいです」
申し訳なさそうに小さな声でニニルは女将に言った。
「そう?」
それを聞き首を下に一回振るニニルを見て、女将はなにか残念そうな声
を出す。それから辺りを何度も見回し、また声を出す。
「そう言えばシーラちゃんは? いないみたいだけど」
ニニルは何か反応するようにびくっとして。そして口を開く、
「いなくなったんです。突然……探しに行ったんですけど僕どうしたら
いいか分からなってて――気がついたらここに戻ってたんです」
半分泣き声が混ざっている、涙がこぼれないのは自分が男であるという
プライドが邪魔しているせいであった。本当は声を上げて思いっきり泣き
たかった。
そして、さっきまで考えていたことをすべて女将に話した。なぜか彼女
にはペラペラとシーラのことが話すことが出来た。
女将はニニルの横の席の椅子に腰掛け優しい視線で此方を見ながら話を聞
いていた。
ニニルの話が終わり食堂は沈黙に包まれた。それを最初に破ったのは
女将の方であった。
「兄弟の心配か――ニニル君はいい子ね……わたしね魔導士って他人
だけでなく親類についてもいっこも心配なんか出来ない冷血魔だと思って
た。自分だけがすべてだって考えてる別人だと思っていたわ。実際、兄が
魔導士だった母に殺されたから……」
どんどん尻窄みになる言葉を最後に噛み締めたのち、下を見ていた視線
をニニルに移しまた話す。
「ちゃんとお姉さんは探しに行ってあげるべきだと思うわ。今行かないこ
とをきっと、いつか、後悔する時が来るはずだから……ね」
女将は最後に、にこっと微笑む。ニニルは、その言葉を聞き迷いが断ち
切れたのかいつもの明るさが顔中に戻っていた。
「僕、姉さん探しに行きます。ありがとうございます!!」
お礼を言いながら立ち上がり、ニニルは食堂をあとにした。
「お兄ちゃん、世の中の魔導士全員、あのこのような子だったら良かった
のにね……」
誰もいなくなった食堂で女将は一人、小さくつぶやいた。
一日何回もここに来るなんて――そんなことを思いながらもニニルは、
公園通りの端から端までを行ったり来たりしていたむ。そして自分にも、
何も災難がないよう警戒しながら左右も見渡す。何度かそれを繰り返した
後、正面を見て嘆息した。その時、ちょうど道の真ん中に立っていた。
しばらくその場で立ちすくんでいると、正面から誰かが走ってくるのが
見えた。目を凝らしてみているとどんどん此方に近づいてきていた。
「ニニル君〜!!」
息せき切りながら女将がかけてきた。
「女将さんっ!?」
びっくりしているニニルを差し置いて、女将は彼の両肩に手を置き、
はあはあと荒く息をしている。しばらくして、彼女は一回息を飲み、口を
開く。
「シーラちゃんが……シーラちゃんが帰ってきたのよっ!!
ちょっ……ちょっと!!」
女将は、早口にニニルの目をまっすぐに見ながら言い、それを聞いたニ
ニルは、すぐ女将の手を引き宿の方へ一直線に駆け出した。
「シーラ姉さんっ」
宿に戻ったニニルは女将の手を離しすぐに部屋に向かった。階段を上り
ながらもニニルの心臓は大きく鼓動を打っていた。もうすぐ会える――
そんな思いでいっぱいだった。少しずつ、二階の廊下の始めが階段から見
えると、その思いは膨らむばかりか溢れそうだった。
廊下を駆け抜け、部屋の扉の前に来ると深呼吸を一回した。
(文句を言ってやるぞ)
そんなことを思いながら、ニニルはノブに手をかけた。
「お帰りなさい、ニニルさ……ニニル」
正面の窓の前に、シーラが微笑みながら足をそろえ立っていた。
「た……ただいま」
シーラのかけた言葉に対し、小さく返事をかえすと、彼女の前に素早く
足を運ぶ。
「どこにいってた……の? 心配してたよ」
文句を言うことをすっかり忘れたニニルは、ゆっくりとした口調で問う。
「ん……えーっとぉ……ちょっとトイレに」
ニニルは、焦りを見せながら言うシーラなど見てはいなかった。ただ、
心配そうな顔でシーラの顔を見ていた。それに気づいたのかシーラはいき
なり静かに口を開く、
「心配かけてゴメン……」
「う……うん」
ニニルは、意外な展開に少し戸惑っていた。いつもなら「ちゃんと見て
ないからよっ!! 勝手に心配しないで! そういうの迷惑よ!」などと
言い訳をして絶対、シーラからは謝らず、なぜかニニルが謝ってしまうか
らだ。
そして、もっと意外だったのはその後の言葉だった。
「実はね……わたし、あなたのこと好きだったの」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんで開かないのよっ!! 腐ってんじゃないのっ!! この扉っ!!」
扉を足で何回も蹴りながら、シーラの精神の入ったミーオンは叫び、
はあはあと、息を荒くしながら額の汗を拭う。
「あの窓から出れるんじゃ」
後ろを振り返り、そう独り言を言うと窓の方に歩む。そして、窓に近づ
き、下を見てからミーオンは絶句した。そして、しりもちをつくと口を開
く。
「なによ……ここ……塔かなんかのの最上階なのぉ?」
そう驚愕ながら、ふと違うことが頭をよぎる。
(私の身体で、あの子……やりかねないわね……)
ミーオンは親指をかむ。
「もうおしまいよぉ……死んだ方がまし」
声を上げてと泣くミーオンの声が部屋中に響く。
しかし、ぱっと顔に明るさが戻ると何か思い出したように、にやっと笑う。
「そういえば、魔術使えるじゃない」
この世界の魔導のすべての源は精神なのだ。大きな魔術を使うと精神が
破壊され、同時に身体も破壊される。だが、魔導すべてがそのように命を
削るようなモノではなく『黄金魔術』と呼ばれる種類のものだけが、自然
の力や他人の力も魔導として利用することが出来るのだ。使える者は、た
ぶんこの世でシーラしかいないだろうが、彼女自体もこの能力を拒否し、
自ら封印したのだ。そのため、シーラは一般の魔導士と変わらない精神を
使う魔導術しか使えない。
「魔導銃!!」
左腕を上に挙げると呪文を叫ぶ。すると、ミーオンの左手には白色で向
こうが透けて見える銃が握られている。それを両手に握り直し扉に銃口を
向ける。
「火炎」
小さくつぶやき、ミーオンは銃の引き金を引く。
ボワッ!――
赤い炎が扉を包み、一瞬にして黒くなった扉は音を立てて崩れさった。
「早く行かなきゃ……あっ! ついでにやっておくことがあるわ」
まだ火がついている扉の破片をまたぎ、すぐ目の前にあった螺旋状の
階段を駆け降りなから、
「ああ、どうか手遅れになりませんように!!」
と、つぶやいた。